司「どうも、神辺司です。ネザーランド・ドワーフって、確か一般的にミニウサギって言われてる奴だっけ?」
政実「そうだよ。後は外国の作品でネザーランド・ドワーフがモデルのキャラクターもいるね」
司「あー……そういえばいたっけな」
政実「うん。たぶん、ネザーランド・ドワーフが好きになったのは、そのキャラクターが好きになったのがきっかけかもしれない」
司「まあ、そういう事って良くあるもんな。さて……それじゃあそろそろ始めていくか」
政実「うん」
政実・司「それでは、第2話をどうぞ」
「ふう……食った食った」
朝食を食べ終えた後、俺は
……ん、そういえば……伊弉諾尊さんは、俺が食べている間は俺の中に居たけど、食事は取らなくても良いのか……?
そう疑問に思った俺は、まだ俺の中にいる伊弉諾尊さんに話し掛けた。
『伊弉諾尊さん、食事とかは取らなくても良いんですか?』
『そうだね……本当の事を言えば、少々空腹感はあるかな。本来ならば取らなくても良いんだが、どうやら下界に降りる事で私達にも空腹感という概念が発生してしまうみたいだからね』
『それならさっき言ってくれれば、こっそりと何か渡せたかもしれませんよ?』
『そうかもしれないが、あの食事は君のために作られた食事だからね。こっそりとはいえ、私が食べるのは少々気が引けるんだよ』
『……なるほど。でも、伊弉諾尊さんも腹が減るわけですし、後でしっかりと何かは食べましょう。まだ【八百万大戦】が始まらないとしても、いざという時に動けないというのはかなり不利なわけですから』
『……そうだね、君達人間と同じように空腹感を覚えてしまう以上、今のところはその方が良いかもしれない。助言感謝するよ、司君』
『どういたしまして。伊弉諾尊さんの『神威』となった以上、俺達は一心同体のような物ですから、これくらいのサポートをするのは当然ですよ』
『ふふっ、そうか。それと……私の事は伊弉諾と縮めて呼んでくれて構わないよ。一々伊弉諾尊と呼ぶのも大変だろうからね』
『分かりました。それなら、これからはそうさせてもらいますね』
『ああ』
そんな事を話しながら歩き続けていたその時、シャツの胸ポケットに入れていた携帯が突然ブルブルと震えだした。
ん……もしかしなくても美波からかな? でも、一体何のようだ……?
不思議に思いながら携帯を手に取った後、俺は携帯を操作して美波からの着信に出た。
「……もしもし?」
『あ、おはよう、司!』
「……ああ、おはよう。それで何の用だ?」
『えへへっ、司がこうして帰ってきたから久しぶりに遊ぼうと思ったのとちょっと司に紹介したい子がいたからだよ』
「紹介したい子……?」
『そう! 実は最近、新しい友達が出来たから、その子を紹介しようと思ってさ!』
「新しい友達、ねぇ……。因みにその友達っていうのはどんな奴なんだ?」
『えっとね、しーちゃんっていう子でね、とっても可愛くて優しい子なんだよ』
「そりゃあ、お前と友達になってくれる奴なんだから物凄く優しいだろうな」
『ちょっと! それはどういう意味!?』
「言葉通りの意味だよ。それで? そのしーちゃんって奴と俺の家に来るのか?」
『まーね。というか、実は――』
その言葉と同時に、玄関からチャイムの音が聞こえた。
……まさか、な……?
嫌な予感を静かに感じつつ、俺は携帯を手にしたまま踵を返して玄関へと向かった。そして、玄関のドアに何かを抱き抱えた人影が一つ映っているのを見た瞬間、俺は小さくため息をついた。
どうやら嫌な予感は見事に的中したみたいだな……。
「……美波。玄関先にいるのは、お前だよな?」
『ピンポーン♪ 隣同士だとこういう時に楽だよね~♪』
「はいはい、そうですねー……。とりあえず、今開けるからちょっと待ってろよ?」
『はいはーい』
美波の返事を聞いてから電話を切った後、俺は携帯を胸ポケットにしまいながら玄関のドアを静かに開けた。するとそこには、メーカーのロゴらしき物が入った白のパーカーにふわっとした黒のスカート、そしてミントグリーンのスニーカーという格好をした美波が立っており、その手にはふわふわとした白い何かを抱き抱えていた。
……一応、美波も可愛い女子の部類には入るから、こういうコーディネートが好きな奴からしたら、舞い上がるような気持ちになるんだろうな……。
美波の姿を見ながらそんな事を考えていると、美波はニコリと笑ってからその場で静かにクルリと一回転した。そしてピタリと止まると、少しだけ不安そうな表情を浮かべつつ話し掛けてきた。
「どう……かな? 司から見て似合ってると思う?」
「そうだな……ファッションとかはあまり詳しくないけど、俺的には似合ってると思うぞ?」
「え……ほ、本当……?」
「ああ。いつものお前の元気なイメージに更に明るさが加わってる気がするし、ミントグリーンのスニーカーも春らしい感じで良いと思う。まあ……俺の意見が参考になるかは分からないけど――」
「そんな事ないよ!」
俺の言葉に美波は大きな声で言葉を被せると、とても嬉しそうな笑顔を浮かべながら言葉を続けた。
「昔から見てくれてる司からの言葉だからこそ、私は本当に嬉しいんだよ。他の人からの的確なアドバイスとか褒め言葉じゃなく、幼なじみで一番仲が良いと思ってる司からの言葉だから、ね」
「……そうか」
「うんっ!」
そう満面の笑みを浮かべながら言う美波の表情から、本当に嬉しいと感じている事が伝わってきた瞬間、俺の中でも嬉しいという気持ちが徐々に湧き上がってくるのを感じた。
……そういえば、美波は昔から誰かと気持ちを共有するのが得意だったっけ。でもそれは、自分の気持ちを無理やり押し付けたり嘘の気持ちで共感を得ようとしたりするんじゃなく、心の底からの気持ちをしっかりと表に出しているから出来る事なんだろうな……。
少しだけ懐かしさと羨ましさを感じながら美波の事を見ていたその時、
『……ふむ?』
突然伊弉諾さんが不思議そうな声を上げたので、俺は神力を使って美波に聞こえないようにしながら伊弉諾さんに話し掛けた。
『伊弉諾さん? どうかしましたか?』
『……いや、美波さんが抱えているその白いふわふわとしたモノから覚えのある神力を感じる気がしてね……』
『覚えのある神力……』
そして俺が美波の腕の中のモノに視線を向けた時、それは突然もぞもぞと動き始めると、少し不思議そうな様子で俺の方へと顔を向けた。それを見た瞬間――
「『……あ』」
俺と伊弉諾さんが同時に声を上げた。美波の腕の中の白いふわふわとしたモノ、それは今朝の夢の中で伊弉諾さんと一緒に出て来た神様――白兎神さんだった。
「え……白兎神、さん……?」
あまりの驚きに俺が思わず声を上げると、それを聞いた美波が少し驚いた様子で話し掛けてきた。
「……司、しーちゃんの事を知ってるの……?」
「あ、ああ……今朝、夢の中で会ったからな」
「夢の中……って事は、もしかして……?」
「ああ。だけど、この話はあまり人前では出来ないし、とりあえず俺の部屋で話す事にしよう」
「あ、それもそうだね。それじゃあ、司が着替えるまでここで待ってるよ」
「いや、上がってくれて良いぞ? 外も暖かくなってきたばかりみたいだから、まだ少し冷えるかもしれないからな。それにお前が来たとなれば、リビングにいる母さん達も喜ぶだろうし」
「んー……そっか。それじゃあお言葉に甘えさせてもらおうかな?」
「ああ、そうしとけ。お前に風邪を引かれるのは、俺としても困るからな」
「え……? そ、それって……」
驚いた表情を浮かべながら少しだけ頬を赤らめる美波のその様子から視線をそらしつつ俺は返事をした。
「……あくまでも、幼馴染みとして心配だからだ。それに、入学式の日から風邪を引いてるなんて格好がつかないだろ」
「……ふふっ。それじゃあ、今のはそういう事にしとこうかな」
「……そうしとけ。とりあえず、俺は部屋に戻るから、声を掛けたら部屋の方に来てくれ」
「うん、分かった。それじゃあ、おじゃましまーす♪」
そんな楽しそうな美波の声を背にしながら、俺はひとまず部屋へと戻った。そして、部屋のドアをゆっくり閉めると、伊弉諾さんが静かに隣に現れた。
「……まさか、白兎神の『神威』が隣に住んでいた上、君の幼馴染みだったとはね」
「ええ、本当に。それにしても……伊弉諾さんは白兎神さんから『神威』の名前とかについて聞いていなかったんですか?」
「ああ。白兎神とは昨日の夕方に出会ったばかりだった上、協力を取り付けるのを優先していたからね。それに協力関係になってからでも情報の共有は出来ると考えていたから、白兎神とは伊弉冉の事や【八百万大戦】の事ばかりで白兎神の事については軽くしか話していなかったんだよ」
「なるほど……」
まあ、現状を考えればそうせざるのも仕方ないのかもしれないな。伊弉冉尊さんが何を考えているかが分からない以上、常にそっちの方に意識を向けていないといざという時に対応が遅れかねないわけだし……。
そんな事を考えながら寝間着から着替えた後、俺は伊弉諾さんとアイコンタクトを交わし、伊弉諾さんに再び俺の中へと戻ってもらってから部屋を出た。そして、そのまま階段を下りてリビングの方へ行くと、そこでは美波と母さんがまるで友達同士のような仲の良さで楽しそうに話をしており、白兎神さんは美波に撫でられながら大人しく美波の膝の上に座っていた。
……【八百万大戦】が関わってなかったら、本当に平和な光景なんだけどな……。
母さん達の様子を見ながらそんな事を考えていた時、突然美波が俺の方へと顔を向けた。
「あ、着替え終わった?」
「ああ、そうだけど……俺がいるってよく分かったな」
「ふふっ、当然だよ、司。司とは昔から一緒だったから、大体の行動パターンとかはしっかりと把握出来てるんだよ♪」
「……それ、俺からしたらそこそこ怖いんだけど?」
「あははっ、全然怖くないよー。
「幼馴染み力、ねぇ……。まあ、その不可思議パワーについては一度置いておくとして……とりあえず俺の部屋に行くぞ」
「うんっ!」
美波は元気よく返事をした後、静かに立ち上がってから母さんの方へ再び顔を向け、ニコリと笑いながら元気よく話し掛けた。
「それじゃあ、司の部屋に行ってきます!」
「うん。司の事、よろしくね、美波ちゃん」
「はい、任せて下さい!」
母さんの言葉に美波は明るい笑顔のまま頷きつつ答えた。そんなまるで本当の親子のように仲の良い二人の様子を見ていた時、伊弉諾さんがこっそりと話し掛けてきた。
『美波さんは司君の母上ととても仲が良いんだね』
『はい。趣味や好みなんかもピッタリと合うみたいで、昔からあんな感じなんです』
『なるほどね』
楽しそうに話をしている美波達を見ながらそんな事を話していると、話を終えた美波がニコニコとしながら少し小走り気味に近付いてきた。
「お待たせ! それじゃあ行こっか!」
「ああ」
美波の言葉に返事をした後、俺達は一緒に俺の部屋へと向かった。そして、部屋のドアをゆっくりと閉めると、美波が部屋の様子をグルリと見回しながら楽しそうな声を上げた。
「わぁっ……! 司の部屋、二年前と全然変わらないねぇ……!」
「……まあ、あっちに行ってた間に趣味嗜好が変わったわけじゃないし、そんなもんだろ」
美波の言葉に返事をしながら俺は部屋の様子を何となく見回した。部屋の中には、少し大きめのベッドに茶色の
学校が始まるまでにはしっかりと片付けないといけないな……そうじゃないと、いつまでもやらずに置いたままになりかねないし。
部屋の様子を見ながら静かに決意を固めていると、美波の腕の中にいた白兎神さんが興味深そうな声を上げた。
「ここが司さんのお部屋……一般的な男性の部屋がどういった物かは分かりませんが、とても穏やかな印象を受けます」
「あははっ、しーちゃん堅すぎだよ? もう少し柔らかい話し方でも良いんじゃない?」
「……考えておきますね」
静かに答えた後、白兎神さんは俺の方へと顔を向けた。
「司さん、おはようございます」
「おはようございます、白兎神さん。まさか、白兎神さんの『神威』が美波だったとは思いませんでしたよ」
「ふふ、私も驚きましたよ。改めてよろしくお願いしますね、司さん」
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
俺達が言葉を交わし合っていると、美波は周囲をきょろきょろとしながら俺に話し掛けてきた。
「ところで……司のパートナーは? 司の中とか?」
「ああ。一応神力で姿を隠せるとはいえ、白兎神さんとは違ってこっちは人型だからな」
「あ、そっか……しーちゃんは兎の姿だから新しいペットとかって言えるけど、人型だとそうもいかないもんね」
「そういう事だ」
すると、その言葉と同時に伊弉諾さんが静かに姿を現した。
「まあ、今はその心配も無いから、こうして姿を現す事が出来るけどね」
「ですね。ここにいるのは、八百万の神々とその『神威』達だけですから」
「そうだね」
そう言いながら伊弉諾さんと頷き合った後、ふと美波の方へ視線を向けると、美波はボーッとした様子で伊弉諾さんの事を見ていた。
ん……? 美波……?
「美波、どうかしたのか?」
「……へ?」
そんな変な声を上げながら俺の方に視線を移すと、美波は突然ハッとした表情を浮かべた。
「ご、ゴメン! ちょっとボーッとしちゃってた!」
「それは別に良いけど、何かあったのか?」
「ううん、たぶん伊弉諾さんの神々しさみたいなのに圧倒されてただけだと思う。ほら、伊弉諾さんって日本の神様のお父さんでしょ? だから、一際スゴい印象があるんだよね」
「なるほど」
言われてみれば確かにそうかもしれないな。俺の場合は、二年間向こうにいたからあまりそういう感じにはならないけど、ずっと日本にいる美波達からすれば、伊弉諾さん達はスゴい神様達っていう印象を受けるのは仕方ないかもしれない。
「……これを機に、八百万の神々について一度しっかりと調べてみるのも良いかもしれないな」
そう独り言ちていると、伊弉諾さんがニコリと笑いながら俺に話し掛けてきた。
「私からもそれは推奨したいところだね。この【八百万大戦】を勝ち抜くためにも、神々についての情報は知っておいた方が事を有利に運びやすくなるからね」
「確かにそうですね。まあ、暫くの間は伊弉諾さんに神々について色々と訊く事にはなると思いますが、その時はよろしくお願いします」
「ああ、任せてくれ。君の相方として精一杯尽力させてもらうよ」
そう言いながら俺達が笑い合っていると、美波と白兎神さんが俺達の事を見ながら微笑ましそうな表情を浮かべた。
「……ふふ、司と伊弉諾さん、もうすっかり仲良しさんだね」
「んー……まあ、そうだな。
「ふふっ、確かにそうかもしれませんね」
穏やかな雰囲気を醸し出しながら白兎神さんがニコリと笑う様子を見て、俺は静かに微笑んだ。本当の事を言えば、伊弉諾さん達とはこういう出会い方じゃない出会い方をしたかった。伊弉諾さんも白兎神さんもとても良い神様だし、本当に良い友人として付き合っていけると心から思うからだ。けど、こういう事態が起きてしまっている以上、伊弉諾さん達とは友人としてだけではなく、共に戦う仲間として過ごしていかないといけない。
……戦っていく先に何があるのかは分からないけど、伊弉諾さん達と一緒にいられる間は精一杯伊弉諾さん達のために頑張っていこう。それが俺の『神威』としての使命だから。
拳を強く握りながら強く決意を固めていると、伊弉諾さんが真剣な表情を浮かべながら静かに口を開いた。
「それでは、そろそろ作戦会議を始めよう。皆、準備は良いかな?」
「はい」
「はい!」
「もちろんです」
俺達が返事をすると、伊弉諾さんは頷いて答えてから再び口を開いた。
「まず、現状の再確認だ。現在、伊弉冉が八百万の神々と人間達を巻き込んだ争い――【八百万大戦】を始めようとしている。そして、私と司君は開始されるのが4月からだと予測している。白兎神、この予測に何か異議はあるか?」
「いえ、私もそうだと思います」
「分かった。そして、【八百万大戦】の簡単なおさらいだが、私達神々と司君達人間のペアによる争いであり、勝負の内容は勝負を行う当事者達によって様々だ。よって、勝負を行う前に相手の情報を多く集めておく事が勝負の鍵となる」
「だから、しーちゃんの力でどんな神様が近くにいるかとか日本の神様の情報とかを知っていた方が良いんですよね?」
「その通りだ。なので、そういう意味では我々は非常に有利ではあるんだが、油断をしていてはすぐに足元を掬われてしまう。よって、【八百万大戦】が開戦した後は、周囲の様子に注意を向けていかなければならない。神の中にも情報収集に長けていたり影のようにひっそりとした戦い方に向いている奴もいなくは無いからね」
「なるほど……あ、一つ質問しても良いですか?」
「何かな?」
「もし……もしもですけど、一人の『神威』が同時に別の神様の『神威』になる事って可能なんですか?」
俺がその疑問を口にした途端、部屋の中の空気がピリッとした物へと変わり、伊弉諾さんと白兎神さんの顔が険しい物へと変わった。
「え、え……? 伊弉諾さん、しーちゃん、一体どうしたの……?」
状況を飲み込めていない美波がおろおろしながら疑問の声を上げると、伊弉諾さんは真剣な声で俺に話し掛けてきた。
「……司君、何故そう思ったのかな?」
「……何となく思ったんです。【八百万大戦】を行うにあたって、伊弉冉さんもこちらに降りてきてるとすれば、既に誰かの『神威』になっている人間の中に潜んでいる可能性もあるな、と」
「え……でも、何のために……?」
「恐らくだけど、こっちにいる間の神力の消費を抑えたいからと伊弉諾さんの盲点を突きたいから、だと思う。さっきも話題にしたけど、白兎神さんのように動物の姿の神様はまだ色々と誤魔化しようがある。けど、伊弉諾さんや伊弉冉さんのような人型だとそうもいかない。だから、そのために神力を使って姿を隠したり何かしらの方法を使って空腹を満たしたりしながら【八百万大戦】の行く末を見ていく事になるけど、『神威』の誰かの中に潜むことさえ出来れば、その問題は全て解決する。もう一柱の神様とその『神威』に戦ってもらってる間、自分は他の神様の様子を見に行ったり【八百万大戦】の流れを変える方法を考えたり、といった色々な事をこっそりと出来るからな」
「な、なるほど……」
「加えて、伊弉諾さんに限らず、この【八百万大戦】に参加している神様は、【八百万大戦】は基本的に『人と神様のペア』で参加する物だと考えているから、誰かの『神威』の中にいれば自分の居所を探られづらくなる。伊弉諾さんと白兎神さんにとって、伊弉冉さんの居所を探るのが最優先事項なのは伊弉冉さんも分かっているはずだからな。よって、一人の『神威』が複数の神様の『神威』になる事が可能ならば、伊弉冉さんはほぼ確実にその手を使っていると思う」
自分の考えを口にした後、俺は未だ険しい表情を浮かべている伊弉諾さんの方へ顔を向けた。
「伊弉諾さん、実際の所はどうなんですか?」
「……正直に言うならば、一人の『神威』が複数の神と組む事は可能なはずだ。しかし、それを行うには『神威』となる人間と神の相性が良い上、二柱の神に神力の供給を行う事が出来る程、強い力を持っている事が条件となる。そして、もし相性が良くとも力の条件を満たさずに『神威』になろうとしたその時は……」
「……その時は……?」
「良くとも人格や思想の変化、最悪で生命が停止する。つまり、可能ではあるが、本来であれば手を出してはいけない禁忌の法という事だ」
「最悪で死、か……」
「そして、少し補足説明をさせてもらうと、勝負以外で『神威』または神のどちらかが何かしらの理由で息を引き取った場合は、お互いを繋いでいる神光の綱は断ち切られ、ペアとしての関係性も絶たれる。そのため、『神威』が無くなった場合は、神は新たな『神威』を見つけ出す必要があるのに対し、神が無くなった場合は、その人間が『神威』で無くなり、今まで通りの生活に戻ることが出来る」
「……つまり、【八百万大戦】を勝ち抜いて願いを叶える事が目標のペアは、お互いの命をしっかりと気に掛けないといけない。そして、もし『神威』が使えないと判断した場合は、神が『神威』の命を奪って別の『神威』に乗り換える事も出来る、と……」
俺のその言葉に美波が怯えたような表情を浮かべる中、伊弉諾さんは哀しそうな表情を浮かべながら静かに頷いた。
「……残念ながらその通りだ。私としてはそのような事態は起きてほしくないが、その可能性も考えておかないといけないね」
「……ですね」
伊弉諾さんの辛そうな言葉に俺は呟くような声で答えた。俺自身、伊弉冉さんをそういう神様だとは考えたくないし、他の神様達だってそういう事をする存在だとは思いたくない。けれど、そういった可能性も視野に入れておかないといざという時に真実を掴む事が出来なくなってしまう。誰かの事を想うのは大事な事だけど、感情論だけでは何も見つけられないし何も解決できない。
……こうなったら、何としても早めに伊弉冉さんを見つけないといけないな。
そう思っていたその時、
「あ、あの……一つよろしいですか?」
白兎神さんが恐る恐る声を上げたため、俺達の視線が白兎神さんへと集中した。
「何かな? 白兎神」
「先程、司さんが何かしらの方法を使って空腹を満たす必要がある、と仰っていましたよね?」
「ええ、そうですけど……それが一体?」
「……この数日間、私は空腹感を覚えていないのです」
「……え?」
その白兎神さんの言葉に俺が疑問の声を上げると、美波が何かを思い出したようにポンッと手を叩いた。
「あ、確かにそうだよね。ウチの場合はお母さん達に怪しまれないようにしーちゃんにはペットの兎のフリをしてもらってるけど、しーちゃんのお腹の音を聞いた事は一度も無いかも」
「え、でも……伊弉諾さんは、空腹感を覚えてるみたいなんですけど……?」
俺がそう訊くと、白兎神さんは伊弉諾さんの方へと顔を向け、少し怒った様子で話し掛けた。
「伊弉諾さん、私達に何か隠している事はありませんか? 例えば……伊弉冉さんとの事などで」
「……やはり、隠しきれる物でも無かったか」
そう言うと、伊弉諾さんは小さくため息をついてから俺の方へと顔を向けた。
「司君、私が空腹感を覚えている事は本当だ。しかし、原因は下界に降りてきた事は別にある」
「それじゃあ、一体どうして……?」
「……これを見てくれ」
伊弉諾さんがそう口にした瞬間、伊弉諾さんの体に何か黒い靄のような物が纏わり付いているのが見えた。そしてそれが一瞬の内に消えると、伊弉諾さんは小さくため息をついてから再び口を開いた。
「今のは私が下界に降りる直前に伊弉冉から受けた恨みの念、いわば呪いのような物だ。これは対象となったモノの身体を徐々に蝕み、やがては死へと至らしめるという効力を持っている」
「そんな物が……」
「ああ。人間であれば、すぐに命を失ってしまうところだが、私も神の一柱だからね。今はこうして進行を遅らせながら、徐々に解呪を行っている。しかし、それには神力を多く使う必要があり、それによって本来であれば無いはずの空腹感や力の低下といった状況を作り出しているんだ」
「つまり、伊弉諾さんはその解呪が終わらない限りは本来の力を出す事が出来ないという事ですよね?」
「……その通りだ。司君、黙っていて本当に申し訳なかった……」
伊弉諾さんは本当に申し訳ないといった様子で俺に頭を下げた。非があったとはいえ、神が人間に頭を下げる。その事に白兎神と美波は少し戸惑った様子を見せたが、俺は頭を下げている伊弉諾さんの姿から目を反らさずにニコリと笑いながら口を開いた。
「伊弉諾さん、俺は別にその事について怒る気はありませんし、謝らなくても良いですよ。伊弉諾さんが俺に黙っていようとした理由は何となく分かりますから」
「伊弉諾さんが黙っていようとした理由……?」
「ああ。美波がさっき言ったように、伊弉諾さんは日本の神様の父親だ。つまり、この【八百万大戦】においては、ほぼ最強の存在として考えられ、真正面からぶつかってこられたり力と力の勝負に持ち込んでこられたりする事をどのペアも恐れるはずだ。ところが、その力が低下しているとなれば、その隙を突いてこようとしたり俺自身に危害を加えてこようとするペアが高確率で出てくる。強い敵が弱っている間に倒したいのは、誰だって同じだからな」
「え……でもそれなら、尚更司に教えておいた方が――」
その瞬間、美波はハッとした表情を浮かべた。そして、俺の方へ視線を向けると、確信に満ちた表情を浮かべながら言葉を続けた。
「……司の場合、それに気を取られて日常生活に影響を及ぼしてしまうから、そして伊弉諾さんが攻撃されそうになったら、すぐに庇おうとするから、だよね?」
「……ああ、その通りだ。もっとも、気を取られすぎる事はまず無いと思うけど、庇おうとするのは間違いないだろうな。たとえ、自分じゃあ手に負えないような攻撃が来たとしても」
「うんうん、そうだよね」
俺の言葉に美波は納得顔で頷いた。俺の性格的に庇えないまでも何かしらの方法を用いて、伊弉諾さんへの攻撃を全力で阻止しようとするのはまず間違いない。それは俺が伊弉諾さんの『神威』だからというだけではなく、力が低下している伊弉諾さんの事を放っておけないから、そして伊弉諾さんの事を相方であり大切な友人だと思っているからだ。しかし、だからこそ伊弉諾さんは、俺にこの事を出来る限り黙っていようとした。何故なら――
「伊弉諾さん、俺に黙っていようとした他の理由、それはこうやって【八百万大戦】に巻き込んでしまったとはいえ、俺には出来る限り今まで通りの生活を送ってほしかったからですよね?」
「……その通りだ」
俺からの問い掛けに伊弉諾さんは静かに頷きながら答えた後、俺達の事をゆっくりと見回しながら言葉を続けた。
「結果として無理やり巻き込んでしまったが、司君には常に【八百万大戦】の事を考えているような生活を送っては欲しくなかった。しかし、私に掛けられた呪いや力の低下の事を話してしまうと、司君はその事に意識を向けるようになってしまい、一般的な高校生らしい生活を送れなくなってしまう恐れがあった。だから私は、出来る限り黙っていようとしたんだよ」
「ですが……そのまま黙っていられるわけでは無いですよね?」
「ああ……だが、力が低下したといえ、余程の相手でなければ後れを取る事は無い程、私にはまだ力は残っている。そのため、【八百万大戦】が佳境に差し掛かり、私の解呪も無事に終わりそうな頃に話すつもりでいたんだよ。その頃ともなれば、司君も様々な経験を積んでいただろうし、黙っている状態で勝てるような相手が残っている可能性は殆ど無かっただろうからね」
「なるほど……」
「……だが、『神威』である君にこの事を黙っていようとしたのは、やはり良くなかったと今では思っている。本当に申し訳なかった……」
そう言うと、伊弉諾さんは再び深く頭を下げた。そして、その様子を美波と白兎神さんはとても不安そうに見つめる中、俺は静かに口を開いた。
「伊弉諾さん。さっきも言いましたけど、俺はこの事について怒る気はありません。伊弉諾さんが俺の事を思ってそうしてくれた事は分かっていますから。ただ……一つだけ言わせて欲しい事があります」
「何……かな……?」
その伊弉諾さんの暗い声を聞いた後、俺は一度深呼吸をした。そして、ニコリと笑いながら俺は伊弉諾さんに右手を差し出した。
「自分でも言うのもアレですが、俺は自分の身を守りながらでも他の人の事に注意を向けられる自信があります。だから今日からは、伊弉諾さんが抱えているその辛さや想いといった物を俺にも背負わせて下さい。俺達は人間と神様のコンビなのだから」
「司……君……」
「さあ、顔を上げて下さい、伊弉諾さん。何があろうと、俺は……貴方の味方であり続ける覚悟はありますから」
「……ありがとう、司君」
安心と強い覚悟が入り交じった表情で俺の手を取る伊弉諾さんの顔を見ながら、
「どういたしまして、伊弉諾さん」
俺はフッと笑ってそれに答えた。固く繋がれた伊弉諾さんの手から感じる仄かな温かさは、伊弉諾さんからの信頼のように思え、俺の手だけではなく心にもじんわりと伝わってくるような気がした。
……本当なら色々な事について怒ったって良いんだと思う。けれど、俺はさっきも言ったように怒ることなく、伊弉諾さんが背負っているモノを一緒に背負っていく事を決めた。そしてこの決意は、決して揺らぐことは無いだろう。何故なら、俺は伊弉諾さんの『神威』であり、伊弉諾さんの友人なのだから。
そう思いながら伊弉諾さんと握手を交わしていると、美波と白兎神さんがホッとしたように息をついた。
「良かったぁ……」
「ええ、本当に……」
「その様子だと……俺が伊弉諾さんに怒ると思ってたのか? まったく、幼なじみ力がどうとか言ってたのは、どこの誰でしたっけねぇ……?」
美波の目を見ながら少しからかい気味に訊くと、美波はムッとした様子で頬をぷくっと膨らませた。
「もう……! 本当に心配だったんだからね……!」
「はいはい、ありがとさん。よっぽどの事が無い限り、伊弉諾さんと喧嘩したりはしないから安心しろ」
「……それなら良いんだけどね」
俺の言葉に美波がふぅと息をついた後、俺はゆっくりと皆の事を見回した。そして、皆の覚悟が決まった表情に答えるようにコクリと頷いてから口を開いた。
「皆、【八百万大戦】はどうなるかは分からない。でも、俺達の力でこの下界と神界に平和を取り戻すためにも、全力で頑張っていこう!」
「ああ!」
「うんっ!」
「はい!」
声を揃えて答えてくれた皆の顔には一切の迷いは無く、その様子に俺は強い心強さを感じた。
ここに集まった皆となら絶対に頑張っていけるし、絶対に何とか出来る。
皆の顔を見ている内にそんな確信にも似た思いが俺の中に静かに広がっていった。
政実「第2話、いかがでしたでしょうか」
司「この感じだと……次回から本格的に始まる感じだな」
政実「うん。八百万の神様達にどんな神威を組ませていくかとかはまだ決まってないけど、その神様に合わせて色々と考えていくつもりだよ」
司「ん、了解。さて……次回の投稿予定は未定で良いのか?」
政実「うん、そうなるかな」
司「分かった。そして最後に、この作品についての感想や意見、評価などもお待ちしています」
政実「さてと、それじゃあそろそろ締めていこうか」
司「ああ」
政実・司「それでは、また次回」