「ロゥリィ。どうしたんだ!?」
伊丹さんが駆け寄る。
「人間なんぞに肌を触らせるなんて、不作法が過ぎるのではお姉サマ」
声の方向を向く。
土煙からロゥリィと似たゴスロリを着た少女が現れた。
ただし、ドラゴンのような角と翼・尻尾が生えていた。
「あなたはどちら様で?」
「俺はジゼル。主上ハーディに仕える使徒さ。
今日は主上から姉サマを連れてこいと言われて参上したしだいさ」
「ロゥリィも強かったと思うけど、一人で?」
「馬鹿か。お前の傷を姉サマが引き受けてたからだろ。一人じゃ勝てないはずなのに、お前のせいで動きが悪くなってた」
伊丹さんにロゥリィが噛みついたことを思い出す。
あれが契約だったのか。
「なんで?」
「別にいいじゃない」
心配かけないようロゥリィが笑顔で答える。
「さぁて、そろそろ行くか。姉サマに勝つために。わざわざ眠っていた炎龍を起こして二頭の炎龍を作り出しただからな」
上空から二頭の炎龍が降りてくる。
まだ、存在したのか。
サイズは先程倒した炎龍より一回り小さい。
「かかってきなさい」
ボロボロの身体を無理矢理に起こして、皆を守るように前に立つ。
「無理だ」
「あれは私を狙ってるの。だから、戦っている間に逃げなさい」
「んなこと。できるか!」
伊丹さんがロゥリィの前に出る。
だが、相手は戦う気満々だ。
もう襲いかかろうとしたとき、
「お待ちください!」
遮るようにヤオがよろよろ立ち上がり、使徒に質問する。
「なぜですか!? 我らはハーディに仕えてきた信徒です。なぜ我ら同胞が喰われたのですか」
「ん。なんだ。あれ、お前らだったのか。災難だったな」
興味無さそうに答えるジゼル。ヤオは深い絶望と悲しみに染めながら叫ぶ。
「何度も祈り、泣き悲しみ。救いを求めたことか。あなたたち神は祈りに応じず、耳すら貸してくれないのか」
「あのなぁ。欲にまみれた祈りをした能ない信徒なんぞ、聞くはずがないだろう」
無慈悲な回答に、ヤオは膝から崩れ落ちる。
そんな姿を見て思わず、こぶしを血が出るほど握りしめてしまう。
同じ神に仕えながら、信徒を餌にしていたことに気づかなかった?
ふざけるな。俺は眼前の敵を睨む。
「遠坂、魔力は」
「大丈夫。まだ余裕よ」
「伊丹さん。みんなを連れて撤退してください」
「いや、そんなこと」
ヤオの前に立つ。
投影魔術を行使して、双剣を呼び出す。
「私たちだけでしたら大丈夫ですが、あなた達を守りながら戦うのは困難です」
遠坂が状況を説明する。少々、酷だが実際に護衛しながらの戦闘は厳しい。
「なんだ人間。自己犠牲か。そんな無駄な」
「そんなじゃないさ。君たちをさっさと片付けて、帰ろうってだけの話さ」
話をさえぎり、狙いをこちらに向けるため挑発する。
「……吠えるじゃないか人間。いいだろう乗ってやる。
トワト・モゥトにも生きのいい狩りの練習相手が欲しいとこだった」
獲物を値踏みするように上から下まで見る。
「名は? 人間」
「衛宮士郎だ」
「覚えておくぜ。喰われるまではな。行け! お前たち。久しぶりの狩りだ!」
翼を羽ばたかせ、二頭の竜がこちらに向かって襲ってきた。
獲物を喰らうため、大きく口を開ける。
もう引き返せない。
生きるか死ぬか。
立ち向かうため深呼吸をして、頭を冴え渡り、身体に強化魔術を叩き込む。
相手に飛び掛かる。噛み砕こうとする竜を紙一重で躱し、すれ違いさまに切りつける。が、鱗が固く表面を傷つけただけに過ぎなかった。
「へぇ、デカい口叩くだけあって動きはいいじゃねぇか」
「あんたは戦わないのか?」
「人間ごときになんで戦わないといけないだ」
相手はまだ慢心している。
できれば、警戒心をあげないうちにケリをつけたい。
もう一度、突撃する。
「学習しねぇな。弾かれたの、もう忘れたのか」
「遠坂!」
「セット。グロスツヴァイ」
長いあいだ遠坂と一緒に行動しているだけあって、呼びかけだけで意志が伝わる。
遠坂は宝石を竜の目の前に撃ち上げる。
瞬間、宝石が炸裂して白い閃光が辺りを埋め尽くす。
突然の光に、二匹の竜は混乱してしまう。
俺は双剣を捨て、新たに魔術を唱える。
「
魂に刻まれた「無限の剣製」から使用目的に最も適した宝具を検索する。
見つけた。
呼吸を止め、魔力を巡らせながら集中する。
創造理念、基本骨子、構成材質、製作技術、憑依経験、蓄積年月の再現による物質投影を始める。
手を広げて架空の柄を握りしめる。
創り出すのは、聖人ゲオルギウスがドラゴンを退治したのに使用した剣。
名をアスカロン。
未熟な俺には完全な再現はできない。
だが、今はそれでも十分だ。
「うおおおぉぉぉ」
創り出したアスカロンを持ち、全能力をもって竜の首を切り落とす。
切り落とした首の断面から血が噴水のように噴き出し、地に落ちる。
視界が元に戻った竜が相方の首が無いことに気づき、動揺する。
俺の手に持つ血に塗れた竜殺しの剣を見て、脅威を感じたらしい。
さらに上空に距離を取り、様子を窺っている。
「悪手だな」
相手の攻撃の間合いを確認しないで、距離をとるのは最悪だ。
俺は剣士ではなく、魔術師だ。
アスカロンを消し、黒い洋弓を作り出す。
矢を投影するする際に、鏃に細工を施す。
矢を弓に番え、鷹の目で上空にいる敵に狙いをつける。
「終わりだ。堕ちろ」
限界まで引き絞った弦を放ち、魔力の籠った矢が目標に向かう。
飛んでくる矢に気づいた竜は回避行動をとる。
しかし、避けた矢が急に方向転換をして獲物を喰い殺す勢いで竜に向かって飛んでいく。
鏃に使用した宝具は英雄ベオウルフが所持していた
狙いをつけた標的を襲い続ける魔剣である。
竜は全力で逃げるが、どこまでも追ってくる矢に逃れなかった。
「……すごい」
レレイが思わず声を漏らす。
レレイだけではない。伊丹やヤオ達も驚嘆して足が止まっていた。
「てめぇ、何なんだ!」
目を血走らせながらジゼルは叫ぶ。
「気づかないのジゼル。シロウの魂に」
ロゥリィの声で落ち着いたジゼルが俺を見る。
「お前なんだ。どこぞの英雄か? いやそれにしては」
戸惑いの声があげる。
その時、音の壁を破るようなつんざく高音に空を見上げる。
上空には戦闘機が旋回していた。
「あれはお前らの援軍か?」
恨めしそうに聞いてくる。
「そうかな」
「エミヤシロウ覚えたからな。次会ったときは覚悟しろよ」
ジゼルは俺を睨み、上空高く逃げていった。
「助かったのか?」
伊丹さんが半信半疑で聞いてくる。
「たぶん?」
おそらく大丈夫だと思うが。
しばらくすると、ダークエルフの長老たちと自衛隊の部隊が迎えにやってきた。
みんな汚れ疲れた体を動かし、迎えの車に乗り込む。
予想外な事態は起こったが、何とか炎龍を討つことができた。
おかげでにテュカの仇を果たし、伊丹さんを正しく認識していたので不安定な精神を脱することができた。
車の窓を見ると、真っ赤な夕日が俺達を優しく照らすのであった。
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