司「どうも、神辺司です。花言葉か……そういえば、他作品の中でもたまに花言葉とか石言葉とかを作中で誰かに話させているよな」
政実「そうだね。だからというわけじゃないけど、そういう物を覚えておけば、何かの役には立つかなと思ってね」
司「そっか。さてと……それじゃあそろそろ始めていくか」
政実「うん」
政実・司「それでは、第4話をどうぞ」
クラスメートの
「さてと……樹達との勝負から一週間が経ったわけだけど、相変わらず他の組の動きは無いみたいだな」
「そうだねぇ……やっぱり伊弉諾さんが自分達の近くにいる事で、迂闊に動けないって思われてるんじゃないの?」
「……その可能性は高いな。俺達との戦いで伊弉諾尊さんが弱体化していてもあそこまでの戦いを行える事が分かったわけだからな。
司、
樹の少し馬鹿にしたような言葉を聞いて美波が樹をキッと睨む中、俺はニッと笑いながらそれに答えた。
「いや、俺の考えは全部がハズレたわけじゃないぜ?」
「……は?」
「ふむ……司君、説明を頼めるかな?」
「まず、俺があの日に伊弉諾さんの神力を流しながら校内を歩いていたのは、
「『ある事』……ですか?」
「はい。それは、
「共通点……そんなのが本当にあるのか?」
「ああ、情報が少ないからまだ確証は無いが、これかなと思える共通点は見つかってる。そしてその一つ目が『神様の能力は『神威』の名前に関連している事』だ」
「能力が『神威』の名前に関連している……?」
緑山がわけが分からないと言った様子で疑問の声を上げる中、それに対して頷いてから、制服の内ポケットからメモ帳と鉛筆を取り出し、簡単な図を書き出した。
「まず、俺――『神辺司』と伊弉諾さんだけど、伊弉諾さんは今のところ『
「ふむふむ……」
「そして次に、『神河美波』と白兎神さんだけど、白兎神さんの能力は『他の神様の位置を知る事』と『人型への変化』の二つだ。この場合、『神様の位置を知る事が出来る』のは、白兎神さんが
「な、なるほど……けど、共通点がそれだけじゃ――」
「そして、もう一つの共通点。これはあくまでも偶然かもしれないけど、『神様と『神威』の性別は共通している』事だ」
「性別が共通している……?」
「ああ、そうだ。まず俺と伊弉諾さんは共に『男』で美波と白兎神さんは共に『女』、そして樹と久々能智神さんも共に『男』。だから、これを元に戦わないといけない相手を探すなら、『神様の能力か司るものと関連した名前を持つ人物』且つ『神様と性別が共通している人物』という事になる」
「つまり……今のところは、そういう人に気をつけておけば、戦いを仕掛けられる事は無いって事?」
「一応な。ただ、神様の中に『人』や『動物』を操る能力を持った人もいないとも限らないから、おかしな言動をする奴には気をつける必要はあるな。
さて……ここまでで、何か質問はあるか?」
皆の顔を見回しながら問い掛けると、伊弉諾さんや美波が静かに首を横に振るのに対し、緑山は心から驚いたといった様子で手帳を指差した。
「……お前、少ない情報からそんな事まで考えていたのか?」
「まあな。ただ、これはあくまでも『推理』じゃなく『推測』に過ぎないけどな。もう少しデータがあれば、ちゃんとした推理ができるだろうけど、このデータが足りない状態だと推測程度の事しか出来ないのは、ちょっと歯痒いかな」
「この位できて歯痒いって……はあ、お前って本当にイラッと来る奴だな」
その樹の言葉とは裏腹にその表情に浮かんでいたのは、苛立ちや怒りでは無く呆れや諦めといった感情だった。そして、ふうと一つ息をついた後、樹は仕方ないといった様子で口を開いた。
「……せっかくだ。俺達が『神威』だと考えている人が、本当にそれに当てはまるか試してみるか」
「俺達がって……久々能智神さんがいた頃に、それらしい人を見つけてたのか?」
「ああ。と言っても、同学年じゃなく先輩だけどな。そして
「岩花百合先輩……あ、確かスゴく美人な人で、校内にファンクラブがあるっていう噂が流れてる人だよね?」
「ああ、そうだ。男の先公の中にもファンクラブ会員がいて、今までに数々の男子が告白したけど、全部やんわりと断られている事から、『高嶺の白百合』なんて言われている人だ」
「へー……それで、その人が何で『神威』かもしれないって思ったんだ?」
「お前と戦う数日前、神力で姿を隠した久々能智さんと校内を探索していた時に偶然華道部の前を通ったら久々能智さんが突然立ち止まって、どうかしたのかって聞いたら『……ここから懐かしい気配がする』って言ったんだよ」
「懐かしい気配……」
「ああ。それで、久々能智さんの言葉を確かめようとしたら、華道部のドアが突然開いて、中から岩花先輩が出てきたんだが、その時に岩花先輩は明らかに久々能智さんの方を見て、とても驚いた顔をしていたんだよ」
「……神力で姿を隠した神様を視るには、神力を持った奴しかいない。つまり、それらの情報から考えるに岩花先輩は『神威』の可能性が高いって事か」
「ああ。ただ、驚いた顔をしていたけど、その後に俺達に勝負を挑むでも無く、『驚かせてしまってごめんなさい』って申し訳なさそうに言ってそのまま歩いていったから、無闇矢鱈に戦う気は無いみたいだけどな」
「ふむ……なるほどな。となると……その岩花先輩は話せば分かってくれる人な気はするし、放課後にでも偶然を装って会いに行ってみるのも手だな」
そう口にした途端、美波と樹は『コイツは何を言っているんだ』とでも言うような表情を浮かべた。
「ん……何か変な事を言ったか?」
「司……たぶんそれは無理だよ。さっきも言ったけど、岩花先輩はとても人気がある先輩だから、そう簡単には近付けないよ……」
「何でだ?」
「……お前、本当に何も知らないんだな……。岩花先輩が『高嶺の白百合』って言われているのには、もう一つ理由があるんだよ。それで、その理由って言うのが、『
「『白百合の花弁』……おおよそ予想はつくけど、その生徒達が岩花先輩に話し掛けようとした生徒の邪魔をしたりこっそり監視をしたりしてるみたいな感じだろ?」
「……そうだけど、話してないのに何でそこまで分かるんだ?」
「……お前達の反応を見る限り、その生徒達はファンと言うよりは狂信的な信者に近い印象を受ける。そして、そういう奴らというのは、自分達が崇めている物をとかく神格化してるから、それに近付く者や敵意を持つ者を攻撃対象として見る事が多いし、そういう事をしている自分達の事を特別なモノとして考えている節がある。つまり、
「うん……実際、岩花先輩はとても困ってるらしいんだけど、『白百合の花弁』達は岩花先輩の話すらまともに聞かないらしくて、偶然岩花先輩の隣になった生徒が、『白百合の花弁』からの嫌がらせを受けたっていう話もあるみたい」
「はあ……やっぱりか」
樹の遭遇情報から考えるに岩花先輩は優しい性格をしている上、あまり人に対して強く出る事が出来ないタイプの人だ。そのため、『白百合の花弁』に対して話をしたというのも、面と向かってハッキリ迷惑だと言ったのではなく、止めてくれると助かるというような形だったのかもしれず、その岩花先輩の様子は『白百合の花弁』からすれば、『岩花先輩が自分達を迷惑に思っている』ではなく、『岩花先輩は誰かからそう言うように強制されている』という風に取れたため、今でもそういう
さて……となると、ちょっと危険な手を使わないと岩花先輩には近付けなそうだな。そうじゃないと、最悪ソイツらにも【八百万大戦】の事が知れ渡り、
「……仕方ない。少しだけ
頭をポリポリと掻きながら小さく独り言ちた後、俺は皆にある作戦の概要を伝えた。当然、皆は作戦の内容にとても驚いていたが、正直これしか策は無いため、皆をどうにか説得して今回の作戦の役振りを終え、俺はこれからの事に対して少し憂鬱な気持ちになりながら小さく溜息をついた。
放課後、俺は帰りの準備を急いで整えた後、伊弉諾さんに神力で姿を隠して貰いながら件の岩花先輩の教室ヘと急いだ。この作戦は、あくまでも
「ふう……これなら問題ないな。伊弉諾さん、準備は良いですか?」
「もちろん大丈夫だが……本当にこの作戦で良いのかい?」
「ええ、大丈夫です。この作戦が原因で『白百合の花弁』から嫌がらせを受ける可能性は大いにありますけど、【八百万大戦】で伊弉諾さんが勝ち抜けない事の方が大変ですからね」
「司君……しかし――」
伊弉諾さんが何かを言おうとしたその時、岩花先輩の教室のドアを通って担任教師が廊下へ出て来るのが見え、俺は何も言わずに伊弉諾さんに合図を送った。そして、それに伊弉諾さんが応えた後、教室からゾロゾロと生徒達が出て来ると同時に、俺達は出て来る生徒の様子に気をつけながらあたかも
「いってて……」
「あ、あの……大丈夫ですか?」
「アンタ! その汚い手で百合様に触れないでくれる!? 百合様は、アンタみたいに低俗な生徒に構っている暇はないのよ!」
「え……あ、あの……流石にそんな言い方は――」
「百合様、貴女がお優しいのは分かりますが、こんな汚らしい生徒に慈悲をお与えになる必要はありません!」
「え、えっと……」
『白百合の花弁』のメンバーの気迫に押され、岩花先輩がおろおろとする中、俺は作戦の第一段階が終了した事を感じながら静かに立ち上がり、ニッと笑いつつ岩花先輩に話し掛けた。
「良いんです、先輩。ぶつかったのはこちらなので、貴女が謝る必要はありませんよ」
「で、でも……」
「……では、俺はもう行きますね。心配して頂きありがとうございます」
微笑みながらお礼を言った後、『白百合の花弁』メンバー達の突き刺すような視線を感じながら、俺はもう一度こっそり伊弉諾さんへ合図を送り、そのまま美波達が待つ俺達の教室へと向かった。そして、教室へ入ると同時に、白兎神さんを腕に抱き抱えた美波が心配そうな表情を浮かべながら話し掛けてきた。
「司、大丈夫だった……? 『白百合の花弁』に何もされてない……?」
「ああ、大丈夫だよ。岩花先輩が差し伸べてくれた手を取ったら、強く手を払われたり低俗な生徒とか汚らしい生徒とかは言われたりしたけど、それ以外は特に何も無いからな」
「うっわ……それは流石に同情するわ……。アイツら、どれだけ自分達が特別なモノだと思ってるんだ……?」
「さてな……けど――」
俺は作戦の最終段階の楽しさから思わずニヤリと笑ってしまったが、それは気にせずに言葉を続けた。
「あそこまで人を虚仮にした罪だけは、償ってもらおうかな……?」
「つ、司……」
「お前……そんな顔も出来たんだな……」
美波達が少し引き気味に言う中、俺はポケットの中へ手を入れ、手探りである物の電源を入れた後に『それ』――小型トランシーバーを静かに取り出した。
「……それでは、お願いします」
『……はい』
それから聞こえてきた微かな声を聞き、美波達へ無言で合図を送った後、一緒に教室をこっそりと出た。そして、先程同様に階段の陰に身を潜め、
『……何とか連れてくる事が出来ました』
「分かりました。それでは、お願いします」
『……はい、了解しました』
その声と同時に、協力者達が教室へ入ったその時、教室から穏やかな神力の気配が漂いだしたかと思うと、教室から人が倒れる音が次々と聞こえ、その音で作戦の成功を確信しながら俺は美波達と一緒に向かった。そして、教室のドアを静かに開けると、優しい香りが流れ出し、思わず眠くなってしまったが、どうにか眠気を振り払い、そのまま床に寝転びながらすやすやと寝息を立てる人物達を踏まないように気をつけながら教室内へと入り、静かに俺達の事を見つめる協力者に話し掛けた。
「協力して頂き本当にありがとうございます、
「……いえ、こうでもしなければ、あなた方と話す事すら出来ませんでしたから、私としても貴方が協力を求めてくれたのはとても嬉しかったですよ」
協力者――岩花先輩は嬉しそうな様子でニコリと微笑んだ後、俺の隣に立っている樹の姿に少し驚いた様子を見せた。
「あら……貴方は確か、あの時の……」
「お、覚えていてくれたんですか……!?」
「はい、もちろん。でも……あの時に一緒にいた方は、今日は一緒では無いのですか……?」
「……はい。あの人――久々能智さんは、先日コイツとの勝負に負けて天上へ帰ってしまったんです。それで、天上ヘ帰る前にコイツのサポートをして欲しいと頼まれたので、今はこうして元『神威』としてサポートに回っているんです」
「……そうだったのですね。辛い事を聞いてしまい、本当に申し訳ありません」
岩花先輩が深々と頭を下げると、樹はそれに対して慌てた様子で口を開いた。
「い、いえ……確かに別れの時は辛かったですけど、今の俺には久々能智さんが残してくれた『
「……天と地、その距離は離れていても、貴方とその久々能智さんとの絆は強く繋がっているのですね」
「……はい」
緑山が優しい顔で答える中、美波はすやすやと眠っている人物達――『白百合の花弁』を不思議そうに見下ろすと、小首を傾げながら岩花先輩に話し掛けた。
「あの……ところで、どうやってこの人達を眠らせたんですか?」
「ふふ、それは……私の
『……はい』
とても優しい声が聞こえると同時に、岩花先輩の隣に桃色の着物を着た薄桃色の長い髪の色白の女性――咲耶さんが現れると、岩花先輩はニコリと微笑みながら咲耶さんの説明をしてくれた。
「この方は、
「『神威』の皆様、初めまして、木花咲耶姫と申します。そして伊弉諾尊様、白兎神様、お久しぶりです」
「ああ、本当に久しぶりだね、木花咲耶姫」
「貴女がこの大戦に参加しているかもしれないと司さんが仰った時は、正直半信半疑でしたが……本当に参加していたのですね」
「はい。私も本来であれば、参加する気は無かったのですが、どうしても参加しなければならない理由があるので、こうして百合さんのお力を借りているのです」
「その口ぶりだと……どうやら君は、私達とほぼ同じ状況にあるようだね」
「と言いますと……?」
「私は主催神である伊弉冉を止めるためにこの大戦に参加していて、白兎神は伊弉冉に攫われた
「……なるほど、そういう事でしたか」
木花咲耶姫さんは、伊弉諾さんの説明に納得した様子を見せた後、一度ハッとした表情を浮かべてから再び口を開いた。
「……さて、どのようにしてこちらの方々を眠らせたのか、でしたね。私は名前にも『花』の字が入っているように、『花』の力を借りる事が出来る上、香り自体や香りがもたらす効果、そして毒性などを増幅する事が出来ます。なので、百合さんがこの方々と一緒に室内へ入った後、合図に合わせて生物に対して催眠効果をもたらす花の香りをこの部屋中に強く漂わせ、その効果でこの方々を眠らせたという事です」
「なるほど……でも、どうして岩花先輩のパートナーが木花咲耶姫さんだって司は分かったの? それが分からないと、こんな作戦は立てられないんじゃ……」
「それはな、俺が昼に話した共通点に岩花先輩と木花咲耶姫さんが当てはまったから、そして樹が岩花先輩との出会いを話してくれたからだよ」
「え……俺と久々能智さんが岩花先輩と出会った話が、どうお前の役に立ったって言うんだよ?」
「お前と久々能智神さんが華道部の部室から出てきた岩花先輩に出会う前、久々能智神さんは『懐かしい気配を感じる』と言っていた。この場合、ただ単に他の神様の気配がしたから久々能智神さんがそう言ったとも取れるけど、俺が伊弉諾さんの神力を漂わせながら歩いていたあの日、久々能智さんは俺達と出会った時に久しぶりとは言っていたけど、それと同時に神力の気配の主が本当に伊弉諾さんだとは思わなかったと言っていた。つまり、久々能智神さんは伊弉諾さんを始めとした他の神様の気配は完全に特定出来ていなくても、華道部の部室から感じた気配の主の正体だけは特定出来ていた事になり、久々能智神さんに関連している上に岩花先輩のパートナーに当てはまる神様は誰かって考えた時、木花咲耶姫さんがピッタリ合うと思ったんだ。そして、その後は俺と伊弉諾さんの事や作戦の概要などを書いた紙と何かの役に立つと思って用意していた小型トランシーバーを使って、岩花先輩に協力を求める事にした。岩花先輩達がこの大戦に参加している理由が何であれ、まずは話を聞かないといけなかったからな」
「で、でも……万が一岩花先輩のパートナーが木花咲耶姫さんじゃなかった場合もあるんじゃないの……?」
「もちろん、その場合も考えていたから、紙にはその時には小型トランシーバーで連絡してくれるように書いておいたよ。まあ、もしコイツら――『白百合の花弁』の連中に、俺が転んだフリをして岩花先輩の制服のポケットに作戦メモと小型トランシーバーを仕込んでいたのに気づかれた時は、岩花先輩との話し合いの機会を設けるのを素直に諦めるつもりだったけどな」
「転んだフリ……つまり、本当に怪我などはしていないのですね……?」
「はい。作戦のためとは言え、騙してしまう形になってしまい、本当に申し訳ありませんでした」
深々と頭を下げながら謝ると、岩花先輩はクスリと笑ってから静かに首を横に振った。
「謝る必要はありませんよ。貴方がそうしてくれた事で、こうして貴方たちと安心して話をする事が出来ているので、むしろ感謝しているくらいです」
「安心……そっか、いつもは『白百合の花弁』が邪魔をするから、今みたいに誰かと話す事ってあまり出来ていないんですね?」
「はい……入学当初はこんな事は無かったのですが、華道部へ入って花展で実績を残した頃から次々と私のファンだという生徒が現れ始め、その内にこの方々が私を守るという名目の元に貴方――司さんにしたような事をし始めた結果、私に話し掛けてくれる人は殆どいなくなってしまったのです……。本当は他の生徒達がしているような何気ない会話をしていたいのに、こんな事は望んでいないと自分から強く言えず、この方々が他の生徒達に危害を加えるのをただただ見ているだけの卑怯者。それが、周囲から『高嶺の白百合』などと言われている私の本当の姿なのです……」
「岩花先輩……」
「百合さん……」
今にも泣き出しそうな表情を浮かべる岩花先輩を俺達がただ見つめる中、樹だけはとても真剣な表情を浮かべながら「……違う」と小さな声で言った。
「樹……?」
「岩花先輩は、別に卑怯者ではないと思います。本当の卑怯者なら、まずそんな事は思わないですし、『白百合の花弁』みたいな便利な取り巻きをむしろ自分のために利用する気がします。それに……作戦のためとは言え、転んだフリをした神辺の事を気遣い、転んだフリだと分かった後でも怒るわけじゃなく、怪我が無かった事を素直に喜んだ。だから、岩花先輩は卑怯者なんじゃなくて、誰よりも優しい人なんだと思います」
「……ですが、この方々を止められなかったのは事実ですし……」
「確かにそれは覆しようのない事実かもしれません。けど、未来は変えられますし、これからの貴女は今までの貴女とは違うはずです。だから、『白百合の花弁』が目を覚ました時にちゃんとハッキリ言ってやれば良いんです。『貴女達のやっている事は、私にとって迷惑なので止めろ』と。そうすれば、コイツらも自然に離れていって、クラスメート達もまた貴女に話し掛けてくれるようになると俺は思います」
「緑山さん……」
「樹で良いですよ、岩花先輩。名字で呼ばれるのはどうにもこそばゆいので」
「……分かりました。ありがとうございます、樹さん」
「どういたしまして」
樹と岩花先輩が微笑み合う中、美波はキョトンとしながら話し掛けてきた。
「えーと……私達は何を見せられているのかな……?」
「うーん……強いて言うなら、『植物』を司る者と『花』を司る者のラブストーリー的な物かな? もっとも、双方にその感情があるかは分からないけど、端から見ればそんな感じにしか見えないな」
「まあ……そうだね。ところで――」
美波は何かを思い出した様子で木花咲耶姫さんの方へ顔を向けた後、そのまま小首を傾げながら話し掛けた。
「さっき、【八百万大戦】に参加しないといけない理由があるって言ってましたけど、その理由って何なんですか?」
「……私が【八百万大戦】に参加した理由、それは姉である
「石長姫って言うと……確か、木花咲耶姫さんと同じ神様に嫁いだけど、結局帰されてしまった神様ですよね?」
「はい……姉様は容姿が醜いという理由から、夫である
「ふむ……という事は、別に俺達と戦う気は無いと考えても大丈夫ですか?」
「はい。私の目的は、あくまでも姉様を連れ戻す事なので、他の方々のように貴方がたと戦いを繰り広げる気はありませんし、逆に協力をして頂きたいと考えております」
「えっと……協力をするのは別に構わないんですけど、石長姫さんが誰を『神威』として選び、今はどこにいるのかは分かっているんですか?」
「はい、もちろんです。そしてそれは――」
木花咲耶姫さんが説明をしようと口を開いたその時、下校時刻を告げるチャイムが校内に響き渡ると、木花咲耶姫さんは少し残念そうな様子を見せた。
「……本日はここまでのようです。皆様、自ら話を切り出しておいてこの言い方は良くないと思いますが、姉様については明日必ずお話ししますので、どうか姉様を止めるために力を貸して頂けませんか……?」
「……はい、もちろんです」
「石長姫が何か間違っているのなら放ってはおけないからね」
「うんうん、伊弉諾さんの言う通りだね」
「私達で良ければ、全力でお手伝いさせて頂きますね」
「皆様……はい、ありがとうございます」
木花咲耶姫さんは静かに頭を下げた後、隣に立っている岩花先輩へと話し掛けた。
「それでは、行きましょうか、百合さん。華道部には事前に連絡をしていたとは言え、少しだけ顔を出しておいたほうが良いとは思いますから」
「あ、はい。でも――」
「ああ、『白百合の花弁』なら放っておいて良いと思いますよ。自分が信奉する相手から見捨てられたとなれば、少しはコイツらも堪えると思いますから」
「……分かりました。それでは、皆さん……また明日」
「はい、さようなら」
「さようなら、岩花先輩」
「岩花先輩……また明日です」
「ふふ……はい」
そして、岩花先輩と木花咲耶姫さんが教室を出ていった後、俺達も『白百合の花弁』を踏まないように気をつけながら教室を出てそのまま昇降口へと向かった。
石長姫さんか……明日までに少しだけでも下調べしておいた方が良いかもな。
そんな事を考えながら歩いていた時、樹が「……あ、そういえば」と、何かを思い出した様子で声を上げ、不思議そうな表情を浮かべながら俺に話し掛けてきた。
「司、『白百合の花弁』に何か報復をするみたいな事を言ってたけど、何もしなくても良かったのか?」
「ん……ああ、もう良いよ。本当は、俺達が揃って教室を出た後に木花咲耶姫さんに『ラフレシア』の匂いを教室中に充満させてもらうつもりだったけど、それだと明日の俺達まで被害を被るからな」
「あはは……確かにそれは嫌だね。あの人達も匂いが制服と体に染みこんで本当に苦しむだろうけど、私は臭い匂いの中で授業を受けたくは無いかな……」
「全くだな……司、お前って頭の良いやり方の他にも結構嫌なやり方を思いつくんだな」
「まあな。それにしても……樹、今日は中々格好良かったんじゃないか?」
「格好良かったって……?」
「さっきの岩花先輩に対しての言葉だよ。久々能智神さんが言ってた通り、お前は穏やかで優しい心とその思い切りの良さで岩花先輩の迷いを晴らした上、元気づけることに成功したからな」
「あ、あれは、その……岩花先輩が哀しそうなのが放っておけなかったって言うか……あんな美人な先輩を泣かせるわけにはいかなかったって言うか……」
「端から見れば、完全にラブストーリーの流れだったけどな。本来の相手を考えるなら瓊瓊杵尊さんの加護を受けた奴の方がピッタリだろうけど、それでも久々能智神さんの加護を受けたお前と木花咲耶姫さんの加護を受けた岩花先輩なら良い関係になれるんじゃないか?」
「ばっ……司、お前なぁ……!」
「ははっ、まあ……それはそれとして、今は石長姫さんの件に集中しないといけない。皆、明日も頑張っていこう」
「うん!」
「おう」
「うむ」
「はい」
皆の返事に対して静かに頷いた後、俺達は軽いミーティングを行いながらそれぞれの帰路につくために昇降口へ向けて歩き続けた。
政実「第4話、いかがでしたでしょうか」
司「今回はバトルが無い回だったけど、次回はそうもいかなそうな気がするな」
政実「まあ、そうだね。ただ……まだちょっと石長姫の容姿の描写には迷ってるけどね」
司「そっか。それで、次回の投稿予定はいつも通りで良いのか?」
政実「うん、そうだね」
司「分かった。そして最後に、この作品についての感想や意見、評価などもお待ちしています」
政実「さて、それじゃあそろそろ締めていこうか」
司「ああ」
政実・司「それでは、また次回」