司「どうも、神辺司です。森林浴ねぇ……まあ、森林浴には癒しの効果はあるらしいし、たまには良いかもしれないな」
政実「うん、それに森林浴は近所の公園の木が植わっているところを歩くのも含まれるみたいだし、時間があったら行ってみようかな」
司「そうだな。さてと……それじゃあそろそろ始めていくか」
政実「うん」
政実・司「それでは、第3話をどうぞ」
4月、日本神話の神様と人間のペアによって争われる戦い――【八百万大戦】が始まるとされる運命の月。そんな4月になってから一週間が過ぎた頃、俺は相方の神様である
「ふあぁ……それにしても、【八百万大戦】が始まったはずなのに、まったくどの神様からも勝負を仕掛けられてないよね?」
「ああ。けど、最初はどのペアも様子見に徹してるんだろうから、これくらいは想定内だな。白兎神さんみたいな索敵能力を持っている神様とか伊弉諾さんのように本来の力が強い神様の事を考えると、下手に動いて早々に敗退するよりは、まずどの神様が近くにいるかを調べた方が勝率が高くなるからな。実際、俺達だってクラスメートの中に同じような奴がいないとも限らないから、こうして俺達だけで昼食を取ってるわけだしな」
「ふふっ、確かにそうだね。でも、私は司達と一緒にいるのは好きだから、こうやって皆とは違う場所でご飯を食べられるのは本当に嬉しいよ?」
「……そうですか」
美波の太陽のような明るい笑顔から出て来たその言葉に静かに返事をした後、俺は昼食のサンドイッチの内の1つを口へと運んだ。俺達がこうして屋上で昼食を取っている理由、それはさっき言った理由の他に、男子のクラスメート達からの突き刺すような視線があまりにも痛かったからだ。当然だが、そういった視線を向けられるような事を俺はしたつもりはない。これから最低でも1年は一緒のクラスで過ごす奴らと最初から敵対しようとするのは、流石に馬鹿らしいからだ。では、何故そのような事になっているのか。その理由というのが――。
「……ん? どうかした?」
「いや……何でもない」
「そっか。でも、何かあったら遠慮なく言ってよ? 幼なじみとしても同じ『
「……はいはい、ありがとうな」
俺が静かに微笑みながら答えると、理由の一端を担っている存在――美波はとても嬉しそうな様子でニコッと微笑みかけてきた。そう、その理由というのがこの美波の言動なのだが、伊弉諾さん曰くそれに対する俺の反応も理由の1つなのだという。美波はいわゆる美少女と言われる類いの上に基本的に分け隔てなく接する明るい性格のため、入学式後の自己紹介の時点でクラスの男子達のハートを即座に掴んだ。しかし、本人はその事についてまったく興味が無く、男子達からの質問攻めにも適当な返事をした上、ささっと俺のところへと来た事で、初日から俺にまずは男子達からの敵意が向けられた。そしてそれだけではなく、美波の発言に対して俺がいつものように――軽くあしらうようにしていたのが、男子達的にはどうにも気に入らなかったようで、教室や廊下で俺が美波と一緒にいる度にどこからともなく突き刺すような冷たい視線を向けられるようになった。
はあ……本当にどうしたもんかな……。
そんな事を思いながらサンドイッチをもう1つ手に取ったその時、美波が両手をパンッと打ち合わせながら何かを思い出したような表情を浮かべた。
「そうだ――大事な事を忘れてたよ」
「……何だ?」
「お母さんから帰りに買い物を頼まれてたんだけど、司も一緒に来る?」
「遠慮しとく。俺は今日も学校内に『神威』がいないかを見なきゃ無いからな」
「えー……」
「えー、じゃない。どんな日本神話の神様が相手になるか分からない以上、少しでも情報は多いに越した事は無い。お前だって白兎神さんと離れたくはないだろ?」
「それはそうだけど……あまり根を詰めすぎるのも良くないんじゃない?」
美波が小首を傾げながら心配そうに言ってくるが、俺はそれに対して首を横に振りながら答えた。
「いや……どんな戦いでも地の利を得た方が確実に有利になる。俺達と同じ1年生ばかりが相手なら問題は無いけど、中には上級生や教師だって紛れているだろう。だったら少しでもこの校内を知っておいたほうが明らかに良い。そうでもしないと、校内の施設や環境を神様が持っている能力と組み合わされ、戦う前から負ける事もあり得るからな」
「戦う前から負けって……そんな事、本当にあり得るの?」
「無くはない。この【八百万大戦】で勝敗が決まる条件は、あくまでも
――ただでさえ、俺にとってクラスの男子達すら敵みたいになり得るからな。思わずそう言いそうになったが、その言葉は咀嚼していたサンドイッチと一緒に飲み込み、傍らで静かに佇む伊弉諾さんに声を掛けた。
「伊弉諾さん、自然環境に干渉が出来る神様も当然いますよね?」
「そうだね。これは日本の神に限らないが、神は海や山のような自然環境、縁結びや学業成就のように目には見えない物などを司っているからね。白兎神が他の神々の位置を探査できるように、周囲の自然や人間に干渉してそれを操作したりや炎に水などを生み出して攻撃を加えたりする神も中には当然いる」
「それなら、やっぱり――」
「しかし、美波さんが言うように根を詰めすぎても今度は精神の方が参ってしまう恐れがある。なので、しっかりと休息を取れる時には取っておいた方が良い。まあ、今日の探索について止めはしないが、『神威』同士の連携を高めるためにも美波さんとの登下校は大切にした方が良いだろうね」
「……分かりました」
まだ少しだけ納得はいかなかったが、【八百万大戦】に一番関係がある伊弉諾さんの言葉にはしっかりとした重みがあったため、俺はそれに大人しく従う事にした。そして、白兎神さんと伊弉諾さんが美波と話をし始めたのを見て、俺は今日の探索について考える事にした。
……ふむ、それなら今日の探索中は、昨日の内に考えていた策を一つだけ実行してみるとするか。ただ……これが成功した場合、上手くいけばしばらくは探索をしなくても良くなるけど、最悪の場合今度は俺達が捜される側に回る可能性もあるという大博打にはなる。だからやるからには、それなりの覚悟を持って臨む必要はあるけど、この【八百万大戦】に参加している以上、これくらいの覚悟を決める場面なんてこれからも当然のようにあるからな。
「……鬼が出るか蛇が出るかは分からないけど、今はこの大博打が当たる事を願っておくかな」
そう独り言ちた後、最後のサンドイッチを口へと運び、それをしっかりと飲み込んでから、美波達の会話へと混ざった。
放課後、校門の前で美波達と別れた後、俺は伊弉諾さんにある頼み事をした。伊弉諾さんは頼み事の内容にスゴく驚いていたが、俺が重ねて頼むと少し不安そうにしながらもその頼みを聞いてくれた。そして、目を閉じながら『ある物』を確認した後、部活動を行う生徒達の声が響く校内を伊弉諾さんと一緒に歩き始めた。
……さて、これが吉と出るか凶と出るか……。
周囲の気配に注意を払いながら校内を歩き続ける事約数分、俺達が中庭へと差し掛かった時、近くに植えられていた桜の木の陰から2つの気配と突き刺すような視線を感じた。
どうやら、賭けには勝ったようだな。
そう思いながらそちらへ視線を向け、視線の主の動きに注意をしながら声を掛けた。
「……いるのは分かってる。早く出てきたらどうだ?」
「…………」
「出て来ないならこっちから行かせてもらうが、それでも出て来る気は無いか?」
俺の中の神力の気配を軽く漂わせながら問い掛けた時、「……仕方ねぇな」と言いながら視線の主達が木の陰からゆっくり姿を現した。出てきたのは、同学年と思われる茶色のストレートヘアーの男子生徒と中性的な顔立ちをした緑色の和装と緑色の葉の形をした首飾りを身に付けた短い銀髪の人物で、和装の人物が放つ神力はとても穏やかだったが、男子生徒からは荒々しい神力を感じた。
和装の方が神様なのは間違いないけど、一体何の神様なんだ……?
相手の言動などからどの神様なのかを推測しようとしたその時、中にいた伊弉諾さんがスーッと隣に現れると 、相手から視線を外す事なく話し掛けてきた。
「……あれは、木の神の
「木の神……確かにここだとだいぶ厄介な相手ですね」
俺達が今いる中庭には、桜の木や校長の趣味だという松の木を含めた様々な樹木が植えられているため、樹木を司る木の神にとってはかなり有利な場所だが、俺達にとっては実に不利な場所だと言えた。
……まさか、美波に言ったような状況に近い事になるとはな……。詰みになるような点がいまのところ無いからまだマシであるけど、久久能智神さんが樹木を司るという事は、
周囲の様子と相手の様子の両方に注意を向けながらそんな事を考えていたその時、男子生徒の方が敵意に満ちた視線を向けながらまるで威圧するように大きな声で話し掛けてきた。
「神辺! お前のその余裕ぶっこいたツラぁ、今日こそ歪ませてやるぜ!」
「今日こそって……お前、俺の事を知ってるのか?」
「はぁ!? お前……クラスメートの顔すら覚えてねぇのか!?」
「クラスメート……あ、もしかして同じクラスの
「そうだよ! お前と同じクラスの緑山樹だよ!」
男子生徒――緑山が心からイラッとした表情を浮かべながら怒りに満ちた声を上げていると、隣に立っている伊弉諾さんが「はあ……」と小さく溜息をつきながら額を軽く抑えた。
「司君……何故クラスメートの顔を覚えていないんだ?」
「いや……クラスの男子達はほぼ全員が美波に心を奪われている上、俺には敵意しか向けて来ないので、正直関わる機会が全くないんですよ……」
「それでも一応はクラスメートなのだから、名前と顔はしっかりと一致させておいたほうが良いんじゃないのかな?」
「うーん……まあ、それもそうですね」
頭を軽く掻きながら伊弉諾さんの言葉に答えた後、未だに敵意に満ちた視線を向けてきている緑山へと声を掛けた。
「緑山、本当にすまなかった。これからはお前も含めてクラスメートの名前は覚えておくようにするよ」
「てめぇ……本当に俺達の事には興味がねぇんだな……! そんな奴のくせに、幼なじみというだけで神河に好かれているのを面倒くさそうに接するてめぇなんかに俺達はぜってぇ負けねぇ!」
「あ……やっぱりそういう理由だったのか」
「そう――」
「いえ、貴方がたを狙った理由は他にもあります」
「ちょっ――
「樹、貴方の怒りは分かりますが、怒りに心を囚われていては勝てる戦いも勝てなくなります。私が話をしている間、貴方は心を静めておいて下さい」
「う……わ、分かりました……」
緑山が渋々引き下がると、その人物――久久能智さんは満足げに頷きながら緑山に対してニコリと微笑んだ後、すぐに真剣な表情へ戻しながら俺達の方へと顔を向けた。
「伊弉諾様、お久しぶりです」
「ああ、久しぶり。まさか君との再会がこのような形になるとは思ってもみなかったよ、久々能智神」
「そうですね。誰もいない教室でこの大戦について樹と話をしていた時、貴方の神力の気配が突然漂ってきた時はまさかとは思いましたが……本当に貴方だったとは驚きです」
「はは、それはそうだろうね。だがこれは、私の『神威』である司君がどうしてもと頼み込んできた事だからね。司君のパートナーとしては、頼みを断るのは忍びなかったんだよ」
「ほう……そういう事でしたか。つまり、私達は貴方の『神威』によって、まんまと誘き出されたわけですね」
久久能智神さんが右手を軽く顎に添えながら面白そうに微笑んだ時、それを聞いていた緑山が口をポカーンと開けながら信じられないといった様子を見せた。
「俺達が誘き出された……? 久久能智さん、それってどういう事ですか!?」
「樹、この大戦において大事なのは、何か分かりますか?」
「それは――いかに相手に情報を渡さないようにしながら相手の情報を予め知っておく事ですよね?」
「その通りです。そしてそのためには、今日までの私達のようにこっそりと能力を使いながら情報を集める必要があります。ですが、伊弉諾様の『神威』はわざと伊弉諾様の神力の気配を漂わせ、油断をしていると見せ掛けながら私達のように寄ってくる相手を待ち構えていた、という事です」
「で、でも……」
「ええ、これは明らかに分が悪い賭けです。伊弉諾様は私達の父親ですから、真っ正面からぶつかろうという者は殆どいません。それに加え、寄ってくる相手がいなかった場合、伊弉諾様がいらっしゃる事とその『神威』の正体という情報を渡してしまうだけになります。なのに、こちらの『神威』――神辺さんはこの賭けを実行した。その理由だけがどうにも分からないのです」
不思議そうな声で言いながら俺へと視線を向けてきた瞬間、俺は久久能智神さんの目を見ながらその疑問に答えた。
「簡単な話です。伊弉諾さんが
「……ほう?」
「俺はこの大戦が始まる前に軽く日本の神様について調べていました。その時に伊弉諾さんが伊弉冉さんによって弱体化をされている事を知っていて、且つ様々な神様にその事を報せていそうな神様を見つけたので、この作戦を立てたんです。
久久能智神さん、貴方はその神様――
探るようにしながら久久能智神さんに問い掛けると、久久能智神さんはしばらく俺の目を見ながら黙っていたが、やがて諦めたように息をつくと、ニコリと微笑みながら静かに口を開いた。
「……お見事です。流石は伊弉諾様の『神威』と言ったところでしょうか。貴方の言う通り、私達は菊理媛神さんから情報を頂いていますし、他の神々――具体的には貴方がたの仲間である白兎神さん以外は、全員が知っている事です」
「へえ……流石は木の神様。白兎神さんが俺達の仲間である事まで知っているんですね」
「ええ、樹木は私に常に情報をくれますから。そして、白兎神さんの『神威』が貴方の幼馴染みである
その瞬間、緑山は再び信じられないといった様子で久久能智神さんに声を掛けた。
「久久能智さん……今、神河がこの【八百万大戦】に関わってるって言いました……!?」
「ええ、言いましたよ。神河美波さんは白兎神さんの『神威』であり、伊弉諾様と神辺さんの仲間なのは間違いないです」
「そ、そんな……!」
「ただ……その両名がこの場にいない事から、どうやら今回の作戦には協力していないようですけどね」
久久能智神さんが周囲の様子を探りながら落ち着いた様子で言う中、緑山は俺に対して再び敵意に満ちた視線を向けると、今にも殴り掛かってきそうな雰囲気で話し掛けてきた。
「おい、神辺! てめぇ……本当に神河をこの作戦に参加させてねぇんだよな!?」
「……アイツは家の用事があるから白兎神さんと一緒に帰ったよ。それに、アイツにはこの作戦を伝えていないから、ここに来るわけも無いしな」
「……そうか」
「それに……アイツは確かにこの大戦においての仲間だけど、アイツ自身も白兎神さんも俺達とは違って、明らかにサポートの方が向いてる。加えて、こんな陽動作戦をしないといけない程の膠着状態の中で戦いに参加させるわけにはいかないからな。緑山、アイツが傷付くのを見たくないのは、お前だけじゃなくて俺だって同じなんだよ」
「神辺……」
俺の言葉に緑山は少しだけ敵意を削がれたようだったが、すぐにハッとした表情を浮かべると、再び敵意剥き出しな様子を見せた。
「お前の気持ちは分かった……だが、お前と戦う気が無くなったわけじゃねぇし、お前を倒す気なのは変わらねぇからな!」
「ああ、分かってる。だが、俺だってこの【八百万大戦】を終わらせるためにも伊弉諾さんを勝ち上がらせる必要があるからな。どんなに不利な状況だとしても、お前と久久能智神さんには絶対に勝ってみせる!」
「へっ、そうこなくっちゃな!」
緑山が闘志に満ちた目をしながらファイティングポーズを取る中、久久能智神さんはそれとは対称的にとても落ち着いた様子で伊弉諾さんに話し掛けた。
「……伊弉諾様、貴方にも事情があるのは分かっていますが、私もこうしてこの大戦に参加している身です。樹やこの自然と共に貴方の事を倒させて頂きます」
「……そうか。話し合いで何とかなれば、と思っていたが……そういう事ならしょうがないな。私も神の一柱だ、司君と共にこの勝負に全力で臨ませてもらおう」
「ええ、もちろんです」
久久能智神さんが頷きながら返事をした後、伊弉諾さんと久々能智神さんはお互いに右手を空へと向け、お互いの神力を辺りへと解き放つと、中庭は突如光の壁で覆われた。
……これは、一体……?
その光の壁について疑問を覚えていると、伊弉諾さんは右手をゆっくりと下ろしながら静かに説明を始めた。
「これは私達の力で張った結界だよ。この結界内には神力を持った物しか入れず、この中で起きた変化などは結界が消えると同時に元に戻る。だから、色々な事を気にせず戦う事が出来るはずだ」
「……そうですね」
伊弉諾さんの言葉に対して静かに答えた後、俺達は張り詰めた雰囲気の中で静かに相手が動くのを待った。そして、一陣の風が俺達の間に吹いた瞬間、久久能智神さんは両手を高々と掲げ、空へ向かって呼び掛けるように大きな声を上げた。
「さあ……枝よ、そして木の葉よ! 私達の元へ集え!」
その声と同時に、周囲に散らばっていた木の枝や木の葉は独りでに動き出すと、緑山達の目の前に集まりながら一つに寄せ集まっていった。やがて枝葉の塊は、青い光を放ちながら静かに中へ浮き上がると、2つに分かれながら緑山と久久能智神さんの手の中へと飛び込み、徐々にその形を変えていった。そして光が止むと、緑山の手には刀身が緑色に染まった一振りの剣が握られ、久久能智神さんの手にはよくRPGで見るような茶色の杖が握られていた。
……枝葉を緑色の剣と茶色の杖へと変化させる。これが久久能智神さんの力の1つって事か。
それらに対して警戒心を持ちながらいつでも動けるように準備をしていた時、伊弉諾さんは緑山達から視線を逸らすこと無く体に静かに力を加えると、伊弉諾さんの体から小さな白い光が2つ飛び出した。そして、その光達はさっきの光のように俺達の手の中へ飛び込むと、やがて一本の矛へと形を変え、光が止んだ頃には俺達の手の中で虹色の矛としての姿を現した。
……これが伊弉諾さんの武器である『
緑山達の姿をしっかりと捉えながら手の中の『天沼矛』を強く握ると、『天沼矛』から確かな感触と強い神力が伝わり、それと同時に俺の中で闘志と勇気が満ち溢れてきたような気がした。そして、相手の動きに注意しながら一歩だけ前に進んだその瞬間、「行くぞ!」と大きな声を上げながら緑山が勢い良く飛び出し、その緑色の剣を俺へと振るってきた。その動きを観察しながら『天沼矛』を両手に持ち替え、柄の部分で緑色の攻撃を受け止めると、攻撃によるズシッとした重みと思わず矛を取り落としてしまいそうになる程の衝撃が伝わり、金属同士がぶつかり合う甲高い音が辺りに響き渡った。
「ぐっ……み、緑山……! お前、その剣を持ったのは……今日が初めてじゃ、ないな……!」
「へっ……ご名答! この大戦が始まる前……久々能智さんと一緒にいろいろ試してたからなぁ……! だから……こういう事も出来るんだ!」
緑山はしっかりと右手で剣に力を入れながら左手を空へ向けると、さっきの久々能智神さんと同じように大きな声を上げた。
「さあ……俺の剣――『
その緑山の声が中庭に響き渡ったその時、風も無い中で木々が突然サワサワと揺れ動きだし、辺りから数多くの小さな神力の気配が漂い始めた。そして、緑色の木の葉達は次々と木々から離れると、『護木剣』へと吸収されていき、それと同時に剣から伝わる重みと神力が格段に上がっていくのを感じた。
「ぐっ……ぐうぅ……!!」
「どうだ、神辺! この剣は周辺の木の葉や枝、更にはその神力を吸収してその強さを増していく! そして更に――」
緑山は顔だけ久々能智神さんの方へ向けると、ニヤリと笑いながら久々能智神に声を掛けた。
「久々能智さん! お願いします!」
「……分かりました。ですが、ムリはしないで下さいね……!」
久々能智神さんは、伊弉諾さんとの戦闘を続けながら杖を高々と掲げると、その体を緑色に輝かせながら再び大きな声を上げた。
「私の中の神力よ、樹の剣へと宿りなさい……!」
そして久々能智神さんの体から緑色の光が現れると、それは『護木剣』へと吸収されていき、さっきとは比べ物にならない程の重量と神力の気配に、俺は思わず気圧されそうになり、『天沼矛』を握る手も小さく震え始めた。
ま、マズい……! このままじゃ、本当に負ける……!!
「ははっ! 苦しそうだなぁ、神辺ぇ!」
「ぐ……く、苦しいとはまた違う……気がするし、このくらい……へっちゃら、だっ……!!」
「へっ、まだそんな強がりを言えるみてぇだが……お前が不利な事、そしてお前の相方が助けに来れねぇ程に苦戦してる事は変わらねぇだろ……!!」
「……確かにそう……だ。でも……!!」
そう言いながら『天沼矛』を持つ手を片方だけパッと離すと、緑山はその行動に驚いた様子を見せ、一瞬だけ力が弱まった。そしてその隙を見逃さずに離した方を固く握り、そのまま緑山の頬を強く殴りつけると、「がっ……!?」と驚きの声を上げながら緑山は剣を取り落としながらその場に倒れ込み、頬を痛そうに抑えながら信じられないといった様子で声を上げた。
「ば、バカな……!? 一瞬の隙を狙って俺を殴ったってのか!?」
「はあっ……はあっ……ああ、そうだよ。正直かなり厳しい賭けだったが、どうにかこの賭けには勝ったみたいだな……!」
息を切らしながらニヤリと笑うと、緑山は「……気に入らねぇ」とポツリと呟いた後、体をゆっくりと起こしてから怒りに満ちた声を上げた。
「てめぇのその余裕綽々な顔も! なんて事ねぇ様子で色々やってのけるその度胸も! その何もかもがやっぱり気に入らねぇ……!!」
「緑山……」
「神辺……お前にはぜってぇ負けられねぇんだよ! 久々能智さんをこの大戦で優勝させるためにも、お前を倒す事でお前が大した事ねぇ奴だって証明するためにもなぁ!!」
緑山は大声を上げながら勢い良く立ち上がると、『護木剣』の切っ先を空へと向けた。すると、それを見ていた久々能智神さんは、とても焦った様子で緑山へと声を掛けた。
「樹! それを使ってはいけません! 今の状態でそれを使うと、貴方の命に関わります!」
「……久々能智さん、すみません。けど――」
久々能智さんに対して申し訳なさそうに答えながら『護木剣』を更に強く握ると、緑山はとても必死な表情で言葉を続けた。
「俺も一人の男として、コイツには負けられないんです!」
「樹……」
「だから――これを使わせてもらいます!」
そして『護木剣』が強い光を放ち出すと、緑山は次第にとても苦しそうに息を切らし始めた。しかし、緑山は顔を顰めながらも『護木剣』を強く握り続けながら空へ向かって呼び掛けるように大声を上げた。
「俺の中の神力……この剣に宿り、アイツを倒すための力になりやがれーっ!!」
その声が中庭中に響いた瞬間、『護木剣』は光り輝きながらその形を徐々に変え、光が止んだ頃には『護木剣』は緑色のオーラを纏った一振りの刀へと姿を変えていた。
形状変化……だと? くっ、そんな事まで出来るのかよ……!
緑山が持つ刀から感じる強い神力と陽の光を浴びながら鋭く光る輝きに警戒しながら身構えていた時、緑山は額に大粒の汗を浮かばせながら大きな声で呼び掛けてきた。
「はあっ……はあっ……どうだ、神辺……! これが俺達の力、そしてお前達を倒す木々の真の力――『
「緑山……お前、そのままだと久々能智神さんが言うように、命を落とす事になりかねないぞ……!?」
「はっ……キツい事はキツいが、お前を倒せるならこのくれぇ大した事ねぇ! 一人の男として、お前の事を倒せるならなぁっ……!!」
その緑山の言葉に応えるかのように『新緑刀』はキラリと光ると、『新緑刀』の周りに木の葉を象った無数の神力の弾丸が現れ、それらが突然ピタリと動きを止めたかと思うと、一斉に葉の先を俺へと向けた。
「さあ……踊ってもらうぜ、神辺!!」
そして緑山が刀の切っ先を俺に向けた瞬間、木の葉型の弾丸は一斉に動き出し、次々と四方八方から俺に向かって飛んできた。
「くっ……!」
俺は扱い慣れないながらも、どうにか『天沼矛』の穂先を使いながら向かってくる木の葉型の弾丸を次々と打ち消していった。その時――。
「……前がお留守だぜ、神辺!」
「……え?」
『新緑刀』を上段に構えた緑山がいつの間にか目の前に立っており、俺はそれに対応をするべくすぐに体勢を立て直しながら再び両手に持ち替え、振り下ろされた刀をどうにか受け止めた。しかしその瞬間、打ち消し切れていなかった木の葉型の弾丸が次々と全身に命中した。
「あぐっ……!」
命中した事で生じた衝撃と痛みでその場に倒れ込みそうになったが、すんでの所で『天沼矛』を地面へと突き立てた事で、どうにか倒れ込まずにすんだ。しかし、弾丸が命中した箇所からは強い痛みと灼けるような熱を感じ、そしてここまで行ってきた戦闘の疲労と神力の消費の影響もある事から、正直な事を言うならば立っているのがやっとだった。
マズい……このままじゃ本当に負ける……! でもどうしたら良いんだ……!?
矛はリーチこそ長いが、突いて戦う武器な分、刀よりも攻撃できる範囲が狭い。その上、緑山は遠距離攻撃まで持っており、受けているダメージもこちらの方が多いと断言できるため、こちら側が圧倒的に不利な状況に立たされているのは間違いなかった。
万事休す、か……。
ずっしりとのし掛かってくる絶望感に心が折れかけたその時――。
「司君! まだ諦める時ではないぞ!」
そんな声が聞こえ、そちらへゆっくりと顔を向けると、伊弉諾さんが未だ闘志に満ちた眼をしながら俺の事を真剣な表情で見つめていた。
「伊弉諾さん……けど、この状況を打開する方法が……」
「方法ならある! 『天沼矛』に君の神力と勝利を願う思いを込めるんだ!」
「俺の神力と……勝利を願う思い……」
そうだ……俺は、伊弉諾さんをこの【八百万大戦】で勝ち上がらせ、主催神である伊弉冉さんを止めるために戦っているんだ。それに……俺がここで負けたりなんかしたら、残された美波と白兎神さんが圧倒的な窮地に立たされる……!
「……勝ちたい。俺は、この勝負だけじゃなく、【八百万大戦】で受けた勝負全てに勝ちたい……!
『天沼矛』よ、俺の願いに応えてくれ!」
勝ちたいという思いを強く抱きながら『天沼矛』に俺の中にある神力を込めたその時、『天沼矛』は金色の光を放ちながらその姿を徐々に変え、光が止んだ頃には『天沼矛』は神々しい雰囲気を漂わせる一振りの刀へと変わっていた。
これって……刀、だよな……? それにこの刀、どこかで見た事があるような気がする……。
黒い鞘に収まった刀は、何故か俺の手にスゴく馴染んでおり、初めて持った物とは思えない程、とてもしっくりときていた。俺はその感覚に思わずクスリと笑った後、いつの間にか湧き上がってきていた元気と勇気を感じながらゆっくりと立ち上がった。すると、緑山はさっきまでの威勢の良さとは逆に、少し怯えたような表情で声を上げた。
「何でだよ……何でまだ立ち上がれるんだよ……!?」
「……そんなの決まっている。勝負の前にも言ったが、俺には勝たないといけない理由があるからだ」
「勝たないといけない理由……だと?」
「ああ、そうだ。伊弉冉さんを止めたいという伊弉諾さんの思い、そして協力してくれている美波と白兎神さんの思い、その2つの思いのためにも俺は負けられないんだ!」
「……そうかよ。だがな、俺だって負けるわけにはいかねぇんだよ!」
緑山は再び『新緑刀』の周囲に木の葉型の弾丸を出現させると、それを発射すると同時に刀を構えながら俺に向かって走り始めた。
……弾丸は四方八方から攻め、その間を縫って緑山が斬り掛かってくる。だったら、話は簡単だな。
手の中にある刀を静かに鞘から抜いた後、俺は刀の切っ先を空へと向け、全ての木の葉を一刀の元に斬り捨てるイメージを浮かべた。その瞬間、俺の周囲を回りながら様子を窺っていた木の葉型の弾丸達が全て真っ二つになると、そのまま緑色の光となって消え去った。そしてそれを見た緑山が「なっ……!?」と驚きの声を上げる中、俺は一度正眼に構え直しながら緑山の姿をしっかりと捉えた後、すぐに上段へと移行してから、「はあーっ!!」と気合いを込めた声を上げながら緑山へ向けて袈裟切りのような形で刀を振り下ろした。
「くっ……!」
緑山は辛そうな表情で俺の刀を『新緑刀』で受けると、金属同士がぶつかり合う甲高い音が再び響き、お互いの距離が限りなく近くなりながら俺達はしばらく鍔迫り合いを続けた。そして、緑山の力が一瞬弱まったのを感じた時、俺はすぐに鍔迫り合いを止めて半歩だけ後ろへ下がった。それによって緑山の体が少しよろめいた隙を狙い、刀へ再び神力を込めた。そして刀が『天沼矛』へと戻った瞬間、「これでっ!!」と気合いを込めた声を上げながら『新緑刀』へ向けて『天沼矛』を力一杯に突き出すと、『天沼矛』の穂先は『新緑刀』の刀身へと当たった。すると、『天沼矛』が当たった箇所にヒビが入り、そのまま『新緑刀』の刀身全体にヒビが広がると、やがて『新緑刀』は粉々に砕け散り、緑色の光となって消え去った。
「なっ……う、嘘だろ……! そんな……『新緑刀』が、消えるなんて……!?」
『新緑刀』が消えた事に、緑山が心からの驚きを見せていた時、「……ここまでみたいですね」という声が突然聞こえ、俺はそちらへ顔を向けた。すると、久々能智神さんが伊弉諾さんとの戦闘の手を止めてこちらへと顔を向けており、その久々能智神さんの表情からは諦めと安堵の感情が見て取れた。そして、伊弉諾さんと一緒に俺達の方へ歩いてくると、久々能智神さんは未だ驚愕の表情を浮かべる緑山の方をポンッと叩きながら声を掛けた。
「……樹、私達の負けです。ここは大人しくそれを受け入れるとしましょう」
「久々能智さん……まだです、まだ俺には神力が――」
「樹、それ以上神力を使おうものなら、本気で怒りますよ。貴方が今の状態で神力を使った場合、貴方の体はそれに耐えきれなくなり、最悪の場合命を落とす事にもなります。私は貴方という人を失うのはとても辛いのです」
「久々能智さん……分かりました」
緑山は久々能智神さんの哀しそうな表情を見て、悔しさを滲ませながら大人しく頷いた。久々能智神さんは、それに対して満足げに頷くと、緑山を伴って俺達へ向かって静かに歩いてきた。そして、目の前でピタリと足を止めると、ニコリと笑いながら伊弉諾さんに話し掛けた。
「伊弉諾様、とても素晴らしい『神威』と出会われたようですね」
「ああ、私自身もそう思っているよ。彼――司君は私にとって自慢の『神威』だからね」
「ふふ……そうですか。私も樹の事を同じように思っていましたが、あと一歩のところで私達は敗北した。それは揺るぎない事実です」
久々能智神さんの表情はとても晴れ晴れとしていて、自分達の敗北をしっかりと受け止め、俺達の勝利を祝福してくれている事がしっかりと見て取れた。伊弉諾さんも同じ事を思ったのか、静かに笑みを浮かべてから久々能智神さんに話し掛けた。
「久々能智神、君がこの【八百万大戦】で叶えたかった願いを聞かせてもらっても良いかな?」
「ええ、もちろんです。私の願い、それは私の力を高める事で、この世界の様々な場所に木々を増やし、もっと人々の生活が豊かになるように取り計らう事でした。もっとも、流石に私だけではこの世界中に木々を増やしていくのは中々難しいので、願いの中には他の神々にも力を借りられるようにする事も含めていましたけどね」
「なるほど……実に、久々能智神らしい願いだったわけだね」
「ふふ……そうですね。この世界には現在、様々な争い事が起きており、それによって罪の無い人の命や自然が失われています。その中で、少しでも木々を増やしていき、木々がもたらす癒しの力で人々の心を穏やかな物にし、人々の生活が豊かになれば良いなと思っていました。そして、この下界へ降りて樹と出会った際、樹にもこの事を話したところ、樹はすぐに賛成をしてくれ、私の事を精一杯支えてくれると言ってくれた時、私は心からの喜びを感じました」
「久々能智さん……」
「樹、あの時は本当にありがとうございました」
久々能智神さんが深々と頭を下げると、樹は目に涙を浮かべながら首を横に振った。
「……久々能智さん、俺こそありがとうございました。久々能智さんと出会えた事で、俺は木の事とか自然の事について改めて考える事が出来ましたし、久々能智さんとの毎日はとても楽しかったです……!」
「ええ、私も楽しかったですよ。樹、私が【神界】に帰る前に、一つだけお願いを聞いてもらえますか?」
「は、はい……俺に出来る事なら……」
「では、お願いしますね。樹、この【八百万大戦】の間だけでも良いので、司さんのサポートをして頂けませんか?」
「……え? 久々能智さん……それは一体どうして……?」
緑山がとても驚いた様子で訊くと、久々能智さんはニコリと笑いながらそれに答えた。
「司さんは、貴方が思っている程、悪い方では無いからですよ 。貴方もあの戦いの中で、それは感じていたでしょう?」
「そ、そんな事……!」
「これはあくまでも私自身の主観に過ぎませんが、伊弉諾さんが
「そ、それは……でも、コイツのサポートなんて……!」
「サポート、とは言いましたが、別に共に戦って欲しいとは言っていません。あくまでも、司さんと日常生活の中でなんて事の無い話をしたり大戦においての相談に乗ったりしてあげて欲しいだけです。もっとも、その方法は貴方にお任せしますけどね」
「久々能智さん……」
「樹、貴方はとても優しい方です。貴方の本来の穏やかで優しい心や思い切りの良さなどは、きっと司さん達の助けになると思っています。
樹、頼まれてくれますか?」
久々能智さんが微笑みながら問い掛けると、緑山は少しだけ迷った様子で俺達と久々能智さんの顔を交互に見始めたが、やがて覚悟を決めた様子でコクンと頷くと、久々能智さんは安心したように微笑み、伊弉諾さんの方へ顔を向けた。
「伊弉諾様、司さん、必ずやこの大戦を終わらせて下さいね」
「ああ、もちろんだ」
「俺達に任せて下さい、久々能智神さん」
「ふふ……やはり貴方がたの神力は、とても心地よい物ですね。そして、勝負のルールに従い、貴方がたに私の力をお渡ししますね」
久々能智神さんが、右手に緑色の光球を2つ出現させると、それは静かに宙へと浮かび上がり、そのまま俺と伊弉諾さんの体の中へと吸い込まれていった。すると、身体中に力が漲り、さっきまで感じていた疲れなどがスーッと引いていき、戦う前と同じくらい体が軽くなったような気がした。
「これが……久々能智神さんの力……」
「私がお渡ししたのは、『周囲の木々や蔓などを操作でき、木々から受け取った力を己の力として変換できる』という物です。周囲に木々が無い場所ではあまり効果は無いかもしれませんが、きっと何かの役には立つと思っています」
「はい、ありがとうございます、久々能智神」
「どういたしまして。そして――」
久々能智神は再び緑山の方へ顔を向けると、身に付けていた首飾りを静かに外し、そのまま緑山へと渡した。
「これは私の神力を用いて作ったお守りみたいな物で、名を『
「久々能智さん……はい、もちろんです!」
緑山が涙を堪えながら笑みを浮かべて受け取った瞬間、久々能智さんの姿が徐々に緑色の光へと変わり始め、それを見た久々能智さんが哀しそうな笑みを浮かべた。
「……そろそろ、時間のようですね。それでは……皆さん、またどこかでお会いしましょう」
「ああ、また会おう、久々能智神」
「久々能智神さん、お元気で」
「久々能智さん! またいつか一緒にどこかへ行きましょうねー!」
「ふふ……はい、もちろんです」
緑山の言葉に微笑みながら答えた後、久々能智さんの姿は完全に細かい光へと変わり、それらは天へ向かって静かに昇っていった。
……最初の相手があの人で本当に良かったなぁ……。
久々能智さんが天へ昇っていく様子を見送りながらそう考えていたその時、緑山は再び覚悟を決めたような表情で『緑樹葉』を付けてから俺の方を向いたが、その表情にはまだ少しだけ迷いの色が浮かんでいた。
「……久々能智さんの頼みだから、とりあえずクラスでも話し掛ける事にはするし、何かの時には相談にも乗ってやる。だが、これだけは忘れるなよ。俺はまだお前の事を認めたわけじゃない、あくまでも久々能智さんの頼みだからだ」
「ああ、それでも良いぜ。たとえそうだとしても、これは大事な一歩だからな」
「……ふん、やっぱりお前のそういうところが気にくわねぇよ……。でも、久々能智さんが言うように思ったより悪い奴では無いみたいだし、少しずつ慣れていってやるよ」
「……ふふ、ありがとうな、緑山」
「……樹で良い。仕方なくなったとはいえ、これで俺とお前は仲間になったわけだからな」
「分かった……それじゃあこれからよろしくな、樹」
「……ああ。こちらこそ、司」
俺の握手に対して、樹はそっぽを向きながらもしっかりと握手を返してくれた。
……初めての勝負にも何とか勝ち、新たな仲間も出来た。これは本当に大きくて大事な一歩だな。
そんな事を思いながら樹と握手を交わした後、樹は「……じゃあな」と呟くような声で言ってから中庭を去っていった。そしてその様子を見送った後、俺はある疑問を伊弉諾さんへとぶつけた。
「伊弉諾さん、勝負の最中に起きた『天沼矛』の変化についてですけど、あれは一体何なんですか?」
「あれは私が使える力の1つで、『天沼矛』をこの国の神が用いている武具へと一時的に変化させられるという物なんだ。そして、さっき変化したのは、『
「なるほど……因みになんですけど、これは自分でこれに変えたいと思った物に変える事は出来ますか?」
「可能な事は可能だが、今の司君の神力では難しいかもしれないね」
「そう……ですか」
俺はいつの間にか消えていた『天沼矛』の事を思い浮かべながら伊弉諾さんの言葉を噛みしめた。
つまり……まだまだ修行が必要って事だな。この【八百万大戦】を勝ち抜くのも大切だけど、神力自体の強化もそろそろ視野に入れていかないといけないかもしれないな……。
体の中を巡る神力の気配を静かに感じながらその決意を固めていた時、伊弉諾さんがクスリと笑いながら声を掛けてきた。
「さあ、そろそろ帰るとしよう。一応、結界のおかげで他の人間達には音などは聞こえなかっただろうけど、他の組に見つかってしまう恐れがあるからね」
「そうですね」
伊弉諾さんを言葉に頷きながら答えた後、俺達は中庭を後にし、教室に置いたままにしていた荷物を取りに戻った。
翌日、美波と一緒に登校しながら昨日のことを話していた時、偶然校門の前で樹と出会った。
「おはよう、樹」
「……ああ、おはよう。何か用か?」
「いや、ただ挨拶をしようと思ってな」
「そうか」
「ああ。あ、それと……今日の昼に予定が無かったらで良いんだけど、俺達と一緒に昼食を食わないか? これからの大戦について話もしたいからさ」
「……分かった。予定が無かったら、屋上へ行くよ」
「ああ、頼んだぜ」
その言葉に対して無言で頷いた後、樹はそのまま校門を通っていき、その様子に美波は少しだけ暗い表情でポツリと呟いた。
「せっかく仲間にはなってくれたけど、笑って話すにはもう少し時間が必要みたいだね……」
「そうだな。でも、少しずつは前進してるし、焦らずにゆっくりとやるさ。さあ、俺達も行こうぜ、美波」
「うん!」
新たな仲間を加えた俺達の【八百万大戦】を巡る毎日は、こうして幕を開けたのだった。
政実「第3話、いかがでしたでしょうか」
司「今回は初戦だったのに加えて、新しく仲間が増えた回だったけど、こんな風にこれからも仲間は増えていくのか?」
政実「必ずではないけど、仲間に加わるキャラはこれからも出て来るかな」
司「分かった。因みに、次回の投稿予定は未定で良いのか?」
政実「うん、そうだね」
司「了解。そして最後に、この作品についての感想や意見、評価などもお待ちしています」
政実「さて、それじゃあそろそろ締めていこうか」
司「ああ」
政実・司「それでは、また次回」