山椒魚、右往左往の雨隠れ生存記   作:流浪 猿人

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 なかなかモチベーションが上がらず、時間が空いてしまいました。

 何とか頑張ります。

 

 


山椒魚は悲しんだ

 

 ――視点 長門――

 

 

 廊下には降り続く雨の音と足音だけが響き渡っていた。相変わらずいやに冷える季節だ。

 

 廊下を歩くのは半蔵様、角都様、弥彦、小南、そして僕の五人。普段は騒がしい弥彦もいつに無く静かに、半蔵様の大きな背中を見つめている。そんな弥彦が考えている事が、僕には大体分かった。

 

 先程の五影会談で見た半蔵様の姿の事だろう。あれは里の皆に慕われるいつもの優しい半蔵様では無かった。火の国に容赦なく厳しい要求を突き付けたあの時、あの場で半蔵様は[死雨の半蔵]だったのだ。

 

 僕の頭を撫でていた温かい手の持ち主と、火影様に向けていた酷く冷えきった声と目の持ち主、僕らの中でその二つはどうしても同じ人物の物だとは結びつかなかった。

 

 

 

 誰も一言も発さないまましばらく歩いていると、半蔵様が不意に口を開いた。

 

 「幻滅したか?」

 

 半蔵様はこちらを振り返る事無く、僕らの返答を待つ。弥彦がすぐさま答える。

 

 「幻滅なんて……!!半蔵様に対してそんな事思う訳――」

 「やはり納得は出来ていない様だな?声で分かる」

 「ッ!!」

 

 弥彦は俯いて黙り込んでしまった。それに構わず半蔵様は言葉を続ける。

 

 「お前らは俺が会談で他国と結託して、火の国を出し抜いた事が気に食わないのだろう?我ながらあれは卑怯だったものな……」

 「……」

 

 半蔵様は廊下の途中の窓の前で立ち止まり、外に目を向けた。窓からは高い建物が立ち並ぶ雨隠れの里が見渡せる。

 

 「そうだな…、何から話そうか……。お前らはこの国が好きか?」

 「もちろんです!!」

 

 どこか遠い目をしながら問い掛ける半蔵様に僕は即答する、これは本心だ。孤児だった僕らをここまで育ててくれたこの国に、本当に感謝している。

 

 「そうか…、そう言って貰えると嬉しいな……。

 

 俺もこの国が大好きだ。

 

 この国を守るために、今までかなり頑張ったしなあ……。女より国を愛するとは…、馬鹿な男だ。馬鹿にも程がある。でもな……

 

 

 

 

 この国は俺の夢だから……、俺の人生そのものだから……」

 

 

 

 

 窓の外を見つめる半蔵様の表情は、僕らからは窺えない。

 

 少しの間、沈黙が辺りを包む。しばらくすると半蔵様がこちらを振り返り、窓の外から僕らに視線を移した。先程までの様子とは打って変わって、雨の国を率いる頼りになるいつもの半蔵様の目だ。

 

 「今回の戦争の結果次第では雨の国は多分滅びてたぞ?」

 「……!?滅びるって…!!まさかそんな……!!」

 「冗談じゃ無い。雨の国だけでは無く、今回の戦争は各国共に瀬戸際だった……。あのまま未来をじっくりと見据えてみるとな、どの国も火の国に潰される運命にあった。俺は雨の国を潰されたくない。よって卑怯だろうが何だろうが多少の強硬手段を取らせてもらった」

 

 「でも火影様は、そんな事する人にはとても…!!」

 「あれか……、あれは優しいってより怖いんだろうな。恨まれるのが怖いんだ、臆病に近い。神無毘橋方面でとった作戦の情報で警戒してたんだがな…。あの手の優しさはそいつが優しくあるために誰かを犠牲にする。

 

 優しくあるためには、強くなければならない。強くあるためには、非情でなければならない。矛盾していると思うか?俺に取っては簡単な事だ。お前らに、雨の国の民に幸せに生きてもらって、敵国の人間には出来るだけ苦しんで死んでもらう、これが死雨の半蔵だ。

 

 お前らに俺の真似をしろとは言わん、いずれ別のやり方を見つけても良い。だが同じく祖国を愛する者として、真の意味で優しさを、強さを見つけるんだ…!!」

 「半蔵様……」

 

 それは、いやに冷える季節の、熱い約束だった。

 

 ああ、弥彦を馬鹿に出来ないな…、僕は…僕らは……

 

 

 

 この人に魅せられ、そして、この人に憧れた。

 

 

 

 話を終えた僕らは、階段を降りて玄関へ向かう。角都様は気を利かせてくれたのだろう。先に玄関へ行った様だ。僕は先程の半蔵様の話を思い出し、この先の事を考えていた。僕と同じく弥彦と小南も何か感じる所があった様で、何も言わずに思案している。

 

 もうすぐ玄関だという所で、何だか気恥ずかしそうに半蔵様が再び話し始めた。

 

 「さっきは話さなかったんだが、火の国の領土をあれだけ分捕った理由が他にもある。実はな…、俺ももう年だ、お前らに何か残してやりたいと思ったのだ。だが俺は本当に、この国以外に何も持っていない男だからな……。ちょっとは良い状態でこの国をやろうと思って、少し張り切ってしまった……。

 

 お前らが俺の事を慕ってくれるのは、正直本当に嬉しい。この全てが毒の体だ、諦めていた子供が出来たみたいでな……、ああっ!!もう!!何言ってんだ俺は!!らしく無い……!!」

 

 そう言って頭を掻く半蔵様を見て、僕らは三人で顔を見合わせて笑ってしまった。本当に、優しい人だ。

 

 「半蔵様っ、孫の間違いじゃ無いんですか?」

 「ぐはっ!!この小娘…!!俺より強力な毒を吐くとは……!!」

 

 「半蔵様!!まだまだ教えてもらいたい事いっぱいあるんだから、長生きしてくれよ!!」

 「言ったな、俺はしぶといぞ……!!マジで長生きしてやるからな!!角都とどっちが先に死ぬか賭けてくれて良いぞ!!」 

 「いや…、それはさすがに相手が悪いだろ……」

 

 半蔵様と思い思いに話す弥彦と小南は、見ているだけで面白かった。そしてそんな半蔵様は、孤児だった僕らに確かに親という物を感じさせてくれる。僕らは玄関に着くまでの少しの間に、沢山くだらない話をして、そして沢山笑った。

 

 

 

 

 ――視点 魚雨 半蔵――

 

 

 玄関では角都さんが待ちくたびれたといった様子で、腕を組み壁にもたれ掛かって待っていた。こちらの気配に気が付いたのだろう、閉じていた目を開きこちらを見る。

 

 「随分と仲良くなった様だな…、ジジイ一人混ざってても違和感無しだぞ……」

 「角都さんまで俺を年寄り扱いか……、それより三人を見送るぞ」

 

 外に出て深呼吸をしてみると、いやな物が全て出て行く様な感覚がした。会談も終わったし長門、弥彦、小南の三人ともじっくり腹を割って話せたしな。久しぶりに本当の呼吸をした気がする。体を濡らす雨すら返って気持ちがいい、

 

 「それじゃ三人ともまたな。歯、磨いて寝ろよ」

 「半蔵…、やっぱ言動がジジイじゃねーか……。三人とも、金は大事にしろよ」

 「言動が角都さんじゃねーか、あっ本当に角都さんだったか…」

 

 「「「ありがとうございました!!」」」

 

 三人は元気良く返事をする。そういえばさっき長門とはあまり話さなかったな、一応何か無いか聞いておくか。

 

 「長門は何か俺に言いたい事無いのか?」

 「……半蔵様」

 「んっ、何だ?」

 

 「半蔵様!!僕は半蔵様の作ったこの国が大好きです!!半蔵様自身も小さい時からずっと憧れでした!!雨の国はこれからも絶対に守り抜きます!!半蔵様が僕達に残してくれるみたいに、半蔵様の夢を、半蔵様の人生を、この国を後の世代に繋ぐ!!

 

 僕は、そんな風に生きたいです!!そんな人生にしたいです!!

 

 今日は本当にありがとうございました!!」

 

 「うおっ、待てよ長門!!お前今まで三人で過ごして来て、一番でかい声だったじゃねーか!!」

 「半蔵様!!私と弥彦も長門と一緒に雨の国を守るから安心してね!!じゃあね!!」

 

 

 

 三人は駆け出して行った。若いなあ……。

 

 「三人とも傘くらい差せよ、まったく…」

 「そういうお前もな、半蔵」

 「俺は少し濡れたいんだよ……」

 「雨のせいにして、それを隠したいからか?」

 「それって何だよ……」

 「死雨の半蔵なら絶対に見せないそれだよ……」

 

 

 

 

 

 

 「グスッ ホントにヒクッ ひでえ雨だなあ……グスッ」

  

 

 

 


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