レールの立てる単調な音に耳を傾ける。
蒸気機関車の車内はまるで高級ホテルと見間違える程。腰掛けは上質な革で覆われて、周りの装飾も歴史を感じさせる立派の物だ。
「なんだか、テレビで見た金持ちが乗る列車みたいですね」
富田の感想に共感する。シベリア鉄道のランクが高い席がこんな感じだったはずだ。
「それにしても、本当に特地に向かってるの。これ?」
「窓から何も見えないし」
部下二名が不安に駆られる。無理もない。
窓から見える景色は、どこまでも暗くて濃い深海のような暗闇だけだ。
「大丈夫だと思うよ」
「隊長はいつも能天気なんだから」
栗林が愚痴る。
「イタミ殿。すまないが、もう一度彼らについて説明してくれないか」
落ち着いた皇女様が質問をしてくる。
九鬼さんがかいつまんんで説明しただけでは、足りないよな。
「分かった。みんな聞いてくれ」
できるだけ丁寧に説明する。
うまく伝えられたかは分からないが、みんな納得してくれたみたいだ。
「このことは内緒でお願いな」
「イタミ、イタミ。彼らとは会えないのか」
レレイはらんらんと輝く目を向ける。
彼女は魔法使いだ。アルヌスの丘で地球の技術に興味を持っていたが、魔術のほうが学者として惹かれるものがあるのだろう。
「難しいかな」
きらきらとした目がものすごい勢いで濁るレレイ。
「私も会いたかったわ」
「ロゥリィも九鬼さんに興味あったのか」
「うん?私が興味あるのは、炎を使った奴よ」
今も瞼の裏に焼きついた現実離れした炎。あれは本当に人間が扱える物なのか。
「隊長。どれくらいで着くんですかね」
列車に乗って、かれこれ一時間が経つ。
「私達以外に他に誰も見えないし」
「隣の車両に行こうにも、扉は開かない」
みんなだんだんと不安が増しているのが分かる。
それもしかたない。怪談通りなら、数年間は乗り続けることになってしまう。
もし、あと一時間して変化がなければ強引に扉を開けようと、提案しようとしたとき。
「間もなく、アルヌス。アルヌス」
どこからともなく、アナウンスが聞こえる。
列車が止まり、出口の扉が開く。
「ここから、出ろってことですかね」
「分からないけど、全員降りるぞ」
皆が出て、最後の自分が地面に降りる。
つんざくような汽笛が響く。
蒸気機関車は煙突から煙を吹き出し、霧の中に消えていった。
「ここ本当にアルヌスなのかな」
「霧が濃くて、何も見えない」
しばらくすると、だんだん霧が晴れていく。
「ここって」
驚く。
門を守護する自衛隊の駐屯地の前に、我々は立っている。
「さっきまで蒸気機関車が通っていたんだよね」
「レール無いよな」
「魔法の汽車だから大丈夫なんじゃない」
先程まで乗った蒸気機関車は夢だったのではないかと思ってしまう。
「とにかく、中に入ろう」
駐屯地に入ると、隊員が突然の帰還に驚いた顔をしていた。
狭間指揮官に報告に行くと、事情を知っているのか。何も聞かずに。
「報告は明日でいい。今日はゆっくり休め」
ありがたい。今日はいろいろな出来事がありすぎて、ゆっくり休みたかった。
ベットに入り、目をつぶる。
これから特地は海外だけでなく魔術の組織も絡んで、より複雑になっていくだろう。隊長の俺にも面倒な仕事がまわってくるだろう。
考えるだけでも憂鬱になるので、思考放棄して微睡みに身を任せた。
◇
数日後 特地方面派遣宿舎
「もうこんな時間か」
朝日も昇り、眠たい目をこすりながら食堂に向かう。
「隊長。おはようッス」
倉田が無駄に元気な挨拶をしてくる。その若さがうらやましい。
「元気だな。羨ましいよ」
「書類仕事お疲れ様です」
あの事件の報告書に加えて、いない間溜まっていた書類が山ほど積まれていたのを思い出すだけで、ため息が出る。
「なぁ、頼むから変わってくれ」
「無理ですよ」
優しくない部下と向かい合って、食事をとる。
事件から数日がたって、ピニャ殿下は帝国に帰った。テュカ達も最近会ってないが、難民キャンプで平和に暮らしているはずだ。
「あれ、こんなとこまで取材にくるんだ」
見知らない人物が食堂をうろついていた。
「あれ誰だ?」
「そうか。隊長聞いてないですよね。今回、初めて自衛隊以外の民間人の訪問が許可されたんですよ」
「へぇ。だとすると、あれはジャーナリストみたいなもん?」
「そうです。あと、地質とか調べる調査員も来てるみたいですよ」
ある程度は情報をを開示しないと、前の国会みたいになると上が判断したのかもしれない。
「そうだ。なんか第三偵察隊は狭間指揮官のとこに集合するように言われたんですが、隊長なにか知りません?」
「……そうだな」
おそらく、九鬼さんに聞いた極秘任務についてだろう。今は、言わなくてもいいか。
「分からん」
「なんか、やばいことしちゃいましたかね。イタリカの戦闘行為とか心当たりがあり過ぎて不安なんですけど」
「大丈夫だろ」
青い顔した倉田を落ち着かせる。
食事が終わると、第三偵察隊を集めて狭間指揮官のもとを訪れる。
「失礼します。第三偵察隊ただいま到着しました」
「入れ」
部屋に入ると、狭間指揮官以外に見知らぬ男女二人組がいた。
「先の護衛任務ご苦労だった」
「ありがとうございます」
「さて、単刀直入に言おう。極秘任務を与える」
ついに来たか。となると後ろにいる二人がそうなるのか。
「前回の任務では、植生や動物調査・現地の人々との交流が目的だった。今回から調査項目もう一つ加えてもらう」
「地質ですか?」
おやっさんが訪ねる。普通に考えれば、地質くらいが妥当だろうが。
「いや、違う。君たちにやってもらいたいのは魔術的観点での調査だ」
富田や栗林以外は混乱している。
「冗談ですか」
「普通ならそう反応するだろうな。伊丹たちに聞いてみろ」
「隊長?」
信じられない目で、倉田や黒川・おやっさんがこちらを見る。
「信じられないだろうけど、本当だ」
「私たち、魔術使うやつに襲われたりしたの」
俺と栗林の話を聞いて半信半疑だが信じてくれたようだ。
「後ろにいる彼らが、魔術の専門家だ」
二人が前に出る。
「どうも、私は遠坂凛。隣が」
「衛宮士郎です。よろしく」
誠実そうな青年と気の強そうな黒髪美人だ。二人とも若い。
「第三偵察隊は彼らを加えて行動するように。ちなみに、分かっているとは思うが極秘任務だ。他の隊員には内密に頼む」
「あの、すみません。質問いいですか」
倉田が遠慮ぎみに質問する。
「魔術ってどんな感じなんですか?」
正直、俺たちも魔術がどんな感じか分からない。
「すみませんが、もしよろしければ見せてもらってもよろしいですか」
狭間指揮官が訪ねる。
遠坂と名乗る女性は悩む素振りをして、
「本来、魔術は秘匿するものなんですけど。今回は特別に」
彼女は手を一つ叩き、手のひらで器を作る。そこに息を吹きかける。
手で作った器から、何かが広がっていく。
部屋の空気が清められていくのが分かる。
「どうです。簡単なものですけどね」
「あ、ありがとうございます」
おもわず、見惚れてしまうような笑顔に倉田が赤くなる。
「他になにかあるか」
「狭間指揮官、一つ問題が」
「何だ、伊丹」
昨晩の出来事を話す。レレイ達は魔術の感覚に気付いていた。
「彼女たちは交渉人として我々と行動をします。なので、任務内容を伝えたほうがいいかと」
「そうか。遠坂さんはどうです?」
「後でばれるなら、伝えたほうがいいでしょう」
「なるほど。伊丹、説明お願いできるか」
「了解しました」
再度、任務の確認をして部屋を出る。魔術師二人組はまだ狭間指揮官と話があるらしく残った。
「遠坂さん美人でしたね」
倉田が鼻を伸ばしている。女性陣は冷たい目線が貫いている。
「彼らは信頼できるのですか」
黒川が怪しむ。無理もないか。
「そうだな、正直分からないけど。たぶん監視の役割のつもりで俺たちの隊に入れたじゃないかな」
「……」
「それに、まだ彼らのことは分からない。
魔術師と言っても人間なんだ。これから中身を知っていけばいいんじゃないか」
まだ悪い人間だとは決まったわけじゃないしな。
「……そうですね。すみません、わがまま言って」
「いや、当然の反応だよ」
未知の世界でただでさえみんな気がたっている。不安になるのも無理はない。隊長として安心させないとな。キャラじゃないけど。
とりあえず、目の前の仕事を片づけますか。
明日には、テュカたちに説明しないといけないし。
だけど、まさかテュカがあんなことになっていたなんて知る由もなかった。
新章やっていて遅くなりました。
書いていて、いかに自分の文はお粗末なものかよく分かってしまいますね。
ご感想お待ちしています。