山椒魚、右往左往の雨隠れ生存記   作:流浪 猿人

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 なかなか、筆が進みません……。
 とりあえず一話投稿しておきます。


犠牲と英雄

  

 

 ――神無毘橋方面 視点 はたけ サクモ――

 

 南海岸への大攻勢が始まった様だな。これで占領されている領土を取り返せれば良いが……。いや、今は仲間達を信じるしか無い、オレはこちらの戦線に集中しなくてはな。

 

 それにしても忍界全体が敵だと言うのに、ウチの国はまだまだ余裕があるのか…。補給物資は常に潤沢で、人も途切れる事が無い。

 

 そうか、今やっと気付いた、つまる所これが戦争の原因なのか…。火の国の人間からするとなかなかに気付けないものだな……。

 

 強大な国力で、戦争などせずとも覇権を握らんと迫る火の国に対する、他国の生き残りを賭けた決死の戦い。

 

 大名様や火影様を始めとする指導部は、何の正義も無く侵略を仕掛けて来たと宣伝しているが、他国の側から見れば一目瞭然だな。そもそも一国が[正義]などと言う物を定義する事が、余りにも傲慢で一方的な行いだ。

 

 雷、土、水、風、雨、滝、彼らの正義は火の国と戦う事なのだ。

 

 しかし、ならオレにも正義がある。この戦争に勝利し、無事に帰らなくてはならない、なぜなら

 

 

 

 

 里で、妻が待っている。

 

 

 

 

 火の国が巨大な国力を持っているとはいえ、南海岸に戦力を傾けている以上、他二つの戦線は楽とは言えない。

 

 各地で厳しい戦闘が続いている。オレは遊撃隊として、様々な場所で戦いを続けていた。

 

 「サクモさん!!皆、サクモさんが来てくれたぞ!!」

 「すげえ!!白い牙と一緒に戦えるんだ!!」

 

 「サクモさんが居てくれたら、百人力だ!!」

 

 数多くの任務をこなして来たオレを、仲間達は良く慕ってくれる。しかし、しばらくした頃、神無毘橋戦線には不穏な空気が流れ始めた。

 

 戦場に出ている部隊数が、明らかに減少しているのだ。ちょうどこの頃、敵が攻勢を強めて来るという情報が入った所だと言うのに、一体どうなっているのだ?

 

 オレが疑問に思っていると、神無毘橋方面軍のトップであるダンゾウ様に呼び出された。

 

 

 

 「はたけ サクモ遊撃部隊に特別任務を言い渡す。今こちらの防衛線を薄くしているのはわざとだ。敵が攻勢を強める事によって最前線は壊乱するだろうが、同時に敵がその勢いに乗って深入りして来るだろう。そこで貴様らの出番だ、サクモ。敵が深入りして来るのを見計らい、神無毘橋を破壊してこい、敵の補給路を潰し退路を断つのだ、分かったな?」

 「なっ!?」

 「どうした?」

 

 「確かに成功すれば敵は袋の鼠で、大きな損害を与えられますが、余りに不確実です!!わざわざそんな策を弄さずとも、まともに当たってもまだまだ十分に戦える戦力があります!!すぐに防衛戦を厚く張り直して下さい!!」

 「異論は認めん」

 

 「考え直して下さい!!そもそも最前線の忍達はどうなるんですか?」

 「当然、囮として死ぬな……」

 「なら!!」

 「異論は認めんと言ったはずだ!!侵略行為を行った敵国には、圧倒的な絶望を味わってもらわねばならん。そしてそれは防衛線を厚く張り、チマチマと戦っているだけでは成し遂げられんのだ!!命令に従え、はたけ サクモ!!」

 

 駄目だ…、これでは断れば里の妻がどうなるか分からない……。

 

 「……承知、…致しました……」―――

 

 戦争か…、まともな訳が無かった。世界は、狂っている……。―――

 

 

 

 五月の神無毘橋戦線、火の国が南海岸に戦力を傾ける隙を狙い、土、雨、滝連合軍は攻勢を強めた。しかしその時、火の国神無毘橋方面軍指揮官、志村 ダンゾウの策略により、神無毘橋破壊作戦が実施され、任務を担当したはたけ サクモらの活躍もあって破壊に成功した。

 神無毘橋を破壊され補給と退路を断たれた連合軍は大きな損害を出す事となった。

 

 

 

 ―――遊撃部隊はオレ以外は全滅したが、何とか橋の破壊に成功した。予定通り深入りした敵は、包囲され大損害を受けた様だ。橋を破壊した後、少し身を潜めてから戦場の跡を通って、帰途につく。

 

 すると敵の死体に混ざって、どこかで見た事のある顔が目に入った。どこかで、か…本当ははっきりと覚えている……。こいつらは以前、共に戦いオレを慕ってくれていた木の葉の忍達だ。この作戦の囮となって死んだのだ。志願した訳では無い、自分達が囮で、死ぬ事が決まっているなど知らずに、律儀に上からの命令に従って死んで行ったのだ。

 

 そしてオレは仲間達を見捨て、任務を選んだのだ。

 

 英雄、木の葉の白い牙か……、笑えるな。

 

 「サクモさん!!皆、サクモさんが来てくれたぞ!!」

 「すげえ!!白い牙と一緒に戦えるんだ!!」

 

 「サクモさんが居てくれたら、百人力だ!!」―――

 

 皆、オレが自分達を救う英雄だと死ぬまで、信じてくれていたのだ……。

 

 何が、英雄だ……。オレは分かっていながら、自分の身可愛さに最前線の忍達を見捨てたというのに……。

 

 

 

 「良くやった、サクモ。お前は戦争の英雄として、木の葉の歴史に名を刻むだろう」

 「ありがとうございます。ダンゾウ様……」

 

 世界が、狂っている……? 

 

 何だ、そんなのはただ他の事のせいにして、自分が許されたかっただけ……。

 

 

 

 本当は、狂っていたのはオレの方だった……。

 

 

 

 オレは、もう二度と、仲間を見捨てない……!!

 

 はたけ サクモは戦争の後、ある任務で再び世界の悪意に遭遇する事となる。この時の決意が無ければ、結果は変わっていたかも知れない。

 

 

 

 

 

 ――視点 魚雨 半蔵――

 

 神無毘橋方面は思いもしないハプニングがあった様だが、土の国は仮にも大国、まだまだ継戦能力は残っているだろう。それにしても火の国のとった作戦は少々、博打に過ぎたきらいがあるが…。まあ、そのせいで予測が出来なかったのだがな……。

 

 雷の国方面は順調だ。火の国の戦力が手薄になったタイミングで上手く攻勢を強め、更に占領地を広げている。二代目雷影殿は強さよりも、知略や政治力に長けた方だ。そのため、あまり表舞台に出て来る事は無いが、こういうのはお手の物だろう。

 

 脳筋ぎみな雲隠れの忍の中では貴重な人材で、そもそも雲隠れの内乱が早期に治まったのは、この人の力が大きかった。なので直接戦闘は腹心のカタイ殿という方が最強らしい。

 

 今回の戦争は味方に恵まれているな…。

 

 あくまで仲間じゃ無くて、味方というだけだがな……。その辺りは状況次第だ。

 

 

 

 オレが思案していると、南海岸方面で撤退戦を指揮した角都さんが帰って来た様だ。伊蔵も一緒かな?色々と話し合いたい事もあるしな、玄関まで迎えに行こう。

 

 

 

 

 

 


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