――五影会談 視点 猿飛ヒルゼン――
窓の外は激しい雨が降っていた。
忍界の運命を左右する五影会談、開催場所となった雨の国の会議室には、当然と言えば当然だが、そうそうたる面子が集まっていた。
五大国の影を始めとし、今回は五影会談と称しながらも様々な小国のトップが、一堂に会して話し合いをする事となっている。問題はその各国の要人達の視線が、火の国の代表であるオレに集まっている事だ。
今回の戦争は殆どの国にとって、火の国との戦いだったのだから当然か……。
空気の冷え切った空間に居心地の悪さを感じていると、部屋の外の廊下から声が聞こえて来た。
「だから僕達なんかが行って良い場所じゃ無いでしょ!!」
「長門の言う通りですよ!!半蔵様、角都様!!考え直して下さい!!」
「だってよ半蔵。どうする?」
「却下、さっさと色々経験積んで俺の仕事を減らしてくれ」
「長門も小南もびびってんなあ、こんな機会滅多にねえんだから勿体ねえぞ?それに何より半蔵様が直々に誘ってくれたんだ!!」
「「弥彦は黙ってて!!」」
「ほら、ゴネてる内に会場に着いたぞ。俺以外もう揃ってんだ、さっさと入ろう」
「「半蔵様~!!」」
声の主が部屋に入って来た途端、各国の代表に緊張が走る。無理も無い、入って来たのは雨の国の長、死雨の半蔵。忍界でその名を知らぬ者はいない伝説の忍。この男がその気になれば、この場にいる全員を一瞬で殺す事も可能だ。
オレに向いていた視線が半蔵に集まる、半蔵は何食わぬ顔で言った。
「遅刻してしまって悪いな。それと後ろの四人は護衛だから気にしないでくれ。そんじゃ始めようか」
半蔵が席に着くと同時に、会談が始まった。
「今回の大戦は激しい物となってしまいましたな」
「ええ、まったくです」
「ウチの国にも貴国の様に才能溢れる忍が欲しい物です」
「いえいえ、やはり我々も五大国や雨の国には遠く及びませんよ」
「木の葉は特に素晴らしいですね、羨ましい限りです」
まずは所々で他愛の無い世間話が始まった。しかし、誰もが話している内容とは裏腹にその目は他国の隙を窺い、ギラギラと鈍く光っている様に感じる。
話を続ける小国の長達と違って、火の国以外の大国の影達と半蔵は何も言わず、こちらをじっと見ている。
その時、不意に半蔵と目が合う、半蔵とは話したい事があったから丁度良い、オレは半蔵に話しかけた。
「半蔵殿、オレの弟子達を見逃してくれたそうですな」
半蔵は首を傾げる。
「弟子?」
「自来也、綱手、大蛇丸の三人ですよ」
「ああ、天才忍者 天才傀儡造形士 超絶イケメンの死雨の半蔵公認木の葉の三忍の事か。柱間殿と扉間の義理で生かしてやっただけだ、二度目は無い」
衝撃的なネーミングが聞こえた気がするが、気のせいだろう。半蔵は話を続ける。
「それに火影殿の弟子より、こいつの方が可愛いし凄いぞ」
「わわっ!!」
半蔵は傍にいた赤髪の少年の頭を乱暴に撫でる。少年は驚いて大きくバランスを崩してしまっていた。
「なんたってこいつはりんn…、おっとこれ以上は機密だったな。角都が今一瞬、俺を殺したそうな目で見てたし……」
子供を可愛がる姿は、死雨の半蔵と恐れられる忍だとは思えない。昔会った時はあまり話さなかったが、半蔵殿はやはり話の分かる方かも知れないな。
「それは素晴らしい!!若い世代が育つと言うのは良い物ですな」
「そうか?オレだったら敵国の若い世代が育つなんて、最悪の気分だが?」
部屋の空気が凍りついた。世間話で盛り上がっている空間で、話している相手を[敵国]だと明言したのだ。半蔵は続けて言う。
「ああ、そうだ。話は変わるが、こちらの連合軍が今占領している火の国の領土は、全て割譲して貰うぞ?」
「なっ!?」
立て続けに畳みかける半蔵に、オレだけで無く各国も動揺している。いや、オレ以外の影達は冷静に事を見ているか……。
「火影殿?何も言わないという事は、それで良いのだな?」
問い掛ける半蔵に、オレはすぐさま言い返す。
「そんな物が認められる訳無いだろう!!そもそも扉間様の暗殺から宣戦布告前の奇襲まで、全て人としての道理に反した行動ではないか!!」
半蔵は少年の頭から手を離しながら、またもや首を傾げる。そしてその口から紡がれた言葉は、余りにも衝撃的な物だった。
「何の話だ?各国は正々堂々戦っていたと思うが…」
この男……!!オレは他の国の代表達に、救いを求める様に目を向ける。しかし、意味が無かった。まずは雷影が口を開く。
「火影殿、おかしな言い掛かりはよして欲しいですな。半蔵殿の言う通り、我が国も正々堂々戦いましたが?」
こいつもか…!!扉間様を暗殺した張本人が……!!
「扉間様が暗殺されたと言うのは、誰もが知っている筈です!!捕虜達も皆そう証言していましたぞ!!」
「そんな物、拷問するなり何なりして都合の良い証言を引き出しただけでしょう。木の葉には山中一族を始めとした、そう言った事に長けている忍達が居ますし…」
「まったくです」
「他者の精神を弄ぶなど、卑劣な……」
他国も皆、口を揃えてしらを切る。こいつら……!!
「あなた方はまだ戦争を続けたいのですか!!」
オレの訴えも空しく、半蔵が口を開く。
「我が国は一向に構わんが?そもそも戦争を終わらせたいと言い出したのは、火影殿ではないですか。俺達は戦争をまだまだ続ける気があるにも関わらず、慈悲深くも火影殿の提案に乗ってあげているのだぞ?」
「くっ!!」
オレはその後も懸命に訴え続けたが、その全てが空回りに終わった。ここに来てやっと理解出来た、世界を敵に回すと言う事が……。オレは項垂れながら、最後に問い掛ける。
「何故ですか…?戦争の悲劇は去り、世界中の人々が皆、平和を享受していたではないですか……、幸せだったではないですか……!!」
その時、誰も声には出さないものの、各国から今までで最も激しい怒りを感じる。始めは水影だった。
「平和だと?幸せだと?あんたら、本気でそう思ってんのか?火の国に海上封鎖されたウチの国で何人、餓死者が出たと思う……!!」
他の国も静かだが確かに怒りを孕んだ声色で言う。
「我が国で商人や職人が何人首を吊ったか、資料があるんだが、見せてやろうか?」
「ウチの里は依頼なんてここ最近、まともに来ていないぞ?どこの里に依頼が集まっているんだろうな?」
最後に様子を黙って見ていた半蔵が、口を開いた。
「雨の国は蓄えがあったからまだマシなもんだが、そう遠くない内に同じ状況になるだろうな。
まあ……なんだ……。俺達は、火の国が平和で幸せだと呼んだこの世界に、この世界の自分達がたまらなく愛する国に里に、その未来に
その未来に、そこらで野垂れ死ぬ子供達の姿が見えた。それだけだよ……」
彼らに、オレは何も言えなかった。