女の子だらけの職場で俺がヒロインなのは間違っている 作:通りすがりの魔術師
明日を信じ続けていれば砂漠も楽園に変わるのかな…
個人的な理由で投げ出すわけにもいかなかったので、最悪な気分のまま午後の仕事に取り掛かった。周囲には一人で頑張ってるから話しかけないでオーラを出して振舞っていたが、どこまで誤魔化させていたかよく分からない。だが、何も声をかけてこないところを見ると気を使ってくれてるのかもしれない。
本来、気遣いはしないされたくない俺だが今回に至ってはとてもありがたい。
苦味を噛み締めるようなブラックコーヒーを喉に流し込む。あー学生時代ならこういう時は保健室に駆け込むか仮病を偽って休むんだが、社会人になるとそうはいかない。それに今は猫の手も借りたいくらい忙しい時期だ。俺一人が欠けるだけでほかの人にしわ寄せがいくのは無視出来ない。そもそも俺が許せない。ほら、俺より仕事されると俺の存在意義が本格的になくなっちゃうからね。
タターンとキーボードを叩いて描いたキャラをコピーしてまとめると立ち上がり、ひふみ先輩の席に向かう。
「どうですか」
「あ...うん...いいと思う」
聞けばいつもの反応よりなんとなく曖昧に感じる。俺の声音が暗いのが影響してるのか、もしくは目が平常より濁っているのかもしれない。それくらい今の自分の気分は最悪なのだ。
昼休みに珍しく後輩にご飯に誘われ、その時に好意を向けられた。冗談ならよかったのだがそうではなさそうだった。
おかげで午後の仕事は上の空とまではいかないが、余計なことを考えてばかりだった。
「八幡、今日はもう帰っていいよ」
そして今も考えていてひふみ先輩の言葉に反応が遅れた。
「え、あ、はい」
確かに朝からいた俺はもう帰宅していい頃合だ。気分も優れないのでお言葉に甘えさせてもらおうとぺこりと頭を下げてその場を離ようと歩き出した。同時にひふみ先輩は口を開いた。
「...あの、何があったのか…分からないんだけど…」
止まって顔だけ振り向きその続きを待つ。するとひふみ先輩は柔らかな笑顔を浮かべた。
「私に出来ることがあったら…なんでも言ってね...?」
「はい、じゃ」
善意100%のひふみ先輩になんとか笑みを作って感謝の意を表して自分のデスクに戻る。もし昔の俺なら言われた瞬間「ひふみしぇんぱ〜い!!」とドラえもんに甘えるのび太くんの勢いで抱きついていた頃だろう。よかった、現実でしなくて。脳内では何回かやりかけてるからそろそろやめなきゃ。そうやってなるべく気を紛らわせていると、隣で涼風がこちらを向いた。
「あ、八幡帰るんだ。お疲れ」
「...おう。お前も頑張ってくれ」
びっくりした…お前全然仕事してないくせに早く帰るとかいい度胸だなとか言われんのかと思った。まぁ、午前中頑張ったし多少はね?
自然に振舞ったつもりだが涼風は違和感を覚えたらしく呟くような声で尋ねてくる。
「ねぇ、今日何かあったの?」
その言葉にほんの僅かに動きが止まる。俺になにかあったと気づいていながら聞いてこなかったひふみ先輩とは対照的に涼風はそう聞いてきた。別に悪いことじゃない。他人を気遣うというのは会社という人の集まる場では大事なことなんだろう。だが、その優しさは俺に向けられていいものじゃない。
「いや、特に」
「嘘だ」
俺がそう言うと涼風はぐいっと顔を近づけてくる。
「何もなかったら八幡そんな辛そうな顔してないよ」
憂いを帯びたその目がとても優しく見えて、今この気持ちを吐き出せば楽になれるのか。そんな幻想が見えたがすぐに瓦解した。
「まぁ、人生辛いことばかりだからな。そりゃやっと仕事が終わったのに明日も仕事だと思うと気が滅入るだろ?ほらそういうのだから気にすんな」
ほんと生きてるだけで周りは冷たいし、温かさなんてない。シャアが隕石落としをやりたくなるのも頷ける。それに同じ作業の繰り返しというのは慣れれば易しだが、逆に飽き飽きしてくる。俺の場合は失敗するリスクは少なく、修正も容易だから助かっていいのだが。ははっと乾いた笑いを出すと、涼風の瞳は俺を捉えた。
「そうじゃないでしょ」
真摯な目で放たれた言葉に俺は思わず勘弁してくれよ、と頭を抱えそうになる。ふと顔を上げると周囲の目がこちらに向けられていた。ゆんさん、はじめさん、望月。全員が俺を気遣うような、さらに心配そうな目で見つめていた。
「...なんでもないって言ってるだろ」
それを俺はそれをふいにした。必要ないと、杞憂だと切り捨てた。人の優しさっていうのは毒だし、何よりこれは俺が1人でやるべき事だ。涼風達は関係ない。
昔から変わらない。なんて愚かで矮小な人間なんだ。嫌になる。
そんな気持ちが出たのか、自然と出た言葉は語気が強くなっていて突き放すようになっていた。怒りを誘ったのではないかと目を合わせれば、涼風は目を逸らした。
「...分かったよ。気をつけて帰ってね」
それだけ言うと涼風は仕事に戻る。これ以上は聞かないと目の前のパソコンと向かい始めた。他の面々もそんな涼風を見て椅子をくるりと回すとペンを握ったりキーボードをうったりと自分のやるべき事を再開した。
彼女らも優先すべきことは分かっているだろう。俺の心配よりも自分のことだろうし。
無言でブースを出るとすぐさまエレベーターのあるエリアに向かい、来るであろう人物を待つ。朝からいたということは俺と同じくこの時間に仕事上がりになるだろう。本人の状態は知らないが集中力に欠けている状態ならうみこさんが残業はさせないだろう。
「あ...」
そして思った通り、その人物はやってきた。肩に掛けたトートバッグをぎゅっと握りしめると俺を一瞥し、エレベーターのボタンを押す。
「なぁ、この後時間いいか?」
思ったよりスムーズに出てきた言葉に驚くがそれより驚愕の顔を見せたのは鳴海だった。え、と目を見開くと小さくであるが頷いた。
下に降りて俺が駐輪場から自転車を取ってくると歩き出す。鳴海はこれから夕食の支度があるのでそこまで長居できず、帰り道は途中まで同じなので帰りながら話すのがいいだろうということになった。
今にも雨が降りそうという黒い雲の下で俺は自転車を押しながら歩く。
「昼間のことだが…その悪い」
「なにがです?」
そう口火を切った。ほんとに俺の何が悪いかよく把握出来ていないのに謝ってるあたり弱者のオーラ半端ない。首を傾げた鳴海に俺は喉から声を絞り出す。
「その、お前の好意に、ちゃんとした返事ができてないことだ」
歯切れが悪く紡がれた言葉に鳴海はポカンと口を開けた。え、なにその顔と困惑していると鳴海は慌てて顔を逸らした。
「いや、あの、ちゃんと、好きってのは伝わってたんだな...って」
「まぁ、あんな顔で手握られたらな」
少し苦笑しながら言うと鳴海は耳を赤くする。
「それで返事は貰えるんですか?私、あの後仕事に集中できなかったんですよ」
そりゃお互いさまだ。なんなら、こっちの方が周りに気を遣わせてる。いや、鳴海の方もそうかもしれない。どうだったのかはさておき、話すことはそれじゃない。
「悪い。今は誰とも付き合う気は無いんだ」
いつかどこかの誰かが。お互いに面と向かって嫌いだと言い合った人間の言葉を借りた。しかし、本心だ。今の俺に誰かと付き合える余裕はない。それに。
「お前、俺のこと本気で好きかって言われたら違うだろ」
確証はない。だが、好きになった理由を考えればおそらく間違いない。
「そんなこと...!」
「俺はあると思ってる」
あぁ、今から言うのはとても残酷なことなんだろう。嘘ついて優しく励まして付き合ってやればいいんだろうが、そうはいかない。そんなの本物じゃない。ただの偽善だ。
俺はヒーローじゃない。そんなことは誰もがわかってる事だ。でも、こいつの中では俺はそういう立ち位置なんだろう。ならば、そこから自分を引きずり下ろすしかない。
「人ってのは自分がミスしたり辛い状況に置かれてる時に誰かに優しくされるとその人を好意的に見ちまうんだよ」
自分を助けてくれた。その思い違いがどんな悲劇を生むか。ちょっと優しくされただけで自分のことが好きなんじゃないかと勘違いして。勝手に自分の理想を押し付けて、勝手に失望する。その道のりを俺は既に乗り越えたのだ。だが、鳴海ツバメはこれが初めてだ。まだ引き返せる。
「1度、帰って見つめ直してくれ。その気持ちが本物なのか」
それでもし、気持ちが変わらないのなら。その時はちゃんとした言葉を返そう。俺自らの、俺なりの答えを。
「...わかりました」
渋々と、納得してない様子だったが首肯した鳴海に安堵する。これでいいのだと自分に言い聞かせるように俺は「あぁ」と微笑みを返した。
これがいいのかは別として、鳴海は自分の感情と向き合い答えを出すだろう。どちらにせよ、俺の答えは変わらないがどちらも傷つかなくて済むならそれが最も望ましい。
望月ともわだかまりのようなものが解ければいいと切に思うが、夕食を作るということは望月の分も作るというなのだろう。そう考えると彼女らはそう簡単に引きちぎれる関係ではないはずだ。
鳴海と別れて自分の家へと戻り真っ先にベッドにダイブした。あー疲れた。後でひふみ先輩と涼風になんか言っとくか...まぁ、別に明日でもいいか。多分明日からは普段通りやれるだろう。まぁ、それも鳴海の出す結論次第ではあるが。
はぁぁ、と大きくため息を吐いてそのまま沈み込むように眠りに入った。夕食は食べてないが起きてから軽くカロリメイトでも齧ってればお腹は満足するだろうと、そう考えながら。
一睡してなかなか鳴り止まぬインターホンの音を聞いて目を覚ました。時計を見れば21時だ。こんな時間に宅配を頼んだ覚えはないし、日本放送からの集金にしてはしつこすぎる。もしかしたら小町かと思ったが、電話の1本くらい鳴らすはずだろう。スマホを見たが着信履歴はなく、時間と初期設定の海原だけが写っていた。であれば予期せぬ来客だろう。仕方なく立ち上がって、チェーンをつけたままドアを開けるとそこには意外な人物がいた。
びしょびしょに濡れた髪と服に虚ろで像を写していないような目。それを見て思わず俺は声をかけた。
「望月何してんだ」
「...」
聞いても答えは返ってこず、外でしきりに降り注ぐ雨の音だけがこの静寂を包んでいた。
望月さんの話暗すぎない?暗すぎない...?(確信)
寝不足で寝てから書きましたので頭は回り回っておらず同じ言葉ばかりですみません!てか、プロじゃないしええやんね!
暗いというのはギスギスしてますがそろそろ物語はイチャイチャし出すかな