片田舎にある小さな警備府での、のどかな一コマ

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設定好きなので設定を詰め込んで考えたリハビリ作品です。


派出所提督

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

太平洋に面した、のどかで小さな港町。

 

元々はそれなりの人口があった町だが、深海棲艦の襲来により殆どの住民、特に若い夫婦や子供を持つ世帯が内陸部へ避難。

 

それにより、残されたのは故郷を捨てきれない老人と、逆に内陸部から追い出される形となった若者達。

 

そんな、小さな港が在るだけの湾の先に、一際目立つ建物が存在していた。

 

 

〇〇湾前警備府

 

 

そんな簡素な看板と必要最低限の門が港の横の道から伸び、湾の先へと海沿いに舗装された道が続いている。

 

小さな漁船が50も入れば満杯になるような漁港があるだけの湾である、湾の入り口まで車で五分と掛からない。

 

片方は海、反対側は小さいながらも崖という道を進めば、崖を切り開いたそこそこ大きな駐車場、大型トラック三台も入れば満杯になるレベルではあるが。

 

そんな駐車場の先には、警備員が在中する為の小さな建物と門。

 

門の横には「関係者以外立ち入り禁止」の他に「御用の方は警備詰め所まで」という親切な案内。

 

その詰め所は六畳ほどの規模で、中では書類仕事をする陸軍の制服を来た少女と、その少女とお喋りをする変わった制服の少女が二人。

 

警備府、つまり海軍の施設には似付かわしくない光景だが、このご時世では取り分け珍しい物ではない。

 

門を抜けて進めば、目の前には湾から先に広がる青い太平洋。

 

丁度湾の突き出した崖を切り開く形で建てられた建物、分かりやすく言うなら親指を下にして右手の甲を真上から見た形だろうか。

 

その親指の先に該当するのがこの建物、復活した日本海軍の近海警備府である。

 

親指の付け根に当たる部分には昔からある漁港、人差し指側は住宅地と農村部、その指先に該当する部分には灯台が立っている。

 

つまり湾の入り口を守るのに最適な場所に、この警備府は立っているのだ。

 

そんな海を一望出来る警備府前の広場では、小さな噴水と花壇が点在し、この警備府所属であろう艦むす達が丁寧に世話している。

 

艦むす、そう艦むすである。

 

突如として海から現れた謎の襲撃者、深海棲艦。

 

その進撃を阻む様に顕現した、かつての大戦の艦艇の力を宿した存在。

 

それが艦娘である。

 

お硬いイメージがあるのでメディアでは艦むすで表記される辺り、日本である。

 

一般人には沈んだ船に宿った英霊達の魂と願いにより具現化した、一種の神霊、付喪神であり守り神であるという説明がされている。

 

他の国ならば受け入れがたい説明だが、日本という国の特徴がこれを「そうなんだ」という実にアッサリとした態度で受け入れられた。

 

伊達に仏教から密教、新興宗教までごったごたにして受け入れている国ではない。

 

基本的に自分達に害が無くてしかも守ってくれるなら文句なんて出ないのだ。

 

おまけに艦むすはそのどれもが見目麗しい少女達である。

 

若い男性を中心に万歳三唱で受け入れらた、流石変態国家である。

 

彼女達を有りの儘に受け入れる日本人の感性と度量に他国は「パネェ!」としか言えないようで。

 

一部の国が負けてられねぇ!と気合を入れて艦むすを顕現させちゃったりしたがまぁ兎も角。

 

そんな艦むす達が所属して働いているのが、鎮守府等の海軍施設である。

 

鎮守府と言うのは基本的に複数の提督が所属し、その提督旗下の艦むすが多数所属。

 

規模としては舞鶴や横浜、呉などの大戦時でも主要基地であった場所は提督数十名、艦むす数百人という大規模である。

 

その他、数名の提督で共同運営される地方鎮守府や泊地が日本各地や開放された周辺国に点在。

 

ではここ、警備府はどういった扱いなのか。

 

簡単に言ってしまえば警察の派出所である。

 

大戦時の警備府は鎮守府とは規模や運営方法が異なるだけで規模の大きな施設だったが、現在設置されている警備府は、地方鎮守府と隣接する鎮守府の合間を埋める、穴埋めが大きな役割である。

 

各鎮守府は担当する海域が存在し、その海域の平和維持が平時での主要任務である。

 

だが海は広い、日本近海だけでもかなりの規模だ、と言うか島国なので360度守らなきゃいけない。

 

なので、鎮守府だけではカバーし切れない地域が出てきてしまう。

 

かと言ってそういった地域は鎮守府が立てられない、立地とか交通の便とか諸々の理由で。

 

実際この警備府も、他の鎮守府に比べて非常に小さい。

 

人と同じ大きさである艦むすを運用するのだから、港なんて小さくて良いだろうと言う意見が一般人からは多い。

 

だが、彼女達は人型ではあるが艦艇なのだ。

 

彼女達が海の上を移動する際は、艦艇としての力が足元に発現しているので自由に海辺を移動出来る、岩礁に引っかかる事も少ない。

 

だが、艦隊運用をするとなるとそれなりの規模は必要だし、何より港近くに艤装や装備を扱う工廠が必要になる。

 

この工廠は技術的にも霊的にも規模が大きな設備なので、自然と大規模化してしまう。

 

陸地では艤装は単純な重りになってしまう為、長時間の陸地移動は艦むす的に勘弁して欲しい所。

 

その為、それなりの大きさで工廠などを設置出来る母港が必要となってくる。

 

横浜舞鶴呉などの元から軍港があって近年まで使われていた場所は問題ない、地鎮などは行うが。

 

その為、鎮守府を新設する際は港の確保は必須であり、そういった場所には既に地元の漁港が存在している。

 

湾の規模によっては新しく建てるのだが、場合によってはその漁港を再利用させて貰う事も多い。

 

深海棲艦のせいで漁業が壊滅的な被害を受けて開店休業状態の漁港も多かったので、海軍で買い取って運用している鎮守府も多い。

 

ここ、警備府がある地域の唯一の漁港も少し前までは湾内での漁業が中心だったが、現在では条件付きの外洋漁が可能になっている。

 

「ふみぃ、お花咲いたねぇ~」

 

「うむ、毎日お世話した甲斐があったな!」

 

世に文月のあらんことを、と祈ってしまう甘い声の少女と、胸を張ってドヤ顔を披露する少女。

 

二人が持つジョウロからは水が振り撒かれ、綺麗な色の花々を潤している。

 

彼女達が世話をした花々で、警備府前は軍事施設とは思えないお洒落な雰囲気を醸し出している。

 

鎮守府と言えば赤レンガ造り、と言う慣例を守ってか新設であっても赤レンガ造りの懐かしい見た目なのだが、ここの警備府は少々変わっていた。

 

軍事施設と言うよりまんまホテルである。

 

あ、大和さんの事じゃないです座ってて下さいその主砲も向けないでフフ怖。

 

三階建ての正面の建物は多少手を入れられて、壁の一部などは赤レンガだが、窓の形やら玄関、その先のエントランスなどは調度品等を整えればまんまホテルである大和さんではない、いいね?

 

その建物の奥に、崖側に張り付くように立っている5階建ての建物もまんまホテルのような見た目で、その建物の手前にある工廠やドック、訓練施設などの建物が無ければ普通にホテルである大和さんとは違う感じで。

 

その工廠群の先に広がる海と艦むす用の母港が無ければ海沿いのお洒落なクラシックなホテルである大和さん可愛い。

 

そう、ホテルだったのだ、深海棲艦が襲来するまでは。

 

正確には、深海棲艦が襲来しなければホテルとして完成する筈だった。

 

巨大な岩盤とそこそこ広い土地があり、昔から温泉も湧いていたので掘削してみたらかなりの量が出て、こりゃ建てるしかねぇ!と大手ホテルチェーンが開発に取り掛かり、建物裏の崖の上も開拓して場所を整え、温泉設備も設置。

 

建物も8割方完成し、ホテル前の土地、現在工廠などがある場所に温泉を使ったプールなどを建設し始めたら世界規模で深海棲艦が登場、ヒャッハーも驚きの無差別攻撃でシーレーン壊滅、僕は政府の使者、海沿いは狙われている!となりホテル業者は撤退。

 

暫く完成間近で放置されていたこの場所を、日本近海を開放した海軍が接収(と言う名の買収)

 

規模こそ小さいが、既に設置されている鎮守府と鎮守府の合間にあり、後は母港と工廠などを立てればそのままホテル部分は利用可能。

 

一から作るより安上がりだし、どうせ設置するのは艦隊規模を限定した警備府なので問題無しとなり、この警備府は完成した。

 

その為、建物の彼方此方が他の鎮守府に比べて豪華だったりお洒落だったり軍用としては不向きだったりするが、ご愛嬌である。

 

元々は受付だっただろうエントランスのカウンターの上には、「警備・宿直待機所」と書かれている。

 

その中では、警備担当なのだろう艦むすが、壁掛けのテレビを横目に何やら作業中。

 

「不知火、何しとるん?」

 

「司令官の午後の視察場所のチェックです。抜けがあっては不知火の落ち度になってしまいます」

 

カウンター奥の部屋、元々は事務室だっただろう場所から出てきた少女の問い掛けに、作業中の少女が鋭い視線を手元に向けながらふんすと気合を入れている。

 

問い掛けた少女は苦笑しながらそかそかと相づちを打ち、持ってきたお茶を口にする。

 

「そろそろ陽炎達が近海警備から帰ってくるんちゃうん?」

 

「そうですね…では司令へお伝えしてきます」

 

鋭い目つきを嬉しそうにキラキラさせながら席を立つ少女の姿に、尻尾と耳が生えてぶんぶか振られている姿を幻視する船としては妹に当たる少女。

 

待機所と書かれたカウンターから出てすぐ横の階段を登ると、元は支配人室か何かだったのか、他より豪華な扉がある。

 

更に上の階は所謂スイート・ルームだった部屋であり、現在はこの警備府の担当提督が使わされている。

 

「司令、不知火です。失礼して宜しいでしょうか」

 

ノックして声をかけると、中から良いぞと若い声が響く。

 

「失礼します。司令、間も無く午前の近海警備に出た陽炎旗下警備艦隊が帰還致します」

 

「お、もうそんな時間か…浜風、野分、丁度いいから休憩とお昼にしよう」

 

「分かりました、提督」

 

「了解です。あの、司令、野分も帰還の出迎えに同行して宜しいでしょうか」

 

提督の執務室で仕事をしていた若い男性、20を少し過ぎた程度であろう極一般的な容姿の青年の言葉に、秘書官業務を手伝っていた二人の少女が応えて書類等を片付け始める。

 

「あぁ、舞風か。構わないぞ」

 

「ありがとうございます!」

 

同行を申し出た少女の言葉を少し考え、帰還する艦隊に、特に仲がいいと言うか被保護者な艦むすが居る事を思い出して苦笑しつつ答えると、嬉しそうに敬礼する。

 

「不知火もご苦労、午後の視察に備えて早めに休憩に入ってくれて構わんぞ」

 

帽子を被りながら、扉を開けて待機する少女の頭を軽くぽむっと撫でると、幻の尻尾が高速ぶんぶか。

 

執務室から出ていく提督を敬礼で見送る少女を、執務室に残った少女が遠い目で見つめていた。

 

「……?浜風、不知火に何か?」

 

「いえ、私の姉妹は本当に軽いなぁと…」

 

首をぬいっと傾げる姉の姿に、少女は視線を逸らした。

 

長女が見ていたら「あんたも十分軽(チョロ)いわよ」とツッコんでくれた事だろう。

 

 

 

 

さて、少女を一人伴ってエントランスまで降りた提督は、そのまま正面玄関から出て軽く伸びをする。

 

「まだまだ夏日が続くな…」

 

「南に比べれば幾分か楽ではありますね」

 

演習で赴いた南部、特に四国から先の気温を思い出して苦笑する少女。

 

あちらの艦むす達は何というか、南国感が凄かった。

 

「あ~、司令官、お散歩~?」

 

「司令官、私も同行するぞ!」

 

ぽてぽてとジョウロを片付けていた少女が両手を広げて駆け寄り、その後に続いた少女がふんすふんすと気合を吐き出しながら宣言。

 

「帰還する陽炎達を出迎えるだけだぞ」

 

「それでもいいよぉ~、あたしも行くー!」

 

「わ、私も!私もだぞ!」

 

ぴょいんと飛び込んできた少女を抱きかかえ、抱っこへ移行。

 

軍学校で鍛えられたので、少女一人位なら軽い物だ。

 

もう一人が必死にアピールするので頭を撫でて手を繋いで海の方へ。

 

同じ駆逐艦という括りだが、二人の容姿は非常に幼い。

 

見た目小学生で通じてしまう容姿であり、こんな少女を戦わせるのかと最初は世論が荒れに荒れた。

 

が、彼女達は元は艦艇であり、しかも大戦時に勇敢に戦って散った英霊達の戦船だった存在。

 

見た目少女でも、船としての記憶に刻まれた記憶もあるので、べらぼうに強い。

 

提督に抱っこされてタレている世に文月のあらんことをと祈りたくなる女神ですら、大の男を素手で叩きのめせるのだ。

 

伊達に重い艤装を背負ってない。

 

因みに艦むすは艤装を装着すると、かつての船と同等の力を発揮出来る。

 

が、同時に船としての特性も発現する為、陸上で艤装の力を開放すると被害甚大である。

 

巨大な船が突然地面に出現したような状態になるので。

 

とは言え現在は艤装も装備していない、半休状態の少女達は年相応の相貌だ。

 

屈託なく提督に甘える二人に、3人の後ろを歩く少女は羨ましそうにその背中を見つめる。

 

同じ駆逐艦でも、船の型によって大分容姿が異なる。

 

彼女達が属する睦月型と言われる駆逐艦は、長女達も含めて全員が幼い容姿をしており、長女次女が頑張っても中学一年生が限界という幼さだ。

 

逆に羨む少女が属する陽炎型は、全駆逐艦の中で色物度合いがトップという名誉なのか不名誉なのか判断が付かない評判で有名である。

 

長女次女三女、最近発見された四女までは平均的な中高生レベルの容姿だ、中学三年生でも高校一年生でも通じる。

 

が。

 

その下が色々と酷い。

 

下に行くに連れて幼くなるのはある意味姉妹としては当たり前だ、だが順当に幼くなったかと思ったら突然長女よりも大人っぽい、更に下手な巡洋艦より大人な容姿の姉妹が出現する。

 

先程まで一緒に提督の仕事を手伝っていた姉の事だ。

 

一個上は睦月型でも違和感無い幼さでハイエースでダンケダンケなのに、その上がボインボインでばるんばるんである。

 

そう言えば特型姉妹の下の方にもばるんばるんな胸部装甲な子が居たな、突然変異的に出現するのだろうかと自分の足元を見つめる少女。

 

特に遮る物が無く、一部の姉が「足元が見えない」と困った顔で言う姿を思い出して思わず「くっ」と呟く。

 

72が悔しいのかは触れないのが優しさだろう。

 

如何に他の提督や艦むすからイケメン、舞風の旦那とか言われてても彼女も乙女なのだから。

 

「野分、そんな後ろに居ないで並ぶと良いぞ」

 

後ろをとぼとぼ歩く姿に気付いた少女が、提督と繋いだ手とは逆の手を差し出しながら言う。

 

言外に、自分と手を繋ごうという事だろう。

 

少し目をパチクリして少女と提督、提督が抱える少女を見るが、全員自分を待ってくれている。

 

「あ、ありがとう、長月」

 

「礼など必要ない、仲間だからな」

 

ドヤァと可愛いドヤ顔を披露しながらおずおずと差し出された手をガシッと握る少女。

 

「えへへ、なんだか親子みたいだねぇ~」

 

「お、親子…」

 

提督の腕の中で楽しそうな少女の言葉に、ぼむっと真っ赤になる少女。

 

幼い少女二人が娘枠なら、当然提督の妻枠は自分、つまり自分は司令の嫁!ケッコンカッコガチ待ったなし!

 

と、思考が暴走中の見た目イケメン中身乙女な少女の暴走に気づかず、提督は3人を連れて港へ。

 

工廠群を抜ければそこには所属する艦むす用の桟橋。

 

すぐ横には、出撃と帰還時に使用する待機所。

 

ここには艦むすの私物入れのロッカーやタオルなどが完備で、飲み物も常備の冷蔵庫もある。

 

艦むすは艤装が鎧と武器なのだが、被弾すると何故か衣服が損傷する(肉体には酷い傷が出来ない代わりに服が破ける)

 

その為、激戦後の艦むすは非常に目に毒である(刺激が強い的な意味で)

 

なので、多くの鎮守府では港近くにタオルや上着を置いたりして配慮している。

 

男性の目が少ないとは言え、自分の提督以外の提督に好き好んで肌を見られたい艦むすは居ない。

 

この警備府はついでに休憩所兼待機所も用意して、出撃前のミーティング等にも活用されている。

 

「司令官ー、弥生ちゃん達無事かなぁ」

 

「被害報告は届いてないし、陽炎が旗艦だから何の心配も要らないさ」

 

少し不安げな腕の中の少女をあやしながら、自信満々に答える提督。

 

陽炎という艦むすは、人数の多い陽炎型駆逐艦の一番艦、つまり長女である。

 

明朗快活ハキハキ、元気いっぱいで負けず嫌いと言う性格をしている、そして大人数の姉妹の長女の為か、空気が読めて適度な距離感で接してくれる。

 

気が置けない友人、または悪友気味の幼馴染、そういう立ち位置で提督と付き合ってくれる為、彼女を頼りにする提督は多い。

 

彼女の艤装が比較的安易に建造が可能である為、どの鎮守府にも陽炎は所属しており、見習い提督の貴重な戦力でもある。

 

ここの警備府でも陽炎はエースの一人であり、古参の一人でもある。

 

何せ提督が研修の時に初めて建造した駆逐艦なのだから。

 

 

 

 

現在、提督と呼ばれる存在は2つ、海軍通常艦隊の提督、こちらは今までの士官がなる役職であり、現存するイージス艦や輸送艦などを指揮する存在である。

 

深海棲艦との開戦で大部分の指揮官と海自・陸自・空自の士官と隊員が失われた為、人数が非常に少なく、経験者が少ない事もあり、現在は大部分が指導者として後進の育成に当たっている。

 

もう一つは、艦むすを指揮する特務提督、現在大本営が求めている人材である。

 

この特務提督になる条件は3つ。

 

1つ、妖精が見える事。

 

2つ、艦むすの艦種に適性が在ること。

 

3つ、人格性格等に問題が無い事。

 

この3つをクリアすれば、例え底辺校出身であっても提督になれる。

 

無論、地獄すら生温い教育を受けるが。

 

1は特務提督になる上での絶対条件であり、見えない人間の指示を艦むすは基本的には聞いてくれない。

 

お願いすれば依頼として受けてくれるが、指示や命令は受け付けてくれないのだ。

 

では妖精が見えれば艦むすを自由に動かせるのかと言われれば否である。

 

提督には、艦種資質と言われる適性があり、艦艇相性とも言われる。

 

簡単に言えば、どの艦種とどれだけ相性が良いか、と言う指標である。

 

これが高いとその艦種を自在に指揮出来る(名前を呼ぶだけで艦むす側が提督が何を望んでいるか察せるなど、以心伝心レベル)

 

逆に低いと、上手く指示通りに動いてくれなかったり、自分の考えで行動してしまったりする。

 

その為、例え妖精が見えても適正が低くて提督に成れない場合もある。

 

その場合は大本営で艦むす関連の仕事に付く、所謂事務方である。

 

この適性で、甲乙丙と区分けされ、甲提督は主要鎮守府及び泊地などの指揮官などの幹部、乙提督は地方鎮守府や海外警備府の責任者として着任する。

 

なお丙提督は艦むすの指揮に向いていないが、建造や開発は可能(どちらも妖精さんが係る)なので、大本営所属や主要鎮守府の工廠責任者などに着任する。

 

特務提督用に新設された海軍学校でみっちりぎっちりむっちむちに詰め込まれた授業で、らめぇもう(頭に)入らないのぉ!と悲鳴を上げても「まだ(脳に)入るではないか、覚えろ」と無慈悲に教官に教育される。

 

この時、間違っても艦むすを粗末に扱わないように、大本営所属の嚮導艦や練習艦からの指導が入る。

 

これは大本営及び日本政府が、艦むすが現代の日本人に呆れて靖国へ帰ってしまうのを危惧してだ。

 

艦むすが顕現した当初、深海棲艦への有用な兵器だと認識して酷使しようとした政治家団体が居たのだが、当然艦むす側が反発。

 

対抗策が彼女達しか居ないのに見捨てられたら、隣の半島みたいになってしまう、と慌てた海自等が結託して艦むす運用法案を設立。

 

ブラックな運用を行った場合は憲兵が「ゆ"る"さ"ん"!!」とケンペイッ!しにやってくる。

 

と言っても、そう言った素養や性格の人間には妖精が見えないので杞憂ではあるのだが。

 

その為、提督達は非常に紳士的に艦むすに接している、なので逆に艦むすからハイエースされてダンケダンケされてしまう提督も居るが、まぁなんだ、お幸せに。

 

軍学校を卒業した甲提督は大本営または主要鎮守府で、一年ほど研修を受けてその後そのまま配属または希望によっては海外の泊地や地方鎮守府へ赴任。

 

乙提督は最初から赴任先へ研修へ行き、大抵はそのまま着任、または上との面談で移動する。

 

なお、適正は経験で上昇するのを確認されている為、丙提督も艦むすを指揮して作戦に参加する事も多い。

 

妖精が見える以上、何かしらの艦種の適性があるという事だから。

 

当初どの艦種にも適正が無くてお荷物だった丙提督が、後から発見された艦種に適性があってその艦むすを主体とした艦隊で無双するという珍事があったりしただけに、妖精が見える存在を無碍にしないのが現在の大本営の指針だ、さす北。

 

 

 

 

さて、この警備府の提督はどの提督かと言うと、実は乙である。

 

現在この警備府に所属する提督は彼のみ、と言うのもこの警備府は前述の通り地方鎮守府と鎮守府の担当海域の境目、丁度カバー範囲の境目に存在している。

 

通常はどちからの鎮守府または交代で警備するのだが、ここは漁港があってまだ人が多い。

 

深海棲艦はそういう場所を優先して進軍してくる為、重点的に守る必要がある。

 

だが鎮守府からでは遠い、かと言って鎮守府を建てるには土地が足りないしカバー範囲が広範囲に重複する。

 

その為、任務を限定した警備府の設立を相成った。

 

この警備府の任務は、名前の通り警備任務が主だ。

 

近海警備、外洋掃討(通称間引き)、漁船団護衛、輸送任務、これらが主な仕事であり、その性質上所属する艦むすにも制限が入る。

 

警備府の設備的に、重巡以上の大型艦の運用が厳しいという理由もある。

 

その為、選ばれたのが乙提督である彼である。

 

彼は座学も実技(海自が行っていた船舶操舵訓練など)も甲評価だったのだが、適性が穿っていた。

 

まさかの戦艦0、重巡0である。

 

適正は現在数字で表され、1が適正あり(指示が出来る)、2が相性良し(何の問題もない)、3になると好相性(提督LOVE)となる。

 

では0は?

 

無慈悲な事に、一般人が命令してるのと同じ反応がされてしまう。

 

まぁ流石に提督なので意見として聞き入れてくれるが。

 

初期に適正をこの数字で現すと、甲提督なら平均で大体合計10になるので、十干評定なんて言われている。

 

乙提督は合計9以下、丙提督は5以下で分類される。

 

艦種は大きく分けて、戦艦・空母・重巡・軽巡・駆逐・潜水・その他、と分けられており、一般的な甲提督なら戦艦2・空母2・重巡1・軽巡1・駆逐2・潜水1・その他1、と言うように適正が合ったりする。

 

そして経験を積むと適性が上がる事があるので、合計値が10を超えてくる。

 

これが特甲提督である。

 

通常は複数の提督が艦隊を組んで海域を攻略・開放するのを単独でやる、そんな化け物である。

 

なおここまで成長すると、大抵の所有艦がケッコンカッコガチ狙いなので、提督がハイエースされてダンケダンケである。

 

相性が良すぎるのも考えものとも言える。

 

さて、そんな相性が、特に海戦の要である戦艦と重巡の適性が0な場合はどうなるか。

 

先ず最前線、シーレーン開放や海域開放作戦には参加出来ない。

 

参加しても後方支援や撤退支援、前線への補給、または主力が留守の各鎮守府の警備である。

 

これに関しては適材適所なので本人も周りも文句はない、と言うか文句を言えるような洗の…教育はしていない。

 

本人もこれらの任務に否は無いし、適性もそういうものだと受け入れているので、警備府赴任を承諾。

 

研修先で建造または獲得した艤装から顕現させた艦むすを連れて、自分の城となる警備府へ赴任してきた。

 

その中には、初めて建造した艤装から顕現した陽炎の姿も当然あった。

 

 

 

 

「あ、帰ってきたよ~」

 

「全員無事ですね」

 

うだうだと昔や色々な事を思い出したり考えていたりしたら、視認可能な距離まで近海警備に出ていた陽炎達が戻って来ていた。

 

旗艦の陽炎を先頭に単縦陣で帰ってくる艦隊。

 

流石最大姉妹数の陽炎型の長女、他の型の子であっても確りコントロールしている。

 

長女に該当する駆逐艦は多数所属しているが、どの型の艦にも合わせて付き合えるのは恐らく陽炎だけだろう。

 

理由は勿論、駆逐艦一の色物姉妹である陽炎型の長女だからだ、本人に言うと怒られるので提督はお口チャック。

 

「あ、舞風…っ」

 

「勝手に陣形崩したから陽炎に怒られているな」

 

「あははっ、舞風ちゃんあわてんぼだねぇ~」

 

と、提督の隣で少女と手を繋ぐ相方に気付いた一人が陣形から飛び出して手を振ってしまい、陽炎に怒られている。

 

陽炎は気さくで人当たりが良いのだが、こういう所では逆に確りしているので怒る時は怒る。

 

逆に一緒になって手を降り出すのが白露、窘めるが逆に乗せられて振るのが吹雪、注意しながらこっそり手を振るのが夕雲、負けじと手を振りながら加速するのが睦月、司令に呆れられてしまうと必死に止めるのが朝潮である。

 

長女ではないが、区分けでの長女である綾波はニコニコと手を振り、レディは「わ、私はそんな子供みたいな事しないんだからっ!」と意地を張る可愛い。

 

やがて順番に港へ帰還し、艤装発動を解除して桟橋へ上がってくる面々。

 

こういう時も性格が出る物で、陽炎は一番に桟橋に上がるが、次の子へ手を貸して登るのを手伝ってあげる。

 

舞風が上がる時に引き上げながら注意するのも忘れない、当の舞風はてへぺろしていて反省しているか不明だが。

 

「司令、陽炎以下6名、無事帰還したわ!被害なし、近海に深海棲艦の反応も確認出来ずよ!」

 

全員が提督達の前に並び、敬礼しながら旗艦である陽炎がハキハキと報告。

 

それに対して一度手を繋いでいる少女から手を放して答礼し、ご苦労と労いの声を掛ける。

 

無論、下ろした手は即隣の少女に掴まれる。

 

「入浴と昼食を済ませたら午後は待機、ゆっくり休んでくれ」

 

「了解、陽炎旗下第一近海警備艦隊、休憩入りまーすっ!全員駆け足っ、お風呂が待ってるわよ!」

 

「昼間から風呂…悪くない」

 

「お腹…ぺこぺこ…」

 

「うん…間宮さんのご飯、楽しみだね…」

 

「よーし、深雪様に続けー!行くぞー!」

 

陽炎の号令に、一人は昼風呂という行為に何やら恍惚し、んちゃとは言わない子がお腹を擦り、怒ってない子が同意して可愛くお腹を抑える。

 

そしてそんな大人しい3人の背中を押して元気な吹雪型が連れていく。

 

「舞風、いつも言ってるじゃない、帰還完了するまで作戦なのだからあぁいった――」

 

「あぁんのわっち許してよー!陽炎姉さんにも言われたし反省してるからーっ!」

 

そして野分が舞風をとっ捕まえて注意開始。

 

舞風はどうもテンションが高い面が強い為、あぁ言った場面でつい調子に乗ってしまう。

 

「もー!そう言うのわっちだって、前に輸送任務から帰った時にみんなが資材に注意してる時に提督にラブコールしてたの知ってるんだからねーっ!」

 

「なっ!?気付いて…じゃなくて!そんな、ラブコールなんて野分はしてません!」

 

「え、提督嫌いなの?」

 

「そんな訳ないじゃない!司令は野分の大切な人です、嫌いなんてありえません!」

 

「野分、野分、自爆してる自爆」

 

舞風の反撃に、盛大に自爆した野分にツッコミを入れる陽炎。

 

その言葉に傍らに提督が居る事に気付いて真っ赤になって彼の方を見る野分。

 

「んぶぅ~」

 

「むぅ~」

 

「HAHAHA、もち肌だなぁ…ん?何か言ったか野分」

 

だが肝心の提督は、少女二人を並べてほっぺをぐにぐにして遊んでいた。

 

やられている二人は凄く嬉しそうだ。

 

「い、いえ、聞いていないなら良いのです…ま、舞風!もう許さないからね!」

 

「うひぃっ、戦略的てったーい!」

 

「こら待ちなさいっ、舞風ー!」

 

名前の現すように、騒がしく去っていく二人。

 

それを呆れて見送る陽炎、どうして自分の妹はこうも我が強いと言うか、濃いのだろうと頭を抱える。

 

「ワザとらしいんだから、司令も」

 

「バレてたか」

 

横目で司令を見ると、肩を竦める提督。

 

「まぁなんだ、あぁいう言葉はちゃんとした機会の方が良いかなと言うお節介だ、許せ」

 

「どーしてそう言う気遣いだけは甲評価なのかしらねぇ司令は。ねぇ文月~」

 

「んにぃ~」

 

呆れながら少女の頬を提督のようにむにむにすると、予想以上のもち肌ぷにぷにっぷりにキュンとなる。

 

「やだもちもち可愛い、文月、あなた私の妹にならない?」

 

「増やすな増やすな」

 

「あたっ、なによぉ、私の姉妹ってどれもこれも癖が強くて濃いのよ?文月達みたいな純粋に可愛い妹がほしいと思っても仕方ないじゃない」

 

「えへへっ、陽炎ちゃんがお姉ちゃんならあたしも嬉しいなぁ~」

 

「文月、長女がにゃしにゃし泣くから他の人の前で言うんじゃないよ?提督との約束だ」

 

泣いたら100%執務室に来て膝の上でにゃしにゃしよいぞよいぞされるから。

 

「私としても、陽炎のようにあの陽炎型を制御出来る姉が長女なら卯月や望月の事を安心して任せられると思うぞ」

 

「おぉっとしまった、睦月型にも癖の強いのが居たわ」

 

長月の腕を組んでしみじみと語る言葉に、睦月型にも癖の強い問題児が居たなと頭を抱える陽炎。

 

「癖の強くない子だけの姉妹艦ねぇ……………居なくね?」

 

「それね」

 

長考してひねり出した言葉に、食い気味に肯定する陽炎。

 

今現在80隻程の人数が確認されている駆逐艦。

 

姉妹艦の居ない島風を除いて、どの艦も姉妹が居るのだが、誰かしら妙に癖が強かったり我の強い性格をしていたり濃かったりする。

 

清貧大和撫子なんて言われてる秋月型姉妹ですら、色々と癖が強い事で有名だ。

 

そんな中で、色物姉妹とか濃さと人数ナンバーワンとか言われてる陽炎型のネームシップだけに、苦労も多いのだろう。

 

「陽炎、おやつに食べるといい」

 

シュピッと懐から取り出したのは、駆逐艦のみならず、艦むす全員が大喜びする魔法のチケット。

 

間宮拳…もとい、間宮券である。

 

これ一枚で好きなデザートがなんでも食べれる魔法のチケットである、なんでも、つまり羊羹以外も食べられるのだ。

 

「さーんきゅっ、だから司令って大好きよ♪」

 

「調子が良いことで…二人はお昼で勘弁してくれ」

 

「「はーい!」」

 

口止め料も兼ねて横で羨ましそうに見上げてくる二人をお昼に誘う。

 

間宮券も欲しいが、やはり大好きな提督とお昼というご褒美の方が嬉しいのだろう。

 

 

 

陽炎との出会いは、研修で派遣された地方鎮守府の工廠だった。

 

現在赴任している警備府の一番近い場所にあるこの地方最大の鎮守府で、現在は4名の提督で交代で任務に付いている。

 

提督が研修で配属された時は3名で、その時の教育担当が現在の代表である。

 

当時の代表は現在大本営に栄転になり、提督の同期が二人着任して4名になった。

 

同期が居る事と研修先だった事もあり、今も頻繁に訪れる場所でもある。

 

そんな思い出の鎮守府の工廠で、初めて建造した時に出てきた艤装、それが陽炎の艤装だった。

 

艦むすは、始まりの5人を除いて、全員が艤装と呼ばれる依り代へ、大霊と言われる本体から分身を降ろして顕現する。

 

その為、顕現したての艦むすは、オリジナルの性格そのままだ。

 

だが、提督の元で経験を積む事で、肉体は完全に受肉し、性格も提督や周囲の影響を受けて多少とは言え変化する。

 

例えば、凄く積極的な潮とか、レディがレディしてて超レディな暁とか、にゃしにゃし言わない睦月とか。

 

提督の陽炎も、オリジナルに比べると何というかこう、提督LOVEの気配が強い。

 

間合いが近い事もあり、極自然に間合いを詰めてくるので提督としてはドキドキするから配慮して欲しいという贅沢な悩みがあったりする。

 

そんな陽炎だが、流石どの鎮守府でも新入りや研修生に最適と言われる艦むすだけあって、提督のレベルアップに貢献してくれた。

 

初期艦として与えられた吹雪とも長女仲間という接点があるからか非常に仲良くやってくれた。

 

新入りの提督は大本営から、5種類の艤装から一つを与えられる。

 

これは、始まりの5人と呼ばれる特別な艦むすの艤装から複製された艤装であり、大本営が厳重に保管している。

 

この他にも彼女達の助言から発見された白雪や赤城と言った特別な艤装が大本営で守られており、これから複製された艤装は大本営が出す任務を達成した際に、扱う実力ありと判断されて与えられる。

 

提督は吹雪と陽炎の二人編成で研修に臨み、着々とスケジュールを消化。

 

途中新入りが躓く壁にもぶつかったが、吹雪達と相談し突破したりと今ではいい思い出である。

 

思い出。

 

「……そういや、アレは衝撃的だったな」

 

「…?何が?」

 

お昼の食堂、結局陽炎も手早くお風呂を済ませて合流し、4人でのご飯に。

 

野分は舞風に連れ去られた模様。司令室では不知火が提督とお昼を食べようと忠犬よろしく待っていたのだが、黒潮に強制連行されたらしい。

 

別のテーブルでは深雪が本日一緒になった子達の世話を焼きながら楽しそうに笑っている。

 

それに釣られてか、霰や弥生もほんわか笑っているのを提督の目は逃さない。

 

やはり引っ込み思案な子には底抜け元気な深雪が有効である。

 

「あれだよ、教導官の艦隊と一緒に海域開放の増援に行った時」

 

「あぁ……司令の長波事件ね…」

 

提督の簡単な説明でも、あの時かと直ぐに理解する陽炎。

 

適性が高い故に、ツーカーの仲になれるという利点の分かり易い例だろう。

 

「むぐ、長波事件ってなーにぃー?」

 

「長波が事件でも起こしたのか」

 

文月がカレーを頬張りながら首を傾げ、確かに武闘派の長波なら事件を起こしても…と何気に失礼な事を考える長月。

 

「いや、どっちかって言うと俺の方か、事件起こしたのは…」

 

「司令の教導官が羽黒にぶん殴られて止められる程に錯乱したらしいもんね…」

 

あの羽黒がぶん殴って止める程に教導官が錯乱するとか何をしたんだと戦慄する長月、文月はほぇ~と目を丸くしているかわいい。

 

「別に俺が何かした訳じゃないんだが…海域開放作戦の一部で、後方支援しつつ大規模作戦の空気を感じるって目的で参加してな」

 

提督の艦隊、吹雪、陽炎、白雪、龍田は教導官の艦隊の支援として前線海域の手前を航行。

 

すると、前線から逸れて出てきた深海棲艦の一団に遭遇。

 

大規模作戦時には良くある事で、その為に大規模作戦にはまだ参加が出来ない提督の艦隊や、抑えに回っている艦隊、海域攻略に見合わない編成の艦隊が周辺海域を警備しており、逸れて出てきた深海棲艦に対応する。

 

教導官の艦隊が中心となり確り撃破、最前線も例の特甲提督を中心とした連合艦隊が突破し、作戦は無事終了した。

 

提督からの通信に無事を知らせ、教導官の艦隊の艦むす達に活躍を褒められた吹雪達。

 

さぁ提督の元へ帰りましょう!と声を上げる吹雪に、おー!っと答える声が4つ。

 

4つ。

 

4つである。

 

提督のこの時の艦隊は、旗艦吹雪、陽炎、白雪にまだ来たばかりの龍田。

 

吹雪の音頭に応えた声は4、教導官の艦隊はまだ仕事があるので既にこの場に居ない。

 

え…?と全員が横を見れば、ん?どした?と首を傾げる一人の艦むす。

 

八重歯と、外側は黒髪なのに内側は桃色というどういう構造をしているのか本気で謎な髪を持った、見慣れない服装の艦むす。

 

ど、どちら様ですか?という吹雪の言葉に、長波様だよ!よろしくな!と挨拶。

 

通信でこの事を聞いた提督、思わず「えぇ…」と呟いたのは仕方ない事だろう。

 

何せ、長波様、この時まだ未発見。

 

そう、未確認の艦むすの発見である。

 

大規模作戦や海域開放で、未発見の艤装が発見され、それから未確認の艦むすが顕現する事は既に知られている。

 

だが、そのどれもが基本的に最奥、つまり敵群の中心部で発見されているのだ。

 

それが何故か、海域近くとは言え関係ない場所でのドロップ&未確認艦である。

 

提督が呆然とし、教導官が「ヴェアアアア!?」と叫んでも仕方ない。

 

「アイエエエエエ!?未確認艦むす!?未確認ナンデ!?ヴェアアアア!?」と叫んでたので秘書官だった羽黒が涙目で教導官をぶん殴って気絶させ、提督がとりあえず長波を連れて帰還させる様に指示。

 

その後、大本営から派遣された提督と明石がやってきて長波を検査と調書。

 

正式に夕雲型4番艦長波であると確認され、今度は吹雪達が調書を受ける羽目に。

 

どんな艤装でどんなタイミングで手に入れたのかなどを詳しく聞かれた。

 

海域開放などで手に入った艤装は、2種類の方法で顕現する。

 

提督の代理でもある旗艦が触れるか、提督が触れるかだ。

 

因みに既に指揮下に同じ艦むすが居る場合は、艤装は反応しないので、解体するか近代化回収行きである。

 

どーやら吹雪が知らない内に前線から流れてきた長波の艤装に触れたか蹴ったかしたらしく、帰還準備をしている時に顕現したらしい。

 

この事で、提督はある意味で海軍内で有名になった。

 

作戦海域以外でレア艦拾う雪響時潮(せっきょうじちょう)提督という意味不明な渾名と共に。

 

全部幸運艦として有名な駆逐艦なのだが、駆逐艦だけなのも理由がある。

 

「長波を始めとして、その後も海域攻略してないのになーぜーかー、海域開放時に見つかる艦むすを見つけるのよねー。しかも駆逐艦ばかり」

 

陽炎の視線が、このロリコンと言っている気がして胸に刺さる。

 

提督本人にその気はないのだが、適性が自身の性癖を肯定している様で泣きたくなる。

 

提督の艦種適正、戦艦0・重巡0・空母1・軽巡2・潜水艦1・その他1・駆逐艦5。

 

駆 逐 艦 5 。

 

同期に当たる憲兵から「諦めろ、試合終了だ」と通告されるレベルで言い訳不能な適正である。

 

数値合計が10を超えているので普通に甲提督に該当するのだが、艦隊の主力になる戦艦と重巡の適性が無いのが祟った。

 

因みに航空戦艦や航空巡洋艦は、改造されてなる場合は元の艦種が適応される。

 

つまり元が戦艦や重巡なので提督の適正は無いのだ。

 

空母には軽空母も含まれ、適性が1あるので軽空母ならなんの支障もなく運用が出来る。

 

その他は、水上機母艦・揚陸艇・工作艦・潜水母艦・給油艦などの数が少ない艦種である。

 

なのでその他で適性が高くても、必ずしも全ての艦種に適性があると言う訳ではない。

 

大本営所属のとある丙提督は、工作艦の適正だけが4と高く、工廠に篭って出てこないらしい。

 

それは兎も角、適性が5もあるとその艦種の方から勝手に提督もしくは艦隊に寄ってくるらしく、その後も初風や夕雲など、建造では未確認な提督内ではレア艦と呼ばれる駆逐艦を多数発見。

 

名実共に駆逐艦特化(ロリコン)の称号を得て、提督は崩れ落ちて吐血した。

 

一週間絶対安静になった。

 

龍田が甲斐甲斐しくお世話してくれなければ駆逐道へ落ちていたかもしれない。

 

「思えば全ての始まりは長波だったな…」

 

「んお?長波さまがどうしたってー?」

 

提督が頭を抱えて呟くと、背後からぎゅむっと柔らかいお山を押し付けて長い髪が視界に入ってくる。

 

首に回された手には、白いブラウスのような制服の袖。

 

内側桃色外側黒というどうなってるのか解明したくなるロングヘアーに、ハツラツとした声。

 

そして背中をグイグイと責め立てるクッションと、頭の天辺をグリグリするAGO、もとい顎。

 

「危ないだろう長波…」

 

「提督があたしを呼んだんだろー?長波さまに何か用かい」

 

何が嬉しいのか提督の頭に頬ずりしながら更にぎゅむぎゅむと抱きしめてくる長波。

 

気さくな姉御肌な面が強い彼女だが、他の鎮守府の長波様に比べてどうにも肉体的接触が多い。

 

まぁこの警備府所属の艦むす全てに言える事だが。

 

「くっ…長波、あんま食事の邪魔しないの。司令食べにくそうでしょ」

 

「はいはい、分かったわかった睨むなよ陽炎」

 

72、もとい何かを見て悔しがりながら鋭い視線を向けて注意する陽炎に、流石の長波も素直に従う。

 

何せ相手は駆逐艦のエースの一人、この警備府で練度と経験ならば吹雪に次いで高い、実質的なナンバー2である。

 

ナンバー1は改二にもなった吹雪、ナンバー3は白雪である。

 

信じられない人も多いが、白雪はあれでなんでもござれのパーフェクト幼妻、もとい艦むすである。

 

改二になり、更に実力共に高い時雨や夕立、幸運の雪風や初霜、努力の満潮や曙を押しのけてのナンバー3認定なのだ、人は見かけに依らない。

 

一応トップ10には入っている長波でも、彼女達に喧嘩を売ろうとは思わない。

 

最も、提督の所有権を決める戦いなら轟沈上等で挑むのはどの艦むすも共通の決意だが。

 

「んで、何の話してたんだ?」

 

「むぎゅっ」

 

提督の隣でオムライスを食べていた長月を唐突に抱き上げてその駆逐艦には似合わない装甲へ埋める長波。

 

彼女は4番艦という半端な立ち位置だが、上が妖艶幼妻な夕雲、誰よりも妹っぽい姉巻雲、自己主張が低い風雲である。

 

故に、姉という態度の姉妹が夕雲位しか居ないため、あと彼女の世話好きな性格も影響して彼女の姉力は高い。

 

つい清霜や朝霜にするみたいに、睦月型や朝潮型を扱ってしまう。

 

装甲に溺れる長月をあやしながら、極自然に提督に寄り添う姿に、やはり油断出来ないと痛感する陽炎。

 

対抗してご馳走様した文月の口元を拭いてあげる、何の勝負なのだろうか。

 

「家の司令は駆逐艦限定で超運よねって話」

 

「あー、確かになぁ。あたし含めて結構な数だろ?」

 

指折り数えていく長波、彼女の姉妹もドロップと言う海域攻略による艤装入手限定である。

 

その姉妹の殆どが居るこの警備府がおかしいのだ、海域開放なんて他の鎮守府との合同作戦の時位なのだから。

 

「でもさ、別に駆逐艦限定でもないだろ?」

 

「そうだっけ?」

 

「ほれ、あの人達」

 

そう言って長波が指差した先には、間宮と共に食堂の調理場で楽しそうに後片付けをする龍鳳(元大鯨)と、瑞穂の姿。

 

方や軽空母、方や水上機母艦であり、この警備府で貴重な対空&索敵要員である。

 

港や工廠の規模の問題で、戦艦重巡正規空母が所属運用出来ない為、ギリギリ運用可能な軽空母が主力となる。

 

最初の頃はお艦こと鳳翔が頑張っていたが、大鯨を捕鯨してからは何だかんだで運用して龍鳳へ。

 

その仕事内容で良く改装出来たよなと、元教導官の提督に呆れながら感心されたりした。

 

で、その二人だが、言わずと知れたレア艦であり、大鯨に至っては現在唯一の潜水母艦である。

 

初発見から今まで、何人もの提督が大鯨を夢見て捕鯨という名の海域開放と艤装探索を行ってきた。

 

だが入手出来たのはその3割にも満たない。

 

な の に 。

 

別に捕鯨してないここの提督は、遠征に出た伊8ことはっちゃんとまるゆが艤装を拾ってきた。

 

雪響時潮は捕鯨にすら有効か!その運分けろ!いいや吸わせろ!と知り合いのヘイトを稼いだがまぁ置いといて。

 

瑞穂も似たような経緯で艤装が拾われ、そのままこの警備府に配属になった。

 

実は他の艦種の艤装もそこそこ拾っているのだが、この警備府は任務の都合上ほぼ軽巡と駆逐専用。

 

ギリギリ軽空母と水上機母艦、潜水艦が運用出来るというレベルの規模なのだ。

 

戦艦を入れると軽巡が運用できなくなる、重巡を入れると駆逐艦が数人しか動けなくなる。

 

スペース的な問題ではなく、霊地的な問題なので見た目のスペースが空いててもダメなのが頭の痛いところ。

 

その為、もし重巡や戦艦の艤装を拾ったら、大抵の場合は解体して資材へ。

 

珍しい艦むすや、知り合いの提督が必要としている艦むすなら移籍処理をして提督権限を移譲して送り出している。

 

研修を行った鎮守府に着任した同期にも、長門や金剛などを移籍させている。

 

同期はまだ大型建造が許可されていない為、戦艦を得るのは通常建造かドロップなのだが、狙って出る物ではない為、ハゲそうになっていると聞いて提督がそっと移譲承諾書類を差し出した。

 

帰ってきたのは、それはそれは見事な土下座だった。

 

感謝に溢れる、感心する程の土下座だった。

 

思わず見ていた同期の秘書官の妙高が踏んでしまう程に見事な土下座だった。

 

「あら嫌だわ私ったら…」と恥ずかしそうな妙高は見なかった事にして、同期に戦艦を移譲。

 

何かあったら恩返しするから!と言われたので、海域攻略する時付いて行かせてくれと頼んだりもした。

 

自分も探してる艦むすの艤装があるからお安い御用だ!と引き受けてくれたので同行して攻略と掃討。

 

なおその時拾ってきたのが大淀の艤装である。

 

当然同期は血反吐吐いて髪が抜けた。

 

「瑞穂の時なんてドキ!提督だらけの乱闘大会!ポロリもあるよ!が危うく開催される所だったしね」

 

「本人が「瑞穂は提督の元でお役に立ちたいです…」って言って、ここでやってく事になったしなぁ」

 

その時の事を思い出して苦笑する二人と、苦い顔をする提督。

 

恒例の大規模作戦の後方支援してた提督の艦隊が、瑞穂の艤装を確保。

 

とは言え警備府では水上機母艦の運用実績や経験が無いので、提督本人も周りも瑞穂を手放すと考えていた。

 

で、教導官だった提督が「船で来た!」と速攻で警備府までやってきて瑞穂を口説き始めたら、別の提督もやってきて昔懐かしいちょっと待ったコール合戦が勃発。

 

着いてきた秘書官の絶対零度の視線に気付かない提督達は家へおいでいやいや家へと瑞穂を口説く。

 

やがて漢気を見せてやると脱ぎ出したので、秘書官達が鎮圧。

 

で、その際に瑞穂が長波が言った台詞を提督に向けて懇願し、無事この警備府へ着任となった。

 

フラれた提督達は涙しながら秘書官達に引き摺られて帰っていった、そのままホームの鎮守府までハイエースされて怒りのダンケダンケだろう。

 

「ウチに居ても大した活躍は出来ないと思うんだがなぁ…」

 

任務の形式上、他の鎮守府のような華々しい活躍は出来ない。

 

その為、提督は適正が無いのも合わさり、如何にレアな艤装や艦むすであっても、本人の希望を聞いたりして送り出してしまう。

 

長門や海外艦を送り出しているのだ、実に無欲である。

 

「活躍してるかどうかは本人の満足度でしょ、ウチの天龍さんなんて毎日キラッキラじゃない」

 

「そーそー、ウチの主力は軽巡と駆逐だからなー」

 

外洋掃討のエース、天龍型のフフ怖さんこと、天龍。

 

天龍型の最大の特徴である燃費と、艤装が見習い提督でも初期から入手可能な為、基本的にどの鎮守府にも必ず在籍している。

 

最初の頃は艦隊の切り込み隊長として、やがて主力が重巡や戦艦、空母に変わってくると、今度は遠征の旗艦として重宝される、それが天龍型である。

 

だが、基本的に天龍という艦むすはバトルジャンキー入った武闘派厨二型である。

 

その為、遠征ばかりの扱いに不満を持つのが他の鎮守府の天龍。

 

だが、この警備府の天龍は、常に戦闘に明け暮れている状態だったりする。

 

外洋掃討という、所謂間引き任務の為に警備府エースで構成された艦隊を率いて警備府外洋まで行って暴れて帰ってくるのが天龍の仕事だ。

 

自身の性能を良く理解しているので、本来なら遠征番長となる運命なのに、ここの提督は今もエースとして旗艦に据えて扱ってくれる。

 

勿論毎日連続で出撃する訳ではないので、時折龍田と交代して遠征にも行くが、それでも週に3回も出撃させてくれるのだ。

 

しかもエース、旗艦として。

 

お陰でここの天龍は何もしなくても出撃の日はキラッキラしている。

 

演習の時に他の鎮守府の天龍に自慢し、複数の天龍に泣いて変わってくれよぉ!と縋り付かれたりするのはご愛嬌。

 

因みに外洋掃討は交代制で、天龍以外では天龍型の怖いけど可愛い龍田と滅茶苦茶優秀な球磨が旗艦を担当している。

 

艦隊のメンバーも駆逐艦から5名選出されて任務に当たる、この任務に選出されるのはこの警備府で上位と認められた証でもある。

 

なお、吹雪や陽炎、白雪は選出されない、彼女達は近海警備や輸送作戦などの旗艦としての仕事がある為だ。

 

「自虐じゃないけど改二もない私をエースとして扱ってくれるなんて司令位よ?」

 

「あたしはそこそこ主力艦隊に居るらしいけど、そもそもあんまり居ないしなぁ…」

 

どの鎮守府にも確実に居る陽炎だが、彼女の性能は駆逐艦としては普通だ。

 

初期から艤装が手に入る為、長波の様にレアな駆逐艦に比べるとどうしても裏方に回されがちになる。

 

その辺りは陽炎本人も理解しているので納得しているが、そんな自分をエースとして扱ってくれる警備府、そして司令に恋慕を募らせても何もおかしくはないたぶんきっとメイビー。

 

「ウチは小規模だしな…一つの事に専念させられないのは悪いと思うが」

 

「いいんじゃないか?仕事のメリハリになるし、あたしは掃討も警備も好きだよ、護衛の時なんて美味い漁師めし食べれるし」

 

艦種が限られ、人数も駆逐が大部分なのでどうしてもあれこれ兼業や交代で任務に当たって貰う事になる警備府。

 

天龍もそれを理解しているから、交代で遠征にも出ているし。

 

なお武闘派な艦むすに人気なのが外洋掃討、お子様な艦むすに人気なのが漁船団の護衛である。

 

漁師の老人達が孫みたいに護衛の艦むすを可愛がるので、獲れたての魚を使った漁師めしをご馳走してくれるのだ。

 

因みにこの警備府の食材の鮮魚は、殆ど漁港と漁師からの差し入れで賄われている。

 

「欲を言えば、秘書官として司令の傍で仕事したいんだけどなー、ま・い・に・ちっ」

 

「交代制な上に旗艦と完全に切り離されてるんだもんなぁ、ウチの秘書官業務」

 

小悪魔めいた笑みで提督を見つめる陽炎と、苦笑する長波。

 

そんな二人の腕の仲で、お昼を食べてお眠になった文月と長月がスヤァと夢心地。

 

任務の性質上、旗艦が頻繁に交代する上に所属艦隊も変わるので他の鎮守府の様に秘書官=第一艦隊旗艦にすると、混乱が生じる。

 

なので、警備府では秘書官と旗艦は完全に切り離されている。

 

そして専任の秘書官は置かず、その日艦隊に選出されていない艦むすが選ばれる形になる。

 

本日は浜風と野分、明日は夕雲と早霜である。

 

「大淀さんは仕方ないとして、ほぼ秘書官固定のあの人も居るし、駆逐艦からも専任秘書とか選出しても良いんじゃないかなー、司令かーん?」

 

「長波さまも賛成だなー、人数だって増えてきたんだし手が空いてる艦むすも居るんだしさー」

 

言外にもっとイチャイチャさせろと要求している陽炎と、便乗する長波。

 

やっぱりウチの陽炎は肉食系だと内心戦慄しながら視線を逸らす提督。

 

その視線の先には、時計が13時を示していた。

 

「おっと、午後の視察の時間だ。すまんが俺は仕事に戻るよ」

 

「あ、逃げた」

 

「逃げたな」

 

食べ終わったトレーを持ってそそくさと撤退する提督をつまらなそうに見送る二人。

 

「うーん、手強い」

 

「全く提督め…仕方ない、チビ達寝かせて午後の訓練でもするかなー」

 

「私も艤装のメンテしようかな…ほーら文月、お部屋行こうねー。親潮ごめーん、トレーお願いー」

 

「ふみぃ……」

 

「分かったわ、陽炎姉さん」

 

お昼兼休憩時間も終わりなのでぞろぞろと食堂から出ていく艦むす達。

 

陽炎と長波も腕の中のお眠の睦月型を抱えて席を立つ。

 

テーブルの上のトレーを、本日の食堂手伝いの親潮に頼んで片付けて貰い、睦月型の部屋へと移動する。

 

最近は所属する艦むすの数が増えたので、午前待機・午後待機という状態の艦むすも多い。

 

待機とあるが、単に警備府内に居れば基本的に何をしていても構わない、実質休暇である。

 

自主トレーニングするも良し、仲間と談笑するも良し、趣味に没頭するも良し、お手伝いするも良し。

 

有事の際に出撃がかかる事もあるので、大抵の艦むすは自主トレーニングや簡単な手伝いをして過ごしている。

 

出撃任務以外での警備府の任務は、演習を含む訓練、食堂の手伝い、警備府内清掃等がある。

 

午後の視察は、そんな出撃以外での任務中の艦むすを見て回るのだが、提督が見に来てくれるというのは意外と艦むすからは好評だったりする。

 

「待たせたな不知火」

 

「いえ、問題ありません司令官」

 

エントランスのカウンター前で姿勢を正して待っていた不知火に声を掛けると、ビシッと敬礼しつつ幻影の尻尾がぶんぶかしている。

 

カウンター内でその光景を見ていた黒潮は、我が姉ながらわっかりやすいなーと苦笑するしかない。

 

府内警備を本日担当している不知火を伴い、先ずはエントランスから出て警備府入り口へ向かう提督。

 

警備員詰め所は、本来なら専門の警備員が常駐するのだが、ここの警備府は経費削減とか諸々の理由で警備員が赴任していない。

 

その為、艦むすが交代で任務に付いている。

 

「これはこれは提督殿、視察でありますか」

 

「こんにちわ司令官!」

 

「おっす司令、不知火もおっす!」

 

詰め所の明けられたままの扉を潜ると、中で書類仕事をしている陸軍の制服を来た艦むす…あきつ丸と、午後になっても遊びに来ていたのだろう、清霜と朝霜の姉妹が挨拶してくる。

 

「邪魔するぞ、すまないなあきつ丸、憲兵の真似事をさせて」

 

「何を仰っしゃるでありますか、自分にこうして色々な仕事を与えて下さるのに何を謝る事など」

 

揚陸艦という艦種であり、所属も正確には陸軍であるあきつ丸。

 

その特異な立場故、警備府では彼女の力を十全に発揮させる事が出来ていないのではと提督は心配している。

 

だが、当の本人は色々と仕事を任せて貰えて、頼られていると感じている様で満足そうだ。

 

人懐っこい清霜と朝霜などを筆頭に、あきつ丸が寂しくない様に艦むす達が色々と気にかけているのも要因だろう。

 

「二人も、あまりあきつ丸の仕事の邪魔はするなよ」

 

「えー、清霜邪魔なんてしてないもん!」

 

「あ、あたいだってしてないぜ!なぁあきつん!?」

 

冗談ぽく注意する提督に、頬を膨らませる清霜と朝霜の姉妹。

 

「そうでありますなぁ、揚陸艇である自分に一緒に戦艦になろうと勧めるのが無ければありがたいのでありますが…」

 

「えー!あきつ丸さんも戦艦になろうよぉ!陸軍初の戦艦とかかっこいいよー?」

 

「しかし、戦艦になってしまうと、提督殿の旗下から離れなければなりませんぞ?」

 

「そ、それはヤダ!ヤダけど戦艦…うぅ~…司令官っ」

 

「フフフ、ですが提督殿の事です、適性が無くとも清霜殿を手放す事はしないでありましょうな」

 

「あきつ丸…お前な…」

 

あきつ丸に戦艦になろうと勧誘する清霜、どの鎮守府でも清霜が居ると見られる光景だが、その勧誘をスルリと交わして、戦艦になってしまうと適正が無い提督の艦隊から外れないといけなくなると指摘。

 

大好きな提督の元から居なくなるなんて考えられない清霜は戦艦になりたい夢と提督との間で揺れ動き、我慢できなくなって提督の腕の中へダイブ。

 

そんな清霜の可愛い姿にホッコリしながら、提督なら例え戦艦になっても清霜を手放す事はしないと囁くあきつ丸と抱き着かれた衝撃で少しよろめきつつジト目の提督。

 

「司令官ほんとう?清霜外したりしない…?」

 

「あぁ、しないから心配するな」

 

そもそも戦艦に成れないからとは言わない、それが清霜を可愛がる秘訣だ。

 

「―――ッ!」

 

「不知火ステイ!ステイステイステイ!落ち着け相手は清霜だぞっ!?」

 

そんなほっこりシーンの後ろでは、提督に抱きついた上にぐりぐりと頭を擦り付けるなんていう羨ましい事をする清霜に、戦艦級の眼光で掴みかかろうとする不知火と、それを必死に止める朝霜という光景が広がっていた。

 

一日数回は見られる落ち度である。

 

「最近、あきつ丸ははっちゃけて来たな…あきつ丸だけじゃないが」

 

「不知火に何か落ち度でも…?」

 

詰め所から出て次の場所を目指しながら呟きつつ視線を横に向ければ、ふくれっ面の不知火。

 

提督によって性格に変化がある艦むすだが、ここの艦むす達は中々イイ性格に育っているようだ。

 

正面玄関を過ぎてそのまま工廠へ進むと、大本営から派遣された明石と夕張が誰かの艤装をメンテしている所だった。

 

「あら提督、視察ですか?」

 

「提督~」

 

汗を拭いながら提督に気付いた明石がニコニコと出迎え、作業着姿の夕張も嬉しそうに手を振る。

 

まだ夏日の工廠は熱気も篭って蒸し暑い為、二人は軽く汗をかいている。

 

提督が作業しやすい様にと用意した作業着に身を包んだ二人は、この警備府に無くてはならない存在。

 

所属する艦むす達の依り代、本体とも言える艤装を修理メンテ出来る貴重な存在である。

 

明石は各鎮守府に必ず配属される艦むすだが、最初は大本営所属、つまり大淀と同じ完全裏方の派遣扱いである。

 

彼女達を完全な自分の艦隊所属にするには、彼女達の完全な艤装を手に入れなければならない。

 

派遣されている状態の彼女達は、大本営が保管しているオリジナルの艤装から写し身だけ顕現している存在だからだ。

 

故に戦闘力も無く艤装の発動も出来ない。

 

ちゃんとした艤装を用意出来ないと、艦むすとして所属出来ないのだ。

 

とは言えやはりと言うかお約束と言うか、大淀も明石も艤装がドロップでしか入手記録が無く、しかも最前線の海域でしか確認されていない。

 

提督の知り合いや同期、友人はこいつなら海域外でも…と期待したが軽巡と工作艦だからか叶わなかった。

 

代わりに同期と共同で海域攻略してちゃっかり手に入れた、同行した同期は何も拾えず下血して髪が舞った。

 

なので、この警備府の大淀と目の前の明石はちゃんと提督旗下の艦むすである。

 

とは言え派遣されていた時の仕事も継続している為、任務娘、アイテム屋としての顔も継続中。

 

「すまないな、二人にばかり仕事を任せて」

 

「いえいえ、私はこれが仕事ですから」

 

「開発とか好きですからね、私も文句なんてありませんよ」

 

艤装の修理は妖精さんが行ってくれるが、細かいメンテなどは極力艦むすがやった方が良いらしい。

 

その為、二人にはほぼ専属で工廠の仕事を任せている状態だ。

 

一応、簡単なメンテは本人にやらせているが、限界がある。

 

それに加え、夕張は時折開発や輸送任務にも従事して貰っているので、提督としては申し訳ないのだろう。

 

「何か不便な事や必要な物があったら挙げてくれ、経費でどうにかなるなら大淀とも相談する」

 

「ありがとうございます、でも今は特別必要な物はありませんから大丈夫ですよ」

 

「冷房も設置して貰えましたからね、来年の夏も怖くありませんよ!」

 

夏日とは言え海風が入るので今日は動かしていないが、工業用冷風機を工廠に数台設置してある。

 

海風が通る土地とは言え、夏の工廠の暑さは殺人的だ。

 

それ故、提督が必死に経費をやりくりして冷風機を設置し、明石達の負担を減らす事に成功。

 

建物の方は元がホテルなので冷暖房完備なのだが、後付の工廠群は空調程度しか設置されておらず、夏場は地獄と化す。

 

なので設置された際は明石と夕張は泣いて抱き合ったものだ。

 

「本当は冷暖房を設置したかったんだがな…」

 

「暖房はストーブとかで十分ですよ、元々熱が篭りやすいですからここ」

 

苦笑する明石に、それもそうかと納得し、二人に手を振って次の場所へ。

 

工廠から中庭を通り、本館へ。

 

元がホテルなので、玄関と提督の執務室、私室や会議室などが集中する建物と、食堂と艦むす達の部屋、入浴施設がある本館で構成される警備府中枢。

 

本館の1階は食堂と遊技場、入浴施設で構成されており、これはホテルの時の設備をそのまま流用している。

 

豪華な事に入浴施設は温泉で、入渠施設も併用している。

 

元々は男女別のほぼおなじ規模だったのだが、提督が「男は自分しか居ないのにこんな広くある必要ない」と言って規模を縮小、男湯側はシャワー設備と湯船一つだけになり、湯船などを女湯側へ回した。

 

その結果、一部を入渠施設に改造しても十分に湯船が確保出来たので英断だろう。

 

そして遊技場は、温泉によくある休憩所を兼ねたアレだ。

 

流石に警備府なのでゲームの筐体は置けないが、卓球台とテレビは置いてある。

 

よく湯上がりに駆逐艦達が持ち寄ったDVDを鑑賞していたりする。

 

「邪魔するよ間宮さん」

 

「あら提督、視察お疲れ様です」

 

食堂に入ると、所属する艦むす全員が座れる規模の椅子とテーブル、元がホテルの食事処なので当然広い。

 

本来なら厨房とは壁などで仕切られていたのだが、ここの主である間宮の希望で壁を撤去してオープン型のカウンタータイプに変更してある。

 

お昼を過ぎて食事している艦むすは居らず、午後が待機か休日な艦むすが楽しげにお喋りしている。

 

入ってきた提督に頭を下げるのは、テーブルを拭いていた間宮。

 

彼女も大本営からの派遣艦むすなのだが、彼女は大淀や明石とは違い、彼女は鎮守府または提督の所持艦隊が一定の規模を超えると大本営から送られる艦むすである。

 

つまり形式上は白雪や赤城のような立場だ、派遣されてきた時からその提督の艦むすという扱いである。

 

複数の提督が居る鎮守府には当然複数の間宮がおり、厨房は結構面白い事になっているが、本人たちは誰が誰の間宮か直ぐに分かるらしく混乱は起きてないし、提督のために髪型を変えたりしてアピールしているらしい。

 

警備府には彼女しか居ないので関係ないが。

 

「食堂は問題なく運用出来ているかな」

 

「はい、お手伝いの子達も良く働いてくれていますし、食材も毎日新鮮な物を使わせて頂いてます」

 

間宮の言う通り、厨房では本日のお手伝いである艦むす達が、夕飯の仕込みを手伝っていた。

 

何せ警備府とは言え所属している艦むすの数は70人を超える。

 

朝昼夜の食事の準備は大変なので、提督が手を回して毎日必ず数名のお手伝いの艦むすを配置している。

 

他にも料理が得意な艦むすが自発的にお手伝いしているので、余裕を持って回せているのが現状だ。

 

鳳翔や龍鳳、瑞穂が手伝う様になってから料理の幅も増え、現在ではお昼と夜は必ず3種類の料理が準備されている。

 

朝食は朝定食かおにぎりと味噌汁、漬物のセットだけだが、朝からガッツリ食べる艦むすが居ないので誰も文句を言わない。

 

お昼と夜はA定食とB定食、麺類の3種類が選べる。

 

また、夜は食堂に併設されたカウンターキッチンで鳳翔が居酒屋を開店して食事とお酒が楽しめるので、そちらで済ませる艦むすも多い。

 

提督も2日に一回は鳳翔のお店で食事を済ませている。

 

「ただ、そうですね…贅沢な話なのですが、差し入れされる食材がどうしても魚介類に偏ってしまって…駆逐艦の子達はお肉の方を食べたがるので…」

 

そうなのか、と視線を隣の不知火に向けると、ぬいっと頷いて肯定。

 

「不知火は間宮さんの食事なら何でも食べますが、やはり選べるなら肉類を選びたくはなります」

 

「一応町の牧場から提供されていますが、あくまで有志の提供ですので…」

 

「ふむ…やはり町長に相談して町の精肉店から卸して貰うか」

 

通常、鎮守府は大本営が選定した業者から食材や雑貨を購入して搬入している。

 

その為、安定した供給を受けられるのだが、これが鎮守府がある地方行政の受けが悪い。

 

当初、鎮守府が各地に出来ると聞いて喜んだのが地元自治体や行政だ。

 

鎮守府及び艦むすが食材などを消費してくれれば、地域の活性化と経済の回転につながると期待していたから。

 

だが、大本営は流通の一本化と安定化、経費削減などを理由に選定した業者の使用を徹底。

 

地元企業や商店を利用する事無く運営となり、自治体や行政が期待した地域経済の活性化が起こらなかった。

 

鎮守府の誘致や土地の提供などで費用を出したのも、経済効果での回復の為の必要経費だと割り切ったのに。

 

ただでさえ若い人が内陸部に逃げてしまい、年寄りばかりが残ってしまって経済が停滞気味なのにこの対応である。

 

一部地域では鎮守府への落胆が凄まじいらしい。

 

だがここの警備府は、警備府という立場と流通網の境目である事を理由に大本営が指定した業者を使わず、地元企業や商店を取引業者に指定。

 

更に所属している艦むすに、地元商店での買い物を推奨した。

 

ちゃんと艦むすに給金を支払っているので、彼女達は地元商店で日用品や嗜好品を購入し、お金を地元に落とした。

 

居なくなってしまった若者の代わりに艦むす達が消費してくれるので、警備府がある港町は徐々に経済が回り、ギリギリで地元を支えていた企業と商店を取引業者に指定した事で定期的な注文が発生、経済が安定し小さな港町は潤い始めた。

 

鎮守府を誘致した自治体が期待した経済効果を、小さな警備府が実行したのだ。

 

小さな港町を守ってくれている上に経済的な救済までしてくれたと、残った人々は警備府と艦むすに感謝し、今では鮮魚や農作物を差し入れする人が絶えない。

 

警備員詰め所での仕事の8割が、そう言った差し入れをしてくれる漁師や農家のお爺さんお婆さんへの対応と世間話なのだから、どれだけ感謝されているかが伺える。

 

因みに残り2割は取引業者への対応なので、ほぼ地元の人との対応とも言える。

 

「肉類は必要な都度私が購入しに行っていたのですが、人数も増えましたし今後は定期的な搬入をして頂いた方が助かりますね…」

 

鮮魚と野菜は初期から地元漁港と商店と契約して購入していたが、肉類は間宮が必要な分だけその都度購入して済ませていた。

 

それで回る程度の人数だったのだ、警備府が設立された当初は。

 

だが現在では70名を超える艦むすが所属しているので、必要な都度肉類を購入しに行くと量も多いし精肉店も用意するのが大変になる。

 

「分かった、早い内に町長と相談して購入する業者を決めるから、その時は間宮さんも同席してくれ」

 

「分かりました、ありがとうございます提督」

 

決めるのは提督とは言え、担当するのは間宮なので本人が同席した方が良いと考える提督。

 

自分の提案をこうして確り聞き入れてくるのだから、艦むす達からの信頼度はうなぎ登りだ。

 

 

 

 

「さて、後は要望聴きか…」

 

警備府の主要施設の視察という名の現状確認を終えた提督、残るのは各艦むす達の部屋を巡っての簡単な要望聴きだ。

 

普通の提督ならそんな事はしないし、したとしても要望箱を設置して対処するだけだ。

 

だがここの提督は、自分の適性のせいで色々苦労をかけているからとこうして自分で聴きに行く。

 

流石です司令、さすしれと不知火は前を歩く提督を鋭い眼光で見つめる、当然頬は赤い。

 

本館の食堂などがある1階から上に上がれば、元がホテルなので複数の部屋が並んでいる。

 

5階建ての本館、1階以外の全てが艦むすの居室になっており、2階は睦月型と朝潮型、特型姉妹が住んでいる。

 

基本的に姉妹艦で共同生活をしているのだが、睦月型と朝潮型は見た目が小学生まんまなので、提督が寂しくないようにと全員一緒の部屋に指定した。

 

その為、元々宴会部屋の広間があった2階の部屋2つを少し改造して居室に。

 

特型姉妹は人数が多いので、4~6人に分かれてそれぞれ共同生活を送っている。

 

3階には陽炎型と夕雲型が特型と同じように複数の部屋に分かれて生活しており、同じ階には初春型が4人で生活している。

 

4階では白露型が二部屋に、そして軽巡の姉妹達が居住している。

 

5階はホテル時代ではシングルとダブルの部屋が並ぶ階層だったので、軽空母と明石、間宮が居住している。

 

潜水艦のはっちゃんとまるゆは同室で5階のダブルの部屋に住み、姉妹艦の居ない島風は夕張がハイエースしてあきつ丸も巻き込んで夕張部屋と名付けた3階の大部屋で暮らしている。

 

この夕張部屋、警備府稼働当初のまだ人数が揃っていない時に、姉妹艦が居ない子を夕張が引き取って一緒に暮らしていた歴史ある部屋だったりする。

 

その為に提督が大部屋の使用許可を出し、今までこの部屋にお世話になった駆逐艦と軽巡は多い。

 

その為、特に睦月型や朝潮型の子は、任務などで姉妹が少ない時に夕張部屋に泊まりに行ったりする、それくらい仲が良いのだ。

 

夕張自身、姉妹艦が居ないので、寂しかったのだろう。

 

現在はだいたいの姉妹艦が揃ったので、島風とあきつ丸、そして新入りの秋津洲の4人で楽しく暮らしている。

 

「さて、今回はどんな無茶を要望されるか…」

 

前回の時は中々にぶっ飛んだ要望を出された為、今から頭が痛い提督。

 

別に無理難題を言われた訳ではない、だが下手をすれば提督の社会的な死が憲兵と共にやってくる内容だったのだ。

 

先ずは朝潮型の部屋か…と2階に2つある大部屋の片方へ足を向ける提督。

 

視察のために、誰かしらが本日は待機か休暇になるように調整してある。

 

午後から視察をする事は朝礼で通達してあるので、代表者はもう部屋に戻っているだろう。

 

朝潮型と書かれたプレートが下がる部屋の扉をノックすると、不機嫌そうな返事と共に扉が開いた。

 

「……なんで私しか居ない時に視察するのよ…」

 

顔を出したのは朝潮型の三女、満潮だった。

 

常日頃からの不機嫌そうな表情だが、どこかそわそわして落ち着かない雰囲気が感じられる。

 

「ん?確か霰と山雲、朝雲と霞は待機の筈だが…?」

 

「えぇそうよ、なのに皆私に留守番押し付けて遊びに行っちゃったのよっ!」

 

ぷんすこと憤慨する満潮、聞けば霰は深雪に誘われたらしく運動場へ、朝雲山雲は折角の待機だからと菜園の手入れに、霞は抜き打ちのチェックよとか言って提督が居ない執務室へ突撃したらしい、さすママ。

 

「それは済まないな、要望を聞いたら満潮も遊びに行っていいぞ」

 

「ふんっ、どうも!……(別に直ぐ終わらなくてもいいわよ…」

 

提督の気遣いに腕を組んで顔を逸らすが、小声でぼそぼそと呟く言葉と、赤く染まる頬。

 

難聴ではない提督は聞こえているのだが、指摘すると絶対噴火するので触れないでおく。

 

「それで、何か要望はあるか?生活の事でも警備府の事でも良いぞ」

 

任務の事に関しては個別に要望を聞いているが、こういう生活や日常の事は実際に現場で聞いた方が出てくる事もある。

 

その為に、こうして部屋まで赴いて話を聴くのだ。

 

「別に、私は無いけど…大潮が「司令官に泊まって欲しいです!」って言ってたわね…わ、私は反対したからね!?」

 

姉の要望を伝えつつ、そんなの冗談じゃないと真っ赤になって叫ぶ満潮。

 

彼女の脳内では、何故か同じ布団で眠る提督と自分という都合のいい映像が流れていたりする、別に大潮は一緒に寝て欲しいとは言っていない。

 

「流石にそれはな…許可すると絶対他の子が我も我もと来るし」

 

睦月型とか夕雲型とか白露型とか、ノリノリで突撃してくるのがリアルに想像出来る。

 

「司令、陽炎型も大潮の提案を支持します」

 

「陽炎に許可を取ってから支持しよう、な?」

 

フンスフンスと意気込む不知火に、こめかみを押さえながら告げる提督。

 

無駄に好感度が高い艦むすからの肉食アプローチに苦労するのは、どの提督も同じ。

 

まぁ、ここはLOVE勢筆頭戦艦や正妻空母が居ないだけマシだろう。

 

「後はそうね…霞とか荒潮が部屋に簡易キッチンが欲しいとか言ってたけど」

 

「簡易キッチン…?なんだ、夜食目当てか」

 

艦むすと言えど年頃の乙女、夜にお腹が空くのは人の体をしている以上仕方がないし、彼女達は夜間任務も行っている。

 

ローテーションで任務に当たっている為、夜にお腹が空く事だって別におかしな事ではない。

 

提督個人としては、見た目幼い彼女達に夜食や間食を推奨するのは気が引けるが。

 

日頃から肉体を行使する仕事だからぶくぶく太る心配はないだろう、睦月型と暁型の虫歯だけは超心配だが。

 

朝潮型?毎食後に歯を磨く姉妹の心配は無いです。

 

「夜食って言うか…アレよ、料理がしたいのよどうせ」

 

「ふむ?共同キッチンなら待機所に設置してあるからそちらを使えば良いのではないかな」

 

「あそこはダメでしょ、常に人が居るもの。食堂の設備を借りるのもダメね、霞が拒否するわ」

 

不知火達が詰めていた警備・宿直待機所、ホテルで言うフロント後ろにある事務室なのだが、そこを改造して宿直室として使っている。

 

中は半分を畳、もう半分は床張りにしてあり、畳部分は一段上がった作りになっており、昼寝や仮眠を出来るようにしてある。

 

冬場はコタツも出撃する。

 

もう半分の方にはテーブルと椅子、壁際に簡易キッチンを設置して宿直組が夜食を用意したりしている。

 

一応は間宮が夜食のおにぎりを用意してくれるが、それで足りないのが居るので。

 

そこを使えば良いのではと提案するが、満潮は呆れ口調で首を振った。

 

「情けで詳しくは言わないけど、あんまり人に見られたくないのよ。察しなさいよ、これくらい!」

 

「おっふ、脇は止めなされ脇は。見られたくない…恥ずかしいって事か」

 

提督の脇をズビシズビシと突く満潮の言葉に、察しが良い人は霞が誰に夜食を用意して上げたくて、そしてそれを見られるのが何故恥ずかしいか理解してによによにゃしにゃしするだろう。

 

だが提督は「(霞も年頃、それに普段から規律正しい生活をしている模範艦むす。そんな自分が夜食を作って食べる所を見られるのは恥ずかしいだろうな)」と実にテンプレな事を考えていたりする。

 

「うーむ、部屋に設置するとなると水道工事が必要になるからな…一応明石に聞いてみるがあまり期待はしないでくれ」

 

「ふん、そりゃそうね。本人たちも通るとは思ってないでしょうし。代案として鳳翔さんのお店使わせて貰うとか出しておけば?」

 

「そうだな…設備が専門の食堂とは別に鳳翔が使い易い様に注文した厨房だから霞達でも使い易いだろうし、鳳翔に聞いてみよう。ありがとうな、満潮」

 

「ちょっ、な、撫でないでよ…!………う、うざいのよ…」

 

現実的な提案をしてくれた満潮に感謝の撫で撫でを送ると、真っ赤になって文句を口にするが提督の手から逃れる気が無いらしく撫でられたまま小さく悪態を付くだけの満潮。

 

荒潮が居れば「あら^~」と心がうーちゃんうーちゃんした事だろう。

 

なお普通ならセクハラだのなんだの言われそうなこの撫で撫で、当初提督は誰にも行っていなかったが、とある駆逐艦からご褒美に強請られて以降、お礼の時は頭撫で撫でかハグをする事に何故かなってしまい、提督は憲兵に出頭して憲兵に蹴り返された事件があったりする。

 

その後も細々とした不満や要望を満潮から聞いて、全てメモする提督。

 

助かったよと礼を述べて次へ行く提督達を見送り、扉を閉めるとその扉に寄り掛かり、きゅっと胸の前で手を組む満潮。

 

「ふん、全く…うざいのよ…」

 

悪態を付くその表情は微笑んでいて、頬が赤く、愛らしい少女の物だった。

 

 

 

 

「司令、満潮に雌の顔をさせるとは恐れ入ります」

 

「と、突然何を言い出すんだ不知火…!」

 

次の場所へ移動している時に突然不知火に言われた言葉に、カックンと崩れる提督。

 

「ご心配なく、この警備府の艦むす一同、提督が微笑んで甘い言葉を囁やけば大破雌堕ち確定です」

 

「まるで意味がわからんぞ…」

 

無駄に胸を張って落ち度な事を告げる不知火に、育て方間違えたかなと頭痛を感じる提督。

 

後で陽炎に相談しようと心に決めて、次の部屋へ向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「では、不知火はこれで失礼します!」

 

「あぁ、ご苦労だった…」

 

全ての部屋を周り終えると、既に日が傾き、食堂の方から良い匂いが漂ってきている時間だった。

 

執務室前で不知火と別れて部屋に入ると、書類整理をしてくれていた野分と浜風が出迎えてくれる。

 

「お疲れ様です提督、こちらサインが必要な書類です、纏めて置きましたのでお願いします」

 

「司令、コーヒーでも如何ですか」

 

「あぁ、助かるよ浜風。ありがとう野分、砂糖は…今日は要らないかな」

 

先程まで白露型、夕雲型と連続して胸が熱くもたれる甘々攻撃(誘惑属性)を受けてきた為、提督の胃はブラックの甘さのない一撃を欲していた、リボルケイン!糖度は死ぬ!

 

「提督、視察と言う名の御用聞きは大変嬉しいですが、負担になるようなら頻度を下げて頂いても良いのですよ?」

 

「そうです、他所の鎮守府等では纏め役の艦むすが報告するか、ご意見箱等で対応しているそうですし……どうぞ」

 

「ありがとう…ズズ…。まぁ、半分は俺がお前達とコミュニケーションを取ろうと思っての事だ、別に苦じゃないさ」

 

肉食的なアッピルは困るが。

 

特に夕雲とか荒潮とか無自覚ブッキーとか。

 

「俺は正直、適性が穿ってるだけの凡人だからな。戦いになっても基本的には軽巡や旗艦経験者におんぶ抱っこだ、だからせめてお前達が過ごしやすい様にするのが最大限の仕事だと思っている。……いや、俺に何かをして貰うのが負担だと言うなら止めるが…」

 

「それを止めるだなんてとんでもない!」

 

「そうです、止めてはいけません!提督との触れ合いを楽しみに生きている子も多いんです、提督はハイライトが逃げ出した雷に「私が居るのに…居る…のに…」と呟かせたいのですか!?」

 

「妙に具体的かつ想像しやすくて心にクル例えは止めるんだ!わかった、止めない、今後も実施していくから!」

 

ずずぃうん!と詰め寄ってくる二人に圧されて仰け反る提督、眼前に迫る二人の瞳が濡れているのを見てそこまで俺を慕ってくれているのかと内心感動。

 

なお、二人が慌てる理由は勿論提督とのイチャイチャチュッチュ(艦むす主観)が無くなるのが嫌なのもあるが、一部の艦むすの暴走が怖いからだ。

 

特定の名前は上げないが、猛反対する二人の姉妹、陽炎型にも暴走したら怖い子が居るので。

 

なお落ち度な子はえぐえぐ泣くだけなので怖くない可愛い。

 

「最悪司令との肉体的スキンシップを求めてストライキを起こしかねません…」

 

「そ、そこまでなのか…」

 

「女性の肉体と個性を与えられた弊害…でしょうね、頭では分かっていても気持ちが抑えられないんです」

 

そう言って胸を押さえる浜風、当然押さえられない規模である。

 

「分かった、今後も継続するから勘弁してくれ。それよりもう夕飯だろう、先に行って良いぞ」

 

「分かりました、提督は今夜は…?」

 

「今日は鳳翔の店の気分なんでな、相談事もあるし」

 

夕方から深夜手前まで開店する居酒屋鳳翔、居酒屋とは言うが実際は小料理屋に近い。

 

席はカウンターのみ、お酒の種類は客の中でお酒を飲む艦むすが飲みたがる物だけ、メインは鳳翔手作りの料理。

 

一応食堂側のテーブルも使えるが、切り盛りしているのが鳳翔とお手伝いの子だけなのであまり大人数は捌けない。

 

他の鎮守府なら居酒屋と名乗っても平気な規模で、飲ん兵衛な連中が屯しているのだが、ここは警備府。

 

基本的に子供レベルな艦むすが大多数なので酒も込みでの利用者は少数である。

 

では客が少ないかと言われれば否だ。

 

警備府最古参の軽空母にして艦むすのお艦、間宮と並ぶ良妻ポジションに座する全空母の母、鳳翔。

 

その立ち振舞と温和な性格に、自然と人は集まるし会話も弾む。

 

軽空母時代に、激動の大戦時を最初から最後まで生き抜いた記憶もあるだけに、艦むす達の人生相談に乗ってあげたりもしている。

 

その為、毎晩一定数の艦むすが利用しているのだ。

 

提督も普段の業務から艦むすとの付き合い方など、色々と相談に乗ってもらっている一人。

 

浜風達も納得し、自分達の業務用の道具を片付け、それぞれ購入した小さなポーチに入れてそれを片手に敬礼を残して退室。

 

執務室を出て直ぐ横、現在は備品置き場、ホテル時代もそんな感じで使われる予定だった部屋に立ち寄り、仕事道具を据え付けられたロッカーに入れて本日の業務は終了である。

 

秘書官担当はこの部屋に業務道具を置いてあり、他に執務に必要な紙やらなんやら置いてある。

 

「今日は何にしましょうか…」

 

「お昼に間宮さんにうかがったけれど、今夜は肉じゃが定食と海鮮丼定食だそうよ」

 

漁港傍で有志の提供を受けている警備府、毎晩魚介類が出るのが特徴だったりする。

 

勿論間宮監修の料理だ、マズイ訳が無い。

 

因みにご飯はおかわり自由(丼物は代わりに大盛り可)、汁物も同様(汁物がメインの場合は除く)、そして鳳翔が提供してくれる小鉢料理も付いてくる豪華な夕飯だ。

 

二人は今夜の夕飯に思考を飛ばしながら、一度自分達の部屋に戻る。

 

適当に部屋に居る姉妹を誘ってから食堂に行くのだろう。

 

「さて、午後の近海警備艦隊を出迎えて夕飯とするか」

 

秘書官二人を見送り、彼女達が纏めてくれた書類をきちんと仕舞うと、コーヒーを飲み干して再び立ち上がる。

 

時刻は既に17:25、午前中の近海警備の陽炎達と交代で出撃した警備艦隊が帰還する時刻だ。

 

交代は海上で行われる為(警備箇所の引き継ぎなどがあるので)、提督が昼に出迎えに行った時には既に警備海域へ行ってしまっている。

 

この警備府では提督が忙しくなければ、近海警備と輸送・護衛任務は帰還時、外洋掃討は出撃と帰還両方で出迎えるのが通例となっている。

 

すっかり手に馴染んだ帽子をこれまた馴染んだ頭に乗せ、お昼と同じように港を目指す。

 

夕食の時間は18:00からで、ぞろぞろと食堂や一度部屋に戻る為に移動する艦むすとすれ違い、挨拶を交わしたり軽い触れ合いをしたりで多少時間を取られるが、これも大切な日常と思って無下にする事はない。

 

そんな提督だから、この警備府の艦むす達も懐いているのだろう。

 

一部肉食獣モードでお部屋にハイエース狙ってるが。

 

「ん…、この時間だと全員同時に帰ってくるな…」

 

時計を見ると、定時で帰還する近海警備と、多少前後する輸送任務、時間が不確定な護衛任務の艦むす達がほぼ同時に帰還すると連絡があった時間から計算する提督。

 

因みに本日は外洋掃討任務はないが、多い時は4艦隊が同時に帰還したりするので、狭い母港は少々渋滞が起きたりもする。

 

「提督、見えましたよ、近海警備艦隊と輸送艦隊、護衛艦隊も見えますが漁港まで随伴すると発光信号ありです」

 

「護衛艦隊は睦月達か…漁師のご老人方にお土産を貰う気だな」

 

待機所の掃除をしてくれていた初霜を伴って埠頭で待つ提督は、遠目に漁船団を守る様に海の上を滑りながら漁港のある入り江に向かう睦月達を眺めて苦笑する。

 

「えっと、注意しましょうか…?」

 

「別に徴収してる訳じゃないし、漁港の方々も睦月型や朝潮型が来ると喜ぶからな。ただ夕飯が近いから長居厳禁とだけ送ってくれ」

 

初霜が不安げに問いかけると、提督は肩を竦めてはよ帰ってこいよと伝えさせる。

 

二人が待つ埠頭に設置された回光通信機で初霜が了解と長居するなと発光信号で伝えると、返事の信号が帰ってくる。

 

その頃には輸送艦隊が先に母港に入り、桟橋へと近づいていた。

 

どうやら近海警備艦隊、その旗艦である吹雪が気を回して荷物を抱えている輸送艦隊を先に帰還させた様だ。

 

「司令官、白雪以下輸送任務艦隊、無事任務完了しました。作戦は成功、また途中でバケツと弾薬を確保出来ましたよ」

 

確保した弾薬やバケツと呼ばれる謎の物体を抱えた輸送艦隊が整列し、戦利品を自慢げに掲げる。

 

「ご苦労だった、資材は数を記入して倉庫へ。バケツを手に入れるとはお手柄だな、良くやったぞ」

 

順番に白雪達の頭を撫でながら労う、人数が人数なので大変だしやっぱりこれセクハラだよなぁという思いもあるが、一度これを忘れたら菊月と涼風がガチ泣きしたので忘れないように心がけている。

 

なお頭を撫でないでよと強がるレディは代わりにハグを所望された、テレビで見た映画のハグシーンが彼女的にはレディらしくて良かったらしい。

 

その為、頭撫で撫で派と軽くハグされて背中をぽんぽんされる派、その両方を同時にという欲張り派の3流派が存在しているが今はどうでもいい。

 

提督の労いに満足した輸送艦隊が艤装と物資を置きに行くと、その後ろで待っていた近海警備艦隊が前に進み出る。

 

「司令官、吹雪以下第二近海警備艦隊、無事帰還しました!途中はぐれイ級と遭遇、これを撃破しました、艦隊に被害なし、海域が近い鎮守府への報告は済んでます!」

 

「ご苦労だった、怪我が無くて何よりだ。後で報告書の提出を頼む、よくやったな吹雪」

 

「えへへ、ありがとうございます!でもMVPは水無月ちゃんですよ、見事にイ級を沈めましたから!」

 

提督に褒められて嬉しそうに、しかし流石は最古参にしてナンバー1のエース、艦隊の仕事をした子を推すのを忘れない。

 

「そうか、MVPは水無月か。所属してからまだ日が浅いのに見事だ、これを進呈しよう」

 

「あ、ありがとう司令官!えへへっ、水無月すごく頑張ったよ!」

 

警備府に所属してから日が浅い水無月だが、周りのフォローもあって本日MVPを獲得。

 

MVPの子には間宮券が進呈されるのがこの警備府の通例であり、提督から手渡されたそれを水無月は大事に抱き締める。

 

「報告は受け取った、夕飯も近い、各自遅れない様にな」

 

「「「「「「了解です!」」」」」」

 

全員の頭を撫で終えて敬礼し、解散を宣言。

 

答礼して吹雪達は先に移動を開始していた白雪達と合流して工廠へと歩いて行った。

 

「後は睦月達か…」

 

「明日の朝ご飯が豪華になると良いですね」

 

漁港の方を見て腕を組む提督と、そんな提督を見上げて微笑む初霜。

 

今頃睦月達が漁師の老人達から今日のお土産を分けて貰って喜んでいる事だろう。

 

地元密着型特有の日常である。

 

 

 

 

 

 

「おっとと…少し飲み過ぎたか」

 

よろける足にたたらを踏みながら、階段を昇っていく提督。

 

今彼が昇っている階段は、警備府のある崖を削って作られた物だ。

 

警備府の本館を背に、なだらかに続く階段を進むと、小さく拓けた場所に出る。

 

そこは、崖をくり抜いて更に地面をくり抜いた、小さな湯船だった。

 

崖の上から、チョロチョロと温泉が流れ落ち、湯船に溜まっている。

 

「これがあるから仕事も耐えられると言う物だな…」

 

軽く酔いが回った提督が、いそいそと服を脱いで温泉の脇に設置された棚に畳んで入れる。

 

桶で湯を掬い、手足や身体に掛けて汚れを流す。

 

流れたお湯はそのまま崖の下…海へと流れていく。

 

「ふーーー…この温泉を占領してしまったのが地元の方に申し訳ない点だな…」

 

元々、この温泉は警備府に改造されたホテルが建築される前からこの場所にあった物だ。

 

地元の人しか知らない秘境温泉であり、源泉は崖の上から湧いて出ている。

 

その温泉に目を付けて建てられたのがホテルであり、現在は警備府のお風呂や温室の熱源として活用されている。

 

源泉かけ流しの秘境露天風呂を独り占め出来るのが、この警備府の提督の特権であった。

 

夕飯を鳳翔のお店で済ませ、龍鳳に軽くお酌をして貰った為にほろ酔いな提督は、湯船の中で大きく伸びをする。

 

「司令、お背中流してあ・げ・る♪」

 

「どわぁッ!?」

 

にゅっと現れた陽炎に、湯船の中ですっ転ぶ提督。

 

お湯の中でフルオープンになる提督の主砲に、あらご立派と頬を染めつつ凝視する陽炎。

 

「か、陽炎、そう言うのは要らんと何時も言ってるだろう…!」

 

「まぁまぁまぁ、良いから良いから」

 

そう言いながら服を脱ぎ始める陽炎に、目を逸らす提督。

 

「お邪魔しま~す♪」

 

「背中流すんじゃなかったのか…」

 

掛け湯をして、湯船に入ってくる陽炎と、頭を抱える提督。

 

狭い湯船だ、二人も入ればいっぱいになってしまい、自然と肌と肌が触れ合ってしまう。

 

「はぁ~、極楽極楽…♪」

 

「上官の胸を枕にして極楽と言い張るか…」

 

湯船に寝転んでいる提督の上に覆い被さる形の陽炎、頭を提督の逞しい胸板に乗せて寛いでいる。

 

「良いじゃない、司令だってこんな美少女と混浴出来るんだから喜びなさいよ」

 

普通なら喜ぶ、俺だって喜ぶ。

 

だがここの提督はタイプ堅物、生真面目系提督だ。

 

「馬鹿なこと言ってないで肩まで浸かれ、風邪を引くぞ」

 

「んふふ~、そこで出て行けと言わない司令が好きよ」

 

陽炎の言葉に内心照れながら、星空を見上げる提督。

 

都会から離れた片田舎の星空は、見上げていて飽きない雄大さがあった。

 

「今日も1日お疲れ様、司令」

 

「あぁ、陽炎もお疲れ様だ」

 

ちゃぷりとお湯を手で優しく掬い上げて、提督の首元に落とす陽炎。

 

心地よいその行為を受けながら、右手で陽炎の頭をグシグシと撫でてやる。

 

良い感じのムード漂う露天風呂だが、そのムードをぶち壊すお子様連合の到着まで後3分。

 

今日も陽炎はガッタイカッコガチのチャンスを逃すのであったとさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




設定を書いている筈が何故かお話になったのでそのまま投稿。
リハビリは遠い(´・ω・`)


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