山椒魚、右往左往の雨隠れ生存記   作:流浪 猿人

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 感想欄で様々な指摘を貰っています。
 自分では気付かなかった甘い所だらけですね。
 誤字も多くて恥ずかしい(*_*)!!
 


歴史書からも地図からも見えない戦争

 

 雨の国と風の国の戦い、後に[風雨湿林戦争]と呼ばれる戦争は砂隠れのアカデミーでは悪夢の出来事として語り継がれている。

 

 ただの農耕地を求めて、小国を一瞬で踏みつぶすだけの戦争。しかし、忍界全体で国同士の戦いの仕方がまだ未成熟だったゆえ、戦いは思わぬ苦戦を強いられた。何より、悪夢と呼ばれるまでに至った主な理由は、地図の上からでは見えない現場の忍達の悲惨さだった。

 

 第一次忍界大戦で最初に始まった戦線、風雨湿林戦争を紐解く。

 

 

 

 ―砂隠れの里 戦争の始まりを見たある忍の日記―

 

 戦争だ!!長らく続いたぬるま湯の様な日常は今日、終わった。

 

 古来より[ひとすまず]とまで言われる、乾き切った大地。風の国はほとんどがこの様な土地で占められている。

 

 大国と呼ばれてはいるものの、この場所に豊かさは無い。なれば、豊かな大地を持つ雨の国や火の国からそれを奪い取る事、これこそが風の国が大国として存続するための急務である。我が国の大名様はそう望んでおられるし、風影様も同じ意見の様だ。

 

 そしてついに今日、雨の国へ宣戦布告。雨の国は作物などを安値で売ってくれているので、本来なら道理に反する事だが、飢えに苦しむ民達が少なく無い現状、背に腹はかえられない。

 

 同盟条項に従い、火の国が本格的に参戦する前に雨の国を電撃的に占領し、ひとまず防衛線を固める。その後は雷、水と協力して過分な火の国の国力を削っていくというのが先日通達された作戦だ。土の国は内部がまとまり切っていないため、今回は日和見だと考えられる。

 

 オレはもう既に平和な時代の人間では無い。これこそが忍の生き方であり、誉れとなる。どうやら召集が掛かった様だ、他の忍達も皆、誇らしげな表情で整列して行く。

 

 前の壇上で風影様がついに指示を出した。雨の国侵攻作戦を開始する。と一言だけだったが未だかつて感じた事もない程の、この大地よりも熱い、感情が湧き上がって来る。

 

 オレを含めた忍達は、雨の国へ向けて整然と侵攻を開始した。

 

 

 

 ―砂隠れの里 最前線で戦うある忍の日記―

 

 参ったね、どうも…。現在、容易く陥落させるはずの雨の国に苦戦を強いられている。

 

 戦場となっているのは国境の大湿林、湿林の中には大量のブービートラップが仕掛けられており、そのトラップには必ず毒が塗られていた。更に雨隠れの忍達に散発的に奇襲を仕掛けられ、トラップと同じく毒を使って来るのでかすり傷でもまず助からない。

 

 雨隠れの忍達はオレ達が直接戦闘の態勢を整えると、すぐに撤退してしまう。たまに取り残された忍と直接戦う事になるが、全員が必ず侮れない実力を持っており、楽な戦いにはならない。捕らえた忍を拷問しようとしたら奥歯に仕込んだ毒で自決してしまう。それはまるで無機質な機械の集団の様で、オレ達は得体の知れない恐怖を感じていた。

 

 苦戦の原因にはオレ達の準備不足もある。雨の国を小国だと舐めて掛かってしまったつけが回って来た。砂漠で活動する砂隠れの装備は湿林での戦闘に向かず、秘密兵器の傀儡部隊は湿気と泥で傀儡に不具合が続出していた。

 

 後方の兵糧部隊が襲われ、ただでさえ乏しい食料が限界に近づいている。更に、敵の残していく食料庫にはこれまた毒が入れられていて、現地での捕獲を当てにしていた分の食料が、全く手に入れられていない。そこに冷たい雨が降って来て、体力を奪っていく。

 

 疲れ切った所にも容赦なく奇襲が続き、砂隠れの第一陣から第三陣までは、ほぼ壊滅状態となっていた。運良く生き残った者も、肉体的にも精神的にも限界を迎えており、戦線復帰は望めない。一旦、後続の部隊に合流して情報を持ち帰るしか無さそうだ。―――

 

 

 

 

 最初の侵攻部隊の惨状を見た後続の部隊は念入りに準備を整えるが、雨隠れの忍達もまた新たに罠を仕掛け直す事が出来た上に、何より実戦での経験を得る事が出来たのが大きかった。

 

 後続の部隊が再び侵攻を開始する、湿林を突破するために準備を整えた部隊だ。しかし、そこでまた環境が大きく変化する。半蔵達の読み通り、季節が良かった。

 

 空から戦場へ白い物体が降り注ぐ、雪である。雨の国では一年を通して頻繁に降る雨が、この時期、雪へと変わるのだ。当然、砂隠れもその程度は情報として知っていたため、耐寒装備も持って来ていたが、経験した事が無い環境に戸惑いを隠せない。

 

 雪の中の戦闘は当然、毎年この雪を経験する雨隠れの忍達に有利となって行った。

 

 

 

 [風雨湿林戦争]は、風の国にとっても雨の国にとっても、忘れられぬ戦いとなった。一方は恐ろしい悪夢として、もう一方は大国を退け、その存在を世界に示した歴史的な戦いとして。

 

 

 

 ――ある雨隠れの忍の日記――

 

 ついに戦争が始まっちまった!!

 

 オレは雨の国の農家に生まれた。半蔵様のおかげで雨の国は、皆が本当に豊かな暮らしをしている。しかし、やはり男と生まれたからには、刺激のある人生を送りたい。そんな一心で最近創設された忍者アカデミーに入って忍になる事にした。

 

 アカデミーは忍の家系では無い者も積極的に受け入れる方針で、オレもすんなり入る事が出来た。アカデミーは厳しかったが、自分が成長している事を実感できるため、何とか落第せずにいられた。また、里の戦力を安定させるため、忍の家系の者とそうでは無い者の格差を無くす教育方針もオレにとって都合が良かった。

 

 しかし、アカデミーを卒業した途端、戦争が始まるとはな……。

 

 大国との戦争は皆不安だったが、里へ下された自信に溢れた半蔵様の号令で、士気が一気に高まった。まったく、すげぇ人だ…。

 

 戦争が始まって最初の作業は、森に罠を仕掛ける事だった。激しい戦闘を覚悟していたので少し戸惑ったが、オレも他の皆も半蔵様の命令は確かだと信頼している。罠にも武器にも致死毒を塗るのは、さすがに容赦ないと感じたが忘れてはいけない、大国との戦争なのだ。考えうる全ての手を使わねば、まともにやり合える訳がない。奥歯に仕込んだコイツの出番もあるかも知れない。

 

 オレは来たる開戦に向けて、改めて気を引き締め直す。他でもないオレが、国を、里を、人々を守るのだ。ああ、柄でもないが、オレはこの国が、こんなにも好きだったんだな……。

 

 

 

 

 


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