イタリカ
私はイタリカが好きだ。
帝国は人間以外の種族に対して差別的だ。
耳と尻尾しか違いは無いのに。何がいけないのだろう。
だから、私は帝国の人間は嫌いだった。
そんな差別の激しい帝国に私がいるのは、故郷にいる家族のためだ。地元には職はなく、出稼ぎするしかない。だが、帝国では職に限らず人間優先で見つけることがでいない。
そんな中、分けへだてなく雇ってくださったのがイタリカ先代領主様だ。
差別もなく、同じ仲間もたくさんいた。給金も良い。
館で働く私に、街のみんなが親切してくれた。おかげで人のもつ優しさを知り、偏見もなくなった。
本当に運が良かった。
普通に働いて安心して暮らす。毎日が楽しくて仕方ない。
これからずっと続くと思っていた。
ある日、金髪の人懐こい顔をした男の子に遭遇した。
困っていたので、いろいろと助けてあげた。
店の人も人手不足で悩んでいたので、二人の悩みを解決できて一石二鳥だ。
いい気分で屋敷に帰ると、それは突然来た。
メイド長から現当主が戦争で死んだと知らされた。
イタリカに不穏な空気が漂う。
それもしかたない。変わりの当主がまだ幼い若君様だ。街を守る兵士も戦争で減ってしまった。城壁の外では盗賊がうろついてる。加えて、炎龍が出現した話も聞いた。
何も起こらないことを祈るばかりだ。
助かった。危機一髪だった。
二人組の旅人を案内したその日に事件は起きた。
イタリカの防衛が薄いことを知ったのだろう。盗賊が徒党を組んで襲ってきた。
陥落寸前まで攻められたが、たまたま訪れていた緑の人が助けてくれた。
空飛ぶ鉄の馬で敵軍勢を薙ぎ払ったらしい。
先の戦争でいろいろな噂が流れてきたが、戦闘の結果を知ると本当なのかもしれない。
もし、緑の人が攻めてきたらどうしようかと恐怖したが、彼らは親切な人たちだった。
これで、安心して前の生活が送れる。
けど、ひとつだけ気がかりなことがある。城壁に向かって走っていった金髪の彼と旅人の二人組がどこにも見当たらない。
もしものことを考えると、心が痛い。私がもっと強く引き留めていれば良かったと悔やむばかりだ。
三人が生きていることを願うことしか、私にはできなかった。
◇
特地方面派遣宿舎 深夜
ホントいろいろ酷い目にあった。
難民を救援中にドラゴンに襲われた。イタリカに来て、なんやかんやで防衛戦。帰還すると突然、美少女騎士団に拉致られた。
今は報告のため書類作業に追われている。
「なんで、こんなことになちゃったのかな」
明日には、地球に戻ってレレイ達の護衛や参考人説明など面倒くさいことだらけだ。
唯一の希望といえば、冬のコミケが近づいていることくらいだ。できれば、今年こそ参加したい。
「お疲れのようだな。伊丹」
薄ら笑いを浮かべながらエリートメガネこと、柳田が近づいてくる。
「だったら、手伝ってくれよ」
「いやだね」
「じゃあ、何しに来たんだよ」
柳田の顔がますます悪い顔になる。絶対、俺が苦しむのを楽しんでる。
「伝言だ。嘉納大臣が会いたいそうだ。日時また連絡するらしい」
予想しなかった人物に驚く。
「お前に伝えたいことがあるそうだ」
「そうか」
特地について紙の報告書でなく、実際に行った人間の意見を聞きたいのだろうか。
「それともう一つ、おもしろい話がある」
「何だ?」
「以前、狭間陸将に客が来たのを目撃したやつがいる」
「それが?」
「不思議なことにな、誰も客を見てないそうだ」
急にB級ホラー映画みたいなことを言いだした同僚を白い目で見る。忙しすぎてついに頭がおかしくなったのかもしれない。
「憐れな目で見んじゃねぇ」
「あ、やっぱりわかった」
「いいから、聞け。急に陸将が人払いした。その後、誰かが来て三十分くらい滞在していた」
「目撃者って、あんたかい」
「チクるなよ」
呆れた。気になって影で覗いていたのだろう。
「なんで、俺に教えた」
「嘉納大臣なら知っているじゃないかと思うだよな」
「だから、聞けと?アホらしい」
もし本当なら、極秘任務関係者ではないのか。教えてもらえるはずがない。
「とにかく、心に留めといてくれよ」
「……絶対に聞かないからな」
笑いながら、柳田が去っていく。
特地について説明と護衛に加えて、誰も見なかった極秘人物。
面倒がどんどん増えていく。
「日本に帰ったら、お祓いに行こうかな」
重いため息をつき、厄除けを真剣に考える。
とりあえず、目の前にある書類から片づけるとこから始めていった。
◇
???????
辺りは何も見えない常闇が広がる。
一歩歩けば奈落に真っ逆さまに落ちそうな漆黒を平然と歩く人物がいた。
闇の中でも存在感を放つ金髪をなびかせて、悠々と歩く男はどこか人間離れしていた。
しばらく歩き、足を止める。
目の前の暗い闇に対峙し、楽しげに話かけた。
「お久しぶりです。もう何百・千年もなりますか」
「――――――」
何も見えないが、何かが蠢く。
暗闇が濃く重いものに変わる。恐ろしいナニカがそこにいる。
「私も転生を繰り返してましたが。あなたがあれに負けて、こんなとこにいらしたとは思いまいませんでした」
「―――――――――」
闇が微かに震える。圧力が増し、極寒の地のように空気が冷えていく。
「怒らないで下さいよ。私はあなたに会えて喜んでいるのですから」
「――――――――」
「それにしても、この世界は最高ですね。おもちゃがたくさんあって」
機嫌が良くなったのか、ナニカが笑う。
「―――――――――」
「私以外にもいらしてるのですか。これは久しぶりに集まりそうですね」
「――――――」
「気付いているとは思いますが、現在は二つの世界繋がっています。うまくいけば……」
「―――――――――」
「そうですね。久方ぶりに楽しめそうです」
男は口を三角に歪めて、加虐的な嘲笑を浮かべる。
これから始まる悲劇を想像して。