女の子だらけの職場で俺がヒロインなのは間違っている   作:通りすがりの魔術師

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友達が紫式部当てていいなぁって思ったけど、キャスター充分居るし何よりモニュメントとピースを回収するのがだるかったから見送りました通りすがりの魔術師です。


紅葉編お待たせ!中途半端なところで終わってたから書いたよ!


─────けれども、望月紅葉は。

 

 

「終わった…」

 

 

八神さんから出されていた鬼畜のような量の修正や追加差分を描き終えて大きく息をついて椅子のもたれに全体重を預けて天井を仰ぐ。時計を見れば9時半と想定していたよりも早く終わった。その理由は俺が本気を出したから、という訳ではなく無表情で俺が帰り支度をするのを待っている望月のおかげだろう。

 

 

 

今日の私なら出来るという言葉通り、早く丁寧に仕事を片付けた望月は俺よりも先に片付けを終えて俺の横に立っている。

 

 

 

「お疲れ様です」

 

 

 

「おう。そっちもあんがとな」

 

 

 

 

こちらから声をかけようと思っていたが、先に口を開いたのは望月で、そっちの方が量多かったのにすげえなと穏やかな笑みが零れる。それを聞いた望月は首を振った。

 

 

 

 

「それは比企谷さんが私に軽い仕事ばかりくれたからですよね」

 

 

 

「いや、まぁ…」

 

 

 

確かに恣意的に望月に比較的作業量が少ないのを渡したが、それは手伝ってもらう身が楽をするのは気が引けたからなのだ。ほらやっぱり俺も楽したいけど後輩に手伝って貰ってる上に作業量が多いのを渡すのもね?

望月の純粋な瞳に言葉が詰まった俺は手早く帰り支度を済ませて椅子から立ち上がる。パソコンの電源が消えてるか確認、さらに消灯してフロアから出る。

 

 

 

「晩御飯、何にしましょうか」

 

 

 

エレベーターを待っていると望月が首を傾げて聞いてくる。

 

 

 

「待って貰ったの俺だし、望月が食べたいのでいいぞ」

 

 

 

正直言って今食べたいものもない。さっさと風呂入って寝たいのが本音だが、手伝って貰ったのだしこれくらい付き合うのは当然だろう。エレベーターに入って「うーん」と唸って考えている間に1階につき、会社のビルから少し離れて望月に「決まったか?」と尋ねてみる。

 

 

 

「………お肉……ですかね」

 

 

 

 

望月の返事よりも先にお腹の音が聞こえて、恥ずかしそうに指を突き合わせながら呟くように言う。その姿が少し可愛らしく見えて目をそらす。そんなにお腹すいたなら食ってから来たらよかったのにと思いながらスマホを操作してこの辺りで美味い店はないかと検索をかけてみる。

しかし時間帯的に閉まってたり、ラストオーダーに入ったりしてるところがほとんどであり、他にあるのは家族向けのファミリーレストランとかくらいである。

どうしたものかと思考すると、1つだけ思いついたのがあった。

 

 

 

「肉メインじゃなくてもいいか?」

 

 

 

「えっ?」

 

 

 

そうこの世の中には肉メインじゃなくても肉が食べれる美味い料理があるのだ。

みんな大好きの焼肉か。野菜も魚も食べれる鍋か。あるいは豪快に食べれるステーキか。違うね。あれは食べ方であって料理ではない。

 

 

 

 

「これは……」

 

 

 

俺に案内されてやって来た場所に驚いたように口を開いた望月は、俺を見ると「好きなんですか?」とドアの前に設置されている券売機を操作する俺に問いかけてくる。

俺はそれに答えず無言で引き換え券を購入すると、望月に場所を譲る。

 

 

 

「あの、これは」

 

 

 

「ん? ラーメン屋に来るの初めてか?」

 

 

 

 

肉が食べたいと言った望月に俺がチョイスしたのはラーメンである。そうラーメン。

日本人のソウルフードといっても過言ではない。人々はラーメンを中国からやってきたものだと勘違いしているが、実はラーメンというのは「小麦粉にかん水を加えてこねた後に製麺したもの」で麺にかん水を加えて食べ始めたのは日本だと言われている。

これ以上ラーメンの話をすると「またラーメンの話してる…」とジト目で睨まれてしまうので、今回はあまり語らないが動物の骨や調味料で作った熱々の出汁に絡んだ麺と、それを彩る肉や野菜などのトッピングが特徴のラーメンはまさに誰にでも国民的スーパースターのような存在なのだ。

そんなのが解散するとか活動休止とかってなったらショッキングだよね。

 

 

 

「えっと…どれが美味しんですか?」

 

 

 

 

「全部」

 

 

 

 

「え」

 

 

まぁこの店のラーメンを全て食べた訳では無いが、ラーメンは総じて全て美味いのだから全部美味いだろう。ただし人によって好き嫌いというのはあるだろう。例えばトマトラーメンとか、ラーメンが好きな俺でもアレには未だに手をつけられていない。

 

 

 

「肉が食べたいならチャーシュー麺にしたらいいんじゃないのか」

 

 

 

ラーメンには基本的にチャーシュー、メンマ、ネギ、海苔、煮卵がトッピングされているがその中でも人気なのがチャーシューである。

これは麺や出汁と同じく作り手によって味や食感が異なる。だが、これも総じて美味い。

そして、この美味いチャーシューを麺や他のトッピングが見えなくなるくらいに盛り付けたのがチャーシュー麺である。並ラーメンなどに比べると値段は高まるが、それでも食う価値は十分あるラーメンと言える。

 

 

 

「じゃ…」

 

 

 

ピッとボタンを押して券が出てきてそれを手に持ち2人で店の中へと入る。店主らしき男に券を渡してカウンター席へと座る。

出された水をクイッと一口で飲み干すとふぅと息を吐き、望月の方を見た。着ていた上着をハンガーにかけて椅子に座った望月は物珍しそうに店内を見ている。

 

 

 

「……やっぱり初めてだったのか?」

 

 

 

 

「あ、いえ、地元ではよく食べてたんですけど、こっち来てからは初めてです」

 

 

 

「北海道には券売機なかったのか」

 

 

 

「私のところではなかったですね」

 

 

 

それに外で食べることより父親に作ってもらうことの方が多かったらしい。しかも、インスタントではなく自前のものらしい。家でラーメンを作ってもらえるのにも驚きだが、父親が出来るってのもすげえな。

田舎には普通にでかい鍋もあるらしいが、望月の父親のように出汁から仕込む人は珍しいようだ。

 

 

 

「なんだラーメン屋でもやってたのか」

 

 

 

「やろうとしたみたいですけど田舎だと人が集まらないからってやめたらしいです」

 

 

 

それに近くには鳴海の旅館がある。確かにあそこの飯は美味いから客の取り合いになりそうだしな。

 

 

 

「へいおまちどー」

 

 

 

そこからしばらくたわいのない会話を続けていたが、前から出てきた熱々のラーメンに視線を奪われ、さらに夕飯時からかなり時間が経っていたため空腹の限界値に達していた腹がラーメンを視認した瞬間、満たせ満たせと本能を刺激する。

箸を手に取り、食事の挨拶をした後、俺達は無言で飯を貪った。

 

 

 

 

###

 

 

 

 

 

「美味しかったです…」

 

 

 

「そりゃよかった」

 

 

 

満足そうな笑みを浮かべて店から出た望月は俺にお辞儀してくる。そんな畏まらんでも、礼を言うならラーメンを作ってくれた店主だろう。

 

 

 

「それに奢ってもらって…」

 

 

 

「先輩風吹かせたかったからだから気にしなくていいぞ」

 

 

 

会計の時に「私が払います」と譲ろうとしなかった望月だが、どうにか説得することで俺が払うことに成功した。だが今になってまたお礼がしたいからとどこに連れていかれるのではないかと懸念しているが、さすがにそろそろいいだろう。それを伝えるべく俺は望月の顔を捉えた。

 

 

 

「もういいからな」

 

 

 

「え…?」

 

 

 

何がという顔をする望月を見下ろすように俺は言葉を繋ぐ。

 

 

 

「お礼はもういい。もう十分だ。ありがとな」

 

 

 

そもそも俺に望月を助けた自覚はないし、お礼がして欲しくて家に泊めたわけでもない。会社の後輩だから、知っている人間だから、そうするのが当たり前だと俺は思っていたからそうしただけなのだ。

 

 

 

「だから、もう気にしなくていいぞ」

 

 

 

それに、こいつは俺を憧れの存在と同一視しているようにも思う。八神さんに向ける憧憬とは違う目線を俺は薄々ではあるが感じていた。そして、望月と話していてその視線が俺とそっくりなレラジェに向ける愛好だと知った。俺ではなく俺の作ったキャラに向けられた感情は決して画面の向こうにいる存在に届かない。だが、そのキャラにそっくりな俺になら向けられる。届けられる。

しかし、それは本物ではない。妥協して目を背けて得ようとしてる虚構だ。

 

 

 

 

「……違います」

 

 

 

下を向いて震えた声で望月は否定した。

俺の言葉を否定したのか、それとも言葉の中に含まれた俺の思考に留めたことを否定したのか。

 

 

 

「何が違うんだ」

 

 

 

「…全部です」

 

 

 

「全部?」

 

 

 

「比企谷先輩が言ってることも、考えてることも全部違います!!」

 

 

 

まさか全て否定されると思ってなかった。え、もしかして望月って超能力者か何かなの。いや、そんなはずはない。この世には奇跡も魔法もないのだ。けど、超能力はあるのかもしれないが、あったとしてもトリックだとかインチキに決まってる。あの天才物理学者が科学的に論証できないことはないと言ったのだ。つまり望月の発言も科学的な論証は可能なはず。

 

 

 

「たとえば?」

 

 

 

 

「…比企谷先輩が優しくないとか助けてくれないだとか、自分をぼっちだと思ってることとか、私と先輩が同い歳のこととか……そういうとこです」

 

 

 

まぁ最初の2つは勘違いとして処理しよう。だが最後は、知らなかった。強く信念のような、真っ直ぐに俺を見つめる望月から目を逸らして俺は尋ねた。

 

 

 

「いつ、気付いたんだ?」

 

 

 

 

「青葉さんに聞きました」

 

 

 

 

またアイツか。脳裏に浮かぶ青紫髪のツインテールを揺らす同期が手を合わせて「ごめんね」と謝る姿が出る。頭の中で謝っても許さねぇからな?

 

 

 

「確かに俺とお前は同い歳だ。でも、それ以外は違う」

 

 

 

俺は永遠にぼっちだし、人助けをした覚えもない。昔にそういう部活に入っていたから人を助けたという感覚は薄れてたのかもしれないが。優しいというのもたまたまそう映っただけだ。俺が優しいのは俺と小町に対してだけだ。どうして赤の他人に情けをかけなきゃいけないんだ。

 

 

 

「でも、比企谷先輩はなるも私も助けてくれました」

 

 

 

それはお前らの勘違いだ。何度も言わせるなと突き放すように言う前に、望月の手が俺の下ろされている右手を握った。

 

 

 

「それに比企谷先輩は1人じゃないです」

 

 

 

 

掴まれて仄かな温もりに震えがある。それに気付いて俺は望月の顔を再度見た。

 

 

 

「八幡さんにはイーグルジャンプのみんながいます」

 

 

あぁ、そうだ。俺は1人じゃない。

会社に行けば隣の席には涼風がいた。仕事をもらいに奥に行けば八神さんがいて、遠山さんがお茶を出してくれた。戻ってきたら、はじめさんが昨日のアニメを見たかと会話を振ってきて、ゆんさんがそれを「仕事中やで」と窘めながら笑って聞いていた。昼飯時には望月と無言ではあったが時間を共にしたり、奥からひふみ先輩がペットの写真を見せに来た。

帰り際にプログラマーブースを通ればうみこさんが「お疲れ様です」と言ってくれて、桜が元気に手を振って、鳴海も小ぶりながらもこちらに手を振っていた。

たまに給湯室で葉月さんと飼い猫と共に戯れることもあった。

 

 

 

そうだ。もし本当に1人だったら誰も俺には声をかけないし、喋りもしない。必要最低限の会話で終わって、挨拶も交わすか怪しい。

期待して裏切られるからと、他人に期待することを諦めて、この会社でも俺は1人になるのだろうとそう思っていた。

 

 

 

高校の時のように周りが温かく気を遣わなくていいというのは、きっと稀だからと諦めていた。でも、また新しく始まったそこはとても温かくて居心地が良くて、仕事が嫌でも少しくらいなら行ってもいい、それくらいには思えていた。

 

 

 

「…そんなの一過性のものだろ」

 

 

 

俺以外みんな女性なのだから、恐らくはいつの日か家庭をもってイーグルジャンプから去っていく者はいるだろう。八神さんやうみこさんのように優秀な人間ならヘッドハンティングだってありうる。そうだ、きっといつかは消えてしまう場所なのだ。

こみ上げてくるナニカに、我を失って人前で羞恥を晒すまいと俺は自分にたらればの話を言い聞かせて必死に堪えた。

 

 

 

「…そうですか」

 

 

 

ようやく俺の説得を諦めたのか、あるいは俺に失望したのか、望月は手を離した。温もりの無くなったことを感じて俺は最後の言葉を告げて立ち去ろうとした。過去の経験から何を言えば嫌われるのかを分かっている俺は、躊躇いながらもその言葉を口にしようとした。

 

 

 

 

 

 

「口、閉じてください」

 

 

 

 

「は?」

 

 

 

 

 

あまりに唐突に言われたことに言葉と反して口を開けてしまった俺の服の襟を望月は思いっきり掴んだ。急な上に強く込められた力のせいで抵抗できなかった俺は望月に無理矢理引き寄せられる。

その刹那、そういえばこいつ腕立て伏せしてるから筋力があることを思い出して抵抗しても勝てない気がした。

 

 

 

 

 

どうせ、殴られて「あなたは最低です!」とか言われてこの場に置き去りにされるのだろう。…それでいい。俺が口に出さなくても望月は俺を嫌いになった。これが1番ベストなはずなのだ。

 

 

 

襟元を掴んだまま望月の眼前まで引き寄せられた俺は無抵抗に、望月から下される裁定を待った。ギラギラと光る瞳に、怒りで上気した赤い頬が恐ろしく見えるが少しの我慢だ。今、目を逸らしたら確実に裁定パンチの威力が上がる。

 

 

 

「…よし」

 

 

 

 

意を決した望月の襟元を掴む力が強くなる。ついに来るのかと瞳を閉じようとした時、俺の元へと訪れたのは痛みではなかった。

 

 

 

来るはずだと思った痛みとは違って優しく包み込んでくれるような温かみが俺の唇と重なった。

それは紛れもなく、望月の唇であり、慌てて引き離そうにも望月がさらにパワフルに力を込めてその接吻は深くなる。そこでまた俺の力は抜けてギューっと力がまた強くなる。このままでは快楽と息苦しさに包まれて逝ってしまいそうだと思っていると、襟元から手が離れた。そして重なり合っていた唇も離れて、お互いの息遣いが真正面からかかり合う。

 

 

 

「1人が怖いなら、私がずっと一緒にいます」

 

 

 

 

離れた手は下ろされるどころか俺の頬に添えられると、今度は優しく引き寄せられて2度目のキスを奪われる。

突拍子もなく、言い返す間も与えられなかった俺は、今はその優しさに触れていたいような気がした。

 

 

 





やっぱりキスの描写苦手。てか、無理矢理引き寄せてキスするとか紅葉ちゃん肉食系っすね…一体誰がさせたんだか。
次回でエピローグかもう1話挟むか…。やはり書き出すとプロット通り行きませんなぁ。
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