女の子だらけの職場で俺がヒロインなのは間違っている   作:通りすがりの魔術師

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わりと悩んで書いた結果。
個人的にはこれがベストだと思ってます。2人らしくていいかなって。



願ったものはそこにあった。

 

 

 

沖縄は冬でも15度を超える亜熱帯だったか。

日本最南端の県ということでかなり暑い。南=暑いという考え方は間違っておらず、千葉も南の方に行けば暑いのだ。南船橋とかは舞浜の近くだから、人混みで暑くなる時がある。ほんと人口密集地って最悪。

 

 

「にしてもほんとに来てしまったな…」

 

 

荷物を持って那覇空港に降り立った困惑顔でそう呟いた。飛行機に乗ること数時間、空の旅を楽しむことなく寝てたらいつの間にか着いていた。離陸と着陸の瞬間は起きてたが、ジェットコースターに乗ってる気分だった。耳がキンキンするしもう乗りたくねぇな。

 

 

「ふぅ、やっぱりここは暑いですね」

 

 

「ですね…」

 

 

初の飛行機にげっそりしていると、やはり慣れているのか特に気負いなく、後ろからトランクケースを引っ張って出てきたうみこさんはそう口にする。空港内でも半袖にならねばいけないというのに、外の陽射しを見るにめちゃくちゃ暑そうだ。

 

 

「今日の気温は27℃。まぁ、比較的マシな部類ですね」

 

 

東京と比べると10℃くらい差があるのだが、それでマシとか沖縄頭おかしいんじゃないの?

 

 

ひとまず、空港の外に出ると陽気というか灼熱地獄の如く太陽の光が襲ってきたので上着を脱いで半袖になる。沖縄に来て『千葉L♡VE』シャツで千葉愛をアピールする俺。最強である。

そんな俺に対してうみこさんは普段会社で着てるものを着ていた。タクシー乗り場でタクシーに乗るとうみこさんは運転手に行き先を告げる。車は動き出し、沖縄の街並みが目に映るが、昔地理かなんかの教科書で見たのは少し違っていたが、この辺は都会の部類だからちょっと違うんだろうと勝手に納得した。

 

 

「お客さんらは観光かい?」

 

 

外の景色をぼうっと眺めていたらドライバーにそう聞かれたので俺はどう答えるか悩んだ。一応、予定としてはうみこさんの実家の近くの飲食店で夕食を食べてその後に行くことになっているが。前もって連絡してないからというのと、母にご飯を作られせると食べきれない量が出てくる可能性があるからということらしい。

 

 

 

「いえ、今日は結婚の報告を両親にしようと思いまして」

 

 

「へぇーそうなのかい!そりゃめでたいね!」

 

 

うみこさんがそう言うとドライバーは笑顔で祝辞をくれる。まぁ、裏の事情を知らなければこの反応は当然なのだろう。むしろ、「あぁ、そう」とか言って舌打ちされるよりは全然いい。他人の幸せを素直に祝福できる人というのはほんと羨ましいと思う。

このあとも2人はどこで知り合ったのか、とか聞かれてるうちにタクシーは目的地へと辿り着く。

 

 

「じゃ、頑張ってな!」

 

 

「え?あ、はい」

 

 

降りる際にそう背中を押されて困惑気味になってしまったが返しておいた。確かに頑張らねばならない。頑張らネバネバギブアプ。

 

 

「とりあえず、あそこの食堂なら安価で美味しいものが食べれるのでいきましょう」

 

 

指差す方向にあったのはオレンジ色の瓦屋根の白い建造物。看板には『本格食堂』と書かれている。そこの扉をあけると店員からの気前のいい挨拶が飛んでくる。店員がこちらを向いて何名か尋ねた時、うみこさんの顔を見ると表情が固まり、「あっ!」と声を出す。

 

 

「うみこちゃんじゃないの!久方ぶりだねぇ!元気にしてたかい?」

 

 

「はい」

 

 

駆け寄ってくるおばちゃん。やっぱり実家の近くの店だから顔見知りなのだろう。こういう時の俺は空気に徹するのが一番。そう思っていたのだが。

 

 

「ん?あの人は?うみこちゃんのこれかい?」

 

 

そう言って小指を立てるおばちゃん。それは女のやつで男は親指とかじゃねぇの?詳しくは知らないけど。

 

 

「私の婚約者です」

 

 

「まぁ!」

 

 

そうなの!?と嬉嬉として聞いてくるおばちゃんに一応頷いておく。まぁ〜とピンク色っぽい声を上げるとおばちゃんは本業を思い出したのか「どうぞ席について」と促してくる。

 

 

タコライス、本場のゴーヤチャンプル、ラフテー、海ぶどう、グルクンの唐揚げといった沖縄の名物料理がやって来てどれも美味しくいただいた。ゴーヤチャンプルやゴーヤはデカくて食感は楽しめたがやはり苦かった。

 

 

 

「両親に会う前にお酒は控えようと思いまして」

 

 

その言葉から真面目さが伺えた。俺も小町の彼氏が酒飲んでやってきたら半殺しにしちゃうから正解だと思う。というかきた時点で半殺しにする自信あるな。うみこさんの親がモンスターペアレントでないことを祈ろう。

 

 

 

###

 

 

 

沖縄料理で十分に腹を満たして、ついに俺とうみこさんは決戦の場へとやってきた。

玄関にはハイビスカスやアジサイらしいき花たちがたくさん咲いており、木造建築の風通しが良さそうな家に文字通り花を添えていた。

 

 

「帰ってくるのっていつぶりくらいなんですか」

 

 

「そうですね。昨年の夏以来ですかね」

 

 

正月は何かと忙しくて帰れなかったらしい。そういう俺も帰ってなかったりするのでそろそろ帰った方がいいかもしれないな。

そう思っていると、うみこさんが一歩歩き出す。家の戸を3回ノックすると中から「どちら様?」とうみこさんにやや似た低い声が返ってくる。

 

 

「私です」

 

 

「あぁ、うみこかい」

 

 

ガラガラと戸が開けられると、ピンクのカッターシャツと半パンを履いたファンキーなおばあさんが出てくる。肌は黒くはなく、少し小麦色っぽく焼けているかという程度でうみこさん程ではなかったが、髪の色や目元、声の質からどことなくうみこさんに似た部分を感じる。

 

 

「なんだ帰って来るなら連絡しなさいよ」

 

 

「すみません。前もって言うと面倒だと思ったので」

 

 

何が面倒だと思ったのだろうか。十中八九、食べきれないほど出される料理のことだろう。もしくはおもてなしとかされると嫌なタイプなのだろうか。そんなことを考えるとうみこさんの母親はパチパチの瞬きすると俺のいる方を見る。

 

 

「さっきから気のせいかうみこの後ろにゾンビみたいなのが見えるんだけど…私も歳かね」

 

 

「いえ、ゾンビでなく人間です」

 

 

なんとなくダイアーさんを思い出したな。俺はぺこりと一礼すると打ち合わせ通りの挨拶をする。

 

 

「うみこさんと結婚を前提に付き合わせていただいている比企谷八幡です。今日はその報告のために参らせていただきました」

 

 

緊張していたが噛まずに言えた。最後少しだけ丁寧すぎるけど。それくらいなら誤差の範囲だろう。うみこさんはうみこママに見えないように親指をぐっと立てる。

 

 

「あらあらまぁまぁ…これはこれは丁寧に…」

 

 

頭を下げるうみこママに反射的にペコペコする俺。なかなか終わらない挨拶に痺れを切らしたうみこさんが「早く中に入れてください」と言うとやっと挨拶が終わった。

 

 

居間に通され、お茶を啜っているとうみこママは前に座るとこう切り出した。

 

 

「で、子供はできたの?」

 

 

「ぷっ!!」

 

 

「八幡!?」

 

 

いきなり過ぎんだろおい。それじゃ完全にデキ婚じゃねぇか。

 

 

「いえ…」

 

 

「じゃまだしてないのかい」

 

 

「...はい」と口元を拭きながら首肯すると、うみこママはなんだつまらないのと口に出す。

 

 

「指輪は?」

 

 

「あ、それはまた東京に帰ってから買おうと。お互い忙しくてようやく暇が取れたので」

 

 

質問されるであろう事柄についてはうみこさんと事前に打ち合わせていたので全て対応可能だ。まぁ、まさか子供の話を聞かれるとは予想外すぎたが。

 

 

「いくつ?」

 

 

「今年で20になります」

 

 

「あら、年下なの」

 

 

「はい」

 

 

意外ね〜と感嘆の声を漏らすうみこママは唐突に立ち上がると俺の方に寄ってくる。すると。

 

 

「えい」

 

 

そう言って俺の上半身を顕にした。

 

 

「ファッ!?」

 

 

「お母さん!!」

 

 

「結構いい身体付きしてるじゃないの」

 

 

「お母さん!!!!」

 

 

婿入り前に女の人に裸(上半身だけ)を見られてしまった。もうお嫁にいけない…。服を着て死んだように黙り込んだ俺と楽しそうに笑っているうみこママを見てうみこさんはため息を漏らした。

 

 

「八幡をからかって遊ぶのはやめてください」

 

 

「ごめんごめん。うみこの連れてきた彼氏だからテンション上がっちゃって」

 

 

テンション上がって服脱がしてくるとか痴女かよ。いくつか知らないけど歳を考えろよ。すごく身の危険を感じたわ。

 

 

「それで?八幡くんはうみこのどこに惚れたの?」

 

 

あんなことしといてまだ質問するのかよ。うみこさんからは怒涛の如く聞かれるから覚悟しておいてくださいと言われてたが服を脱がされるまでは聞いてなかったぞ。

 

 

「面倒見が良くて、気前が良くて料理がうまくて、あと可愛いところですかね」

 

 

「まぁ!聞いたうみこ?八幡くんあなたにぞっこんじゃないの〜!」

 

 

興奮気味なうみこママに対して背中をパシパシ叩かれるうみこさんはやめてくださいと恥ずかしそうにしていた。

 

 

「と、とりあえず!私と八幡は結婚することになったので母さんはご心配なく!」

 

 

「はーい。あ、で?式はいつあげるの!?ハワイ?ベネズエラ?メキシコ!?」

 

 

まぁ、そんなことで引き下がるうみこママではなく式のことやらも聞かれた。ハワイは分かるけど、あとのふたつに関しては全くわからない。

 

 

「それについては後々決める予定です。今はとりあえず報告だけです」

 

 

ピシャリと言ううみこさんにママは「そっかぁ」と仕方ないと口を噤んだ。

 

 

「...まぁいいわ。今日は泊まってくんでしょ?離れの家用意してくるから待っとき」

 

 

戸を開けて出ていったうみこママを見てうみこさんはため息を漏らす。

少なからず俺と同じことを感じているのかもしれない。

母親を安心させるためとはいえ、騙しているのだ。どんなに優しい嘘でも、嘘は『嘘』なのだ。現実ではない。それに罪悪感が伴うのは当たり前のことだ。現に赤の他人である俺も少しというかそこそこ罪悪感を感じている。

しかも、うみこママはそれに気付いている節がある。まだ、さっきの結婚式の話で確信に近づいた。というところだろうか。だが、いずれは気付くことになるだろう。

 

 

「母親って何かと鋭いですよね」

 

 

「...え?」

 

 

「本当のことは本当って信じないけど結局は信じてくれるし。嘘は嘘で見抜いてるのに信じる振りして」

 

 

いつもの如く、独り言のように何か呟いた。それは止まることなく、うみこさんの疑問符を気にすることなく続く。

 

 

「それでずっと黙ってるんですよ。嘘が本当になっても『良かったね』とか『そうなんだ』とか言ってそんだけ。『昔嘘ついたよね』とかは言わないんですよ」

 

 

嘘を本当にするのは結構難しい。テストで100点取ったとかそんな嘘はその場でバレるし、『今日どこ行ってたの?』で友達と遊んでたって言ってもママ友やら遊んでたと言った子に聞かれれば終わりだ。

100円拾ったとか茶柱が立ったみたいな、その場に居合わせないと分からないような嘘は本人以外には嘘か本当かわからない。

けど、今回のような嘘は簡単に本当に出来る。

 

ただもし本当にするなら。

 

 

そこにどうしても必要なものがある。

 

 

「うみこさんはどうして俺を選んだんですか?」

 

 

「…あなた以外に男性の知り合いがいなかったからです」

 

 

そうだ。うみこさんには俺以外に親交のある男性がいない。そういう話だった。

でも、もしそれが嘘だったなら。

こんな大掛かりな嘘をつくのには俺は都合が良かった。そんなことは分かってる。

だけど。そこに他の感情があったのなら。

 

 

「俺はあなたに脅されました。『あなたがやらないなら他を当たると』あなたならやりかねないと思ったので俺は仕方なく付き合いました」

 

 

そう言った瞬間にうみこさんの目が揺れ動く。

まだだ。まだ耐えてほしい。ここでどこかに行かれたら俺は追いかけられない。追いかける資格がなくなる。

この次さえ言わせてくれれば。あとは好きにしてくれて構わない。

 

 

「……でも、正直いって嬉しかったです。こんな俺でもそんな大層な役回りをさせてくれて」

 

 

迷惑だったかと問われれば最初はそうだったが、この人とすごす休日は悪くなかった。元々、共にいて飽きないし嫌な空気になる相手でもなかった。居心地が良かったのだろう。

 

 

共に歩くことも。

服を買うことも。

食事をすることも。

 

 

全然、苦ではなかったしむしろ楽しいものだった。そりゃ旨いご飯を魅力的な女性と食べれたからというのもあるのかもしれない。

どういうことか、俺はこの人なしではダメになってしまったらしい。

だから、俺は今ここでこう言おうと思う。

 

 

「おかげで俺は偽物じゃなくて本物が欲しくなりました」

 

 

いつぶりかに口に出したその願いは、果たした目の前の人物に届いただろうか。

 

 

「嘘を本当にしてみませんか?」

 

 

一度、口に出した言葉は引っ込まないのでどうにでもなればいい。

ここでごめんなさいとか言われたらうみこママに全部バラして逃げさればいい。県庁近くに行けばネカフェとかカプセルホテルとかあんだろ。

なんだか、恥ずかしくなってうみこさんが視界の端にギリギリ見える範囲で天井を見つめる。

 

 

 

5分くらいの無言が続いた。うみこさんの後ろがちょうど掛け時計だから5分で合ってる。今日ほど無言を嫌った日があるだろうか。俺なりに精一杯言ったつもりなんだが。それに早くしないとうみこママ帰ってきちゃうし、この空気のままだと余計に不審がられる。まぁ、あの人なら『キスとかしてた!?ごめんなさいねー』とか言って出ていってくれるかもしれないけど。

 

 

「あの…」

 

 

重く張り詰めたような空気をうみこさんが俯きながら破るように声を出す。

それに俺は目を向けると顔を上げて背筋を伸ばしたうみこさんと目が合う。

 

 

「すみません」

 

 

と、合ったのは数秒。ほんの一瞬でうみこさんの目は顔とともに畳へ一直線。

何故か知らないが俺は土下座されてた。

もうこれはダメってことですかね。やめちゃおうかな人生と死にたくなってると。うみこさんは目を逸らしながら顔を上げた。

 

 

「その案をそちらから出してもらえるとは思ってませんでした…」

 

 

仄かに染まった頬に僅かに潤んだ瞳。

普段のキリッとした印象から程遠い柔らかな笑顔で阿波根うみこはこう言った。

 

 

「本当にしちゃいましょうか」

 

 

まるで親をからかうような。

愛の告白とは程遠い声音。

それを言ったのがうみこさんなのがおかしかったのと。

酸っぱい葡萄を手に入れられたことが嬉しかった俺の表情は綻んでいた。

そんな俺に釣られるように笑ううみこさんとお互いに変なテンションになって、うみこママが帰ってくるまでずっと笑っていた。

 

 

 




八幡の願いとうみこさんの願い両方叶えられたのでいいと思ってます。


次回エピローグ。
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