二度の人生を得たら世界に怒られ英霊になりました…。 作:チェリオ
空中庭園で戦闘が行われている中、地上でも大規模な戦闘が行われていた。
赤のバーサーカーであるアルトリア・ペンドラゴンによるミレニア城砦攻め。
宝具によりサーヴァントとして具現化した狂乱の騎士達の猛攻により、ユグドミレニア一族の防衛線は次々に突破されていた…。
調整は施したと言ってもホムンクルス。
強弱はあるだろうがサーヴァントを相手にするにはきつすぎる。
ゆえに現在地上の最前線を保たせているのは戦闘に特化したサーヴァント達。
ジークフリートにフランケンシュタイン、モードレッドの三騎。
準戦闘要員のモルドはミレニア城砦前の最終防衛ラインにて待機し、シェイクスピアは構築されている最終防衛線より戦場を眺め、肌で感じながら執筆活動に大忙しだ。
その最前線で戦うモードレッドは激高しながら剣を振るう。
あの騎士の鏡と言えた騎士王が不信に苛まれながら向かったカムランの丘。
王の狂気を知りながらも忠義の為、王の為と自らも狂気に呑まれた騎士達。
数だけ多い敵ってだけでも腹立たしいというのに、あの騎士達だと思うと余計に憎しみが増す。
怒りを込めた力任せの一撃が一人どころか五人纏めて横薙ぎにする。
「糞が!斬っても斬っても切りがねぇ!!」
「ウー…」
同意したのか近くで騎士を得物で叩き潰したフランケンシュタインが唸る。
大地が埋め尽くされるほどの騎士は居なかった筈だ。
如何にホムンクルスが敗れようと確実にモードレッド達三騎が倒している。なのに数が一向に減らない。否、寧ろ増えているようにも感じる。
苛立ちを口と剣で発散しながらも不満が生まれる。
唯一口に出していないジークフリートも
憤りに関しては相手にと言うよりは現状を打開できない自身に対してだ。
宝具を使えば状況は大きく変わるのだろうが…。
その想いが通じてかマスターであるゴルド・ムジーク・ユグドミレニアから命令が下った。
「了解したマスター。下がれバーサーカー、赤のセイバーよ。宝具を使用する!」
突然の声に反応してモードレッドとフランケンシュタインが振り返り、すぐさま理解して射線上から退避する。
すると空いた隙間に騎士達が入り込むがジークフリートは動じない。
「邪悪なる竜は失墜し、世界は今落陽に至る。撃ち落とす」
構えた聖剣に魔力が流れ、膨大な力が蓄積されるのが肌身で感じる。
溢れる力は輝き、周囲を照らす。
「―――
ジークフリートが上段より剣を振り下ろすと黄昏の剣気が放たれ、騎士達を呑み込みながらアルトリア・バーサーカーを屠ろうと突き進む。
夜を照らす輝きはなんの障害も無く突き進み、王をも呑み込むだろうと
「…卑王鉄槌。極光は反転する」
聞こえる筈がないのだが王の声が聞こえた気がする。
背筋が凍り付きそうな冷たい声に対し、怒りがふつふつと湧き上がる。
なにかが起こると勘が告げる。
王を呑み込む結果ではなく、自分達の意に反する事態が起こると。
「―――光を呑め!
アルトリアより対城宝具が放たれ、漆黒が対抗するようにジークフリートの黄昏の剣気に真っ向から激突する。
お互いに拮抗して周囲の騎士達は余波により消失。
闇夜を照らす宝具のぶつかり合いが落ち着き、再び闇と静けさが戻ると消え去った筈の騎士達も戻っていた。
現状に苛立ち舌打ちをするモードレッドに獅子劫からの指示が届く。
「遅いんだよったく、最終防衛ラインまで後退しろってよ!」
後方でホムンクルスの指揮を執っていたサーウェルがようやく勝機を見つけたのだろう。
喜ばしい事だが悪態を付き、さっさと後方へと駆けだす。
続いてフランケンシュタインとジークフリートも後退を開始する。
ホムンクルス達をその場に残して…。
「えぇい!何だというのだあのサーヴァントは!!」
苛立ちを隠そうともしないゴルド・ムジーク・ユグドミレニアの怒声が指令室と称された一室内に響き渡る。
ロシェは五月蠅いなぁと思いながらもホムンクルスにモードレッド達撤退までの時間稼ぎの指示を出す様子を眺める。
この一室にはゴルド、フィオレ、カウレス、セレニケのダーニックを除く黒の陣営のマスター達。協力体制を敷いた獅子劫にロシェ、そして指揮を執っているサーウェルの姿があった。
姿の無いモルドは最終防衛線で待機、居ても五月蠅いシェイクスピアは屋上で見物。やる事がない六導とジーンも戦場を屋上より眺めていた。
現状に苛立つゴルドにフィオレが落ち着くように宥める。
「落ち着いてくださいゴルドおじさま」
「これが落ち着いてられるか!もう城前まで来ているというのに!!」
「だからこそ冷静に対処せねばならないのです」
「う、うむ…そうだ……そうだな」
一時的とは言え落ち着きを見せたゴルドに獅子劫は苦笑いを浮かべて軽く手をあげて注目を集める。
「撤退させたって事は何か策が練れたと考えて良いんだな……
「サーウェルで構いませんよ。どうせバレていますので隠す必要もありません」
微笑を浮かべた表情にロシェは安堵する。
戦いが始まって以来、険しい表情を浮かべて思案を巡らす様子に気圧されていたので、それだけの余裕が出来たのだと思ったからだ。
安堵感を胸に獅子劫の問いを続ける。
「先生。勝ち目があるんですよね」
「勿論です」
全員の視線がサーウェルに集中する。
ここで現状を打開する策が無ければこのまま仲良く討ち死にするしかない。
「現状の厄介なのはあの騎士達を召喚する宝具と長距離にまで届く対城宝具の二つ」
ホムンクルスではサーヴァントの騎士を相手にするのは厳しい物があり、遠目で眺めていたが数が減った様子がない。
減らない兵士に、当たれば一撃で葬れるであろう長距離攻撃。
まるで動く城砦だ。
それを少ない兵力で攻略するのだ。
少し考えただけで絶望しそう…。
「どう考えても魔力消費量は甚大でしょう。しかしながら何度も使用している所を見るに魔力消費の問題を解決した現状で魔力切れを狙うのは愚策に終わる可能性があります。手段に関しては予想は出来ますがね」
ロシェは口を噤んだ。
サーウェルが言った予想できるというのは、赤側に寝返った際に伝えたホムンクルスを用いた魔力回復の事だと理解したからだ。ホムンクルスでないにしろ同様の方法を用いたであろうことは明白で、それを口にすることはしたくなかった。
無論であるがここに居る半数は理解しておきながらも口には出さない。
ゴルドなどなら理解したら罵声を浴びせていたところだろうけど、そんな事よりもしなければならない事があると分かっているからだ。
「宝具を攻略するほかありません」
「馬鹿か貴様は!」
食って掛かるゴルドにロシェは負の感情を露わに睨むがサーウェルがそっと遮る。
よく周りを見るとゴルドみたいに苛立ちを露わにしていないが疑問符を浮かべている様子だった。
「見えんのかあのサーヴァントの群れを!アレを突破して肉薄しようとしても対城宝具で薙ぎ払われるわ!そして近づいたとしてもサーヴァントを自身の周囲に展開されたら……」
「えぇ、理解しております。その上で問題を排除します」
再び怒鳴るゴルドをフィオレとカウレス、見かねて獅子劫も宥めに入る。
そんなゴルドに一切の興味のないセレニケが話の続きを促す。
「本当にそんな事が出来るの?」
「出来ますよ。まずあの騎士を召喚する宝具ですが、人数に上限がある事が今までの戦闘で分かりました」
「減れば増やして数を補充する…道理で減らない訳だわ。それに魔力補給に目途があるからこその戦法よね」
「左様です。加えて両方を同時に使われるようなことがあれば打つ手なしでしたが、先の対城宝具の撃ち合いの際に減った数が戻っていなかった所を見るに、宝具の同時使用は無理なのでしょう」
「つまり何か。対城宝具を撃たせている間に騎士を減らすのか?」
「違います。騎士を減らさぬように引き付けて、対城宝具に対城宝具をぶつけている間にサーヴァントを接近させて討ち取るという簡単なものです」
「簡単って…」
言うのは易し…。
そう易々と事を成せるわけもなく、実際には問題は幾つも生じるだろう。
対軍宝具を使うとなるとどちらかのセイバーが残り、防衛も考えたらフランケンシュタインを置くことになる。となれば騎士王を倒しに向かうのはどちらかのセイバーとサーウェルのみ。
果たして本当に上手く行くのだろうか。
「仕方がない。セイバーに対軍宝具を再び使用させよう。ここの護りでバーサーカーを置くとして、接近するのはそちらのセイバーとキャスターになるか」
「いえ、相手は騎士王。私と
「おい、ちょっと待てよ。一応言っておくが
「はい。撃ち合いの役目は私が請け負います。とっておきの対城宝具がありますので、黒のバーサーカーには発射時の援護を願います」
「解かった。バーサーカーに伝えておく――」
「先生…駄目ですよ」
話がまとまり、他に案もない事からそれで行くかと流れが出来上がったが、ロシェ一人は納得できずに異を現す。
唱えた意味を知らずに怪訝な表情を向けられる中、サーウェルだけ罪悪感溢れる表情で見つめ返してくる。
「我が主よ。申し訳ありません」
「駄目です!」
眼前で跪いて頭を垂れる。
怒鳴っても嘆いても止まってくれないだろう。
でも止めずには居られない。
先生のあの宝具を使用した際、どのようなことが起こるか分かったものではないのだ。
死ぬ可能性だってある。
我侭だと分かりながら止めようとするロシェは、面を上げたサーウェルの瞳を見て言葉が詰まった。
「どうか約束を果たせない私を恨んで下さい。
そして厚かましいようですが私に役目を果たす機会を」
もうこの人はボクを見てはいない。
先生の心はあの丘に今もあるんだろう。
赤く染まった乾いた大地に…。
令呪で自分を連れて逃げ出すように命じようかと葛藤するが、そんな事をすれば先生は二度とボクを見てはくれないだろう。
流れ出そうな涙をぐっと堪えながら睨みつける。
「…分かりました。けど生きて帰って下さいね、
「――――最善を尽くします」
深々と頭を下げてサーウェルは去って行く。
見送る事しか出来ない自身に激しい怒りを覚えて拳を握り締める。
前線が後退した事で一気に騎士達がホムンクルスを打ち倒して雪崩れ込んできた。
最終防衛ラインには残存しているホムンクルス数体とモルドが待機しているが、焼け石に水滴を垂らす程度の事しか出来ないのは明白。
正面からぶつかり合えば確実にミレニア城砦はあっと言う間に騎士達に制圧されるだろう。
ふわりと上空を跳んだ。
闇夜を背景に純白のドレスを纏いし少女が空を舞う。
見惚れるほどの美しさを持った彼女、フランケンシュタインは手にしていた得物を振り上げ、降下するにつれて黄緑色の電流を纏った一撃が振り下ろした。
「ゥウウウウアアアアアアア!!」
叫び声と同時に騎士団の中央に振り下ろした一撃は周囲の騎士を風圧と電撃によって吹き飛ばす。
何事かと理解できなかった騎士達も敵サーヴァントを視認して隊列を組みなおす。
フランケンシュタインは隊列を組みなおす様を威嚇だけして攻める事はしなかった。
マスターからの指示は着地地点の防衛ただ一点のみ。
「助力感謝!」
続いて跳び下りたサーウェルはフランケンシュタインと背を合わせる。
陣形を立て直すのは想定済み。
その時間を生かして希望の一手を打つ。
出来ればこんなものは使いたくなかった。
戦いによって荒れた大地にあの丘を重ねつつ、サーウェルは腹部を軽く撫でる。
これは王に対する不忠の表れであり、私の様な者を召喚して下さったマスターの想いを踏み躙る行い。
酷い裏切り行為でありながらも、ここで使用しなければ確実にマスターは騎士王によって蹂躙され、朝日が昇るよりも早くに屍を晒す事になるだろう。
それだけは何としても阻止しなければならない。
例えマスターの願いを無下にしても許すわけにはいかないのだ。
大きく深呼吸を繰り返し、ようやく覚悟を決めたサーウェルは右手を天へと掲げる。
「王より簒奪せし最果ての光よ。我らに立ちはだかる者を討ち、救いを与えよ」
祈るように囁いた一言。
呼応するようにサーウェルの付近に金色に輝く粒子が舞い上がり、囲むように周囲を漂う。
神秘的な光景の真っただ中でマスターの号令を待ち、ロシェの泣きそうな叫びが響き渡る。
「令呪をもって命じる……宝具を解放せよ!!」
大きく頷き、令呪の後押しを受けたサーウェルは高く上げた右手を振り下ろして、自らの腹部に突き刺した。
金色の粒子に血飛沫が混じるが気にすることなく、苦悶の表情を浮かべたまま腹の中からナニカを引き摺り出した。
それこそは騎士王アルトリア・ペンドラゴンが所有していた槍で、サーウェルに死を与えた凶器であり、死の間際に騎士王から奪ってしまった宝具。
ただ舞っていた粒子が槍の出現に呼応するように寄り付き、槍に螺旋状に粒子が舞い踊る。
「務めを果たしてください!せんせええええええ!!」
再度投げかけられた言葉に笑みを漏らす。
不忠の騎士に勿体なき主ばかりだ。
引き抜かれた槍が何なのか解って大慌てで騎士が押し寄せるが、もう恐怖も何も感じない。
高らかに簒奪してしまった聖槍の名を叫ぶ。
「
抜き出した槍を渾身の力を振り絞って前に突き出すと周囲の暗闇を照らし尽くすほどの輝きが放たれ、進行方向に存在した騎士達を呑み込みながらアルトリア・バーサーカーへと突き進む。
対するアルトリアは黒く染まった聖剣を掲げ、宝具を使用しての迎撃を行ってくる。
解りきっていた。
そして霊基にひびが入るような損傷覚悟で取り出して弱り切ったサーウェルと狂化されたとはいえ万全な状態のアルトリア。
聖槍を使用したとはいえ押し負けるのは目に見えている。
だから―――。
「行ってくださいモードレッド!龍殺し殿!」
ロンゴミニアドより放出された輝きに並ぶ形で一台の馬が駆け抜ける。
サーウェルが急ぎ拵えた急増品の馬。
防御性能は著しく低いがその速度性能は現行のバイクなどには追い付けもしない速力を発揮する。
手綱を握るは騎乗スキルを保有するモードレッドで、後ろにはジークフリートが乗っている。
サーウェルの声にジークフリートは頷き、モードレットは通過する瞬間にぽつりと漏らした。
「…行ってくる」
微かにだが聞き取れたサーウェルは大声で笑う。
状況を理解した騎士達が一斉にサーウェルを狙って突っ込んで来るが、フランケンシュタインが近寄った者を片っ端から薙ぎ払う。
同時にホムンクルス達が背を向けた騎士に仕掛け、モルドが手にしていた付与付きの弾丸が装填された機関銃で撃ち抜く。
乱戦の最中で笑う姿は異様。
けれども笑わずにいられない。
それほどに彼の心は清々しい気持ちでいっぱいだったのだ。
「最後の働きなのです。我が身を捨ててでも勝利を!」
腹部からゴボっと血が溢れ、痛みから解放されようと無意識に力を抜こうとした拳に力を籠める。
足を踏ん張らせ、押し返されないように必死にロンゴミニアドを突き出す。
黒い輝きとロンゴミニアドの輝きがせめぎ合う。
押し負けるは使い手の不出来さゆえ…。
理解しながらも敗北を易々と受け入れる訳にはいかない。
後ろには不忠の騎士ながらも慕ってくれる主が居る。
前には私を信じて背中を預けるあの子が居る。
そして最奥には済ました顔をしてはいるが
踏ん張っている脚が地面を抉りながら徐々に後方へと押される。
解ってはいたがもう暫し耐えなければ…。
「ウウウラァアアアア!!」
背後より斬りかかった騎士をフランケンシュタインの一振りが殴り飛ばした。
傷つきながらも戦う彼女に負けじと咆哮を上げながら耐える。
ぷつりと音がした。
限界を超えた。
力が入らない…。
輝きが徐々にか細くなる。
このままでは勢いよく黒い輝きがここら一帯を襲う。
最悪の状況が脳裏に過るが、そうはいかなかったらしい。
黒い輝きも衰え消失したのだ。
どうやらあの二人が王の下に辿り着いたのだろう。
「あぁ…なんとか…やり遂げれましたか…」
王のもとに辿り着いた二人を信じ、全力以上に出し切ったサーウェルはそのまま地に伏した…。
身体から何かが抜け落ちる感覚と共に…。