街を歩く人が寒さのため肩を震わせ、風さえも空で凍りついてしまうような今日。
現在、東京は冬を迎えている。
「特地は春みたいだったのにな」
特地から地球に戻ったとき、門から外に出ると頭から氷水を被ったような冷たい風に吹かれて、おもわず風邪をひきそうになった。
買い物袋を持ち白い息を吐きながら、信号を変わるのを待つ。
背中の傷が寒さでジクジクと痛む。
「一応、病院行って治してもらったはずなんだけどな」
信号が青になり、人混みに揉まれながら歩き出す。
目的地のホテルに到着する。
中に入ると、フロント前にはチェックインを待つ団体客たちがいて、賑やかだった。
エレベーターで上まで昇り、部屋の前まで歩く。
左手で持ったホテルのカードキーを、ドアノブの下にある隙間に挿入した。ピッと機械音がする。カードを引き抜くと、金具が外れる音がした。
「帰ったぞ、遠坂」
「お帰り、シロウ」
「寒い中、お疲れ様。士郎」
遠坂が温かいコーヒーを渡す。
「ありがとう。助かるよ」
「士郎が行かなくても、私が行ったのに」
「遠坂じゃ、この買い物は無理だな」
買い物袋からパソコンを取り出す。遠坂は電子機器関係は弱いので、自分で選ぶしかない。
「それくらいできるわよ」
「無理だと思うな~」
フラットを遠坂がものすごい形相で睨む。うひゃと間の抜けた声をあげ、俺の背中に隠れる。
頼むから、盾にしないでほしい。絶対守れないから。
パソコンに電源をつけ、ネットに繋ぐ。
「よし、じゃあネット電話掛けるぞ」
「おねがい」
しばらくのコール音がして、パソコンの画面にロードエルメロイⅡ世が写る。
「お久しぶりです。フラットの救出任務完了しました」
「そうか。ありがとう。君たちに任せて良かった」
二世の顔が和らぐ。こんな表情するのは珍しい。よっぽど心配だったのだろう。
「特地でケガをしたと聞いた。大丈夫か?」
「いえ、問題ありません」
「治療費はこちらに請求してくれ。報酬とは別に用意する」
「そんな、重症ではないから大丈夫ですよ」
「いや、事前情報がまったくない危険な任務に生徒を向かわせてしまった。私の責任もある。気にするな」
ほんの少ししか教示してもらっただけなのに、生徒として気にかける。このような一面があるからこそ生徒から信頼されるのだろう。
「ありがとうございます」
「フラットと変わってくれないか」
「分かりました」
フラットに交代する。
「先生!お久しぶりです!」
「この、大馬鹿者が!」
パソコンから大きな怒鳴り声がする。
「皆がどれだけ心配したか分かっているのか!」
「ごめんなさい」
さすがのフラットも申し訳なく思ったのか、かなりヘコんでいる。数十分ほど説教が続くと。
「フラットは特地に関するレポートをすぐに提出すること。いいな」
「はい」
「帰ったら、宿題三倍提出だからな」
「……はい」
「遠坂に変われ」
こってり絞られたフラットがふらふらとパソコンの前から去る。
「すまない。待たせてしまった」
「いえ、構いません」
「任務、ご苦労だった。報酬は口座に振り込んだ。確認してくれ」
「待ってください。確かにフラットの捜索は成功しましたが、特地の調査はまだです」
イタリカまでの調査とフラットが調べた結果はあるが、十分とは言えない。
「他の派閥に横やりでも入れられましたか」
時計塔は一枚岩ではない。派閥は大まかに三つで、貴族派・民主派・中立派に分かれる。さらに、手柄が欲しい。若手のロード・エルメロイⅡ世が気喰わないからなど、敵をあげるとキリがない。そんな連中が俺達を下ろそうとしているのかもしれない。
「違うんだ」
「どうゆうことです?」
「逆なんだ。門を封印すべきという声があがっている」
これには驚く。
少ししか調査してないが、特地は資源の宝庫だ。時計塔の連中がこれを見逃すはずがない。
「いったい、誰がそんなことを」
「聞いて驚くな。あの
宝石翁。キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグ。
他にも、魔道元帥・
しかし、あまり時計塔の評価は高くない。どちらかと言えば、災害の部類に入る。
理由として、彼に弟子入りできれば大成して名を残せるが、大半が破滅してしまうかのどちらか。貴重な優秀の人材を使い物にならなくしては大損害でしかない。
本当に困った人だ。
「あの爺さん帰ってきたのね」
遠坂が嫌そうな顔をする。
「そんな顔するな。一応、お前の師匠だろう」
「分かってますけどね。どうしようもないですよ。こればっかりは」
遠坂は宝石翁に弟子入りしてる。周りはまだ廃人になってないと評価しているが、当の本人からは無茶苦茶でトラブルに巻き込まれ、疲れるので嫌だと言う。
「なぜ、封印なのですか?」
「報告にあった死徒のような化け物だが、その事を気になされている」
死徒については、自分達も気になっていた。あまりにも我々の知る死徒の感覚に酷似している。
「宝石翁の予想通りだと、最悪な事態が起こるそうだ」
「最悪な事態とは?」
「そこまでは教えてもらえなかった」
宝石翁の最悪は、世界規模の災害が起きると暗に告げている。
「今、時計塔は特地の会議でてんやわんやだ」
「まだ、決めかねていると」
「そこでだ」
ロードエルメロイ二世が区切る。
「遠坂に伝言だ」
「誰からです?」
「宝石翁から師匠として命令だそうだ」
「げっ」
遠坂がいつもなら絶対言わなそうなうめき声をあげる。
「特地の調査の継続を命じるそうだ」
「拒否とか」
「翁相手に無理だろ。」
そうですよねー。頭を抱える遠坂。
「君たちの祖国も関わってるだ。恩返しの意味も込めて頑張りたまえ。それに」
「それに?」
「宝石翁が言っていたぞ。『今のお前なら大丈夫だろう。あれの研究成果を見せてみせろ』だそうだ。良かったな、認めてもらって」
「あはは……。お見通しわけね」
諦めた顔でため息を一つはき、すぐに切り替えて。
「分かりました。不肖の弟子、遠坂。師匠の任務、確かに承りました」
「よろしく頼む。もし何か必要な備品があれば言ってくれ。すぐに用意をさせる」
「ありがとうございます。でしたら」
これから必要な品を頼む。すると、フラットが。
「あの先生。僕も任務に」
「馬鹿たれ。お前はすぐに帰ってこい!」
叱られ、はい!と背筋を真っ直ぐ伸ばして返事をする。
「任務の詳細はまた後日に連絡する。任務の無事を願う」
ネット電話が切れる。
「ゴメン。任務受けちゃった。士郎は別に」
「俺もいくよ。遠坂だけ危険な目にあわせられない」
ありがとう。顔を少し赤らめながら遠坂から感謝を伝えられる。
「ラブラブなとこ申し訳ないけど、僕もいるからね」
「な、何よ。別にイチャついてないわよ」
ハイハイと良いながら、フラットは荷物をまとめる。
「シロウ、リン、ありがとね。助けてくれて」
「元教室の馴染みだろ。助け合うのが当然だ」
「もう、行くの?」
「みんなに心配かけちゃったしね。早く帰って安心させないとね。あと、あの死徒みたいなのには気を付けてね。なんだか嫌な感じがしたから」
フラットと握手をして、ホテルで別れた。
隣に立つ遠坂を見る。
どんな危険があっても大事な遠坂や、全ての人を絶対に守ると決意を固めるのであった。