門の向こうに蠢く怪物   作:ゲゲゲ大好きマン

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一話 発覚

 ロンドンを訪れている。

 石畳を歩く。大都市なだけあって雑多な人種で混み合う。二階建てバスが排気煙を吐き出し横を通り過ぎる。たった数年しかロンドンを離れてないのに郷愁を感じる。

 

「懐かしい顔してるわね。士郎」

 

 薔薇を思わせるような赤い服を着た女性が話しかける。艶のある髪が先程通ったバスの排気ガスでさざ波ように揺れる。顔は東洋人風で、何より印象的なのは強い意志がこもった碧色の瞳だ。

 

「よく分かるな。遠坂」

「まぁね。これだけ長く一緒にいたらね」

 

 彼女は長年付き添った相棒である。学生時代に聖杯戦争に巻き込まれてから、今まで付き合ってきた。

 

「時計塔を離れてどれくらい経ったかな?」

「さぁ、もうだいぶ経つじゃない」

 

 遠坂と時計塔にいた頃は、さまざまな出来事があった。

 ロンドン橋から真冬のテムズ川に叩き込まれ、極寒地獄を味わった。他にも豪華船に乗り込み環境保護を訴える死徒に遭遇するなど、さまざまな出会いがあった。

 その後、時計塔を離れ、諸国漫遊をしていた。

 再び時計塔を訪れるのはしばらく先になるはずだったが、

 

「まさか、また時計塔を訪れるなんてな」

「私もこんなに早く戻るとは思ってなかったわ」

 

 

 

 

 

 

 ――時計塔

 

 魔術協会の三大部門の一角。西暦元年に設立され、一二の君主と学部に分かれている。ここでは、魔術を学ぶことができる。

 時計塔に所属していた頃は、遠坂の弟子として学んでいた。

 数日前、時計塔から遠坂と自分が召集された。今、向かう場所は現代魔術科の街。歴史を感じる街並みと近代的な建造物が広がっている。眺めるとどこかツギハギめいた風景に思う。

 坂道を上がり、十字路を右に曲がる。とある横道に逸れると、人の気配がまったく無くなる。結界が張られていた。人を寄せ付けないためのものだが、特別な異能を使っているわけではないらしい。

 遠坂に教えてもらったが理解できなかった。本当は理解しなくてはいけないが、自分は覚えが良くなかったみたいだ。師匠の遠坂はよく呆れていた。

 

 目的である赤茶色の建物が見えてきた。

 玄関ホールに入ると見たものを落ち着かせる内装が施され、静かな空間が出迎える。階段を上がり、大理石の床を歩く。

 通路の奥で、ささやかな音が聞こえてきた。

 突き当りまで歩くと、学術棟の私室の前で灰色のフードを被った少女が椅子に座っている。

 よっぽど集中しているか。こちらに気づかずに、鼻歌交じりに楽しそうに靴を磨いていた。音を聞いていると、どこか遠い理想郷を思い浮かばせる。

 

「久しぶり。相変わらず楽しそうに磨いてるのね。グレイ」

「……お久しぶりです。遠坂さん。衛宮さん」

 

 灰色の少女グレイは、おどおどしながらこちらに挨拶をする。

 

「先生は部屋の中?」

「はい。だけど今は……」

 

 グレイは言いよどむ。何かあったのだろうか。

 

「入っても大丈夫なのか?」

「大丈夫なんですが…その……」

 

 要領を得ない。とりあえず扉をノックをする。返事はない。

 

「失礼します」

 

 扉を開くと、整った部屋が広がる。本棚には大きさと分類ごとに区別され、ざっくり二千冊ほどの蔵書が隙間なく置かれていた。

 唯一、机に置かれた最新携帯ゲームだけが時計塔の学術棟の一室として違和感を感じ得ない。

 部屋に備えられたソファに長身の男が倒れている。

 

「お久しぶりです。先生」

 

 遠坂が挨拶をする。男が目を開け、ゆっくり起き上がる。

 外見はおおよそ三十代。黒い長髪で身だしなみは清潔感を保たれて、眉間にはいくつものしわが刻みこまれている。普段から不機嫌そうに見えるが、今回はいつもよりどこか疲れているように見える。

 

「……来たか」

 

 名はロード・エルメロイⅡ世。時計塔でわずか十二の君主。君主の階級を叙された名門・エルメロイ家の当主である。

 

「相変わらず、時計塔を離れても派手に暴れてるらしな」

「あははは……」

 

 時計塔を離れて活動をしていくなかで、いろいろなトラブルに巻き込まれてきた。どうやら、時計塔まで伝わっていたみたいだ。

 

「それより、私達が召集された理由はなんですか。先生」

「あぁ。そうだな、さっそく本題に入ろう」

 

 遠坂に急かされて、エルメロイⅡ世は姿勢を正す。

 

「最近、日本で何があったか。君たち日本人の方がよく知っているな?」

「……えぇ」

 

 銀座に突如現れた門から、竜や中世の鎧を着た兵士が侵略してきた。この事件は海外でも大きくニュースに取り上げていた。ネットでは「異世界キッター!!」などと騒がれていた。

 

「銀座事件と何か?」

「協会は門の向こう側を調査するつもりだ。私は君たちを調査隊員として推薦するつもりだ」

「俺達が?」

「君たちは実力もある。なにより君たちは魔術師にしては珍しく善人だ。既存の魔術師では不用意に現地の人間とトラブルを起こす恐れがある。異世界にいる自衛隊に対しても同じ日本人として配慮できるだろう」

 

 魔術師に人間社会の法律は存在しない。確かに他の魔術師に比べて配慮ができるだろう。

 だが、それだけで自分達に依頼するだろうか?協会の調査隊員ならばもっと相応しい人員が他にいるはずだ。

 

「納得してない顔だな」

「それだけなら他でもできそうですが?」

「そうなんだがな……」

 

 Ⅱ世は物事をはっきり言うタイプのはずだが、珍しく口ごもる。

 

「先生、何があったのですか?」

 

 遠坂の問いに、エルメロイⅡ世の眉間のしわがより深くなる。

 

「本当に君たちに依頼したいことは人物捜索だ」

「……人物捜索?」

 

 さらに疑問が増した。わざわざ俺たちが呼ばれて探して欲しい人物とは一体?

 

「誰を探せばいいですか?」

「……フラット・エスカルドだ」

「はっ?」

 

 フラット・エスカルド。ロード・エルメロイⅡ世の生徒であり、遠坂の元先輩でもある。

 

「まさか、門の向こう側に……」

「そのまさかだ」

 

 エルメロイⅡ世は頭を抱える。遠坂もあまりの事態に口が塞がらない。あのフラットが門の向こう側に?

 

「なぜ、日本なんかにフラットが?」

「日本の秋葉原で時計塔支部を設立予定のため視察をしていただが、銀座事件に巻き込まれたらしい。現在、行方不明だ」

「フラットほどの実力ならば銀座事件から脱出できそうなんですが?」

「トラブルに巻き込まれ可能性ある。だが、奴のことだ。面白そうだから門の向こう側に滞在しているかもしれない」 

 

 確かにフラットならばあり得る。彼は魔術の扱いは色位並みだが、破天荒で自由すぎる行動でトラブルを引き起こす。

 エルメロイ教室では「天才馬鹿」というあだ名がつくほどだ。過去に一緒に活動したこともあるから分かる。

 

「フラットと知り合いの君たちが、私が考える最も適任な人材だと考えている。依頼を受けてくれるか?」

「どうする。遠坂?」

「どうせ、引き受けるでしょ。士郎」

 

 門の向こう側は未知で危険性も高い。てっきり、遠坂は断るのかと思ったがすんなり引き受けた。

 

「いいのか?」

「まぁね、時計塔に貸し作るのも悪くないし。久しぶりに昔の馴染みの顔を見に行きましょ」

 

 かつての学びの友を助けるため、二人の方針を決める。

 

「引き受けてくれるか?」

「えぇ」

「感謝する。君たちなら安心して任せられる。任務ついては後日詳しく説明する」

「分かりました」

 

 了解を得たせいなのか、ほんの少しエルメロイⅡ世の眉間の皺が和らいだ気がする。

 部屋を出る。

 グレイが心配そうにこちらを見つめている。

 

「……あの、どうなりました?」

「任務を受けることにしたよ」

「そうですか…」

 

 フラットはトラブルメーカーだが、性格は明るく教室の皆から好かれている。

 

「フラットさんをよろしくお願いします」

「任して、首根っこ捕まえて連れて帰るから」

 

 遠坂が胸を張って笑顔をみせる。グレイはそれを聞いて安心したかのよう息を吐いた。彼女なりに心配してたみたいだ。

 

「衛宮さん、遠坂さんも気を付けてくださいね」

「あぁ、無事フラットを連れて帰るから安心してくれ」

 

 グレイに挨拶を済ませて建物を出る。任務まだ時間がある。これから装備を整え、異世界に向けて準備を整えなくてはならない。

 

「どうする遠坂?」

「お互い別々に準備しましょう。その後、ホテルで集合しましょう」

 

 遠坂と別れる。せっかく時計塔に来ているので、さまざまな魔術礼装や道具などを仕入れる。

 紙袋を両手いっぱい持ちロンドン橋を渡りながら、これから向かう門について考える。

 日本で起きた大災害、銀座事件。魔術世界でも大きな事件で大騒ぎになった。

 なにしろ、門から現れた異世界軍の中には魔術らしき術を扱った報告がある。神秘の秘匿が重要視する魔術師は慌てた。それ以前に都会に突然門が出現したことも大問題ではあるが。

 しかし、同時に異世界の魔術らしき術は我々の使う魔術とは異なって興味深いものだった。

 日本は世界中からいろいろな意味で注目される。下手をすると多くの血が流れるだろう。自らの誓いにかけて、それだけは阻止しなくてはいけない。

 

「……気を引き締めないとな」

 

 門の向こう側には、何が待ちかまえているか分からない。おそらく、一筋縄ではいかないだろう。待ち受ける異変に自分を震え立たせた。

 

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