山椒魚、右往左往の雨隠れ生存記   作:流浪 猿人

11 / 36
 作者はキャラを動かすのが苦手みたいです。
 君の名は……、尊い……!!


戦争前夜はオシャレに決める物

 

 

 長らく平和が続いていた世界に激震が走った。きっかけは俺の執務室に届けられた第一報、伝令が息を切らしながら俺に報告する。

 

 「風の国が豊かな土地を求めて、我が国に宣戦布告しました!!更に兼ねてより大陸領土を狙っていた水の国が、火の国へ宣戦布告!!火の国の強大過ぎる国力に不満を持っていた雷の国が

水の国に追従し、火の国に宣戦布告!!土の国でも何かを狙い、総動員を開始した様です!!」

 

 第一次忍界大戦の幕開けである。この大戦は火の国の成立に伴い、ろくな準備も無いまま雪崩式に建国してしまった各国と、それによって出来たいびつなパワーバランスが発端となって起きた戦争だと言われている。

 

 この大戦によって、初期忍界の抱える全ての矛盾を解決させる[戦争を終わらせるための戦争]だと当時は言われていた。しかしこの大戦はこの後、百年に渡り忍界に暗い影を落とす事となる……。

 

 

 

 「雨隠れ里長、魚雨 半蔵の名の下に雨の国へ命じる。雨の国、雨隠れの里はマニュアルに従い戦時体制へと迅速に移行せよ。戦乱の時代は終わってはいなかった、強きが正義の忍界の現状に置いて小国、雨の国の興廃はこの一戦にあり!!戦え、祖国を守るため!!」

 

 俺は雨の国へ号令する。ついに国同士で行われる大戦争が始まってしまったのだ。雨の国の現状の敵は雨の国へ侵攻をかけて来る風の国だが、土の国の動きも気にしなくてはならない。

 

 火の国との同盟はあるが、火の国はマダラ殿が最近里を抜けた事もあり、おそらく水と雷の国との戦いで手一杯だろう。こちらに増援を寄越してくれる保証は無い。俺は今後の相談のため幹部達を部屋に集める事にした。

 

 

 

 「これからの戦争、特に風の国との防衛戦について意見を聞かせてくれ」

 「いや~ついに始まってもたなあ」

 

 いつも呑気なモミジも流石に緊張している様だ。

 

 「モミジよ、時間が無いのだ無駄な話は止せ」

 「そうですぞ、若も何か言ってやってくだされ」

 

 親父と伊蔵は既にいつもとは面構えが違う。やはり、いざという時は頼りになる二人だ。

 

 「雨の国は金も戦力も十分に整えて来た。しかし仮にも相手は大国、厳しい戦いになりそうだな……」

 

 角都さんは既に戦略を考えてくれている様だ。いざという時もそうで無い時も頼りになるなこの人は。

 

 皆で話を詰めていくと、やはりある結論に辿り着いた。風の国国境の大湿林を使ったゲリラ戦を行う。地の利は明らかにこちらにあり、乾いた大地に暮らす砂隠れの忍は慣れない戦いになるだろう。また、季節が良い。しばらくするとあれの季節になるからな。

 

 風の国の本当の目的は、雨の国の奥にある火の国の領土だ。雨の国は通り道くらいにしか思われていない、その油断を突くことも出来る。俺達は話を纏め、風の国国境と念のため土の国国境にも防衛線を築いていった。

 

 

 

 ――その晩――

 

 戦争前夜、逸る気持ちを抑え切れず、俺はなかなか寝付けずにいた。

 

 里で一、二を争う高さの建物の最上階で、大きく開いた窓から里を、国を眺める。ここからの眺めは好きだ。いつもは曇りがちな雨隠れの里だが、今晩は珍しく月が出ていた。里が出来て随分と変わったが、湿った風が頬を撫ぜる度に、ここは俺が生まれ育った場所なのだと実感する。

 

 月明かりに照らされる里は、美しい。俺の立場が里の長じゃ無かったら、どれ程穏やかな気持ちでこの夜を過ごせただろうか?俺が、守るのだ。この里を、この国を、人々を、守らなくてはならないのだ。

 

 今回の戦争は綺麗なままでは居られ無いだろう、どんな手でも容赦なく使わなければならない。柱間殿の様に圧倒的な強さがあれば違うのだろうが…、扉間の方が気が合うと感じるのはつまり、そういう事か。あいつも必要な時に鬼になれる男だ。

 

 俺達に対しても例外では無い。雷の国と水の国との戦争に集中するため、雨の国は見捨てるという行動を取ってもおかしくは無いだろう。俺達はせいぜい時間稼ぎに利用されるだけで、旨い所は全部持って行く。小国が大国に意見を言えるはずも無く、そのまま泣き寝入りなんて事になったら目も当てられない。

 

 場合によっては裏切る事も、視野に入れておかなくてはな。考えたくは無いが……。

 

 

 

 俺が考え事をしていると、後ろに二人分の気配を感じた。

 

 「半蔵、何をしているんだ?」

 「らしくも無く黄昏ているな…」

 

 振り向くとオッサン二人、親父と角都さんという珍しい組み合わせが立っていた。

 

 「戦争だからな…、色々思う所はある」

 「……、もう前線では接敵間近だ。総大将がそんな調子でどうする」

 「親父があんなに早く楽隠居しなければ、総大将なんてやらなくても良かったんだがな」

 「うっ、それを言うか……」

 

 親父も厄介な時代を押し付けてくれた物だ。角都さんみたいな人と知り合えたのも、この立場のおかげかもしれないが。角都さんの方に目を向けると何やら難しい顔をしている。

 

 「どうした、角都さん?」

 「いや、戦争について少しな…」

 「正直、勝てるか?」

 「ああ、勝てはしないだろうが泥沼の長期戦へ引きずり込んでやる、その算段は出来てる。それにいざって時はこっちにも奥の手がある」

 「奥の手?」

 

 そんな物聞いた事も無い、角都さんは一呼吸置いて答える。

 

 「オレとお前だ。常識では考えられない力を持つ忍、まさか自覚が無かったのか?」

 

 どうやら嬉しい誤算があった様だ。戦いを目前に控え、三人で他愛も無い話をしながら夜は更けていった。

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。