門の向こうに蠢く怪物   作:ゲゲゲ大好きマン

11 / 20
八話 急変

 某オペレータールーム

 

「最悪だ。ちくしょう」

 

 海外の圧力に負けて、防衛チームが外れてしまった。

 おもわず、机に八つ当たりする。

 

「大臣、お電話が」

 

 部下が電話をもってくる。

 

「誰からだ」

「時計塔・法政科の化野菱理からです」

「……変われ」

 

 以前はあった時は、海外組織に日本人がいたことに驚いた。友禅の振袖を着た黒髪の絶世の美人が現れたときは部下たちが騒いでいた。

 九鬼が言うには、法政科は自身の組織の運営に関わる部署らしい。

 ハニートラップも視野に入れた外交か。油断ならないと思った。だが、予想していたより簡単に終わって拍子抜けしたが。

 

「もしもし、嘉納です」

「化野です。夜遅く申し訳ありません」

「どのようなご用件で」

「いえ、ずいぶん大変なことになってますわね」

 

 それをお前が言うか。協定では海外の圧力を妨害するはずだろ。

 

「化野さん、協定では」

「あら、私どもと結んだ協定は国連での妨害ですわ。個々の国に対する妨害は範囲外です」

 

 詐欺師みたいな手を使いやがって、頭に血が昇り電話を叩き付けたい衝動に駆られる。

 

「しかし、このような事態になったのは私としても不本意です。なので、一つ情報をお渡しします」

「……何です」

「今、襲撃しているお客様以外に厄介なのが来ます」

「厄介?」

「小さな魔術組織ですが、そちらに向かっています」

 

 受話器をおもわず握りしめる。

 ふざけるな。裏で糸引いているのはお前らだろう。

 

「そこで提案です。我々の武力を買いませんか。

 日本では対応する部署が無いと思われます。私どもなら簡単に撃退できます。

 これからも日本政府とは仲良くしたいですし、お安くしますよ」

「……少しお時間いただけますか」

「大丈夫です。ただし、事態は刻々と悪くなっていきますので、お早めの英断を期待してます」

 

 電話を切る。

 ここまで、コケにされたのは久しぶりだ。はらわたが煮えくり返る。

 深呼吸して、心を落ち着かせる。

 最初のコンタクトが拍子抜けで油断した。反省はあとだ。

 ある男に電話する。

 

「九鬼か。実はな」

 

 外交では一敗した。

 けどよ時計塔さんよ、日本をなめんなよ。

 全力を尽くす。俺の部下は絶対に見殺しにはさせない。

 

 

 

 

 

 

 唖然とする。

 連絡で敵がやってくるのは分かり、撃退準備をした。

 でも、まさかロゥリィ一人で全滅させるとは思わなかった。

 彼女の戦闘を思い出すと、寒気で体が震える。

 嵐だ。黒い大きな斧が暴風域のように振るわれて、人間が簡単にちぎれていった。 

 皆固まっていたが、声をかけて心を切り替えさせる。

 血塗れで恍惚としているロゥリィを掴み、シャワーを浴びさせる。

 

「急いで、移動するぞ」

「なんだか、こんなばっかりですね」

「逃げてばっか」

 

 部下二人がげんなりした顔で言う。気持ちは分かる。

 

「いいから、増援が来るかもしれないから。早く逃げんぞ」

 

 言いながら、別の事を考える。

 報告にあった魔術師集団について言うべきか。今、言うと部下二人が混乱するかもしれない。

 

「ねぇ、さっきから同じとこ回ってない?」

 

 元嫁の葵が気づく。

 

「そんな、すぐに道に出るはずなのに」

「……イタミ」

 

 レレイが俺の服の裾を引っ張る。

 

「どうした」

「イタミ、結界みたいなのが張られている感じがする」

「それ、私も感じるわ。決していい物でわないわ」

「私も」

 

 ロィリィとテュカも言う。

 魔術師の仕業か。

 

「全員、警戒」

 

 なんとなく、敵意で囲まれているのは分かる。

 こんな、インチキができるのか奴らは。

 一瞬、目の前が光り、稲妻がこちらに向かって走る。

 

「させないわよ!」

 

 ロゥリィが亜神のパワーで稲妻を払う。

 

「この世界でも魔法使いはいたのね。でもこんな力じゃ私は倒せないわよ」

 

 笑みを濃くするロゥリィ。

 突然、発砲音が響く。

 

「なんで」

 

 ロゥリィが膝をつく。

 撃ったのは栗林だった。

 

「あ、あ、あ、体が。みんな、はやくニゲて」

 

 栗林は全身を痙攣しながら、拳銃をロゥリィに向けて発砲していた。

 突然のことで、皆が硬直する。

 

「栗林!」

 

 明らかに魔術で操られている。

 レレイがやった眠らせる魔術で栗林を気絶させるか。

 考えたところで、銃口がレレイに向く。

 

「いや、いや、やめて。そんなのいや」

「伏せろ。レレイ!」

 

 栗林とレレイともに距離がある。間に合わない。

 銃口を栗林に向ける。一か八か持っている銃を撃つしかない。

 

「いやーー!」

 

 女性の悲鳴が上がった時、それは起こる。

 柏手が一つ。パンと周囲に響き、静める。

 

「掛けまくも畏き、八百萬の神たち聞食せ、禊ぎ祓へ給ひし時に、諸々の罪・穢、有らむをば、清め給え祓い給え、恐み恐み申し奉る」

 

 気持ち悪い敵意が消えていく。

 辺りが清らかになっていくのを感じる。

 

「もう大丈夫ですよ」

 

 気絶した栗林を支える壮漢な男。飴色の革でできた眼帯で覆い、上品なスーツの胸ポケットには椿の花が生えている。

 

「九鬼さん。助かりました」

「いえ、遅くなり申し訳ありません」

 

 ぐったりした栗林を見る。

 

「栗林は?」

「大丈夫ですよ。今は眠っているだけです」

 

 富田に栗林を預ける。

 九鬼さんは前に一歩出る。

 

「下に車があるので、それで最寄の駅に行ってください。すぐに合流します。あと、これを」

 

 青いガラパゴス携帯を渡される。

 

「イタミ、駄目。敵二十人くらいいる。この人だけじゃ」

「ご安心を御嬢さん。古い知り合いを呼びましたので」

 

 男の叫び声が聞こえる。声の発生源を見る。

 赤い炎が不気味に鬼火のように燃えている。

 

「行ってください。それと必ず携帯に出れるようにしてください」

 

 九鬼さんは火の方向に向かって走って行った。

 

「隊長」

「話はあとだ。すぐに移動するぞ」

 

 皆、走って山を下る。

 瞼の裏にはまだあの赤い炎がこびりついて、忘られなかった。 

 

 

 

 

 

 

 楽な仕事だった。

 特地の女三人をさらうだけの。

 俺達のチーム連携による魔術は時計塔でも色位並みだと自負している。

 そう時計塔だ。あの傲慢で卑しい奴らを出し抜く。

 そして、俺たちの組織はのし上がる。

 はずだった。

 

 雷撃の魔術を自衛隊の男に放つ。

 ゴスロリ少女にはじき返されたのは、驚いた。

 が、それはダミー。本命は後ろに女を操って混乱を起こし、そこを攻撃するはずだった。

 パンと音がして、意識がそちらに向かってしまう。

 すると、極東の魔術か妨害されてしまう。

 日本政府には魔術師はいないはずではないのか。少し戸惑ったが、問題ない。こちらは二十人。負けるはずがない。

 

 仲間の叫び声が聞こえる。

 赤い炎が上がり、仲間が燃えていく。それはあまりにも不気味で。

 炎の中から、男が出てくる。

 全身の筋肉が盛り上がり、人間離れしている。

 辺りを一瞥すると。

 

「つまらん。どんなものかと来てみれば」

 

 手から赤い炎を燃え上がらせながら、近づいてくる。

 こんな状況なのに、ある極東の昔話を思い出す。

 大昔、日本には人を喰らう化け物がいたそうだ。

 人の形をしているが、それは人間ではない化け物。

 見たら、逃げろ。

 あぁ、なんで今頃思い出したんだろう。

 

「――鬼が来る」

 

 鬼火が体を包む。

 男は後悔しながら、焼け死んでいった。

 

 

 

 

 

 

「んっここは?」

「起きたか。駅のホームだ」

 

 栗林が目が覚める。

 ベンチから体を起こす。

 

「私…そうだ。ロゥリィとレレイは!」

「無事だよ」

 

 安心して息を吐くと、罪悪感に押しつぶされそうな顔して、

 

「ごめんなさい。護衛対象なのに。傷つけてしまって」

「大丈夫よ」

「そう。あなたは明らかに誰かに操られていた」

 

 レレイが励ます。

 

「隊長、先の奴らは」

「それは」

「それは私がご説明します」

 

 突然、九鬼さんが現れる。

 

「おわっ。びっくりした」

「すみません」

「大丈夫だったですか」

「ええ。もう追手はいないですよ」

 

 ひとまず安全が確保された。

 九鬼さんが今回起きた事件について説明する。

 

「驚いた。私達の世界にも」

「このことは内密にお願いします」

「言っても、誰も信じませんよ」

 

 皆、納得した顔している。あれだけのことが起きたんだ。無理もないか。

 

「これから、どうします隊長」

「銀座は敵が待ち受けていそうだしな」

 

 悩んでいると、九鬼さんが。

 

「携帯は持っていますか?」

「え、あっはい」

 

 携帯を取り出す。普通の携帯だ。

 

「いまから皆さんは特地に行ってもらいます」

「どうやって」

 

 質問をしようと、声を上げる前に携帯が鳴りだす。

 

「良かった。間に合いましたね」

 

 ホームにゆるゆると白い霧がたちこめて、目の前の視界が急激に悪くなる。

 

「イタミ。また変な結界が」

 

 レレイに言われて、気づく。俺達以外誰もいない。

 

「電話に出てください」

 

 言われたまま電話に出ると、

 

「次はきさらぎ駅。きさらぎ駅」

 

 電話口から一時期怪談で有名になった駅の名前が出る。

 霧を揺り動かすような音が響く。

 

「汽笛……?」

 

 光が白い霧を切り裂く。

 現れたのは、大昔に世界中を翔け走っていた蒸気機関車。

 暗緑色をした機関はどこか誇らしい。

 時代錯誤。荒唐無稽。

 まるで、俺達はネットのきさらぎ駅に迷い込んでしまったかのようだ。

 

「なんですか。これ。ハリー・〇ッターでしか見たことありませんよ」

「いまから、ホ〇ワーツにでも行くんですか」

 

 目を点にして、現実離れしていく世界に笑うしかない同僚。

 

「これに乗れば、特地に行けます」

「そうなんですか」

「ええ。任務の無事を祈りします」

 

 九鬼さんと握手を交わす。

 

「あの、葵は」

「私が責任をもって、お送りします」

「そうゆうことだから、巻き込んで悪かったな」

「……生きて帰ってきてね」

 

 不安そうな顔でこちらを見る。

 俺は笑みを浮かべながら、頭をなでる。

 

「来年のコミケまでは帰るさ」

 

 汽車に乗り込み、出発する。

 葵が見えなくなるまで手を振っていた。

 こんな俺でも待っている人がいる。

 それだけで、どんな困難にも立ち向かえそうな気がした。

 

 蒸気機関車は霧に消えていく。

 乗客を乗せて。

 

 

 

 

 

 

 伊丹を乗せた汽車が見えなくなる。

 霧はどんどん晴れていく。

 

「ええ。予定通りに。翁のおかげです。でなければ、法政科の策に負けてました」

 

 九鬼さんと呼ばれていた男性が誰かと電話をしていた。

 

「今後ともよろしくお願いします。はい。では」

 

 電話を切る。こちらに向かい、

 

「おまたせしました。車で家までお送りします」

「あっ、すみません。よろしくお願いします」

 

 次、伊丹会ったら伝えないと。

 今の気持ちを。

 今日の出来事が私をそうさせる。

 ホームの出口に向かって歩き出す。

 




鬼火の男は堤・厭・浄です。時系列とかいろいろ無視してます。
なぜなら、どうしても出したかった。筋肉ムキムキで渋い声・面白いキャラ、最高じゃないですか。

ご感想お待ちしてます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。