門の向こうに蠢く怪物   作:ゲゲゲ大好きマン

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五話 化け物

 深夜三時・四時頃だろうか、騒々しい音に目が覚める。

 

「一体、何の音?」

 

 窓から外を眺める。街の人々が蜘蛛の子を散らすように慌てて走り回っていた。城壁の外は赤い火が爛々と燃えている。

 

「荷物をまとめて外に出るぞ」

「シロウ、何があったの?」

 

 フラットが目を擦りながら起きる。

 

「いいから早く起きて。士郎この感じは」

「ああ。紛争地帯での戦闘に似てる。とにかく、外に出て状況を確認だ」

 

 宿から出ると、人々が叫びながら逃げていく。見覚えのあるネコ耳少女を見つける。

 

「何かあったですか」

「あなた達は!今すぐ逃げてください。奴らが…奴らが来たです」

「落ち着いて。ゆっくり話して」

 

 少女の話を聞くと、盗賊化した敗残兵が徒党を組んで攻めてきたらしい。

 

「フラット、イタリカの正規兵は」

「……うん。ほとんどいないよ」

「まずいわね」

「とにかく、情報を集めよう」

「ちょっと本当に危ないですよ!」

 

 少女も声を無視して、三人で城壁に向かう。

 近づくほど鼻を刺激するような血の臭いが増してくる。城壁に上がると、敵の軍勢が門をこじ開けようとしていた。

 

「矢を撃て。門は絶対に死守しろ!」

 

 赤い髪をした気の強そうな女が指揮をとって、数少ない正規兵とイタリカに住む民間人が協力して防衛してる。だが、戦闘経験が無い民間人が次々やられていく。

 変わらない。異世界でも変わらない。力の無い人間が理不尽に死んでいく。

 

「遠坂」

「分かってる。フラット手伝ってくれる」

「うん。お世話になった店主のためにも頑張ろう!」

 

 遠坂と作戦をたてる。

 内容は、門に集中してる敵軍勢に対して、後方から遠距離攻撃を行う。

 敵の後ろに陣取るため、気づかれないよう少し遠回りをする。

 

「急ごう。いつまで門が持つか分からない」

「分かってるわ」

 

 肉体に魔力を流し、通常の2倍の速度で行動をする。

 一刻でも早くこの惨劇を終わらすため、三人の魔術師は走る。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 イタリカ全体を見渡せる丘に立つ。城壁を点々とした赤い炎と敵軍勢が囲っている。

 

「ここなら一方的に攻撃できるな」

「私の魔術もぎりぎり届きそうね」

「僕も二人を支援するね」

 

 弓矢を投影をして準備を行う。遠坂も遠距離用魔術を唱え、フラットは俺達二人に魔力を滞りなく渡せるようバックアップに入る。

 

「なつかしいね。カジノで大暴れしたのを思い出すよ」

「そうだな」

「無駄口はそこまで。合図したら、一斉に打ち込むわよ。敵が気づいてこっちに近づいたら即退散いいわね?」

 

 作戦の確認を行う。今回、自分達の存在を特地の人間に知られるのは避けなくてはならない。

 なので、目的は敵集団の殲滅ではない。徹底した嫌がらせ攻撃を行い、撤退にもっていければ良し。最悪、撤退までいかなくても相手の士気が下がれば、街の防衛はしやすくなる。

 

「カウントダウン始めるわよ」

 

 遠坂が数字を言う。

 弓に矢をつがえて体内に魔力を巡回させる。遠坂の指先に魔力が集まり、赤黒い不気味な点ができる。

 

「3・2・1……行くわよ。攻撃開始!」

 

 矢が手元を離れ、敵に向かって飛んでいく。遠坂の魔術が敵集団に炸裂する。

 

「後方から攻撃されてるのに気付かれないうちにどんどんやるわよ」

 

 矢と魔術の雨を降らせる。相手は突然の攻撃に混乱している。

 

「後ろから攻撃されてるぞ!」

「隊をふたつに分けて、後ろの奴を殺せ!」

 

 敵集団が分かれ、こちらに向かってくる。

 

「時間ね。撤退するわよ」

「了解。フラット行くぞ」

 

 撤退しようとしたとき、相手から魔術が飛んできた。

 

「任せて。干渉開始(プレイボール)

 

 フラットがくるくると腕を回す。放たれた魔術がぐるりと方向を変えて、自らの魔術を受けて魔術師が絶叫をあげる。

 

「良かった。勘でやってみたけどこっちの世界でも、僕の魔術は通じるね!」

 

 フラットは希少な空属性で技術も極めつきの異端であるゲテモノ魔術を扱う。実際はまともに術式が成立するはずがない。なのに、器用にやるのが彼の異常な才覚をあらわしていた。

 

「いいから、逃げるわよ!」

 

 追いかけてきた部隊を撒くため、森の中に逃げ込む。

 夜の森は生い茂った樹々で、自分がどこにいるのか分からなくなるほど濃い闇に包まれていた。

 静かな自然に、自分たちの弾むような息が響く。後ろからは騒々しい声と足音が聞こえる。

 

「しつこいわね。ほんと」

「シロウ。いつまで走ればいいの。さすがに苦しい」

 

 フラットが音を上げる。彼は魔術の扱いは最高だが、体術・体力は得意ではない。

 後ろ敵を一度攻撃して足を鈍らせるべきかと考えたとき、それは起こった。

 

「ああああああぁぁぁぁぁぁぁ」

 

 後ろから絶叫が聞こえる。普通の攻撃で襲われてこんな声を出すわけがない。まるで、想像もしないような恐ろしいものに遭遇したような。

 

「何が。一体あったの」

「遠坂、後ろ!」

 

 遠坂の背中に見えたのは、真っ赤な目をした血塗られた男が爪を振り下ろそうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「士郎大丈夫なの。士郎!」

 

 遠坂の声が響く。

 背中が燃えるように熱い。油断した。とっさにかばったが、かわすまでできなかった。

 

「大丈夫だ。戦える」

「見ツけたぁぁぁ。殺すコロスころす」

「?!士郎。こいつ前に見た盗賊じゃ」

 

 片言で話す男は、体格・爪や牙などが人間離れしている。しかし、イタリカに向かう道中に撃退した男に見えた。

 

「シロウ。あの男たぶん死徒だ」

「まさか!」

「ありえるのそんなこと」

 

 以前、戦った死徒を思い出す。たしかに感覚は似ている。だが、ここは特地だ。なぜ死徒がいる。特地に元々いた吸血種の可能性もあるが。

 

「とにかく警戒して戦おう。あと気づいているか、遠坂」

「なにが?」

「追ってきた敵の音が聞こえなくなった」

 

 あれだけ騒がしかった追撃部隊の音が聞こえない。

 

「考えたくないけど、これ」

 

 視線を感じて、周りを見渡す。死人のように青い顔で口だけが真っ赤に染まった人間の形をした何かが三人を囲っていた。

 

「グール?」

「ますます死徒みたいね」

「どうする?」

 

 遠坂は、俺を傷つけた男をにらみながら作戦を告げた。

 

「目の前の死徒みたいなのは、明らかに私達ふたりを狙ってる」

「シロウとリンはモテモテだね」

「うっさい」

 

 フラットの軽口に遠坂は声を荒げるが、すぐに切り替えて。

 

「ここで撒いても、あれを死徒と仮定するなら逃げるのは難しい。だから、ここでケリをつけるわ」

「そうだな。俺も賛成だ」

「僕も賛成だよ」

 

 フラットと自分が賛同する。

 逃げるのが難しいと遠坂は言ったが、自分としては他にも理由がある。背中の傷が予想より深い。今は大丈夫だが、時間が経つと分からない。できれば、ここでなんとかしたい。

 

「前衛はやるから、支援まかせた」

「士郎。本当に大丈夫なのよね」

 

 彼女の目が不安で一杯だと告げていた。俺は笑顔で心配するなと返し、前に出る。

 

投影開始(トレース・オン)

 

 両手に白と黒の剣を投影する。

 アイツが生涯の象徴とした、夫婦剣。

 問題無い。

 今までの修羅場に比べると楽だと言い聞かせ、心を落ち着かせる。

 

「フーッフーッ。オマエだけは絶対コロス」

 

 男。いや化け物は鼻息荒く、こちらを睨む。

 間をじりじりと詰める。

 一瞬静寂に包まれ、お互いの息だけが響く。

 

「コロセェェェェッェ」

 

 掛け声とともに周りのグールが襲う。

 

「セット」

「来ないでよ!」

 

 遠坂が宝石魔術で蹴散らす。フラットが混沌魔術でグールを燃やす。

 俺は目の前の死徒に集中する。

 

「グルウゥゥァァァ」

 

 叫び声を上げながら、人間の限界を超えたスピードで爪を振り回す。

 紙一重にかわしながら、観察する。

 当たるとひとたまりもないが、大振りすぎて避けるのが難しくない。

 意識を左腕に注ぎ込んで、カウンターぎみに渾身の一撃を炸裂させる。

 化け物の胸から血が噴き出す。

 

「イテェ、あはハは。キカナイきかないィ」

 

 切りつけた傷からみるみる塞がっていく。

 死徒に似て超再生を保有しているようだ。他にも言葉を話すことから少し理性があると考えられる。周りのグールらしきものに指示を出していた。

 

「やっかいだな」

「士郎。そっちは大丈夫?」

「大丈夫だ。遠坂は」

「二人もいるから平気よ。こっちはだいぶグールも減ってきたわよ」

 

 グールがこちらに来ないよう二人がけん制する。おかげで集中して戦える。

 しかし背中に傷をおっている分、戦い長くなれば不利になるのはこっちだ。

 

「――鶴翼、欠落ヲ不ラズ」

 

 決意を言葉にして魔力を体に巡らす。

 化け物がこちらに向かって、目を血走らせ攻撃を繰り出すが丁寧に躱す。

 後ろに少し距離を置きながら、左右から同時に魔力をこめて剣を投げる。

 弧を描き、敵の首に交差するように飛んでいく。

 化け物は頭を下げ、何とかかわす。

 自分は回避行動をとってこう着した敵に突進する。

 

「――心技 泰山ニ至リ」

 

 化け物は突っ込んでくる自分に気づく。

 追撃態勢をとろうとした時、躱したはずの二本の剣が背後を奇襲した。

 

「ガッ」

 

 おもわず化け物がうめき声をあげる。

 手には新しく投影した剣を持ち、とどめを刺す。

 

「――心技 黄河ヲ渡ル」

 

 首を勢いよく切り飛ばす。

 頭をなくした胴体は、力なく地面に倒れた。

 身体の熱を冷ますように一気に息を吐き出す。

 

「やったわね、士郎」

「さすがジャパニーズ侍」

「完全に技を再現できなかったがな」

 

 周りのグールを始末した二人が近づく。安心したせいか、ひざから崩れ落ちる。

 

「士郎!?やっぱり無理してるじゃない」

「大丈夫だ。緊張がきれただけだから」

「シロウ、背中見せて。治療するから」

 

 フラットに背中を見せて、治療してもらう。

 

「ごめんね。治療魔術苦手で完璧には無理だった」

「いや、血が止まるだけ十分だ」

「帰りましょう。ここじゃ、しっかりした治療ができないし」

 

 遠坂に手を貸してもらい立ち上がると突然。

 

「まッッテェェェェェ。コロス殺しテヤル」

 

 頭だけになった化け物がしゃべりだし、三人は驚く。

 

「なんて生命力だ」

「このまま放置していたら、上級死徒に成長できた個体かもね。コレ」

「どうするこれ」

 

 頭だけなので、まったく脅威ない。

 

「燃やしてみる?」

「火力足りるのか」

 

 悩んでいると紺青に空が変わる。

 太陽が上がりおだやかな朝の光に包まれる。

 

「ああっっアツイあつい」

 

 頭だけの化け物が朝日に当たると、燃える。

 そして、灰となって風に流れていった。

 

「終わったの、シロウ?」

「たぶん」

「ますます、私たちの知っている死徒みたいだったわね」

 

 何か釈然としないまま、朝を迎える。

 

「…なんか不完全燃焼みたいだね」

「とにかくこのこと報告するためにも帰るわよ」

 

 三人は日に向かって、戦闘で疲れたままゆっくり歩き出す。

 特地に何か良くないこと感じながら。

 

 




戦闘描写難しい。
書いてる皆さん本当にすごいですね。

サブタイトルに追加しました。
もしかしたら、サブタイトル戻すかもしれません。
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