女の子だらけの職場で俺がヒロインなのは間違っている 作:通りすがりの魔術師
イキリ道民はゲオルギウス先生に倒されました。
いつも通りカタカタとキーボードをうち、タブレットにペンを走らせる。慣れれば楽な作業だが、慣れるが故に見落としや細かなミスが多くなる。そのため俺はいかなる時も言い訳できるように最善を尽くしている。本当に最善を尽くすやつはミスをしないように見直しをするものだが、どうせ納期前に全員で精査するのだから別段そうする必要は無い。
最初に楽した分は後に苦として返ってくるというが、楽しようが頑張ろうが最終的には苦になっているのだからどうでもいいだろう。
時計を見あげて、そろそろ切り上げようとキリのいいところで作業を終える。タイミングよく短針が12の針を指したのでデスクから手を離す。
ほぼ同時に周りのメンバーも肩の力を抜いたり、軽くストレッチしたりしてから立ち上がる。
「じゃ、お昼行こっか」
「今日の定食なにかなー」
ゆんさんがはじめさんと共に出ていくと入れ替わるようにしてランチセットを持って桜がやってくる。
「あおっちーご飯いこー!」
「うん!」
相変わらず元気よさげに涼風に駆け寄ると、涼風も大きく頷いて立ち上がる。昼休憩が終わったら午後もあるという俺のローテンションに比べると2人のテンションは幾分高い。
そりゃまぁ、午前中の仕事を終えてやっとに休憩だ。わからん事もない。
「八幡とももちゃんはここで食べるの?」
「あぁ」
不意に聞かれて鞄を漁りながら適当に答えた。行く前に買った弁当があるが、わざわざ食堂に行くのも面倒なのでここで食す。男のグルメというのはいつだって孤独なものだ。
別に食堂に行っても俺の居場所がないからとかそういうわけではない。
「私はこれがあるので」
給料はとっくに入ってるだろうに望月もいつもと変わらず大きなおにぎりをラップに包んで持ってきた。それに涼風は「そっか」と苦笑すると桜と食堂へと向かった。
そして、静寂が流れる。これもいつもの事だ。
どうやら鳴海も桜と食べるのは希らしく、あまりこちらに来ることは無い。1人で食べているのか、うみこさんやプログラマー班の人と食べてるのかもしれないがそこは分からない。だが、たまに見る様子では円滑にやれているようなのでそういうことなんだろう。
「あの」
箸を置いてマッ缶に手を伸ばすと遠慮がちな声で望月に声をかけられる。「どうした」と返すと望月は1つ食べ終わったおにぎりのラップを丸める。
「お礼ってどういうのが喜ばれるんですか」
真剣そうに聞いてくるが、それを今度お礼をするといった俺に聞くのはどうかと思うぞ。そう思いながらも一応それとなく答えておくかと口を開く。
「贈り物が妥当なんじゃないか?」
ハンカチとかお菓子とか。贈るものそれぞれに意味はあるらしいが俺は特に気にしないし。なるべく消費できるものがいいな。跡が残らないものとか。そういう意味だと食べ物類はオススメだが相手の好みに反するものだと好印象は受けない。逆にモノ類だといる、いらないで分かれる。最悪、売られる捨てられるのどちらかになるので身近な人に贈るのには適していないだろう。
「他には?」
「他?...まぁ、食事とか映画鑑賞とかか?」
お礼の中に何か奢るという手段もあることを思い出す。ラーメンとか軽めのものなら受け取ってくれるだろう。映画も大人だと1800円とかするとこもあるが誰かの奢りだと行ってもいいという気にはなるだろうし、共に楽しめる可能性を考慮すればありかもしれない。
「なるほど...」
感嘆したようにスマホに何か打ち込んでいる姿を見るにメモっているのだろうか。今時はスマホにメモをとる人もいるというが、やはり俺は自分で書く方が好きだな。手書きのメモもペンも持ってないけど。大抵の事はメモしなくても覚えられるから構わないのだが、流石に細かな時間や日時、場所に関しては一応は書くようにしてる。しても見返さないけどね。
「...比企谷さんが今欲しいものってなんですか?」
「休み」
「...モノでお願いします」
即答したことに少し引いたのか間が空いた気がする。モノか。特にないな。欲しくなったら買うし。金がない時や高価なモノに関しては必要か不要かを吟味して買ってるし。
最近だとゲームや映画の臨場感を味わいたいからとスピーカーを欲しいと思ったが、いいものはめちゃくちゃ高いので中古でなるべく良質なものを買っても1ヶ月分の給料が吹き飛んでしまった。おかげで至福の時間を過ごせてはいるが痛い出費であったことは間違いない。
「悪いがないな」
「そうですか...じゃあ行きたいところとか」
「自宅」
「……」
何故だろう。素直に答えているのに白い目で見られてる。
行きたいところか、真面目に考えるが思い当たるところはないな。
「見たい映画とか」
「チェックしてないからないな」
「食べたいもの」
「小町の作った味噌汁」
質問を重ねる毎に望月の顔がすごいことになってる。俺を見る目がどんどん怖くなってるというか、俺のことをとても残念に思ってるようだ。
「望月、別に俺の好みとかに合わせなくてもいいぞ」
「え?でも」
「お礼ってのは気持ちさえこもってればいいんだよ」
そう、お礼ってのは気持ちだ。本当にその人に感謝しているなら悪意のこもったモノをあげることは無いし、することもない。
結局はお礼というのは自分が自己満足するためにあげたりすることで、される相手は自分のした善行を再確認することが出来る。
それさえ、出来れば別になんでもいいだろう。俺は気持ちさえこもってれば木炭みたいなクッキーだって食べるし、嫌いなトマトでも無理して食べよう。それで相手が満足してくれるならそれに越したお礼はない。
俺が思う最高のお礼は重すぎず軽すぎないものか、なくても構わない。
礼をされるために助けたわけじゃないからな。しかし、相手がそれを望むなら甘んじて受け入れよう。
「...そうですか」
俺の言葉に納得したのか、望月は食事を再開する。
とりあえず、どんな礼をされるのかは分からないがひとまず期待せず、慢心せずに気長に待つとしよう。
こんな感じでええんかな...
恋愛っぽいことはいつ出来るのか。俺にもわからねぇ。
とりあえず次でデートかな
早く「お礼は私の体です!」(全裸)(真っ赤に染める顔)(ベッドの上)(八幡『oh...』)ってしたい(しません)