宿舎前で待つ。
ここに立ってから、はや十分以上経過した。
巡回している自衛隊の人に「いつもご苦労様です」と、挨拶を交わす。
宿舎から眠たい目を擦りながら、遠坂が歩いてくる。
「…おはよう」
「おはよう。遠坂」
相変わらず、遠坂は朝に弱い。
二人で食堂に向かう。
「遠坂は今日はどうする?」
現在、俺たちは第三偵察隊から外れて特地方面派遣宿舎で待機している。
伊丹さんたちは、帝都で任務中だ。連れてもらえると嬉しかったが、外交任務という理由で外された。本当の理由としては、信頼できないから。重要な任務には着いてきて欲しくないのだろう。
当たり前か。気長に頑張るしかない。
「レレイと過ごす予定よ」
「好かれたな」
我々の存在を彼女たちに知らせると、青髪の小さな女の子が興奮ぎみに怒涛の質問されて遠坂が戸惑ったのが、記憶に新しい。
「士郎だってロゥリィだっけ。随分気に入られたみたいじゃない」
遠坂が不機嫌そうに聞いてくる。
正直、なぜ興味を持たれたかは謎だ。
「士郎はどうするの」
「テュカのとこに行くよ」
「セイバーみたいに金髪だから?」
「違うわ!」
「冗談よ。やっぱり気になる?」
説明のとき、憔悴しきって心あらずだったテュカ。
あとで伊丹さんに聞くと、炎龍に焼かれた村の生き残りだそうだ。だが、テュカ以外は死亡した。そのなかには、彼女の父親も含まれている。
ある時間になると、父親を探しているのか基地をさまようらしい。
「気にならないと言ったら嘘になるけどな」
「あまり深く関わり過ぎないようにね。私たちの力じゃどうしようもないからね」
心因性のものは俺達では力ではどうしようもない。一時的に魔術で精神を操作するものはあるが、根本的な解決にはならない。
「分かってるさ。でも、一人にしてしまったら帰ってこれなくなりそうで」
「そうね。私も士郎はほっとけないし、人のこと言えないか」
「俺は別に大丈夫だろ」
遠坂はやれやれとした顔で席に着き、食事をとる。
学生時代に比べて、無鉄砲さは無くなったと思うだがな。師匠としては安心できないのだろう。
「しばらくは暇だし、ゆっくりやりましょう」
「そうだな。伊丹さんが帰ってくるまで、親交でも深めるか」
食事が終わり、遠坂と別れて難民キャンプに向かった。
◇
難民キャンプから少し離れた森を歩く。
樹齢百年以上の木々がそびえ立ち、人の手が全く入ってない自然があった。
豊かな木々が風に揺られて、葉が音を立てる。
腐葉土の道を踏みしめ、樹皮の香りが濃い方向に歩く。
「ここらへんのはずなんだけど」
キャンプの話だとテュカはここで弓矢の練習をしていると聞いたのだが。
すると、矢が走る音が聞こえた。
音の方向に近づくと、テュカが矢を射ていた。
「すごいな。全部、的に当ててるのか」
声をかけられ、彼女はびっくりして振り返る。
「ごめん。驚かせてしまったかな」
「……いえ。どうしたですか」
「俺も弓を使うだけど、ほぼ我流でね。もし、よろしければ教えて欲しいだ」
「エミヤさんは魔法使いじゃないの?」
「正確には魔術見習いみたいなもんさ。できる魔術も限られていてね」
投影開始。
手元に黒い洋弓と矢を作り出す。
「すごいですね」
「いや、レレイさんやテュカさんの魔法のほうがすごいさ」
「さんはいいですよ。エミヤさん」
「分かった。俺だってさんはいらないよ。テュカ」
弓矢を教えてもらう。
一緒に特訓して、以前より仲良くなった。
テュカの弓は狩猟に特化したものだった。
「父さんは弓で戦う方法は教えてくれなかったの」
彼女の目がだんだんと暗くなる。
なんとか励まそうと言葉を考えるとき、大きな炸裂音がした。
「な、何!?」
「あー。たぶん遠坂だ。レレイさんと魔術について話すって言っていたから」
おそらく、ガンドでも見せたのだろう。それにしてもやりすぎだろう。
「もういい時間だし、帰ろうか」
「そうですね。エミヤ」
二人で難民キャンプに帰る。
街を歩いていると、テュカが突然。
「ごめんなさいエミヤ。私、探しに行かないと」
何かに取り憑かれたかのように、ふらふらと歩き出す。
「俺も」
「大丈夫よ」
後ろから声がかけられる。
振り向くと、ロゥリィが立っていた。
「あの子は、キャンプの外までは行かないから安心して」
「だが、ひとりじゃ」
「だめよ。少しだけ一人にしてあげて」
もう遠くにいったテュカを見る。
「父親を探してるのか」
「そうよ。今は一人のほうがいいわ。
ありがとね。あの子と一緒にいてあげて」
「いや、弓矢を教えてもらっただけさ」
優しいのねと、ロゥリィが微笑む。
「ねぇ。時間があるなら、少し飲みにいかない」
遠坂と合流するまで時間がある。
ロゥリィと一緒に難民キャンプにある酒場に入る。
「はい、乾杯」
「乾杯」
ジョッキを交わし、酒を飲む。
「お酒飲んでも大丈夫なのか」
「亜神ですもの。あなたちの何倍は生きてるわ」
国会中継で見たが、本当みたいだ。
ロゥリィにあなたみたいな亜神はもっといるのか聞いたが、数は少ないらしい。だが、特地は多種多様の種族がいるらしい。
「私だけ話してもつまらないわ。あなたも話してよ」
「そうだな。と言っても、自衛隊の人たちと変わらないけど」
「優しいけど、嘘つきね」
ロゥリィは妖艶な笑みを深める。
「あなたの魂は他と違う。英雄の魂の輝きを持っている」
「……違う。それは俺じゃない」
ロゥリィが言ってるのは、聖杯戦争で戦った
俺はあいつとは別の存在だ。自身は英雄でもなんでも無い。
「そう。でも、あなたの魂は剣のように鈍く輝いてるわよ」
見透かすように下かた上まで舐め回すように見られる。
「そういえば、助けてくれてありがとうね」
「なんのことだ?」
「炎龍よ。あなたが助けてでしょ」
一瞬、心臓が止まるかと思った。神と名が付くくらいだからお見通しなのか。
「うふふ。分かりやすいわね、エミヤは」
なんとなくだが、遠坂と同じく人をからかう属性もってないか。
「随分、楽しいそうじゃない。衛宮くん」
横から相手を凍えつかせるような声が割り込む。
恐る恐る振り返ると、笑顔を浮かべているが絶対に怒っている遠坂がそこにいた。
「いや遠坂。これは」
「あら、邪魔がはいったわね。また、飲みましょうエミヤ」
遠坂と揉めるのを楽しそうにこちらを眺めて、ロゥリィは席をたつ。
酒場を出て、振り返る。
「あなたの思うままに進みなさい、エミヤ。そうすれば、きっと」
周りに届かないほど小さな声でロゥリィは祈りを捧げるのであった。
◇
「信じられないわ。こっちはどんなに大変だったのか」
宿舎に帰って、遠坂をなだめる。
「レレイさんとなにかあったのか」
「もう疲れたわよ」
話によると、レレイの師匠と一緒に質問攻めにされたらしい。
「それだけなら良かっただけど、今度は魔術をみせてくれって」
適当に見せても構わない魔術を見せたのだが、
「まだまだって。あの目はもう狂気の沙汰だわ」
たまらなくなった遠坂は、おもわずガンドをぶっ放してしまったらしい。
「信頼を得て、特地の魔法について教えてもらうはずが」
ぐったりしたように、ベットに倒れこむ。
「お疲れ」
「士郎は?」
「少しずつだけど、仲良くなれたよ」
気を抜いたとき、それは起きた。
ガタガタと窓が揺れ、地面が生き物ように震える。
地震だ。
後に聞くと、特地では地震はめったに無いらしい。
テュカ達は初めての地震で驚いて気づかなかったが、二人の魔術師は気付いた。
「なに、これ」
気持ち悪い魔力。
黒くどろどろしたタールを思わせるような魔力が二人を包み込む。
ただの地震ではない。
これは前兆だ。
何か良くないものが特地にいる。
今まで予感めいていたものが、確信に変わった。
そして、特地を巻き込んだ地獄が動き出した。
エミヤかシロウどちらで呼ぼうか迷い、今回はエミヤにしました。
変えるかもしれません。
次回、戦闘に入るかも。
ご感想お待ちしております。