特地方面派遣宿舎
炎龍退治から数日がたった。
伊丹さんはダークエルフから感状やさまざまな贈り物を送られた。単独行動による罰則も短い停職だけだった。
難民キャンプがらも炎龍の被害にあった人間からも感謝された。
他のみんなもそこまでひどい傷ではなかった。
「これから飯に行かないか?遠坂」
「そうね」
難民キャンプに向かう。
難民キャンプといっても、今では小さな町までに発展している。
酒場に入り、注文する。
水を飲んでいると、
「見つけた!」
レレイとロゥリィが窓からこ俺達を発見した。
ズカズカと店に入り、こちらの席に座る。
「ど、どうした。レレイ」
「あの魔法は何?」
レレイが机に乗り出し、目を光らせながら聞いてくれる。
「遠坂」
「私知らないわよ」
にやにやした顔で助けを無視する遠坂。
そうか。遠坂が味わったレレイの詰問ってこれか。
悪かった。悪かったから、助けてくれ。
「いや、あれは内緒というか」
「どれくらいなら言える」
「いや、そういう問題」
「じゃあ、魔法都市ロンデルの賢者がもつ蔵書を見せる」
「そうじゃ」
「だったら」
ドンドン追いつめられていく。
結局、全部ではないが話してしまう。
「なるほど。シロウだけ使える魔法ですか」
「魔法じゃ…まぁ、いいや」
疲れた。戦闘より疲れた。
根掘り葉掘り聞かれた。
「戦いは誰から習ったの?」
「……我流だよ。戦いながら」
へぇと言って、ロゥリィは笑みを深くする。
「どんな戦いをしてきたの?」
「今度はこっちが質問」
遠坂が話をさえぎる。
ロゥリィは核心に迫る質問をするので、助かった。
「特地では死体が動き出すってある?」
「? どんな意味か分からないけどあるわよ」
「灼風熱という病で生ける屍になることはある」
レレイの話を聞くと病によってそのような状態になることがあるらしい。
「他にはどっかの馬鹿が反魂魔法を使ってアンデットが現れることもあるわ」
「よくあるのか」
「ないわ。あったとしても私たちが許さないわ」
「どういうこと?」
「私たち使徒はこの世界の庭師の役割を担ってるの。もし世の理を犯す輩がいるなら処断してるわ」
亜神は我々でいう抑止力に近いものに感じた。
「最近はゾンビ事件起きた?」
「ないと思うけど」
首を傾げながらロゥリィは答える。
では、あの日見た化け物はなんだったのか。
「どうしてそんな質問するのかしら」
「遠坂、話していいか?」
「しかたないわね」
俺達が出会った化け物について話す。
「灼風熱だったら、日光に当たっても灰にはならない」
「アンデットなら太陽は避けるけどね」
二人とも不思議がる。
「死徒だとは断言できないか」
「死徒?」
「あぁ、こちらの世界にいる化け物のことだよ」
死徒について説明する。
ロゥリイが顔をしかめる。
「つまり、あなたたちの世界から死徒がやって来たってこと?」
「可能性の話だけどな」
「もしこの世界に仇なすなら、私の仕事ね。それにしてもハーディは何を考えているのかしら」
後半は何を言っているか分からなかったが、お互いに情報共有をした。
「それより、リンとシロウはこれから時間空いてる?」
レレイは目を輝かせながら聞いてくる。
これはいやな予感がする。長時間、拘束されて質問攻めされるのはご免だ。
「いや、少し用事があって」
「私も」
「そうか。協力してくれるのか。ありがとう」
まったく話を聞いてない。このままだと連れて行かれる。
「遠坂のほうが魔術について詳しいぞ。俺も魔術は遠坂から学んだから」
「なっ」
恨めしそうに遠坂が睨む。
すまない遠坂。お前の屍を乗り越えて、俺は生きる。
「じゃあ、シロウは私と遊びましょう」
「ひっ」
ロゥリィが獲物が見つけた猛獣の目付きで俺を舐め回すように見る。
「そういえば、衛宮くんは前の戦闘でまだ勘がなまってるって言ってたわ」
「待て遠坂!」
遠坂が満面の笑みで答える。
俺が悪かった。身代わりにしようとして悪かった。
だから、頼むから狼の前に俺を差し出すのはやめてくれ。
「そう。だったら、一緒に訓練しましょうか。異界の勇士の技見てみたいし」
首根っこを掴まれ、外に引きずられる。
遠坂は満面の笑顔で送り出すが、俺には赤い悪魔にしか見えない。
「じゃあね、衛宮くん。生きていたらまた会いましょう」
「なんでさー!」
手を振りながら見送る赤い悪魔。
店員が注文された品を机に並べる。
「リン。私たちも」
「はいはい。食事しながらにしましょう。私もロンデルについて聞きたいし」
食べながら、話をする。
あとで聞くと、何時間も質問されたらしい。部屋に帰るとベットでぐったりした遠坂がいた。
俺はバーサーカーのようなロゥリィの攻撃をかわすのに必死で疲れた。
二人は速攻でベットで死んだように眠ることになった。
◇
広場に長きにわたって民を苦しめた炎龍の首が置かれて、帝都は祭りのような賑わいをみせていた。
皆が喜びに浮かれるなか、ゾルザル殿下だけは違った。
「なぜ俺がニホンの使節に会わなければならない!」
帝都には今、日本の講和交渉使節団が訪れている。
同時に捕虜も返還され、祝いの催しが開かれていた。
「お気をお静め下さい。中にお声が聞こえてしまいます」
テューレは怒り狂うゾルザルを宥める。
「帰還した皆様に皇太子として、ねぎらいのお言葉をかけてくださいませ」
「わかっておる」
お辞儀をして、会場に入っていくゾルザル殿下を見送る。
「……単純のやつ」
周りに聞こえないような小さな声で呟くテューレ。
人気がない中庭まで歩く。
「準備はできていて?」
「はい。仕込みは上々」
陰に向かって話しかけると、返事が戻ってくる。
「失敗は許されないわよ」
「安心してください。精鋭メンバーで事は進めました」
聞いて、安心する。
この作戦で帝国は混乱に落ちるだろう。
ついに念願が叶う。
「楽しそうですね」
「そう見える?」
「ええ」
顔に触って確認する。
その時、何かの視線を感じる。
「どうかされましたか?」
「私たち以外に誰かいる?」
「いえ、手下が部外者を近づけないようにしてますが」
「そう」
一瞬、気持ち悪い視線を感じたのだが、気のせいなのか?
「気にしないで」
「そうですか。では予定通りに」
「頼むわ」
テューレと陰に潜む者は場を離れ、己の野望のため奸計を巡らす。
それを闇から眺める化け物がひとつ。
「ほう。いい感じに荒れてますね」
何もない影から男が現れた。
「なかなかおもしろい。ですが、少し盛り上がりにかけますね」
周囲に冷気が漂う。
男の目にはねっとりと湿った蛇のような悪意が、辺りを埋め尽くす。
「しかたない、私も少し力を貸しますか。ねぇ」
男は草むらを見る。
そこには、念のための護衛で陰に潜む者の部下が一人、おびえるように背中を丸くしていた。
二人が去った後に移動しようとした時、突然男が現れてから身体が凍ったように動かない。
「無視しないでくださいよ。さびしいじゃないですか」
「あ、あ」
言葉がうまくしゃべれない。
恐ろしい。堪えても堪えても身体の奥から震えが来てしまう。
目の前の男は一見、顔が良いいけ好かない貴族にしか見えない。
が、分かる。
本能が伝える。こいつは人間ではない。
人間の皮を被ったナニかだ。
「大丈夫ですよ。殺しはしないので」
赤い目がこちらを射抜く。
視界が赤く染められ、思考が何かに犯される。
「ただ、死んだほうがマシかもしれませんが」
この日、一人の人間が犠牲になった。
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