山椒魚、右往左往の雨隠れ生存記   作:流浪 猿人

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 ほのぼの話、犀犬の口調は色々な方言が適当にミックスされています。


ヌメヌメパラダイス

 

 五影会談が終わり、しばらくした雨隠れの里では今、ある物が空前の大ブームを迎えていた。まさかの[尾獣]ブームである。話は少し前に遡る―――

 

 

 

 半蔵は六尾の封印された壺を見ながら、どうしようも無い衝動に駆られていた。

 

 開けてみたいのである。あのイラストで見た可愛らしい姿を、見てみたくてしょうが無いのだ。しかし尾獣とは未知の代物、人柱力の用意も出来ていないのに封印を解いて良い物か……、でも気さくな性格って書いてあったしなぁ~。

 

 できるだけ尾獣の待遇を良くするというのも一つの手かも知れない、里の外れの方に住処を用意して、そこで神様扱いをする。国の中で六尾に対する信仰の様な物が出来れば、六尾自身も悪い気はしないだろうし、いざというときは里の力になってくれる可能性もある。

 

 何より本物が見たい……、よし、やってみるか。

 

 「モミジ、伊蔵、角都さん、かくかくしかじかという訳なんだが、六尾と仲良くなりましょう作戦に協力してくれるか?」

 

 「ウチはええよ」

 「若が言うなら!!」

 「オレも人柱力ってのは気に入らねぇ、どうせ他と違うからなんて理由で迫害されるだろうからな……」

 

 皆賛成してくれる様だ。ただ角都さんが遠い目をして、悲しそうな顔をしていたのは気にかかった。昔、彼にも色々あったのだろう……。

 

 

 

 作業は急ピッチで進んだ。里からそう遠くない場所にある広大な森に巨大な社を建てて六尾の住処とし、更に里の中に様々な噂を流す。ここ最近、雨隠れが発展したのはすべて六尾のおかげという事にして、里の守り神の様な存在だと信仰を集めていったのだ。

 

 

 

 六尾を迎える準備が出来たので、ついに件の社で封印を解く事になった。友好関係を築くため供え物を大量に用意し、万が一暴れ出しても再び抑え付けるため、封印部隊も厳重に配置されている。そして、皆が固唾を呑んで見守る中、ついにオレは封印を解いた。

 

 ボフンッ!!

 

 謎の音と煙と共に、ついに六尾が姿を現した。

 

 おお、思ったより大きめだが他は想像していた通りだ。ぬるぬるの白い肌に六本の太めの尻尾、短い手足とナメクジ的な顔。

 

 「初めましてだな、尾獣の六尾で間違いないか?」

 「おう、オレやよ、六尾の犀犬ってんだ」

 

 図体に似合わず甲高い声で犀犬が答える。

 

 「長い間、閉じ込めてすまんかったな、犀犬殿を迎えるための準備をしていたんだ」

 「準備?てかここはどこなんじゃ、随分でかい建物みたいやけどよ」

 

 「そういやまだ言って無かったか、ここは雨隠れの里で俺は里長の半蔵と言う。それで準備と言うのは、この犀犬の屋敷の事だ。この屋敷の周りの森も自由に使ってくれて良い」

 「ふおっ!?この建物がオレのモンか!?」

 

 おっ、なかなか好感触だ。

 

 「ああ、その代わり里の者達がお祈りに来るから、適当に相手してやってくれ」

 「任せとき!その程度ならお安い御用やけん!!」

 

 「皆は里の守り神だと思ってるから、下手な事しないでくれよ?」

 「溶解液分泌させて遊ぶのは駄目かあ?」

 「アウトだ」

 

 「尾獣玉でお手玉するのは?」

 「完全にアウトだ」

 

 「体を四倍くらいの長さに伸ばすのは?」

 「それは俺が見てみたいからオーケーだ」

 

 尾獣は凶暴だと言うが、犀犬はなかなか話が分かる奴みたいだ。更に話を進めていく。

 

 「出来ればいざって時に里の力になって欲しい、他の尾獣に比べてここまで待遇が良いんだ。頼むぞ守り神サマ」

 「承知じゃけん、守り神の犀犬様の門出じゃ!!」

 

 「それと後もう一つ」

 「まだ何かあんのかあ?」

 「お腹触って良いか?」

 「何でじゃ!?」

 「柔らかそうだからだ」

 「理由になっとらんけん!!」 

 「断れば封印部隊にちょっとお仕事ができるなぁ~」 

 「悪い大人じゃ…悪い大人がおるけん……」

 

 こうして六尾の犀犬との出会いは素晴らしい物となった。(お腹は柔らかかった。枕にしたい……)

 

 

 

 ―― 一ヶ月後 ――

 

 犀犬に守り神をさせるのは失敗だったようだ。

 

 いや、暴れ出したりした訳では無いのだが…。犀犬も始めは真面目に守り神を演じていたのだが、途中で飽きたのだろう。いつの間にか祈りに来た人々の相談に乗ったり(恋愛相談もするらしい、何が嬉しくてあの謎生物に恋愛の話をするのだろうか?)、供え物の食べ物や酒を使って宴を開いたりする様になってしまった(たまにお金もねだりに来る)。

 

 やはりあの軽い性格では威厳もクソも無かったか、守り神サマって呼び方もあだ名みたいになってるし……。今ではすっかり皆に親しまれ、一種のブームが到来していた。犀犬グッズの売れ行きも好調らしい。

 

 今日も宴があるそうだ、里の者達の間で噂になっている。守り神作戦は失敗でも、ここまで里に馴染んでくれたんだったら、結果オーライだろう。俺も良い酒を持って、宴に行ってみるか……。

 

 宴には里中の人間が集まり、大盛況となっていた。中心でそれを眺める犀犬も心無しか、笑っている様な気がした。いつまでもこんな何気ない平和が続けば良いのだが…、そう上手くは行かないだろう。どんな手を使ってでも、この国を守る。俺は決意を新たにした。

 

 犀犬もそれに協力してくれるだろうか?いや、食ったメシ分は絶対に働かせてやる。俺はもう一つ決意を新たにした。

 

 

 

 

 

 

 ――おまけ 守り神サマに会いに行こう――

 

 

 金が、欲しい。

 

 突然で済まなかったな、オレは雨隠れの里の商人をやっている者だ。名前?そんなのどうでも良いだろう。

 

 発展著しい雨の国は、多くの成功者を生んでいる。火、土、風の三大国を行き来するための交通の要所、そこで一度商売が軌道に乗ると、それはもう恐ろしい程の金が懐に転がり込む事になる。かねてより心配されていた安全保障上の問題点も、半蔵様がその強さでもって何の心配も無い事を先の大戦で証明した。

 

 レインドリーム…、最近商人達の間で広まり出した言葉だ。惚れ惚れする響きだぜ。

 

 オレはレインドリームを追い求め雨隠れの里にやって来たものの、案の定鳴かず飛ばずで、背の低い建物に住むうだつの上がらない生活を送っていた。それでも食うに困る程では無いのが、雨の国の恐ろしい所ではあるのだが、通りを大手を振って歩く大商人達を見ると、やはり、心にこみ上げて来る物がある。

 

 金が、欲しい。莫大な資産と豊かな生活、同業者からの羨望の眼差し、憧れずにはいられない……!!それを掴むためにここへ来たのだから。

 

 一発逆転、新たな商売に挑戦しよう、狙いは服だ。戦争が終わった事で、服を着飾る様な贅沢も十分許されるムードが漂っている。これは来るぞ、布を大量に買い付けておこう。そして、どれだけ理論を積み重ねても最後は運が重要だ。これこそが今までオレに足りなかった物……!!

 

 運を味方につけるため、最近里の外れに出来た神社に行こう、何でも御神体が生きているそうだ。ていうか御神体が生きてるって、冷静に考えたらおかしいだろ、それ……。とにかく行ってみるか。

 

 

 

 「兄ちゃん、どうしたけん?見るからに不幸なチャクラ出とるよ?」

 「これが…、神……」

 

 オレは人生最大の衝撃を受けていた。明らかに人ならざる者が、当たり前の様に酒を樽で飲みながら、オレに話し掛けて来ているのだ。参拝客が社の中を見た瞬間、逃げ出していたのはこういう訳だったか……。

 

 「なんや悩んでるみたいね、酒でも飲みながら話そうや」

 「お、おう」

 

 正直、逃げ出したいが、オレには運が必要なのだ。この神から直接、幸運を得る…!!

 

 「実は商売が上手く行っていないんだ。何がなんでも、オレは金が欲しいってのに」

 「兄ちゃん、金は手段や。目的にしたらいかんよ」

 

 「手段?」

 「そうね、金は愛でも命ですらも買える事があるけんど、兄ちゃんは何が欲しいんか?目的が無い奴に運なんて回ってこんとね」

 「目的か……、そういえば使い道なんて考えてないな」

 

 「なら、いっちばん簡単なモン教えてやるけん」

 「?」

 

 「家族じゃ、愛する人を見つけて、そして家族の為に金を稼ぐ。オレは六道のとっちゃんに何もしてやれんかった……、兄ちゃんは同じ目に遭ってほしない、頑張って欲しいけん」

 「……オレ、少し勘違いしてたみたいだなあ……」

 「まだ若いんやから、これからや」

 

 「今日は、ありがとな守り神サマ」

 「こそばゆい、その呼び方止めて欲しいけん……」

 

 社を出たオレは、外の明かりと共に心も晴れて行く様な感覚を感じた。今日は良い事を聞いた。里へ戻るか、オレなりのレインドリームを探しに!!

 

 あっ、大量に買った布はどうしよう……。

 

 

 

 ―― 一ヶ月後 ――

 

 

 「さあ、買った買った!!最近、大人気の[守り神サマ]ぬいぐるみだ!!良い布つかってるぜ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 


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