門の向こうに蠢く怪物   作:ゲゲゲ大好きマン

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幕間 ある男の悲劇

 夕日が水平線に触れる。

 燃えるような真っ赤な夕焼けからだんだんと黒に染まっていき、空と地面の境を消していく。人里離れた山に二つの人影があった。

 汚らしい鎧を身に付けた男は、岩陰に隠れて街道を見張る。

 

「バリー、聞いたか。アルヌスへ向かった貴族と騎士の野郎ほとんど死んだらしいぜ」

 

 同じような恰好をした髭面の男が話しかけてくる。

 

「まじか」

 

 馬鹿にするようにせせら笑う。

 バリーと呼ばれた男は軍に所属していたが、婦女暴行や素行問題でクビになってしまった。現在は、野盗団に拾われて働いている。好き勝手に暴れる野盗はバリーにとって天職だった。

 昔の職場が悲惨な状態だと聞いて、いい気味だ。

 

「親方が言っていたが、人を集めて街を襲撃するらしいぜ」

「そうだな。今なら兵も手薄で奪い放題だな」

 

 まさか、こんな形で復讐の機会が得るとは思わなかった。いけ好かないクソ元上司を殺すことができる。手柄を挙げれば、あんなに見下していた軍の隊長にだってなれるかもしれない。

 なにより、街にいる女どもを犯し放題だと考えると頬が歪んでしまう。

 捕らぬ狸の皮算用をしていると同僚が、

 

「おい、見ろ。カモがやってきたぞ」

 

 街道を見ると、旅をしている男女の二人組が歩いて来た。

 女は珍しい黒髪で美人だ。あれを泣き叫びながら、無理矢理ヤる姿を妄想して股間が固くなる。

 

「仲間呼んでくる」

「まてまて、なかなかお目にかかれない美人だぞ。俺達だけでやろう」

「だがよ」

 

 髭面が渋る。確かに、お頭が知れば怒るのは間違いない。

 

「今、お頭は街の攻略計画立てるので忙しいだろ。たった二人だけの旅人で呼んだら、殴られるに決まっている」

「そうだけどよ」

「それに二人だけ、俺達だけでやれるだろ。あんな女俺達まで回ってこないぞ」

「…分かった。やろう」

 

 ようやくヒゲが決心を固める。

 剣を抜き、旅人に近寄った。二人とも、武器らしきものを持っていない。

 すぐそこまで近づき、あらためて女の尻を見て興奮した。旅人は夫婦なのか親しげに女と会話している。毎日あの女を抱いていると思うと、無性にいらつく。男は邪魔だ、殺そう。

 合図を送り、ヒゲと同時に後ろから切りかかった。

 

 

 

 

 

 

「…クソ野郎が」

 

 地面に倒れていた。ヒゲも遠くでのびている。日も完全に暮れて、辺り一面が闇で覆われた。

 先ほど起きた出来事を思い出しても信じられなかった。

 男はヒゲとバリーの攻撃を見向きもせずに避けた。次にヒゲが持つ剣を無刀取りすると、剣の柄で腹を打つ。たった一人になってしまい焦って切りつける。男は余裕でバリーの持つ剣を弾き、殴り飛ばされた。

 倒れた二人を、女が虫を見るような冷たい目で見下ろす。

 

「女のくせに見下しやがって。クソが…」

 

 殴られた頬が痛む。留めもされずに見逃され、明らかに手加減にされた。女もむかつくが男も腹が立つ。男の前で女を犯して絶対殺す。苛立ちが腹の底で渦巻く。

 

「おや、意識あったですね」

 

 顔を上げると、見たこともない神官服も着た青年が立っていた。

 理知的なメガネをかけ、柔和な笑顔を向けられるがどこか胡散臭い。

 なんでこんなところに神父がいることに疑問に思うと上から声がかけられる。

 

「こんばんわ。ご機嫌いかがですか」

「いいように見えるのか」

「そうですね。三下が調子に乗ってやられたようにしか見えませんね」

 

 息を呑む。戦闘を見ていたのか。

 

「あれ。怒ってしまいましたか。そう気になさらず、誰も一度は敗北を経験するものですよ」

「なんで」

「うん? “なんでここにいるか”や“覗き見していたこと”なんてどうでもいいじゃないですか」

 

 質問する前に答えていく。しゃべらせてくれない。ますます不信感が増す。

 

「それよりも、いい話があるんですよ。先程の二人組に復讐したくはありませんか」

「何言っているんだ」

「実は彼らは重罪人でしてね。誰かに始末して欲しいのですよ」

 

 意味が分からない。初めて会った他人に始末して欲しいなんて頼んだ?

 

「納得してないようですね」

「当たり前だ」

「正直、あなた達みたいなならず者であれば誰でもいいんですよ。そこに彼らと因縁ある君たちに出会ったのですよ。まさに、神の導きです」

 

 “出会いに感謝です”と神に祈りを捧げる神父。

 

「だけど、俺はさっき負けたばかりだぞ」

「それなら気にせず」

 

 神父が近づくと突然、首に何かを刺される。

 何かが血管に沿って全身を駆け巡る。心臓が尋常じゃなく速く脈を打つ。悪寒に襲われ、身体が炎に包まれたような高熱にうなされる。嘔吐して胃の内容物と一緒に血を大量にまき散らす。

 ゴキリと身体の中から聞こえる。自分が何かに変わってしまう。

 痛い、痛い、怖い怖いこわいこわいこわいコワイ。

 

「恐れてはいけません。痛みは神の祝福です」

 

 僅かな視界に神父の瞳が怪しく赤く光っているのに気づく。あの目は人間を甘言で騙す悪魔だ。意識が途切れるまでバリーは絶望した。

 

「楽しませてくださいね。人間」

 

 

 

 

 

 

 髭面の男が起きる。腹をさすりながら周りを見ると、バリーがいない。

 

「おーい、どこにいるだよ」 

 

 返事はない。底知らない暗闇に心細くなっていく。

 急いで、仲間の拠点に戻る。火の灯りが見えて安心した。

 近づくにつれて気づく。二十人の仲間がいるはずだが、まったく音が聞こえない。

 

「お頭ー。誰かいないのか」

 

 拠点には誰もいない。もしかして、街の襲撃のために人を集めるためにどこかに行ったに違いない。

 

「そうだ、みんな集めるために行ったはずだ」

 

 独り言を言って無理に自分を納得させる。でないと、無音に心が押しつぶされそうだ。

 みんなが戻るまでテントで待っておこうと布を上げると、むせかえるような血の臭いにおもわず口をふさぐ。

 テントの中を見ると、室内は真っ赤に染まっている。真ん中には出来の悪い人形がある。よく見ると、人間が食い散らかされた残骸であった。

 思わず、胃の中の物をぶちまける。

 

「なんで、なんでこんな」

 

 野盗をやって大勢の人を殺してきたが、こんな人間でなくなるような殺し方はあまりにもひどすぎる。

 茫然としていると、背後に誰かが立つ。

 後ろ見るのは怖いのに、なぜか首がぎぎぎと振り返ってしまう。

 

「なんで、お前……」

 

 山に悲鳴が木霊する。

 そして、誰もいなくなった。

 

 ある日、野盗団がイタリカを襲撃するため、ある一味を引き入れようと訪れる。

 だが、拠点には誰もおらず血まみれのテントしか見つからなかった。

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