山椒魚、右往左往の雨隠れ生存記   作:流浪 猿人

18 / 36
 第二次忍界大戦の展開も、オリジナルで考えさせて頂きます。


こんなにちっぽけな惑星の上

 

 大きな戦争の気配は、全くと言って良い程しなかった。

 

 国境での小競り合いや、任務先で他国の忍との戦闘になる事はあるのだが、それでも第一次

忍界大戦と比べれば拍子抜けする程度の物だ。

 

 雨隠れの忍は、アカデミーの方針もあって当たり外れが少ないので、依頼主から大国並の信用を貰える様になって来た。最近では、同盟国として友好を深めるため、雷の国や水の国と協力して任務に当たる事もある。

 

 雲隠れの情に厚い所と、霧隠れの忍らしく容赦がない所は、お互いにバランス良く、いい刺激になっているらしい。むしろ我が国の忍の方が能力が一定なので、よく機械の様だと言われて怖がられている。

 

 俺が必死に振興してきた傀儡も最近、流行り出して来た。ただ傀儡を製作できる者が少なく、何と俺が里一番の腕を持っているらしい。この状況は嬉しいと共に不味いので、たまに傀儡製作のセミナーを開催している。トップが直接教えてくれるという事で、毎回大盛況となっており、すぐに定員に達してしまう。

 

 この前も売りに出した太鼓腹と雨蜘蛛に、凄まじい値段が付いてしまった。made in 里長というのは一種のブランドになってしまった様だ。

 

 雨蜘蛛が売りに出された時に、[都市伝説の正体判明!!]という号外記事が出て騒ぎになったのは、また別のお話。

 

 

 

 俺が相変わらず地下室で傀儡をいじっていると、珍しく角都さんが降りて来た。角都さんがここに来るのは初めてなので、小一時間傀儡の素晴らしさについて語ろうとすると、先に角都さんが話し始めてしまった。くそっ、もう少しで角都さんも傀儡の事しか考えられない様にしてやれたのに……。

 

 「半蔵、経済成長はそろそろ限界だ。これ以上は海が無いと難しい」

 

 ついに来たか、前から気にしていた事だ。海が無い事によって、何もかもが制限されてしまう。商業はもちろん、雷と水との同盟も港無しでは最大限の効果を発揮しない。薄々勘づいていたが、港の確保は雨の国の当面の軍事目標なのだ。

 

 港を得る手段について整理しよう。まずは北の滝の国を侵略する方針、これは雷の国と共同で当たればそう難しく無いが、それは有り得ない。何故かと言うと滝の国は既に木の葉包囲網に入ってしまったのだ。五影会談の後、忍界は強大過ぎる火の国を包囲して行く方針になった。

 

 滝の国にも交渉が行われ、雨の国と同じく、火の国から直接的な支援を受けられなかった滝の国も、火の国に対する不満を持っていたため、交渉は円滑に進んだ。

 

 滝の国には、制限付きで港の使用を許可してもらったが、やはりそれでは雨の国の商人達が納得しない。

 

 すると残された道は、南の火の国と風の国の国境の地域。風の国が火の国から領土を貰った辺りだ。長らく所有者の無い空白となっていた地域のため、住民達もどこかの国の人間だとはっきりとした意識を持っている訳ではない、獲るには恰好の地域だ。

 

 

 「半蔵、南の港を獲ろうとしているんだろうが、それを火影が許しはしないぞ」

 「柱間殿か……、柱間殿はマダラ殿との戦いで大きな傷を負い、また親友を殺めた事で意気消沈していると聞いたが?」

 「その上、最近孫が出来て、思い残す事が無いとまで言っているらしい。しかし、それでも強大な力を持っているのは確かだ。さっさと往生して貰うまで準備するしか無いな……」

 

 こうして、雷の国と水の国と相談しつつ、港を奪取する機会を虎視眈々と窺うという、長期間に渡る計画が始まった。大国からしたら卑怯と言われても仕方が無いが、小国である雨の国は、なり振り構ってはいられないのだ。扉間には悪いが南は貰う。

 

 

 

 

 

  ―― 十年後 ――

 

 

 各国は平和を謳歌していた。かつての里のトップ達は俺以外は既に引退して、世代交代が始まっている。しかし、平和とは表向きの話、戦争が無いというだけであって、元匠の国の忍具等の鉄器産業のおかげで何とかなっているが、海の無い雨の国は緩やかだが確実に衰退を始めている。五年前、火の国との制海権を巡る争いに負けた雷の国と水の国もそれは同じで、戦わずして火の国とその他の国との軍事、経済、あらゆる分野での格差は広がって行くばかりであった。最近では海を使うのに雨の国も、莫大な通行料を取られている。

 

 最大の国力を持つ事によって、火の国は傲慢な振る舞いが増えて来ていた。

 

 風の国は第一回五影会談で得た領土を、膨大な対外債務のかたとして要求され、手放す事になった。

 

 土の国も以前から検討されていた所に火の国からの圧力もあり、最短ルートである神無毘橋を造ったものの、そこから流れ込んで来る安価で質の高い製品によって、国内の産業が壊滅しているらしい。

 

 制海権を取られ、航海を制限されている雷と水も、国民達の不満がピークに達している。陸で繋がる雷はともかく、海に孤立した水はより悲惨な状況だ。水の国からは再三、戦争の要請が来ている。

 

 誰もが口にはしたがらなかったが、火の国の国民達を除いて皆気付いていた。戦争しかないと、自分達がこの先、火の国の属国に落ちるのを食い止めるには、[奪う]しか無いのだと……。

 

 火の国包囲網は既に水面下で全世界に広がっていた。

 

 

 

 

 

 きっかけは突然、訪れる。木の葉の里でまたもや暴れ出した九尾を封印するために、柱間殿が犠牲となったそうだ。柱間殿は既に全盛期の力が出せず、九尾と相打ちになってしまった。

 

 偉大な忍の死に、敵である筈の各国が少なからず衝撃を受ける!!……事は無かった。

 

 この時を待っていたのだ。かねてより周到に準備を重ねて来た各国は、全世界に及んだ包囲網でついに最強の国を絡め取る。

 

 超大国とそれ以外と言う世界の、不条理と不均衡に対する鬱憤。輝きを強める火の国に対して出来た、各国に落ちる暗い影。抑止力と成り得なかった不安定な尾獣達。

 

 戦争の原因、言葉はいくらでもある。しかし、敢えて一言で言わせて貰う。

 

 

 

 

  [弱者達は、もう、限界だった]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。