そこを舞台に一癖も二癖もある艦娘と提督と妖精たちと兵士たちの戦場という非日常での日常が繰り広げられる。
トラック泊地は今日も何とか元気です。
それを襲撃する深海棲艦水雷戦隊。
彼らは果たして無事にトラック泊地へ辿り着けるのか?
横須賀鎮守府から約3300km。
年中荒波に揉まれる西太平洋の真っ只中にあって、ぐるりと環礁に囲まれたおかげで揺り篭の如く穏やかな海を持つチューク環礁。別名"トラック環礁"、その凪いだ内海を滑るように移動する影が二つ。
「
「大丈夫なのです!燃料も艤装も全てチェック済みなのです。それとデンちゃんじゃないのです!」
電と名乗った十代前半頃の茶髪の少女の背には大きな煙突と艦本式機関を模したバックパックを、両腰には三連装魚雷発射管を、肩には12.7cm連装砲のミニチュアを載せている。豆鉄砲のように思えるが、その砲口から放たれる砲弾は史実のそれと全くの同威力を有する兵器である。
もう一人のお団子ヘアの少女も両腰に61cm四連装魚雷発射管を下げ、両腕合わせて計七門の14cm単装砲を装備。背中には水上偵察機運用の為のカタパルトを装備している。
彼女たちが艦娘。70年以上も前に沈んだありし日の軍艦の魂を引き継ぐ少女達である。
────なのだが、どことなくアイドルチックな雰囲気を醸し出し……いやダダ漏れである。
『こちらウェノ島第一飛行場管制。トラック防空中隊第一、第二小隊を直掩機として出撃させます。陸攻隊は第一、第二小隊を順次発進予定です』
「了解なのです。こちらは提督たちを直接迎えに行きます!」
時間を遡ること、三週間前。中部太平洋における反攻作戦の成功によりこのトラック諸島を奪還。根拠地設営の為、建設機材等を有した基地設営隊第一陣が護衛の那珂、電と共に到着。飛行場の転圧完了と同時に防空隊の九六式艦戦二個中隊と九六式陸攻一個中隊、第二設営隊、補給部隊が第二陣として配属。
トラック泊地における基地機能が整った現在、第三陣として着任する提督と補給艦、追加の艦娘数名を引き連れ遥々横須賀からやってきたわけだが────。
「……敵潜の哨戒網に引っかかるとはねえ……。ついてませんなあ、艦長」
「同感です。おまけに一本デカいのを食らっちまいました」
改おおすみ型輸送艦五番艦『きい』を旗艦に大型タンカー一隻、在来型貨物船二隻、それを艦娘たち、叢雲、暁、雷、弥生、皐月、文月が護衛につくという豪華な編成だった。のだが、敵潜水艦群に見つかったらしく雷撃を受け結果貨物船一隻が被雷。速度の落ちた貨物船に合わせる形で現在9ノットで船団は航行中である。
梅干しを丸ごと口に放り込んだように顔を顰める艦長に対し、もう一人の男────トラック泊地着任予定の提督は飄々と語る。
「ま、これだけデカい船団です。潜水艦に見つかって、魚雷の一発や二発、食らうのは十分想定してましたよ」
「ですがちんたら走っていたら格好の的です。この辺りはまだ制海権をとっていないですし……」
『こちら叢雲、五時の方角敵艦隊見ゆ!距離13000!』
「もう来なすったか」
この足の速さだと敵部隊は快速の軽巡クラスと駆逐艦による水雷戦隊だろう。
速度の出ない貨物船団をやらせまいと敵艦隊に進路をとる艦娘たちに、提督は無線で交信する。
「あ、あー。叢雲、聞こえるな?既にトラック泊地には至急電を打っている。お前達は時間を稼いでくれればこっちの勝ちだ。いいか、時間稼ぎだけで」
『わかっているわ!何度も言わないで、酸素魚雷ぶつけるわよ!』
ブツっと通信が終了する。80年以上も前の先の大戦で八面六臂の大活躍を演じた彼女の事だ。その性格は火のように猛々しいものだ。
「いやあ、元気が良くてよろしいことで」
「……なんとも言えませんなコレは……」
「まあ、艦娘は艦歴にあった性格を手に入れるとも言いますし」
「いえ、そうでなくて。……私の娘程の年頃の女の子があんな物騒なモノを担いで戦っている姿がです。それを見守るしかない我々が何とも力不足で。恥ずかしくて……。」
艦長が制帽を目深に被り直す。
(ええ、ほんとに。ほんの数年前まで俺達が守る側だったのに今や守られる側なんだから。)
────ただ、守られる側であるというのは違うが。
***
ソレがいつ、発見されたか。定かな時期は分からないがはっきりしているのは五年前。RIMPAC中のアメリカ海軍駆逐艦、『ハルゼー』『マイケル・マーフィー』の二隻が演習海域に到達する寸前SOSを発信。救助ヘリが現場に到着した時には、海面に浮かぶ駆逐艦の残骸と漂流する生存者、そして彼らを捕食する黒い化け物が数匹波間を泳いでいた。RIMPAC参加艦艇による駆除作戦が実行されるも、このレーダーに映らないアンノウンによる攻撃によりさらに駆逐艦一隻が大破という被害を被った。これが一応のファーストコンタクトとなった。
それと時を同じくして世界各地で類似のアンノウン発見の報告が相次ぎ、三日後の八月九日にはマラッカ海峡を航行中の民間船が攻撃を受け沈没。乗組員全員が死亡する事態が起きた。
国連安保理は緊急決議をとり、この正体不明の敵性海洋生物に対し国連統合軍の発足を決定。この敵性体を『深海棲艦』と呼称し、米、中、露、そして日本の自衛隊を基幹とする統合海軍による殲滅作戦を開始。
当初、この深海棲艦の姿はオタマジャクシに脚が生えた(といっても大きさはモーターボート以上のデカさだが)程度のもので、攻撃方法も口腔と思わしき器官から伸びる単装砲による砲撃、巨躯を生かした体当たりと捕食行為のみであり、突然現れる神出鬼没さを除けば十分既存兵器で撃退できた。だが、出現する膨大な数に戦況は膠着状態に陥った。
状況が一変したのは半年余り経過した二月中旬。人型の深海棲艦が出現。より強力な砲腔兵装を有し、先のオタマジャクシもどきから強化された外殻装甲、四肢を持ったことによって高い機動力を持った上位種、さらに蟹の甲羅を彷彿させる器官(?)を頭部に装備した変異個体が出現。後述した個体は飛行体────それらは何故か第二次大戦中の航空機と瓜二つの姿を持っていた、を射出する能力を有し、またこの頃からこちら側の電子機器を全て無効化する強力なECM攻撃によって戦況は一気に悪化した。
一切の誘導兵器を封じられ、艦艇や戦闘機の目と耳たるレーダーは機能を喪い、IFF────敵味方識別装置すらジャックされた中での目視での近接戦闘を強いられた統合軍は敗北を重ね、制海権と制空権を喪失。アメリカ西海岸は陸上型深海棲艦の侵攻を許し、太平洋上の島嶼の殆どを占領。海底ケーブルを切断され、輸送レーンを破壊されきった人類は大陸単位での自給自足を強制されたのだった。
戦局悪化の一途を辿っていた人類だったが二年前。
日本で開発が進められていた艦娘の実戦投入が始まり、制海権奪還が開始された。
***
「────フフッ、戦場ね、全艦、砲戦用意!」
「暁の出番ね、見てなさい!」
「ボクの砲雷撃戦、始めるよ!」
単縦を組んだまま、敵艦隊との距離を詰める。艦娘も深海棲艦も砲の性能に関しては第二次大戦時のそれとほぼ同じであるため、必然的に交戦距離は5~10キロとなる。敵編成には軽巡クラスもいるため、距離9000をきった所で砲撃が始まった。
「きゃあ!っ、叢雲!」
「まだよ!まだ間合いをつめる!」
敵弾の散布界まだ広いが彼我の距離が縮まる分、命中率は双方向上する。
だが、まだだ。足止めに徹する以上、一撃で敵艦隊に致命的な損害を与える必要がある。
距離8000、7500、7000、6500……!
「距離6000!ここよ、全艦取り舵いっぱーい!」
先頭の叢雲が取舵を切り、暁や弥生たちもそれに続く。夾叉する敵弾の間を潜るようにして全艦が敵艦隊の進路をを塞ぐように布陣する。
「今よ!砲撃開始!目標、先頭の敵旗艦!」
各自の主砲、機銃群が唸りを上げて敵目掛け放たれる。横須賀での猛訓練の甲斐で砲、銃弾は次々と先頭のホ級へと撃ち込まれる。12cmクラスの砲、その数三十門の数の暴力に、ホ級の全身は撃ち抜かれ大破。推進装置を破壊されたらしく、戦列から落伍する。
「これでも喰らえ〜!」
「敵旗艦に命中弾多数!どう考えても暁の戦果ね!」
「後続の足並みが崩れた!全艦雷撃後、転舵反転!現海域からの離脱を優先!」
既にトラック泊地からの援軍が先行した輸送船団に合流する頃だ。足止めの任は既に達成したと判断していいだろう。敵は旗艦を喪い雷撃を躱すために隊列の乱れた今、統率の取れた追撃は不可能な筈……。
「……!? 叢雲、電探に感。……数は二!」
艦隊で唯一22号対水上電探を装備する弥生からの報告だった。
恐らく別働隊として伏せていた駆逐艦による挟撃の形であろう。撤退するには進路を塞ぐ駆逐艦二隻を突破しなければならないが、現在雷装は次発装填が必要故にたかが二隻とはいえ突破は容易ではない。さらにその為に速力を落とせば、態勢を立て直した後方の本隊に追撃される。
「くっ、相手の方が一枚上手なの……?」
***
「と、まあ俺が追撃かける側ならこう伏せるわな」
『わかるわかる!アイドルの追っかけと同じだね?』
この戦況予測は恐らくほぼ当たりだろう。確実に輸送船団と水雷戦隊を撃破するなら、まず護衛を排除。しかる後に無防備になった船団本隊に追撃をかけるのが定石だろう。
「だが、定石すぎて逆に読みやすかったよ、連中のやり口は。那珂と電は別働隊の排除を優先。態勢を立て直した敵本隊には陸攻隊からプレゼントを届けてやれ」
『了解です提督。注文通り800kg魚雷を届けてやります』
陸攻中隊長妖精の力強い返答と共に頭上をフライパスしていく双発機の群れ。
「艦長、さっき言ってた俺達が力不足で情けない、て話だったけどな」
「……」
「俺達には俺達なりにまだ出来ることがあるさ。決して無力じゃない。俺達がいるから彼女達も戦えるんだ。そして今傷ついた叢雲達を救えるのはこちらからの救援のみだ」
「────了解です提督。ウェルドック注水急げ!準備完了し次第、L-CACを出せ!」
***
「文月は…こんなとこじゃ…終わらないんだ…から……」
「もう、許さない、許さないんだからぁ!」
「────痛っ!」
敵別働隊に頭を抑えられ、速度を出せないまま挟撃を受けた結果、文月、暁が大破。叢雲、弥生と雷は中破し、現在無事なのは皐月のみという状況である。敵駆逐も一隻轟沈させたものの、軽巡ホ級が戦列に復帰したことで、状況はより悪くなっている。
(ありえない……この私が、こんなところで……!)
「と、とにかく前方を塞ぐ敵駆逐の排除を優先!これ以上速力を落としたら背後から急襲される!」
「でも、前部砲塔が使えるのはボクと電だけだよ!」
「────みんな!おっまたせー!」
飛来した砲弾が前方を航走する駆逐イ級を叩く。何箇所も被弾したオタマジャクシもどきは左に傾斜したかと思うと、爆発、行き足が止まった。
「主役は遅れてくるんだよ!」
「暁ちゃん、雷ちゃん!無事なのですか!」
「那珂先輩に電!」
別働隊残存艦のイ級は形勢不利と見て一時離脱を図ろうとする。しかしそれを逃すほど、元四水戦旗艦は甘くない。
「あー! 一曲目で席を立つのはマナー違反よ!」
右腕に装着された三門の14cm単装砲と機銃群が火を吹き、離脱するイ級を蜂の巣にする。
「みんなお疲れ様だね。舞台降りるよ!」
「でも、那珂先輩。背後から敵本隊が!」
『おう、そっちは俺達に任せてくれ』
***
「いいか、野郎共。ウチの艦隊に手ェ出したこと。反省させてやれ。海底でな!」
『了解です中隊長。三浦半島での月月火水木金金の訓練の成果、見せてやりますとも!』
「いい覚悟だ二番機。よぉし、全機突撃隊形作レ!第二小隊は左舷から突入せよ!」
海の荒鷲たる九六式陸攻の群れが二手に別れ、敵水雷戦隊への射点につくべく高度を下げる。
連中も気づいたらしく、追撃を止め、対空砲火を打ち上げてくるが、損害を負ったホ級の対空砲火の火線の伸びは悪いように見える。
「我々の目標は敵一番艦と二番艦だ!アイスキャンデーにビビるなよ!」
「合点承知之助!魚雷落とすまで落とされるもんですか!」
繊細な航空魚雷を最適なポジションで投下すべく、対空砲火の中を猛進する。機銃群による弾幕が形成され視界が爆炎で阻害される。
「こちら四番機! 左発動機に被弾した! 隊長、後はお願いします!」
やはり無傷とはいかないのが雷撃のデメリットである。低速低高度で進入する為、急降下爆撃隊との同時攻撃でもない限り、被害は拡大する。一番機にも機体近くで砲弾の爆ぜる音が、破片が機を叩く音が機内に響き渡る。
だが、今進路変更すれば敵の思う壷だ。舵をきりたくなる気持ちを押さえつけ、雷撃進路を進むしかない。
「まだだ、まだまだ!────距離1200、投下ァ!」
射点につき、機体下に吊り下げた九一式魚雷が投下され敵艦隊に向けて航走していく。二番機、三番機も後に続き、魚雷を投下していく。
「三番機!俺達の魚雷はどうだ!ちゃんと走ってるかァ!」
『こちら三番機観測手、航走を確認!この速度、角度。外すわけがない!』
40ノットの高速で敵水雷戦隊に突入した三本の魚雷は、二本がホ級へと、残り一本が駆逐の舳先に直撃した。
『おみごと一番槍!全弾命中です!』
『こちら第二小隊五番機。雷撃成功。駆逐イ級一隻の撃沈を確認!一隻は撤退する模様です』
『こちら六番機。落っこちた連中の無事も確認できました!こっちに手ぇ振ってますよ』
「よぉし、よくやった野郎共!撃墜された搭乗員の救助要請を打電後、撤収だ!帰ったらビールを奢ってやる!」
***
泊地正面海域遭遇戦 戦闘報告書
敵水雷戦隊 ホ級 一隻 撃沈
イ級 四隻 撃沈×三
別働隊 イ級 二隻 撃沈×二
被害 文月、暁 大破
叢雲、弥生、雷 中破
(戦闘後、L-CACにて文月、暁の両名を回収)
貨物船 一隻 船底大破
尚、艦娘の損害は上部兵装のみ。換装で対処可能。
貨物船はトラック到着後、ドックにて応急修理した後、本土に帰還。
積荷への被害は軽微。
防空中隊の直掩を受けトラック設営隊第三陣は泊地に到着
以上
母港のテーマって落ち着きますよね。
ども、野澤瀬名です。
……前回まで続けてた艦これの場当たり的小説、アレのブラッシュアップverです。一応、世界観などに関しては概ね引き継いだのですが、艦これの要素の一つだった妖精さんの存在を追加。また提督も現場主義的な感じから後方で指揮または大本営とやり取りする感じの内政型に変更など大きな変更もあります。
大分、設定を弄りました本作ですが、SAOの方と同時並行で進めていく予定ですのでよろしくお願いします。
解説コーナー
Q:基地航空隊って1-1じゃ使えないんじゃ?
A:史実でトラック泊地には大規模な航空隊が設置されていたので、じゃあこっちの世界でもあっても不思議じゃないよね、て事で設営。
……まあ、水雷戦隊にはオーバーキルでしたが(汗)
Q:1-1のボスって多くても四隻だよね?
A:はぐれた連中が追いついたという事で……。
嘘です。僕なら、確実に挟撃して潰すべきだと考えたので、叢雲にはピンチになってもらいました。
Q:妖精さんたち勇ましすぎじゃね?
A:書いてて思いました(笑)。特に中隊長からは硝煙と血の匂いしかしねえ……。基本的に妖精さんたちの雰囲気はこんな感じですのでお付き合い下さい。
次回は年明けになりますかね。皆さん良いお年を!
SAOの続きも鋭意執筆中です!年明けにご期待を!