前・後編の、二部構成になっています。
どうぞ、よろしくお願いします。
ダイヤちゃん、Happy Birthday!!
前編
夕刻。
いつもよりも人の多い電車を降り、いつもよりも人であふれ返った駅の、改札口へ向かう。
「今日は、ずいぶんと人が多いんですのね。。」
ぽつり、そうつぶやく女性。
彼女の名前は、黒澤ダイヤ。東京◯◯大学に通う、大学二年生。
長く伸ばした黒い髪、そしてその立ち姿は、まるで大和撫子を思わせる。
「そうですわよね、春休み、なんですから。」
そう。
彼女の言うように、今は、春休み、と言われる時期であり、現に彼女自身も、それを無事に迎えるところである。
「それにしても、やはりこの喧噪には未だに、慣れることができませんわ。。」
彼女、黒澤ダイヤは、静岡県の沼津から上京して、現在◯◯大学に通っている。
それ故、東京という都会の雰囲気には、若干まだ不慣れなところがあるのだ。
やがて駅の改札を抜ける。
「さて、いかが致しましょうか。。確かルビィが来るのは、明後日だったはず。」
ルビィというのは、彼女の妹、黒澤ルビィのことである。
静岡の高校に通っている彼女。
親友らとともに静岡の大学に通うことが決まっており、この休みを利用して、姉のいる東京にやって来るのだ。
「姉として、十分におもてなしして差し上げませんといけませんからね。ふふっ。」
そんな、妹の上京に思いを張り巡らせている彼女の耳に、突然聴こえてきた声。
「ううっ、久しぶりに東京に帰ってきたけど、やっぱり人が多いなぁ。。
ああっ、人波に流されるっ。誰か、誰か助けてぇ。。」
その声は、か弱いものではあったが確かに、彼女の耳に入ってきた。
どこか、自身の妹と似ているような、その声の主を見回して探す。
が、見当たらない。
と、
「わぁっ!!」
「あっ、危ないですわ!!」
人波に押し出されて転びそうになった女性が、ダイヤの目の前に。
ダイヤは、慌ててその女性を抱きとめる。
「だ、大丈夫ですの?」
「えっ、あっ、あ、ありがとうございます!」
突然の出来事に何が起きたかわからないというような表情をするその女性は。
「えっ?」
ダイヤにとって、どこか見覚えがあるような顔だった。
「はい?」
女性は、突然声を出したダイヤに、疑問を感じて問い返す。
「あの...どこかでお会いしたこと、ありますでしょうか?」
「えっ、な、無いと思いますけど。。」
ダイヤの疑問に、小首をかしげて答える。
「(どうしてですの。。どうして思い出せないんでしょうか。
もう首元まで来ているというのに。。)」
「あの~、」
「はいっ!?」
考え込んでいる最中に声をかけられ、思わず上ずった声が出る。
「すみません、ちょっと。。」
と、そこで気付く。
「あっ、申し訳ありません!名前も名乗っていないのに、このような失礼なことを。。」
「いや、あの。。手を。。」
そしてようやく気付いた。
自分が、目の前のその女性を抱きとめた時からずっと、そのままの姿勢だったことに。
「す、すみません!!」
慌てて手を放す。
周りからの目線を感じ、顔が熱くなる。
「いえ、私も、あなたに助けてもらっていなければ、きっと転んでいましたから。
どうも、ありがとうございました。」
そう言いながら、深々と頭を下げる彼女。
「そんな、当たり前のことをしたまでですから。。頭を、お上げください。」
その女性の丁寧で気遣われた言動に、思わず慌てるダイヤ。
「その荷物。。」
小柄な彼女には重すぎると思われるような、あまりに大きな荷物を指す。
「これですか?確かに、すごく重たいんですよね。
久しぶりに帰ってきたから、張り切りすぎちゃって。エヘヘ。。」
可愛らしく、そう答える彼女に、またも見覚えを感じるダイヤ。
「久しぶりに...ということは、元々東京にお住まいで?」
「ええ。ついこの間まで、新潟の方の大学で研究を。
それが無事に終わったので、実家に帰ろうかな、と思いまして。」
「新潟、ですか?」
「ああ、珍しいですよね。わざわざ東京から新潟なんて。
どうしても、好きなことについて研究したいという思いが強かったので。
でも、やっぱり正解でした。自分の選んだ道は、間違ってないんだなって、思えましたから。」
「って、なんか熱く語ってしまって、すみません。。」
「いえ、全然。。」
むしろ、この人の話をもっと聞いていたい。
ダイヤはそう思っていた。
自分は、この人に何か大切なことを教わったのではないか、とも。
「昔からのクセなんですよ。大好きなことになると、途端に周りが見えなくなっちゃって。。」
「そ、その気持ち、すごく分かりますわ!」
「本当ですか?」
「はい!私もそういうこと、よくありまして。いつか直したいな、とは思っているのですが。。」
「そうなんですか。。」
「あっ、すみません。せっかくの帰郷だというのに、こんなに話し込んでしまって。」
「いえ、楽しかったですよ。助けて下さった件、本当にありがとうございました。」
「いえいえ。では、良い週末をお過ごしください。」
「はい、良い週末を~。」
最後は礼をし合って、それぞれ帰路についた。
晩飯も食べ、風呂にも入り、あとは寝るだけとなり、いつも通りテレビをつける。
いつもと同じニュース番組を観るダイヤ。
それも終わり、テレビを消して寝に入ろうかと思ったが。
《現在全国に広がるスクールアイドル、その頂点に立つ"KERRIA"に密着!!》
続けて始まった番組のタイトルを見るや否や、リモコンを素早くいじり始める。
〈この番組を録画する〉という選択肢で、〈はい〉を選び、
「これで、大丈夫ですわ。」
そして、ほっとした様子で、布団の準備を始める。
その時だった。
「スクール、アイドル...。」
そう言ったダイヤの、動きが止まり。
次の瞬間。
「まさか、そんなことはありえませんわよね。だって、あの、μ'sの方ですよ!?そう簡単に会えるはずが...!ですがおそらく...ええ、明らかにそうです。ああっ、どうして!!どうして、気付けなかったのでしょう!?私は!私は、愚か者ですっ!本当に、本当に、愚か者です!もういっそこのまま、死んでしまってもいいのではn――」
狂ってしまった。
ダイヤはそのまま、自分自身に悪態をつきながら就寝した。
そして翌朝。
昨夜の件を引きずってあまり寝つけずに、いつもよりも遅く起きたダイヤ。
軽めに朝食を済ませて、出かける準備を始めた。
行き先は――。
「やっぱり、そうでしたわ。。」
目的の店の中で、彼女の手には、一人(?)の小さいぬいぐるみが握られていた。
「そうでしたわ、ということは、私のこと、知ってるんですね?
――黒澤ダイヤさん。」
打ちひしがれたダイヤに声をかけ、名前を呼んだのは、昨日の女性だった。
「はっ!たっ、大変申し訳ございません!私としたことが、
小泉花陽さんのことを、忘れてしまっていただなんて...!」
そう言うダイヤの手に握られているぬいぐるみは。
少し違うようには見えるが、確かに面影は残っている。
目の前の女性、小泉花陽と思われた。
「それで...どうしてスクールアイドルショップに小泉さんが?」
なんとか落ち着いたダイヤは、小泉花陽に連れられて近くのカフェに来ていた。
「それは――、とその前に。私のことは、花陽、って呼んで欲しいな。」
「そっ、そんなこと、できませんわ!」
「えーっ。。"さん"づけでもいいから、ね?」
「わ、分かりましたわ。は、花陽、さん。」
呼び名に満足したのか、花陽は満面の笑みを浮かべた後、話し始めた。
簡単に話すと、こういうことだ。
花陽は、ダイヤと別れてすぐに、彼女のことを思い出した。
〈Aqoursの黒澤ダイヤ〉だと。
花陽は、中学生の時から続いているスクールアイドルへの愛を、もちろん未だに持っており。
当然、Aqoursについても知っていた。それは、メンバーの大体の性格も、であった。
そして花陽は、彼女はきっと自分のことを思い出し、それを確かめに来るだろう、と踏んだ。
ダイヤの、スクールアイドル好きで真面目な性格から判断してのことである。
「昨日、お会いした時に気が付いていればよかったのですが。。
花陽さんの、折角の帰郷している内の大切な時間を取らせてしまって。。
とにかく、お会いできて本当に光栄でした!わざわざ、ありがとうございました。」
「ちょ、ちょっと?帰ろうとしないで?」
「はい?どういうことでしょうか?」
「もしかして、これから用事入ってたり、する?」
「いえ、そういうわけではありませんが。。」
「それなら、良かった!」
喜びながら、花陽はバッグから何枚かのチケットを取り出す。
そしてこう言った。
「これから、私の用事に付き合ってくれる?」
「・・へ?」
「ほら、ダイヤちゃん!乗って乗って!」
「ちょ、ちょっと、花陽さん、早いですわ~!」
慌てて電車に乗り込む二人。
「花陽さん?今度はどちらに?」
「次は、ちょっと海を見に行こうかなって。」
「海...ですか?」
電車に揺られる二人。
昨日までは赤の他人だったダイヤと花陽は、まるで旧友であるかのように打ち解けていた。
花陽の人柄の良さ、ダイヤの生真面目さは、意外にもマッチしていた。
ちょっと変な終わり方になりましたが。。
このまま、後編へと続く流れになっています。
後編は、今日中に投稿しますので、もしよろしければお読みくださいませ。
読んでくださり、誠にありがとうございました!!