山椒魚、右往左往の雨隠れ生存記   作:流浪 猿人

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 タグでは[強い]ですが、半蔵がチートに片足を突っ込んでいる気がします。
 それと話の都合上、岩隠れを悪者にしてしまいました。
 お気を悪くしたら、申し訳ありません。


それは血か涙か、雨がひどい日だった。

 戦争は思いがけず、優勢に推移していた。

 

 砂隠れの攻勢が湿林で完全に止まっているのだ。原因としては砂隠れの準備不足、まともに当たるのを避ける雨隠れの戦略、様々な要因が考えられるが、雨隠れの忍達の決死の奮闘が何より大きかった。

 

 国を守るためそこまで戦ってくれるとは、里長冥利に尽きるという物だ。しかし、それでも全ての戦力を一つの戦線に投入して、何とか敵の攻勢を食い止めている所だ。日和見を決め込んでいる土の国が、漁夫の利を狙い今にも宣戦布告してくる可能性もあるのだ。

 

 何より腹が立つのは火の国だ、これだけ雨の国が粘っているのに助けを寄越す気配がない。俺の個人的な親交があるため決定的に仲違いはしていないが、雨の国の人々は違う。現在進行形で火の国への不信感を募らせている。

 

 火の国は、やはり雷の国と水の国との戦いで手一杯だと言うのか?いつまでも助けが来ないならば、俺も魚雨 半蔵としてでは無く雨の国の長として、しかるべき措置をしなくてはならない。

 

 柱間殿、扉間、一体何があったのだ……?

 

 

 

 俺が苛立ちを募らせていると、角都さんが部屋に飛び込んで来た。冷静な角都さんがこれ程焦るとは……、嫌な予感がする。

 

 「半蔵!!土の国が風の国と我が国に宣戦布告した!!既に念のため張り付けて置いた国境の部隊が壊滅した様だ!!」

 「何だと!?すぐに防衛線を張り直せるか!?」

 「すぐには無理だ。土の国との戦争のため風の国の攻勢は弱まるだろうが、時間も戦力も足りない……、国境付近の住民達は徹底的に略奪、虐殺、何でもありの状態だ……」

 

 略奪?虐殺?俺の国の、雨の国の人々が?突然、宣戦布告前に奇襲してきて置いて?俺は話を聞く度に、己の中に飼う暗い物が溢れ出すのを感じた。

 

 「……半蔵?」

 「角都さん……、あの夜話した事、覚えてるか?」

 「お前…!まさか……!!」

 

 「ああ……、俺が出る。付き合え角都」

 

 死神が、目を覚ました。

 

 

 

 風の国との戦争の指揮を親父達に任せて、俺は角都さんと土の国との国境へ向かう。親父達に反対されるかと思ったが、いや、実際モミジと伊蔵には反対されたが親父が送り出してくれた。ホントに、親子揃って馬鹿だよな……。

 

 走りながら角都さんに話し掛ける。

 

 「角都さん、これで勝ったら俺達、伝説だな。本でも書こうぜ?」

 「ふふふ、それは良いなきっと金になる」

 「あんた、本当にそればっかりだな」

 

 「始まる前にちょっとお互いの事を確認しとこうか、角都さんもどうせ何か隠してんだろ?」

 「オレは奪った心臓五個の性質変化を使える。元々の性質は土遁だ。滝隠れの長が何というか馬鹿真面目な奴でな、オレの心臓を奪う秘伝忍術が気に食わなかったらしく、追放された。健全な里を目指すんだと……」

 「ぶははっ、何だそりゃ!!自分から抜けたみたいに言ってたじゃねーか!!追い出されたのかよ!!」

 「結果的には雨隠れに辿り着いて、金を見てられるんだから感謝してるよ……」

 

 「でも自分の術については嘘なんて無かったんだな」

 「馬鹿野郎、それも就職活動のためだよ。怪しいマスク付けたお前なんて、始めは信用してなかった」

 「今は?」

 「言わすな、馬鹿」

 

 

 

 「お前は何か無いのか?半蔵」

 

 「そうだな、まずは俺の死遁の解毒薬を渡しておく」

 「出発する前に渡せ……」

 

 「それと、俺はヌメヌメ系の生き物が可愛くてしょうがない」

 「何を言っているんだ?」

 

 「実は、里の長を辞めたい」

 「ふざけるな、雨の国の人々がお前を求めている。今更辞めさせるか」

 「良い後継者が見つかったら、すぐ辞めてやるよ」

 

 「それからな……」

 「それから?」

 

 「実はこの戦いにそれ程、不安を感じていない。俺が本気で殺そうとして殺せなかった奴は居ないからな……」

 「頼もしい限りだ。まあ、オレだとてお前相手ではあっという間に、五回殺されるだろうからな……、それ程までにお前の術は恐ろしい」

 「それはどうも」

 

 「さあてそろそろ国境だ、角都さんはこの辺で待っといてくれ、連絡係を頼む」

 「おい、一人で行くのかよ、死ぬ気か?」

 

 「国の為に死ぬなんて御免だな、俺は国の為に殺す忍だ。待っといて欲しい理由は他にある」

 「?」

 「俺が本気でやればあんたを巻き込んじまう、それともう一つ」

 

 俺は指を噛み切り地面に掌を押し当て、口寄せを発動する。そして現れたその巨体に乗った。

 

 「あいにく、背中を任す相棒ならもう決めてある」

 

 そうだよな…、イブセ……!!

 

 

 

 この日、忍界に後世まで語り継がれる伝説が起こった。

 

 第一次忍界大戦、雨の国を奇襲した土の国は不測の事態に襲われ、多くの命を失う事になる。雨の国侵攻のための大部隊が、たった一人の忍によって皆殺しにされたのだ。

 

 雨の国はこれ以来、その名に守られる事になる。曰く、戦場の死神。曰く、雨隠れの鬼。

 

 

 

 雨の国・雨隠れの里 里長 魚雨 半蔵 

 通称[死雨の半蔵] 

 

 

 

 ――視点 岩隠れの里 雨隠れ侵攻部隊

       部隊長 無 

 

 完璧なタイミングでの作戦だった。

 

 第一次忍界大戦、中立と見せかけておいて戦闘中の風の国と雨の国の後背を突く。少し卑怯な様だがこれは戦争だ、油断した者が悪いのだ。

 

 オレの隠密の術での索敵も入念に行い、雨隠れの国境警備隊を瞬時に壊滅させる事に成功した。何人か獲り逃してしまったため、雨の国本国に情報が知らされるだろうがもう遅い。雨隠れが大部隊を送って来る頃には、相当深くまで切り込む事ができるだろう。

 

 想定外と言えば、一部の部隊が雨の国の一般人に対して、非道な行いを働いてしまった事だけだ。久しぶりの大きな戦争に気が高ぶってしまった者達が、命令を無視してしまった。あいつらは後で、開発中の塵遁の実験体にしてやろう。

 

 

 

 オレ達が明日以降の侵攻作戦に備えて、拠点を設置していた時、不穏な空気を表すかの様に雨が降り出す、すると部下達が小高い丘の上を指差し何やらざわついていた。丘の上を見ると、大きな何かの上に乗った人影が見える。

 

 それは暗い空と雨を纏いまるで泣いているようで、いやに様になっていた。ゆっくりとこちらに近づいて来る。どうやらトカゲ?に乗っている様だ。明らかに不審だが、オレ達は何故かその異様な姿に見入ってしまった。やがて、オレ達から少し離れた所で立ち止まり、口を開く。

 

 「あんたらは岩隠れの忍、で合ってるかな?」

 

 やはり敵か?しかし、意外にも穏やかな声色に戸惑い、オレ達は何も言えないでいた。やがて少し間を置いて、血気盛んな若手の忍が返答する。

 

 「いかにもオレ達が岩隠れの忍だ!!何だテメエは?のこのこと出てきやがって!!」

 

 「そうか、それじゃあそっちにある死体は何かな?」

 「さっきあっちの村でオレ達に逆らいやがったから、殺してやったんだ!!何か文句あんのかよ!!」

 

 「いや、もう十分だ……、文句なんて無い。殺したのか、そうか……。

 

     もう十分だ……!!」

 

 その時、にわかに辺りに恐ろしいまでの怒気が充満した。これは……!!明らかにマズい!!逃げろ、と言う暇も無く、先程まで目の前の男と会話をしていた若い忍の首と胴体が離れる。

 

 あれは……、鎌!?オレの目でも一瞬しか捉えられなかったぞ!?

 

 息つく暇も無く、男が素早く印を結び同時にトカゲも息を吸い込んだ。

 

 「死遁 獄門の溜息」

 

 トカゲの口から出た霧と男の出した禍々しい色の液体が混ざり、部隊に襲いかかる。前の方に居た忍達がその術に当たった瞬間、全身が腐り落ち、この世の物とは思えぬ絶叫を上げて倒れていく。オレはすぐ様距離を取る。

 

 何人生き残った!?周りを確認すると回避出来た者がそれなりにいる様だ。しかし少し掠っただけの者も、掠った部分からじわじわと腐っていき、死んでしまった。

 

 オレ達が仲間達の異常な死に様に動揺していると、すかさず男が凄まじい速さで飛び込んで来て、鎖分銅と鎌が一体となった異形の武器で、更に犠牲者を増やして行く。

 

 トカゲも口から毒の霧を吐き出し攻撃を仕掛けて来ている。男を巻き込んでいるが効かない様で、何事も無かったかの様に惨殺を続けている。

 

 「ひ、ひい、逃げろおおおぉぉぉ!!」

 

 部隊は既に恐慌状態に陥り壊乱している、命令はもう伝わらないだろう。このままではオレも不味いな、何とか逃げきれるか……!!

 

 オレ達が散りぢりに逃げると、男とトカゲはその場で止まり再び印を結ぶ。感知した所、相当な量のチャクラを練っている、先程の術を優に超える術を繰り出して来るというのか!!

 

 「雨がひどいな…、全部、見てくれているのか、殺されて行った者達よ……。もう少しで終わるよ……、こんなに怒ったのは初めてだし、こんなに悲しいのも初めてだ。せめて、安らかに……

 

  

 

      ――死遁 雨隠れの涙――」

 

 

 

 半蔵の繰り出した術は、空に登り戦場を濡らす雨雲と混ざり合い、岩隠れの忍達に雨となって降り注いだ。雨に当たった者がどうなったかは、語るまでもないだろう。死の間際で開発中だった塵遁を完成させ、傘代わりに使い生き延びた一人の男を除いて……。

 

 これ以降雨の国への侵攻は、岩隠れの里では忌避され、雨の国を通らず火の国へ入れる様に、神無毘橋と呼ばれる橋が造られる事になる。

 

 

 

 


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