女の子だらけの職場で俺がヒロインなのは間違っている 作:通りすがりの魔術師
紅葉編のイメージはメルトです。(後付け)
朝、目が覚めて真っ先に思い出す昨日のこと。
唐突に後輩に好きかもしれないと継げられ、あわよくば付き合ってほしいとまで言われた。その後、深く考えてくれと言い渡して別れた矢先に訪ねてきたもう1人の後輩。
「いっつ...!」
ベッドの上で寝たはずが気づけば床にうつ伏せで倒れていた。1人で寝ていればこんなことにはならないはずだが、と痛む節々を抑えつつ身体を起こす。
肩とか膝とか超いてぇなと擦ると隣から寝返りと共に微かな寝息が聞こえる。
何があったかはよく知らない。ただ鳴海と喧嘩した。ということしか知らない。まぁ、本人にもよくわかってないので無理もない。
起き上がりロフトから降りて洗面所に向かう。鏡で相変わらず澱んだ目を見て顔を洗う。拭いて次に台所に向かう。トーストにトマトソース、細切りにしたタマネギとカリッと焼いたベーコンを小さくして乗せて、さらにその上にチーズをふりかける。
あとはオーブンで焼けば簡単お手軽ピザトーストの完成である。
てか、あいつピザトースト食えんのかな。甘くないし大丈夫だと思うが。
けど、おそらく食べれるだろう。トマトが嫌いな俺でも食べれるくらいだし。少し手間をかけるだけで栄養も取れるし腹も膨れる。
タマネギとベーコンがなくなりそうだからそろそろ買わないとな。
お湯を沸かしてカップにコーンスープの粉を容れてテーブルに置く。こうすれば、湯を注いで混ぜるだけ。わざわざ熱いのに気をつけながら持っていく必要がなくなる。誰でも思いつきそうなことだ。
「...おはようございます」
ぼさっとボサボサの髪に俺の貸したワイシャツをしわくちゃにしてだらしのない格好で起きてきた望月は挨拶すると椅子に座る。
それとほぼ同時くらいにオーブンが鳴ったので開けるとこんがりといい具合にチーズドロっとしてたしパンも焼けていた。ピーマンも入れた方がよかったかと思いつつも、それを皿に乗せて望月の前に出す。
「食っとけ」
「あ、はい」
短く答えると手を合わせてから一口パンを齧る。熱かったのかはふはふ言ってるのがなんとなく可愛らしいと思った。慌ててパンを皿に戻すと「美味しい...」と呟いた。そいつはなによりと浴室に向かう。触ってみると干していた布はちゃんと乾いていた。洗濯バサミを外して手に持つとソファーの上に畳んでおいておき、俺も食事をとる。
もぐもぐと少しばかり冷めたトーストを口に入れる。我ながら上手くできた。絶賛したい。もっと褒めてくれ...!まぁ、腹は膨れても栄養価的には問題がありそうだが、朝は美味いもん食べてテンション上げるに限る。
ズズズとコーンスープを飲んでいると望月が口を開いた。
「あの」
「ん?どした」
「すみません急に押しかけて、朝ごはんまでいただいて」
それは昨日のうちに言うべきだったな。別に気にしてないし、構わないが。
「他に行く宛はなかったのか」
一応洗濯する前にポケット中身を確認したが何も無かった。財布もスマホも。それではホテルはもちろんネカフェやカラオケで1泊過ごすことはできない。にしても、専門学校の友達の家とかあるだろうのにどうして俺の家だったのか。
「...その、私なる以外に友達がいなくて」
あ...これは地雷踏み抜いちゃったかな。思わず謝りたくなるからその顔はやめて欲しいな。うん。「そうか」としか答えられない。会話が続かない。だが、望月は話そうとしている。
「寝たら落ち着いたので1回帰ろうと思います」
「それはいいが、お前鍵とか持ってなかったけど鳴海は今日家にいるのか?」
聞くと望月ははっと顔を青くする。どうやらいないらしい。これは困りましたね。
「てか、お前今日仕事?」
「え、あ、はい...だから家に戻りたいんですけど」
さいですか。
今思ったんだけど、女子っていつもカバンの中に何を入れてるんですかね。財布とスマホと化粧品と女性の嗜みくらいでしょ?カバンに入れなくてもポケットに収まりそうなモノだが。
「...鳴海が家出るのって何時くらいだ」
「もうそろそろですかね」
ならば。
「今から急いで出れば間に合うだろ。ソファの上に着替え置いてるから着といてくれ。その間に俺も用意するから」
残っていたトーストを一気に口に入れて噛み砕いてスープで飲み下す。行儀が悪いが仕方ない。
ササッと片付けをすると、洗面所で歯を磨く。入れ替わるように望月に新しい歯ブラシを渡してやり、ズボンのポケットにスマホと財布、ポケットティッシュとハンカチを入れる。
「じゃ、行くか」
洗面所から出てきた望月にそう言うと頷きを返す。
家を出て鍵を閉めると駐輪場からチャリを引っ張ってくる。
「乗れ」
後部をとんとんと叩くと望月にここに座るように促す。少し困惑気味な顔で乗ると俺はサドルに跨りペダルを漕ぎ始めた。それからしばらくして望月が小声で聞いてきた。
「どうしてここまでしてくれるんですか?」
「...え?何が?」
「なると会えるように急いでくれてるんですよね?」
「まぁな」
鳴海と望月がシェアルームしてるマンションはここから直線距離約6分ほど。出勤時間までは結構時間がある。もしかしたら鳴海は会社に行く途中の道にいるだろうし、あるいはまだマンションを出ていない可能性もある。
「どうしてここまでしてくれるんですか?」
また同じ質問を投げかけられる。
なぜ助けるのか。どうしてするのか。
そんなのに理由はいらないのだろう。だが、俺はいつも理由付けをしてから行動してる。悪いが俺はヒーローじゃない。誰かの笑顔のためだとか、仲間の幸せのためにとかそんな正義の味方やレラジェのような崇高な考えはない。
俺にあるのは、ただ俺の目の前で知っている人間が、俺の存在を認識している人間が傷つく姿を見たくない。ただそれだけだ。
「別に、俺がそうしたいからそうするだけだ」
口に出来るのはここまでだ。
理由なんて言ったところで嘘くさいだけだし、信用してくれるかわからない。それなら端的に伝わりやすい言葉を選ぶ。
「そうですか...」
おかげで伝わったらしい。心做しか俺の腰回された手の力が強くなった気がするが自転車を漕ぐことに夢中でそんなことは途端に頭から消え失せた。
平坦な道ばかりで登り坂がなくて助かった。下手すると望月にみっともないところを見せることになっていた。さてさてここで問題です。日本には登り坂と下り坂、どちらが多いでしょうか。正解は…と言う前に目指していたマンションから青みがかった髪の少女が出てくるのが見えた。
「あっ」
その望月の声が風に乗って前方まで届いたのか、俺から10メートル先にいる鳴海はこちらを振り向く。
「...もも!」
「なる!」
俺が自転車を止めると望月は飛び降りて走ってくる鳴海の方へと向かっていく。そして、抱き合ってハッピーエンド。それはあくまで理想だったが、概ねそれ通りになっていた。
「もう心配したんだから!バカ!」
「ごめん、ごめん...」
しばらくお互いの目を見合ってから色々と込み上げてくるものがあったのだろう。ほぼ同時に涙を流した2人は抱き合って泣きじゃくっていた。出勤までまだまだ時間はある。ここは2人だけにしておこうと俺は通り過ぎるようにそのペダルを漕ぎ出した。
「ストップです」
漕ぎ出せれば良かったのだがブレーキを掴まれキキーッと耳障りな音を立てて自転車が止められる。ビクビクしながら無機質な微笑みを浮かべる鳴海の方を振り返ると頭を下げられる。
「すみません、やっぱり私、先輩のこと好きじゃないみたいです」
「...へ?」
それは俺が出したのか、あるいはその場に居合わせた望月の声だったのか。
どうして俺が振られたみたいになってるのかと傷ついていると鳴海は舌を出しててへっと笑う。
「もも、鍵渡すから用意してきなよ。ここで待ってるから」
「...あ、うん」
鳴海の一言で鍵を受け取った望月は時間のこともあってか急いでマンションの中へと入っていく。その姿が見えなくなると鳴海はふぅと息を吐くとこちらを見ずに呟くように話し始めた。
「先輩に言われて、ももと喧嘩してゆっくり考えてみたら…その...」
途中で切ると鳴海はさっき流した涙を拭う。
「私、恋愛はまだいいかなって」
それにと鳴海は言葉を続ける。
「比企谷先輩めんどくさそうだし」
ははは、そりゃ確かにな。よく言われる。
「だけど、一番の理由は…」
「お待たせー!」
そう鳴海が言いかけたところで着替えてカバンを持った望月が出てくる。それに鳴海は駆け寄ると髪を直したり、裏返った襟などを正したりする。その際に望月から「さっきの話ってなんのこと?」とキョトンとした顔で聞かれてるあたり、望月は鳴海の言う通りよくわかってないらしい。あの二人がどういうことで喧嘩をしたのか知らないが、あれを見る限りただのすれ違いで鳴海が折れて望月が気付いていないだけのようだ。
「あ、そろそろ会社行かないと」
「うん」
歩き出した2人の後ろから自転車を押しながらついていく。時折、笑ったり俺に話しかけたりして会社を目指して進んでいく。2人が会話を弾ませてる間に鳴海の言おうとしたことを考える。
一番の理由か。
わからないままでもいいし、わかってしまえばどうでもいいことなのかもしれない。誰かにとっての一番は自分にとっては必要ないものだってことはよくあることだ。
だから、俺は知らなくていい。別に知らない物語があったところで得するか損するかはその時にならなきゃ分からないし、だったら知らぬままでいい。
知った時に未来の俺がなんとかすると信じて。
鳴海の一番の理由というのはエピローグにて書きたいと思います。
作者が覚えていればですが。
あと2話、3話で片付けるか...殺戮だ。残らずな。