村から数十キロ歩いて、広い草原の中にぽつりと一本だけそびえ立つ木に二人は腰を下ろす。
「だいぶ歩いたわね」
「そろそろ食事にするか」
背負っていたリュックの口に手を突っ込み、明らかに容量を越えた調理器具と食材を取り出す。
「便利だな。これ」
「術が解けると、最悪だけどね」
リュックは時計塔で購入した魔術礼装だ。容量増加と重量軽減の魔術をかけている。欠点は術が解けると中身すべて飛び出て悲惨な事態が起きてしまうことだ。
「村の人から食材を分けてもらえて良かった」
「士郎は好きね。その土地の食材で料理するの」
あらゆる国を旅して地元の食材で料理をするのが、数少ない趣味だ。先ほど寄った村で、ジャガイモに似た芋と黄緑色をした人参のようなものを分けてもらった。
農民からは炒めても良し、煮てもおいしいと力説された。
今回はシンプルに炒め物に決めた。皮をむき千切りする。油で炒めて醤油と砂糖できんぴら風に味付けをする。
「遠坂できたぞ」
「ん、ありがとう。いただくわ」
口の中に放り込んで、シャリシャリと食感と食材の風味を楽しむ。
「家庭的で素朴な味でおいしいわね」
「どうも、本当はスープにしたかったけどな」
今度手に入れたときはコンソメスープにしたいと考える。遠坂もおいしく食べ終わり、後片付けをおこなう。
「料理している間に霊脈調べただけどすごいわ」
「そんなにか」
「こんな太い霊脈なかなか見られないわ」
遠坂が自作の地図に霊脈を書き込んでいく。俺はまったく探査系の魔術はできないのでありがたい。
「これから向かうテッリサ街道の山麓にあるイタリカは、この位置でいいかしら」
「うん。村長の聞いた話だと、ここになるな」
美人の遠坂が一番近くで大きな街を村長に聞くと鼻の下を伸ばして快く教えてもらった。
村から近い街イタリカは、交易都市で付近の情報が集まると聞いて、次の目的地に決めた。
「じゃ、そろそろ行く?士郎」
「そうだな」
街に向けて歩く。出来れば暗くなるまでに着きたい。
村人の話だと、丘の戦争で負けた兵士が野盗になって街道を通る人を襲うと聞いた。夜になれば、危険性も増す。
ペースを上げて行こうとしたとき、前方から強力な気配を感じた。
魔術回路を起動させ、眼球に魔力を叩き込む。人間の視力をはるかに超えた強化された目で遠方を視る。
「あれは……」
◇
伊丹はでこぼこな道を身体を揺られながら、車両の助手席に乗っていた。膝の上には小さな黒髪の少女がちょこんと腰を下ろしていた。
運転席の倉田が血涙を流し、「うらやましい」と魂の叫びをこちらに向ける。後ろの女性陣はロリコンを見るような冷たい目が突き刺さる。
「基地までどれくらいで着くかな?」
空気の流れを変えるため話題を出す。
「まだまだですよ。難民の速度に合わせて進んでますからね」
窓から身をのり出して後ろを見る。なかなか進まない避難民の列。皆、疲れた顔をしている。それもしかたない。増えていく傷病者と脱落者。荷車の脱輪など次から次に発生する問題。
「ドラゴンから避難。ある意味ファンタジーですね」
「ま、そうだけど。やっていることは地味だけどな」
遠くでエルフの村が襲われるのを観察して、ドラゴンがいかに脅威か分かる。村は念入りに焼かれ、生存者がたった一人だったことから執念深く凶暴性があると把握した。
村長の話だとドラゴンの名前は炎龍で、何年か周期で活動するらしい。まだ眠りについているはずが、なぜか目覚めたらしい。
「応援も呼べないスか」
「無理だろ。一応、ここ敵地だし」
下手に呼べば、戦線が拡大するかもしれない。今出来ることは、調査隊である我々が力を貸すくらいだ。
膝に乗っている少女も、避難民を助けながら道を進んでいたとこに遭遇した。なぜ、私の上に乗っているかは不明だ。
「あれ、何だ?」
空を見上げると小さな点がこちらに近づく。ずっと眺めると、見覚えのある形になっていく。身がすくむような絶叫が耳を鋭く切り裂く。
「まさか、あれって」
声を聞いた人々が泣き叫び、パニックを引き起こす。炎をまき散らし、隊列後方の人間を襲う。
「戦闘用意!」
車を旋回して、炎龍に向けて銃を撃つ。
「畜生。自衛隊が怪物と戦うのは、ゴ〇ラから伝統だけど」
せめて、火力が出る兵器があるときにして欲しかった。心許無い手持ちの装備のまま炎龍と戦闘に入る。
◇
「あれって」
「ドラゴンだよな」
ドラゴンを発見して、初めて異世界に来たと自覚する。
現代の車がドラゴンの周りを走るのが、あまりにも場違いだ。狭間指揮官に聞いた調査隊で推測した。
「何をしてるんだ?」
周辺をよく見ると、食材を分けてもらった村の人が襲われていた。
「遠坂助けるぞ」
「…はぁ、しかたないか。恩もあるし。できれば自衛隊には知られたくなかったけどね」
特地にいる自衛隊内で、我々の存在を認知しているのは狭間指揮官だけだ。できれば、調査隊の人間には知られたくない。
「遠坂、提案があるだけど」
遠坂は話を聞いて思案する。
「そうわね。士郎の案でいきましょう。私達の魔術が通用するかいい実験にもなるしね」
提案を受け入れてもらい、準備をする。
周りより少し高い丘に移動した。遠坂は離れてこちらを見つめる。
目を閉じ、深呼吸を繰り返し、静かに意識を束ねていく。
限られた僅かな回路を起動させ、自分の内なる世界に意識を向ける。
「――
自分だけの暗示を唱える。
創作理念を引き出し設計図を思い描き、構成材質を選び出す。
創り出すのはアイツが使っていた黒い洋弓と矢。矢を作成時に宝具を投影して鏃として無理矢理細工する。
頭の中を物理情報・魔術理論が駆け巡る。血管中の血液が沸騰したかのように熱い。
「行くぞ」
撃鉄を落とす。
目を開けると、手には想い描いた弓と矢。
「成功ね。ここからよ、士郎」
弓を構え、矢を番える。魔力を込めながら限界まで弦を引き絞る。
辺りに魔力による火花が飛び散り、遠坂の顔を掠るが瞬きをせず見守る。
遠方にいるドラゴンに狙いを定める。
「……ふっ!」
弓から矢を放つ。
渾身の魔力がこもった矢が赤く発光しながら、数キロ先のドラゴン距離を一瞬で詰める。
矢がドラゴンの胴体に当たる。
そして、
◇
「撃て。勝本!」
ロケットランチャーが炎龍に向かって発射された。しかし、車体が揺れてわずかに目標がずれる。
まずい、このままだと外れてしまう。
その時、炎龍の胴体が爆発して発射したロケットランチャーも誘爆して当たる。
「よっしゃ。当たったスね」
倉田ほかみんな喜んでいるが、どこか違和感を抱いた。
炎龍は前足がもげて、悲鳴を上げて空中に逃げていく。
「終わったスかね。これ」
「何はともあれ、なんとかなったな」
離れて現場を見ていたレレイは炎龍がいた場所を凝視する。
「レレイ。どうかしたか」
「お師匠、何か感じなかった?」
「いや、何も」
レレイは首をかしげながら、自衛隊のもとに歩き出した。
◇
「当たったな」
「おめでと。なかなか良かったわよ」
「そうかな」
「アイツそっくりだったわ」
思わず顔をしかめる。あんなやつにそっくり言われて、まったく嬉しくない。
遠坂はにやにやしている。絶対わざとだ。
「士郎のおかげで得たものは多いわ。ドラゴン相手にこちらの魔術も通用することも分かったわけだし」
「じゃ、行きますか」
「そうね。調査隊と鉢合わせしないよう遠回りしないと」
犠牲になった村民の冥福を祈り、二人は歩みを進める。
料理表現難しいです。衛宮さんちの今日のごはん見て勉強します。