ナザリックでお正月を。

ハロウィンやクリスマスの続きです。

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お年玉の語源は、供えた餅をお下がりとして子供たちに食べさせ、「御歳魂(おとしだま)」と呼ばれたことからとする説がある。 また、この餅は年初に分配されることから、年の初めの賜物(たまもの)で「年賜(としだま)」が変化したとする説や、鏡餅が丸いことから「お年玉」になったとする説があり、いずれも歳神に由来する。
(語源由来辞典から参照)


“お年玉”争奪選手権

20180101

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて。

 どうしてこんなことになってしまったのか。

 アインズは(はなは)だ疑問であった。

 

「ここに、守護者統括アルベドの名において、宣言します……」

 

 第六階層の円形劇場(アンフィテアトルム)、その特設観覧席で、頭蓋の中には存在しない脳をこねくり回しつつ、その表面は支配者の泰然自若とした様子を崩さない……崩せないと言った方が正しい気がする。傍に控える戦闘メイド(プレアデス)たちには、座に悠然と腰かけ指を組む最高支配者の相しか見て取れていない。

 

「第一回! ナザリック地下大墳墓“お年玉”争奪選手権を、開催します!」

 

 純白の女悪魔が拡声器越しに唱える大音声(だいおんじょう)と共に、円形闘技場(コロッセウム)の観客席がドッと激震する。

 客席の観客動像(ゴーレム)が万雷の拍手を轟かせ、居並ぶ第六階層の魔獣や竜──アウラのペット達が咆哮をあげて会場のボルテージを高騰させていく。他にも特別に招待された一般メイド、悪魔、アインズ作成のアンデッドたちやハムスケに至るすべてのシモベ達が、今回の催し物を観覧する栄誉を授かっていた。

 会場の中心には、各階層守護者の姿。

 シャルティアが、コキュートスが、アウラが、マーレが、デミウルゴスが、セバスが、そしてアルベドが、互いに軽く微笑みつつも静かな闘志の炎を揺らめかせつつ、闘技場の中心で火花を散らす。

 各々の手には、見慣れた武装──スポイトランス、斬神刀皇、調教師の鞭、シャドウオブユグドラシルなどの装備は、ない。

 

 代わりに、

 シャルティアとコキュートスは羽子板を、

 アウラとマーレはスゴロクとサイコロを、

 デミウルゴスとセバスは百人一首の札を、

 最後に、アルベドはとあるLv.100NPCとの対決姿勢を──

 

 さて……どうしてこんなことに?

 

 そう、あれは数日前……

 

 

 

 

 

「クリスマスも終わったから、次は元旦だな」

「元旦、ですか?」

 

 階層守護者たちを交え、執務室で催事(イベント)の反省と、次の作戦(イベント)に向けての協議をしていた骸骨の魔法使い、アインズ・ウール・ゴウン。

 アインズは第六階層の巨大樹で成功させたクリスマス──日頃から忠勤を尽くしてくれているシモベ達にプレゼントを──アインズ自身がサンタに扮して渡すイベント(途中は「頭なでなでイベント」に終始していたが)を催して、大成功をおさめていた。

 クリスマスを12月24・25日とするなら、一週間で年越しとなる。

 ユグドラシルのゲームでも、ニューイヤーイベント……新年の祭りが頻繁に開かれていたものだ。

 ゲーム空間で初日の出を共に見ようイベントや、おせち料理用素材を落とす鏡餅型のレイドボス、新年セールや福袋と称しての課金ガチャ、あとは……家族など既にいないアインズには縁遠かった“お年玉”などだ。

 

「元旦にはお年玉でも用意すべきかと思っていたが、さすがにプレゼントばかり渡すのもアレだからな……どうしたものか」

 

 かと言って、現地の貨幣などの現金をポチ袋で渡しても意味がない(彼等には使う機会がない)。

 ならば第九階層でのショッピング用にユグドラシル金貨を分配するのも手かと思うが、やはりクリスマスとの差別化を考えるとあまり違いを感じられないところ。

 

「アインズ様が一人に一人にお褒めの言葉をかけてくださるだけで、十分かと思われますが?」

 

 アルベドが即座にフォローし、守護者たちが同意の首肯を落としてくれるが、せっかくのイベントにアインズの言葉だけというのは寂しい気がしてならない。アインズは今でこそナザリックの最高支配者として君臨しているが、中身はただのゲームプレイヤーだった青年だ。シモベ達の忠誠心はもはや疑う余地もないレベルだが、支配者に相応しい振る舞いというのが理解しにくい。いろいろと勉強してはいるが、それだって化けの皮がいつ剥がれ落ちるか知れたものではないのだ。物品で釣るというのは些か小賢しい気がしなくもないが、ボーナスは多い方がいい筈。

 

「うーん…………あ、そうだ」

 

 新年のゲームイベントを思い出したアインズは、妙案を閃く。

 

「いっそのこと、プレゼントを勝ち取らせる形式にしてみるというのは、どうだろう?」

 

 正月という古き良き日本のイベント。

 羽子板では負けた方に勝者が顔に落書きをし、スゴロクは止まったマスの命令通りに行動をし、百人一首で勝ち取った札の枚数だけ賞金……お年玉をいただくという。

 いろいろと何か違うところもある気がしなくもないが、勝負事というのは万国共通で大人気。

 イベントというだけで面白おかしく大騒ぎできるというもの……だが。

 

(いや、ナザリックのシモベたちが争うことなど──待てよ。試験的に守護者たちで、お正月対決を)

 

 ぶつぶつと長い思考に沈む支配者をどう解釈したのか。

 

「なるほどそういうことですか、アインズ様」

 

 居並んでいた守護者たちの中で、ナザリックの最高の知恵者……いつものデミウルゴスの納得と理解が、室内の空気を引き締める。

 

「どういうことでありんすえ、デミウルゴス?」

「簡単な話だよ。シャルティア」

 

 そうして始まるデミウルゴスの深読み。

 アルベドの捕捉を受けて、理解が及んでいなかった同胞諸氏が感心の吐息を。

 そのなかでも特に「ああ、そういうことか、なるほどさすが」と思った誰かは、いつも通りにデミウルゴスたちの提案を、許した。

 

 

 

 

 

 それから数日後。

 

「……まぁ、全力対決の殺し合いってわけじゃないし」

 

 大丈夫だろう。

 今回、この場で催される演劇内容は、殺戮とは程遠い。

 アインズがこのお正月対決を認めるにあたって、ゲーム内のジョークグッズ……羽子板・スゴロク・百人一首など、直接攻撃力などないものばかり。これらはどちらかというと、ギルドの仲間たちと楽しく過ごすためのプレイ用品、スポーツ系統のミニゲームみたいなものだ。

 

「手加減は一切なしでありんすえ、コキュートス!」

「フム。ソレハコチラノ台詞ダナ、シャルティア!」

 

 絢爛豪華な振袖姿のシャルティアが羽子板を全力で振りぬき、コキュートスは打ち出された豪速の羽根を四本の腕裁きで巧みに撃ち返す。高速で行きかう羽根は放物線というよりも、弾丸の応酬のごとき様相を呈していたが、羽子板も羽根も特別なアイテムであるため壊れることはない。

 

「ええと、なになに? 『このマスに止まった人は、三マス進む』って、進んだ先『一回休み』じゃん!」

「え、ええと、『このマスに止まった人は、ゴールまで語尾に“ワン”をつけて喋る』……わ、ワン?」

 

 両者ともに着物姿のアウラとマーレは、マスの指示通りに行動する。そのうちに指示内容が積み重なってカオスな状態に発展していくが、いかんせんプレイ人数が二人のスゴロクだと、いまいち盛り上がりに欠ける感じが否めない。後ほど、他の守護者たちと共に遊んだ方がおもしろそうということに気づいて、アインズをも巻き込んだスゴロク大会が開催されることに。

 

「なかなかやりますねぇ、セバス。正直、こういう遊戯は私の独壇場かと」

「知力では劣りましょうが、基礎身体能力はこちらに、分がありますので」

 

 一般メイド長・ペストーニャの口上に従って札を争うデミウルゴスとセバスの戦果は、意外にも五分五分の膠着状態。並べられた札の配置を覚える事には一日(いちじつ)以上の(ちょう)がある悪魔に対し、竜人は瞬発力と動体視力で対戦相手の視線と指の向く先に先回りをすることが可能。だが、デミウルゴスも“悪魔の諸相”でそれなりにカバーが行き届くという流れだ。

 

 そして、アルベドは、

 

「あなたと、こういう形で相争うことになるとは、ね」

 

 純白の振袖、というより遊女のごとくはだけた着物姿に早着替えした女悪魔と対するは、宝物殿よりこれら正月グッズを揃えてやってきた──領域守護者。

 

「こちらこそ──どうか、よろしくお願いいたします」

 

 アインズ謹製のLv.100NPC。

 上位・二重の影(グレーター・ドッペルゲンガー)の落書きめいた面貌に、最高に格好いいと思って与えた軍服姿。

 パンドラズ・アクターが、Lv.100という破格の対戦カードの数合わせとして召集を受け、守護者統括との対決のために馳せ参じたのだ。

 

「「──いざ、尋常に」」

 

 勝負の声がぴたりと重なる。

 二人の手中に注目してみよう。

 そこにあるものは、お正月のド定番──子供たちが庭先でどれだけ長く回し続けられるかを競い合う独特の遊具──くくりつけられた紐をすばやく、スナップを利かせて引くことで回転・直立する遊び道具──その名は、独楽(コマ)

 ただし、Lv.100NPCの筋力で繰り出される独楽勝負は、通常人類の枠組みを超えていた。

 一投に全身全霊を注がれた遊具は、しかしグッズアイテム故に壊れる心配はなく、だからこそただの児戯にしてはありえない規模の風圧と回転圧を周囲に拡散。それは、ただの独楽遊びが、旋風(つむじかぜ)を伴う異様な光景へと発展させることに。

 戦闘メイドをはじめ、居並んだシモベたちが瞠目し戦慄し驚嘆し愕然と見守るしかないお正月対決は、闇妖精の二人が繰り広げるスゴロク以外はだいぶ派手な印象を受ける。

 

「ああ──やっぱりレベル差が拮抗していないと、こういう対決イベントは無理そうだな」

 

 どこか遠い目で全シモベ対象の総当たり戦みたいな対決イベントは「無理があるな」と理解し観念したアインズは、彼等がここまで熱を込めて対決に臨む報酬──争奪中の“お年玉”の内容を思い起こす。

 それは、現金でもなければ、一応、物品でもない。

 年の初めの、アインズからの賜物(たまわりもの)

 

 

「……俺なんかと、『お正月を一緒に過ごそう券』って、そんなに欲しいものなのか?」

 

 

 思わず問いかけるようにして振り返った先にいる戦闘メイド(プレアデス)たちは、六人全員、一人残らず、まったく同時に頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

【終】

 

 

 

 

 

 

 

 余談。

 

 お正月対決は、羽子板・百人一首・独楽(コマ)については、ほとんど拮抗した戦局だった。

 だが、スゴロクという明確にゴールが定められたゲームに興じていた闇妖精の双子。

 

 そして、他の守護者たちをしり目に、悠々と勝利者となった天使マーレの提案で、お正月はアインズや守護者たち、さらには戦闘メイドなどを巻き込んでのスゴロク大会で幕を閉じることになった事実は、──いつか語られる日が来るかもしれない。

 

 

 

 

 

 




新年あけましておめでとうございます。
今年もどうかよろしくお願いいたします。


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