大和神見聞録~国生みの神と歩む者~   作:九戸政景

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政実「どうも、初めましての方は初めまして、他作品を読んで頂いている方はいつもありがとうございます。作者の片倉政実です。
今回から今作品の投稿をさせて頂きます。他作品同様、皆さんに楽しんで読んで頂けるように頑張って参りますので、よろしくお願いします」
司「どうも、この作品の主人公の神辺司です。
それにしても……何でこの作品を投稿しようと思ったんだ?」
政実「そうだね……強いて言えばこういう作品を書いてみたかったからかな? 色々な作品を書いてきてはいるけど、神様とかの要素とこの手のバトル要素を組み合わせたのはまだ書いたことなかったからね」
司「あー……そう言われてみれば、似たのはあるけどこういうのはたしかにないな」
政実「だから、正直まだ手探り状態だけど、精いっぱい頑張っていくつもりだよ」
司「ん、了解。さて……それじゃあそろそろ始めていくか」
政実「うん」
政実・司「それでは、第1話をどうぞ」


第1話 国生みの神との出会い

『……あれ、ここは……?』

気付くと俺――神辺司(かんべつかさ)は、いつの間にか知らない場所に一人で立っていた。

……おかしいな、俺は父さん達と一緒にロンドンから日本に向かう飛行機に乗ってたはずなんだけどな……?

小さく首を傾げながらそう思った後、俺はとりあえず周りを見回した。周囲には色とりどりの花々が咲き誇り、その近くには綺麗に透き通った川が流れ、広大な大地の遙か先には険しい山々が(そび)えていた。そして、上では燦々と輝く太陽が昇り、雲一つ無い綺麗な青空が広がっていた。

『……綺麗な場所、だな』

思わずそんな感想を漏らしてしまうほど、幻想的で綺麗な景色に俺は自分の心が静まっていくのを感じた。

けど……。

『本当にここはどこなんだ? 『向こう』でもこんな景色は見た事が無いし、何だか雰囲気が現実味を帯びてない感じがする。それに……声もエコーが掛かってるような感じに聞こえるな……』

この景色や現在の状況に対して少しだけ不信感と疑問を覚えていたその時、目の前が徐々に光に包まれていくと、やがて視界は完全に白い光に包まれた。

くっ……一体何なんだ……?

その眩い光に顔を(しか)めていると、次第に目の前の光が止んでいき、それと同時に視界に大人のものと思われる人影が二つ見え始めた。そして、光が完全に消えた時、俺の目の前にさっきまでいなかったはずの男性と女性が現れた。

『……え? だ、誰だ……!?』

あまりに突然の出来事に俺は警戒を強めながらも件の男女の様子を観察し始めた。男性はとても凛々しい表情を浮かべ、服の上からでも不要な筋肉などが無いように思えるほど均整の取れた体つきをしていた。そして女性の方は、大和撫子という言葉がピッタリ合うほど綺麗な顔をしており、体つきはとても細身だったが、その立ち姿からは只ならぬ雰囲気を漂わせていた。しかし、それよりも気になったのは、男女の髪型と服装だった。

……二人とも日本にいた頃に使ってた歴史の教科書の縄文時代のページで見たような髪型だし、服装も白い無地の質素な感じの物なのがどうにも気になるな……。向こうではもちろんの事、日本にいた頃でもこんな人達は見た事ないし……。

そんな事を思いながら小さく首を傾げていると、男女はとても幸せそうな笑顔を浮かべながらお互いに抱擁を交わした。そしてその直後、男女の姿が白い光に包まれると、俺の視界はその白い光に再び包まれ、それと同時に意識が静かに薄れていった。

 

 

 

 

「……んむ……?」

そんな声を上げながら静かに目を開けた後、俺は着けていたアイマスクをゆっくりと外した。そして周囲を見回していると、隣に座っていた母さんが不思議そうに話し掛けてきた。

「司、どうかしたの?」

「……いや、何でもないよ、母さん。ちょっと変な夢を見ただけだから」

「そう、それなら良いけどね」

俺の答えに母さんは微笑みながらそう言った後、ふと窓の方へと視線を向けた。すると、嬉しそうな表情を浮かべながら再び俺に話し掛けてきた。

「ねえ、見てみて、司。そろそろ日本に着くみたいよ?」

「え、本当に?」

俺の言葉に母さんが頷いてから避けてくれた後、俺は少し前のめりになりながら窓の外の景色に目を向けた。

すると、まだ少しだけ距離が離れているものの、先の方に空港らしき物が見え始めていた。

「あ、本当だ。中二の時に日本を離れたから、日本は大体二年振りになるのかな……?」

「ふふ、そうね。それにしても……お父さんの仕事の都合とは言え、司には本当に苦労を掛けたわね。中学校の途中から向こうの学校に転校したのもそうだけど、少し前に高校受験のために一度こっちに戻ってきたのはやっぱり大変だったでしょ? それに義務教育修了試験とか卒業式のためにまた向こうに戻って、今こうしてまた日本に戻ってきたわけだし……」

「ん……まあ、確かに大変だったけど、父さんの仕事の都合ならしょうがないよ。それよりもこっちの生活とか学校の雰囲気に慣れる事とかの方が大変な気がするしさ」

「まあ……それは大丈夫じゃないかしら? 大体二年間いなかっただけで、司も元々はこっちで生まれてこっちで生活してたわけだからね。それに――」

母さんは楽しそうな笑みを浮かべながら言葉を続けた。

「これから住むのは、私達が日本にいた時に住んでた家だから、『あの子』ともまた遊んだり話したり出来るからね」

「……母さん。小学生とか中学生の時ならまだしも、アイツももう高校生なんだし、流石に俺と遊んだり話したりなんてそうそうしないと思うけど?」

「ふふ、それはどうかしらね? あの子は司と一緒にいる事が本当に多かったし、転校する時もスゴく残念そうにしてたから、司が帰ってきたのを見たら、毎日でも家に来るんじゃない?」

「……正直、それは勘弁してほしいかな。そんな事されたら、周囲からの目がスゴく辛い物になりそうだからさ……」

俺は母さんから視線を反らしながらソイツ――神河美波(かみかわみなみ)の事を思い出した。

美波は俺と同い年の女子で、栗色のショートカットヘアに人懐こそうな表情、そしてすらっとした少し低めの身長と分け隔てなく接する明るい性格もあって男子からの人気がとても高い奴だ。

美波とは小学校に入る前からの付き合いなのだが、最初は母さん達が挨拶を交わす内に仲良くなった。そしてその後に、俺と美波が引き合わされ、何度か話したり遊んだりする内に俺達も徐々に仲良くなった。

まあ、ここまでならよくある男女の友人関係というもので終われるが、俺達の場合はそうはいかない。というのも、俺の家と美波の家は隣同士なため、その縁から小学校の頃から俺達は一緒に登校してきたんだが、俺が起きるのが遅い時には俺の部屋まで来た上、のし掛かったり揺さぶったりして俺の事を起こそうとするため、俺はそれを避けるために早寝早起きを習慣づけざるを得なくなった。尚、周囲の友人達からはその恋愛ゲームの幼なじみがしてきそうな事を平気で美波がしてくる事を羨ましがられるが、俺的にはもう少し穏やかな目覚めを求めているため、美波の起こし方は正直止めてほしかったりする。

慕われてるのは別に良いんだけど、正直本当に周囲からの目が辛いから、その辺はどうにかして欲しいよな……。

そんな事を思いながら小さくため息をついていると、機内にまもなく空港に着陸する旨のアナウンスが流れた。

「ん……ようやく到着か」

「そうね。さて……そろそろお父さんも起こさなくちゃね」

「うん。まあ、この後は俺達がいない間、家を管理してくれてた伯父さんのところに行ったり、家の中の軽い整理したりがあるから、結局またすぐに寝ちゃう事になりそうだけど」

「ふふ、そうかもしれないわね」

そう言いながら母さんと笑い合った後、俺は再び窓の外に視線を向けた。

二年振りの日本、果たしてどんな事が待ってるんだろう……

そんな期待にも似た何かを抱きながら、俺は飛行機が空港に到着するのを静かに待った。そして、飛行機が到着した後、他の旅客達が飛行機を降り始めるのに続いて、俺達も飛行機を降りた。

 

 

 

 

「……ふぅ、ようやく着いた……」

飛行機を降りた後に受け取ったキャリーバッグを引きながら、俺は深く息をつきつつそう独り言ちた。飛行機に乗っている間は殆ど同じ姿勢だったからか、体の節々が痛く、軽く腕や足を動かす度にパキパキッという高めの音が鳴った。

うーん……もう少し体の柔軟性を鍛えれば何とかなるのか……?

そんな事を考えながら首を傾げていると、父さんが同じように体のあちこちを鳴らしながらふぅと息をついた。

「いてて……こりゃあ今日一日はずっと体のあちこちが痛みそうだな……」

「……同感。それにこの後に伯父さんのところに行ったり家の軽い片付けをしたりする事を考えると、軽く憂鬱なんだけど……」

「まあ……それは仕方ないさ。兄さんにはいない間の家の管理をしてもらってたわけだし、それについての礼くらいはしないとな」

「ふふ、そうね。それじゃあ早速、お義兄さんのところに――」

母さんがニコリと笑いながらそう言ったその時、到着ロビーの方に人影が立っているのが見えた。

そして、その人影に近付いていくと同時にその正体が分かり、深くため息をついた後、俺は母さんの方へ顔を向けた。

「……母さん。何でアイツがここにいるんだ? まさかとは思うけど、向こうにいる間に連絡をしてたとか?」

「ふふっ、大正解♪」

「……やっぱりか……」

俺は母さんの答えにもう一度深くため息をついた。そして、到着ロビーまで俺達が歩いてくると、人影の主がニコッと笑いながら俺に話し掛けてきた。

「久しぶりだね! 司!」

「……そうだな。久しぶり、美波……」

テンションの高い美波に対して、俺が低めのテンションで返事をした。

美波は不思議そうに俺の顔を覗き込んできた。

「どうしたの、司? もしかして……旅の疲れが出たとか?」

「……そんなところだ。後、顔が近い」

「えー? そんな事ないと思うけどなー……」

「……そんな事あるんだよ。お前だってもう高校生なんだし、あまりそういう事をしない方が良いと思うぞ?」

「あははっ! 大丈夫だよ、司以外には流石にしないよ!」

「……正直、俺にもしないでほしいんだけどな」

美波の答えに俺がため息をつきながら答えると、美波は今度は母さん達の方へ顔を向けた。

「おじさん、おばさん。お久しぶりです!」

「ははっ、久しぶり、美波ちゃん」

「ふふっ、本当に久しぶりね、美波ちゃん。しばらく見ない間にまたお母さんみたいに綺麗になったんじゃない?」

「え……そ、そう……ですか?」

美波が少々照れた様子で訊くと、母さんはうんうんと頷きながらそれに答えた。

「ええ、もちろんよ。ねえ、司もそう思うわよね?」

「あー……はいはい、そうですねー……」

ただの幼なじみ相手に本気でそんな事を言える奴なんてそうそういないだろ……。

そんな事を思いながら俺が気持ちを込めていない返事をすると、母さんはクスリと笑いながら美波に話し掛けた。

「ゴメンね、美波ちゃん。司ったら久しぶりに美波ちゃんに会ったから、照れちゃってるのよ」

「いえいえ、大丈夫です。司の性格は分かってるつもりですから!」

「いやいや、照れてないって……」

母さん達の言葉に対して俺は返事をしながら頭を振ったが、母さん達はそれには構わず話を続けた。

「ふふっ、頼もしいわ。美波ちゃん、これからまた司がお世話になるけど、何かあったらよろしくね?」

「はい、任せて下さい!」

母さんの言葉に美波は大きく頷きながら答えると、俺の方へと顔を向けてニッコリと笑いつつ、右手を差し出してきた。

「という事で……これからもよろしくね、司!」

「……ああ、よろしく、美波」

今の状況や母さん達の反応について、半ば諦め気味に俺は美波と握手を交わした。

……まあ、知り合いが近くにいるだけ良しとした方が良いか。それに、新しいダチとの出会いとか新しい発見とかもあるだろうし、それを楽しみにしてこれから過ごす事にしよう。

そして、美波と握手を交わしながら俺は気持ちを前向きに持つことにした。

 

 

 

 

「……はあ、今日は疲れたなぁ……」

その日の夜、俺は自分の部屋のベッドに寝転びながらそんな声を上げた。美波と空港で再会した後、美波を家まで送り届けてから伯父さんのところに行き、そしてその後に家の中の軽い片付けをして、とまるでジェットコースターのように過ぎていった忙しい一日だった。それにしても――

「……まさか、高校まで美波と一緒になるなんてな……」

美波を家に送り届ける際、母さんが俺がこれから通う高校の話をすると、美波は顔を輝かせながら自分も同じ高校に通う高校も同じだと言い始め、それによって母さんと美波は更に楽しそうに話を始めた。

「……母さんと美波の仲が良いのは別に悪いことじゃないけど、良すぎても色々と面倒な事になるもんな……」

そんな事をポツリと呟きながらベッドの上でごろりと寝返りを打っていると、今日一日色々あったからか急に眠気が襲い、思わず大きな欠伸をしてしまった。

「……とりあえず寝るか。学校が始まるまでまだ期間はあるから、その間にこっちの環境に体を慣らしておきたいし」

そう独り言ちた後、俺は手元にあるリモコンを操作して部屋の電気を消した。そして、そのまま静かに目を閉じた。

 

 

 

『……ん』

突然伝わってきた謎の熱と気配、そして背中に感じるゴツゴツとした感触と生暖かい風で俺は目を覚まし、体を起こしながらふと周囲を見回した。すると、目に入ってきたのは――

『……は? い、岩……?』

周囲にあったのは奇妙な形をした赤黒い岩や焼け焦げた草原や花々、そしてその近くにはかつて川が流れていたと思われる窪みがあり、遙か彼方には山肌がボロボロになった山々が見えていた。

『……な、何なんだよ、ここ……。俺は家の中の自分の部屋で寝てたはず――』

そう独り言ちながらもう一度周囲を見回していたその時、俺はある事に気がついた。

……変だな。こんな所に来たこと無いはずなのに、どうしてこの窪みのところにかつて『川』があったんだろうって思ったんだ……?

俺は首を傾げながらもう一度件の窪みを観察してみた。窪みはそこそこ幅はあったが、深さはそれ程でも無く、底の方には小さな楕円形の石が土の中に埋まった状態で見つかった。

……たしか、川の中にある石って川の流れで少しずつ削られた結果、こういう形になるんだったと思う。だから、ここがかつて川だった可能性は高いな。

窪みやその中の様子についてそう結論づけた後、俺は周囲をもう一度見回してみた。すると、さっきまでは気付かなかったものの、今俺がいる場所と機内で見た夢の場所との類似点が多いことに気付いた。

『……つまり、ここはあの時見た夢の場所と同じ場所って事か……』

周囲の無残な様子に少しだけ恐怖を覚えながら俺はそう独り言ちた。今見ている光景は機内で見た夢の光景とは違い、穏やかさや平和といった物が一切感じられず、その代わりに混沌や混乱といった言葉が似合う気がした。

『……あの時に見た夢が天国なら、今はまるで地獄だな……』

そんな事をポツリと呟いていたその時、遠くの方から誰かが俺の方に向かって歩いてくるのが見えた。

『……こんな所に一体誰が……?』

不思議に思いながらも俺はその誰かが来るのを静かに待った。そして、その誰かと俺との距離が縮まっていくと同時にその姿が徐々に明らかになり、その正体が完全に分かった瞬間、俺は思わず驚きの声を上げてしまった。

『……あの時の夢に出て来た、人……?』

そう、近付いてきていたのは機内で見た夢に出て来た男性であり、その手には何故か綺麗な純白の毛並みの兎が抱きかかえられていた。そして男性は、俺の目の前でピタリと止まると、その顔を真剣に見つめながら静かに口を開いた。

『……なるほど、どうやら君が私の神威(かむい)のようだね』

『……神威? それって一体……?』

『神威、元々はアイヌ語で神格を持つ高位的な霊的な存在の事を指す言葉だよ』

『なるほど……けど、俺はただの人間ですから、そういうモノとは全く関係は無いですよ?』

『……いや、今はまだ小さいが、君からは私達が有する力と同じ物を感じる。いわゆる神力という奴だ』

『神力……でも、どうしてそんな物が俺の中に……?』

『それはね、君が選ばれたからだよ、神辺司君』

『選ばれた……? それに何で俺の名前を……?』

あまりに突然の事にわけが分からないまま質問を投げかけると、男性は静かに微笑みながらそれらの質問に答えてくれた。

『まず、選ばれたというのは、君が私達神々と君達人間のペアで行われる争い――【八百万大戦】での私の相方になったという事。そして、君の名前を知っていたのは、私が神の一柱であり、君の相方だからだ』

『八百万大戦……そして、貴方が俺の相方の神様……』

『ああ。私の名前は、【伊弉諾尊(いざなぎのみこと)】。日本神話における神々の父神だ』

『伊弉諾尊……さん』

その名前を口に出した時、伊弉諾尊さんの体が光り輝き、伊弉諾尊さんの心臓の辺りから光の縄みたいな物が伸び出した。

そして、それは俺の心臓の方へゆっくり伸びていき、そのまま俺の体の中へと入っていった瞬間、俺の心臓がドクンッと大きく脈打った。

『ううっ……!』

心臓の痛みから俺はその場に膝をつき、必死になってその痛みに耐えた。心臓が脈打つ度に鋭い痛みが走り、まるで刃物を突き立てられ、それで体を抉られているようなイメージが浮かんだ。

『ぐ……あぐっ……!』

痛い。その言葉しか頭の中に浮かばず、それ以外に何も考えられない程、俺の頭の中はグチャグチャになっていた。

……な、何で……夢の中なのにこんなに痛いんだ……!

やっとの思いでこの痛みについて考えたものの、その程度の事しか頭の中には浮かばなかった。

……ぐ、この痛み……いつになったら、終わるんだよ……!?

痛みに耐えながらそう思っていた時、

『……そろそろか』

伊弉諾尊さんの凛とした声が聞こえ、それと同時に痛みが何故か徐々に引いていった。そして、完全に痛みが引いた瞬間、俺の体が淡く白い光を放った。

『え……これは一体……?』

この現象に俺が疑問の声を上げていると、伊弉諾尊さんはニコリと笑いながら俺に話し掛けてきた。

『……どうやら、無事に完了したようだね』

『完了した……というのは?』

『私と君の同調、だよ。これで私と君は正式にこの八百万大戦に参加する事が出来るようになった』

『参加する事が出来るようになったって……別に俺は参加するとは一言も……』

『……その事については申し訳ないと思っているよ。結果として騙し討ちのような形になってしまったからね。しかし、この八百万大戦には絶対に参加しなければならない理由があるんだ』

『絶対に参加しなければならない理由、ですか……?』

『ああ。だが、それにはまず、この八百万大戦について説明をしないといけないね』

伊弉諾尊さんがそう言った時、俺達の目の前に綺麗に透き通った大きな球体が現れた。そして球体は、淡い白い光を放つと、その表面に何かを映し出し始めた。

『これは……?』

『これは神球(しんきゅう)、私達が有する神力に反応して様々な物を見せてくれる道具だ。因みに今は、私達神々が本来いる場所の一つ――【神界】にある天上の庭園を映しているようだね』

『なるほど……』

伊弉諾尊さんの言葉に頷きながら答えていた時、俺は映し出されている光景に違和感を覚えた。

『……あれ? 思ったより神様らしい人達が映っていない……?』

そう、神々がおわす場所というわりにはそこにいるはずの神々の姿が殆ど映っていなかったのだ。

『伊弉諾尊さん、これは一体……?』

『……現在、私達を除いた神々の多くは皆、君達人間が住む現世に散らばり、今の私達のようにペアを組んでいるんだ。そのため、今の神界にはそういった神々の姿は無い上、少々神界の環境も乱れ始めているんだよ』

『……その八百万大戦のために、ですよね?』

『ああ。先にも言ったが、八百万大戦は私達神々が君達とペアを組んで行う争いだ。そして、その勝者達にはあらゆる願いを叶える権利が与えられるため、神の中には本気で勝ちを狙いに来る者もいる。自分でも言うのもアレだが、私のように強い力を持つ神以外にとっては絶好のチャンスと言えるからね』

『あらゆる願いを叶える権利……という事は、伊弉諾尊さんにもあるんですよね? 叶えたい願いが』

『……まあね。そして勝負の内容はその当事者同士が決めてよく、どちらかが負けたと感じた瞬間に勝負は決する。尚、勝負に負けた神は自動的に神界に送られ、八百万大戦への介入を禁じられる。そして、勝負に勝った神は対戦相手の神の力の一部を手にする事が出来、その時点から手に入れた力を使う事が出来る。因みに、タッグやチームを組む事は禁止されていないが、神の力の一部を手にするのはそのリーダーのみとなっている』

『……やっぱり色々ルールはあるんですね。ところで、この八百万大戦を始めたのは一体誰なんですか?』

そう訊くと、伊弉諾尊さんは表情を曇らせながら暗い声で答えた。

『……私の妹であり妻である神、【伊弉冉尊(いざなみのみこと)】だ』

『妹であり妻である神……』

……そういえば、前に本でそんな事を読んだ気はするな。でも――

『どうして伊弉冉尊さんがこんな事を?』

『……分からない。遙か昔に伊弉冉とは仲違いをしたものの、少し前までは以前のように話ができる程仲は改善された。しかし、最近になって伊弉冉の方から私を拒絶するようになり、その理由を探っている間に伊弉冉が八百万大戦の開催を宣言してしまった。そしてそれと同時に他の神々と同様に伊弉冉も現世へと降っていき、私もそれを追うように現世へと降ったんだ』

『つまり、伊弉諾尊さんの願いはその伊弉冉尊さんについてという事ですね?』

『そうだ。もっとも、これを願いと言っても良いかは分からないが、私は伊弉冉が何故こんな事を始めたのかを知りたい。そして出来るなら、再び伊弉冉との仲を戻したい。私はそのためにこの現世へと降ったからね』

『なるほど……えっと、ところで――』

俺は伊弉諾尊さんの腕に抱かれている兎の事を見ながら言葉を続けた。

『その兎は一体……?』

『……ああ。そういえば、まだ彼女は自己紹介をしていなかったね』

伊弉諾尊さんは腕の中の兎を見ながらニコリと微笑むと、兎に向かって優しく声を掛けた。

『【白兎神】、そろそろ喋っても大丈夫だと思うよ。君が喋っても司君は驚かない気がするからね』

『……あ、はい。分かりました、伊弉諾さん』

すると、兎――白兎神さんは俺の方へ顔を向け、とても可愛らしい声で自己紹介を始めた。

『初めまして、司さん。私は白兎神と言いまして、人間の皆さんには【因幡の白兎】という名前の方が聞き馴染みがあるかと思います』

『因幡の白兎……たしか、【大国主神】(おおくにぬしのかみ)っていう神様の話に出て来る兎でしたよね?』

『はい、その通りです。ですが――』

すると、白兎神さんは少しシュンとした様子で言葉を続けた。

『その大国主神様は、現在ある神様に捕まってしまっているんです』

『ある神様……え、それってまさか……』

『はい……この八百万大戦の開催神である伊弉冉さんです……』

『やっぱりか……』

こうなってくると、本当に伊弉冉尊さんが何を考えてるのか分からなくなってくるな……。神と人間のペアでの争い事を始めたり自分と同じ神様を捕まえたりなんてする意味も全く分からないし……。

そう考えながら俺がため息をついていると、伊弉諾尊さんがふぅと息をついてから静かに口を開いた。

『白兎神と大国主神はこの八百万大戦にはあまり興味が無く、本当ならば参加すらしたいと思っていなかった。けれど、伊弉冉は八百万大戦の開催を宣言して様々な神々が現世に降った際、参加を拒否し続ける大国主神を無理やり捕らえると、そのまま共に現世へと降ってしまったんだ……』

『……何というか、本当に無茶苦茶ですよね……?』

『……ああ。しかし、伊弉冉は本来そういった性格ではなく、何か行動を起こす時は本当に意味がある時だけなんだ。しかし、今回の行動の意味は全く分からない上、自ら争いを企てたり同じ神を無理やり連れ去ったりとあまりにも乱暴な面が目立つ。だからこそ、伊弉冉自身としっかりと向き合い、今回の件について話を聞きたいと思っている。だからこそ、同じように伊弉冉の行動に疑問を抱いている白兎神にまずは会いに行ったんだ。それに白兎神の力を借りられれば、様々な神の居所も分かるようになるからね』

『え、そうなんですか?』

『ああ。大国主神――大国主と八上姫神(やかみひめかみ)との婚姻を取り持ったことから白兎神が祭られている白兎神社は特定の人との縁を結ぶ縁結びの御利益がある神社だと言われている。そのため、白兎神には自分が指定した神の現在地を知る力があるんだよ』

『なるほど……でも、それなら大国主神さんな伊弉冉尊さんの位置を知る事も出来るんじゃ……?』

『それが……何故か彼女らの位置は探知できないみたいなんだ。恐らく、伊弉冉が自身の神力を用いて探知を妨害しているんだろう。伊弉冉は白兎神よりも高位に位置する神であるから、白兎神よりも多くの神力を有しているしね』

『つまり、大国主神さんと伊弉冉尊さんの位置を知るには、最低でも八百万大戦を勝ち抜く必要がある、と……』

『そうだね。だが、こちらには先に言った能力の他、様々な神との親交がある白兎神がいるため、神々の情報には事欠かない。だから、他の神よりはアドバンテージは大きいと言えるだろうね』

『たしかにそうですね。少し卑怯ではありますけど、何か苦手な物があれば、それを勝負の題材にしてこちらの勝率を上げる事も出来ますから』

『その通りだ。それに、白兎神も既に自分の相方である神威を見つけている。まだ私自身は会った事は無いが、白兎神が言うにはとても活発的な神威らしいから、白兎神の能力にはピッタリな神威と言えるだろうね』

『そうですね。それに白兎神さんの事情を知った上で協力してくれるわけですから、悪人である可能性も無いでしょうしね』

『ああ、そうだね』

俺の言葉に伊弉諾尊さんは頷きながら答えた後、突然真剣な表情を浮かべながら静かに言葉を続けた。

『……司君。本当のことを言うならば、まだ君は引き返す事が出来る』

『引き返す事が……出来る……?』

『ああ。司君、これを見てくれるかな?』

そう言うと、伊弉諾尊さんは自分の胸に手を当てた。すると、伊弉諾尊さんの心臓の辺りから俺の心臓の辺りに向かってさっき見た白い光の縄みたいな物が伸びているのがうっすらと見えた。

『これって……さっきのですよね?』

『ああ、これは【神光(しんこう)(つな)】と言い、神力を有している者のみが視認できる物であり、八百万大戦に参加している神と人間の繋がりを形にした物だ。先程、君との同調で私と君は八百万大戦においてのペアとなった。しかし、今ならばこの神光の綱を絶ち、私達と出会った事を忘れた上で、君を普通の人間としての生活に戻すことが出来る』

『そんな事が……』

『ああ。それで、君はどうしたい? 司君、君の心からの意見を私に聞かせて欲しい』

『俺の心からの意見……』

……八百万大戦に関わる事、それによって俺の生活の内容はガラッと変わり、そして場合によっては命の危険だってあるはずだ。勝負の内容は決められると言っても、別にそれは俺達に限られた事じゃなく、相手にだってその権利がある以上、本当に命の取り合いになりかねないからだ。だから、父さん達の事を考えるならば、ここは神光の綱を断ち切って伊弉諾尊さん達の事を忘れて過ごす方が良いのかもしれない。けれど――

『……やっぱり放っておけないよな』

ポツリとそう独り言ちた後、俺は伊弉諾尊さんの目を見ながら静かに口を開いた。

『伊弉諾尊さん、俺も八百万大戦に参加します』

『司君……でも、本当に良いのかい? 八百万大戦に参加する事で場合によっては君の周囲の人まで危険に晒す事にもなり得るというのに……』

『……たしかにそれを考えたら、八百万大戦の事を忘れて普通の人間として生活をした方が良いかもしれません。もし、事情を知らない父さん達が巻き込まれるような事があれば、怪我だけじゃ済まない可能性もありますから。けれど、伊弉諾尊さんと白兎神さんの事情を知った以上、お二方の事を放っておけないと思ったんです。帰国子女であるとはいえ、俺も日本人ですからね』

『司君……』

『それに……白兎神さんの神威が誰かは分かりませんけど、その人が協力してくれるのに同じように事情を知った俺が協力しないというのは、流石に薄情な気もしますし、伊弉諾尊さんが伊弉冉尊さんの事を心配する気持ちはスゴく分かりますから』

俺がクスリと笑いながら言うと、伊弉諾尊さんは静かに微笑みながらそれに答えた。

『という事は、君にもいるんだね? 御両親とは別にいつも気に掛けている人が』

『……まあ、いつもではないですけど、行動は見張るようにしてますかね。白兎神さんの神威のようにソイツも中々活発的ですし、思い立ったらすぐに行動に移そうとする奴ですから』

『ははっ、なるほどね。それはたしかに心配になるね』

『ええ、本当に……』

伊弉諾尊さんの言葉に俺がため息交じりに答えると、伊弉諾尊さんはニコリと笑いながら再び話し掛けてきた。

『司君、本当にありがとう。そして、これからよろしく頼む』

『はい、こちらこそよろしくお願いします』

そして、俺達は固く握手を交わした。すると、目の前が徐々にぼやけていき、それと同時に意識も薄れていった。

 

 

 

 

「……んむぅ……?」

顔に感じる暖かな光とふわふわとした柔らかな感触で目が覚め、俺はベッドから体を起こしながら周囲をきょろきょろと見回した。しかし、いくら見てみても周囲にあるのは、俺の部屋の光景ばかりでそこには赤黒い岩や焼け焦げた草花などは当然無かった。

「……夢、だったのか……?」

ボンヤリとした頭のままでそんな事を独り言ちていると、

『まあ、あの光景は君の夢の中に私の記憶を投影させた物であるから、夢の一種と言えるかもしれないね』

伊弉諾尊さんの静かな声が聞こえてきた。

あー……やっぱりか。

「なるほど、そういう事で――」

伊弉諾尊さんの言葉に答えていたその時、俺はある事に気付いた。

「……え、何で伊弉諾尊さんの声が聞こえるんだ……!?」

そう疑問の声を上げながら俺は周囲をきょろきょろと見回した。すると、どこからか楽しそうに笑う伊弉諾尊さんの声が聞こえてきた。

『ははっ、ゴメンゴメン。司君、少しだけ待っていてくれ』

そして、伊弉諾尊さんの声が聞こえなくなったかと思った瞬間、目の前に夢の中で見た伊弉諾尊さんの姿が現れた。

「あ、いた……というか、一体どこにいたんですか?」

「ふふっ、それは君の中にだよ」

「俺の……中?」

「ああ。私達は神威となってくれた人間の中に入ることが出来るからね。それに私達のような存在がその辺を歩いていたら、人間達の中で騒ぎになってしまうだろう?」

「……まあ、たしかにそうですね」

「もっとも、神力を用いれば君達以外の視界から私の姿を隠すことは出来るんだが、君の中に入っていれば私の姿を他の神からも隠すことが出来るからね。なので、基本的にはさっきのような君の中から神力を通じての会話をさせてもらうよ。ただ、慣れるまで時間は掛かるだろうけどね」

「ですね。さっきもかなり混乱しましたし……」

神力を通じての会話、か……。イメージとしては、テレパシーみたいな感じだったけど、早めに慣れるようにしないといけないな。

拳をギュッと握りながらそう強く決意を固めていると、伊弉諾尊さんがクスリと笑いながら再び静かに口を開いた。

「まあ、先程も言ったように八百万大戦のために神々は既に下界に散らばっている。しかし、八百万大戦自体の開始はまだ期間はあるから、その間に慣れると良いだろう」

「まだ期間はあるって……八百万大戦の開始はいつからなんですか?」

「伊弉冉は下界に降る際、開戦は衣服の綿が抜け、桜の花が咲き乱れる頃と言っていた。司君、桜の花が咲く頃と聞いていつ頃を思い浮かべる?」

「そうですね……やっぱり四月ですかね?」

「そうだろうね。旧暦では四月一日は現在の五月中旬、下旬にあたる。そしてその頃から人々は冬の服に入れていた綿を抜き、夏の服へと変えていたため、四月一日は『わたぬき』と呼ばれるようになった。つまり、それらの情報から察するに八百万大戦の開戦は四月一日なのだろうね」

「四月一日、か。えーと、四月までは……」

俺はそう言いながら壁に掛けているカレンダーに視線を向けた。

……四月まで、約一週間か……。

「つまり、一週間後には各地で神と人間のペアによる争いが行われるわけか……」

「恐らくね。尚、四月一日(わたぬき)という苗字も存在する上、他にも八月一日と書いて『ほづみ』や春夏秋冬と書いて『ひととせ』など日にちが関わってくる苗字や言葉は各地に存在する。機会があったら調べておくと何かの役に立つかもしれないね」

「そうですね」

伊弉諾尊さんの言葉にクスリと笑いながら答えていたその時、

『司ー! そろそろ起きなさーい!』

ドアの向こうから俺の事を呼ぶ母さんの声が聞こえてきた。そして俺と伊弉諾尊さんは顔を見合わせた後、同時に笑い合った。

「ふふ。それじゃあ、とりあえず起きるとしましょうか」

「ふふっ、そうだね」

伊弉諾尊さんの言葉に頷いた後、俺はベッドから体を出し、そのまま上の方へグーッと伸ばした。そして、完全に頭がシャキッとした事を確認した後、ドアの方へと歩いてからドアノブに手を掛けた。

さて……二年間も日本にいなかった俺が日本の神様のためにどこまで出来るか分からないけど、とりあえず頑張ってみるか。

そう思いながらクスリと笑った後、俺はドアノブを静かに捻り、部屋の外へと出て行った。




政実「第1話、いかがでしたでしょうか?」
司「一話目にして俺の相方が伊弉諾尊で、仲間に白兎神こと因幡の白兎がいる状況か……。因みに仲間はこれからも増える予定なのか?」
政実「そこは正直まだ未定かな。けど、そういうのもありかなとは思ってるよ」
司「了解。そして、次回の投稿予定は決まってるのか?」
政実「他のとの兼ね合いもあるから、まだ未定。まあ、焦らず無理せずのんびりとになるかな」
司「分かった。そして最後に、この作品についての感想や意見、評価などもお待ちしています」
政実「さてと、それじゃあそろそろ締めていこうか」
司「ああ」
政実・司「それでは、また次回」
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