モンハンのせいや!!
―視点 魚雨 十蔵―
人間五十年と謳われたのもかつての話。
息子に家督を譲り後は死ぬだけと、そう思ったのも遥か前。
戦乱が終わり、平和な時代になるとそう思っていたのに、大きな戦がまた二回。
伊蔵も何一つ言い残す事無く先に逝ってしまった。
ああ、随分と長く、生き過ぎたのかも知れない。
数日前まで何も問題は無かったのに、今は布団の上からもまともに動けない。
窓から差し込む日の光、照らされる雨の国、今のワシには眩しくて良く見えない。
窓の外から子供達の遊ぶ声がする、病院の前は公園になっているのだったな。何を話しているのかは良く聞こえない。
ただ、間違い無く、これからの時代を担う子供達。
ああ、随分と長く、生きたな。
しばらくすると病室の扉を開ける音がした。誰かが傍らに近づいて来る。
「よう、親父。ようやく元気じゃ無さそうだな」
この声は半蔵か、声の主に顔を向ける。
「相変わらず礼儀がなっていない奴じゃな…」
「悪いな、こういう性分なんだ。勘弁してくれ」
「ふんっ」
「何だよ、最近の若い者はってか?残念ながら、オレももう若くねえぞ」
「若くない者がその様とは…、本当に残念な事じゃな」
「何時に無く辛辣だな、親父」
思えば此奴には重荷を背負わせてしまったな。それなのに良くやってくれた。
「半蔵、仕事を抜け出して来ていいのか?」
「構わねえさ、角都さんもモミジもいるし。新しい世代も大勢育って来てる。俺ももうそろそろ引退するべきかもな」
「お前は仕事したくないだけじゃろ」
「うっ、そんな訳無いだろ!!ハンゾウサマ、シゴトダイスキデスヨ」
「図星じゃないか」
全く此奴は…、多くの才能に恵まれているにも関わらず…。
すぐに怠けて、ふざけてばかりで、だけど
ワシの、自慢の息子じゃ。
「半蔵、良い天気じゃな」
「ああ、この季節に雨が降っていないのは珍しいな」
「半蔵、少し眠くなって来た。わざわざ来てもらったのに悪いの」
「いやいや、俺が来たかったから来たんだよ」
「そうか…、少し…眠る事にするよ……」
「ああ、おやすみ」
「半蔵…、お前には色々な物を見せてもらった……」
「まだ寝ないのかよ」
「半蔵…、ワシの元に生まれて来てくれて…ありがとう……。この…、ただ死んで行くだけだった老いた男に…、お前は良い夢を見させてくれた……。本当にありがとう」
「親父……」
「何だ…、泣いているのか…。良い大人が…情けないのう……」
「あなたが俺の父親で良かったです。今までありがとうございました。父上」
ああ、随分と良い、人生だった――
―視点 長門―
半蔵様の父である十蔵様が、先日亡くなられた。この時期には珍しい晴れた日の朝の事だった。
半蔵様はその時間仕事を抜け出していて皆に文句を言われていたのだが、恐らく父の死期を悟りお見舞いに行っていたのだろう。葬儀は本人の遺言に従い、親族だけでひっそりと行われたらしい。
問題は十蔵様が亡くなって以来、明らかに半蔵様に元気が無い事だ。里の皆からしてみればいつも喧嘩しているイメージだったが、やはり何だかんだ言ってショックだったのだろう。
伊蔵様に十蔵様と長い付き合いの二人を立て続けに失ったの事で急に不安になってきたのか、ボク達やモミジ様や角都様に急に抱き付いて来たりして、小南とモミジ様と角都様には殴られていたりする。あの年齢じゃ無かったら逮捕されている所だ。
「――と言う訳で半蔵様を励ましてあげたいんだけど、どうするべきかな?犀犬」
「何でオレなんじゃあ」
「人生(なめくじ生)経験豊富だろうと思って」
「おっ、分かっとるやないか。しょうが無いなあ、この犀犬に任しとくけん!!」
(チョロい…)
「まず半蔵は話を聞いた限りやと最近、外に出かけてないやろ?」
「ああ、最近は部屋でゴロゴロしてるなあ」
「それがいかんのじゃ、生き物は日の光を浴びんとやる気が起きなくなって来るけん。家の中でモンハンばっかしとったら、どっかの誰かみたいになってまうけん」
「モンハン?何それ?」
「何やろ?どっかから急に電波が…」
「外に出かけるのは気分転換にもなるしな、色んな所に連れて行ったらええけん。長門の勉強にもなるしなあ」
「色んな所かあ、弥彦と小南と一緒に少し調べてみるよ」
「お土産よろしくなあ」
「うん分かった。ありがとね犀犬」
(何やこのええ子は…、もし半蔵やったらお土産のくだりで切れてるけん……)
―当日―
「半蔵様!!こっちこっち!!」
「遅いぜ半蔵様~!!」
「待ってくれよ…、ジジイを置いてかないで…」
「そうよ、半蔵様も年なんだから合わせてあげましょうよ」
「ぐはっ、その優しさはかえって傷つくぞ」――
「半蔵様!!これ買って!!」
「実はオレも欲しい物が…」
「実はボクも…」
「お前ら俺を財布だと思ってるだろ…、まあ買ってやるけどよ」――
「半蔵様、何かの集会やってますよ。しかも凄い盛り上がってるみたいです」
「皆、壇上にいる奴の演説を聞いてるみたいだな」
「労働者諸君!!この国の現状をどう思う!!」
\ナントモオモワネーヨ/ \コエデケーウルセ-/
\ヒッコメハゲー/
「何とも嘆かわしい事にこの国は多くの労働者が少数の金持ちに搾取されている!!」
\ホカノクニカラミタラゼンインカネモチダゾ-/ \ヒッコメハゲー/
\テメーモイイフクキテンジャネーカ/
「皆の者!!この私、あかはた テツオの元へ集え!!革命だ!! 」
\ヒッコメハゲー/ \ヒッコメハゲー/ \ヒッコメハゲー/
\フザケンナー/
\ツドウトカハンゾウサマイガイカンガエラレネ-/
「あかはた テツオ語録も絶賛発売中だ!!是非とも読んでみて欲しい!!」
\イラネー/ \ダメミタイデスネ/
\アノサア…/
「半蔵様!!革命とか言ってますよ!!」
「まあ誰も賛同してないし良いんじゃねーか?せっかくだし語録も買っとくか?」
「それで良いんですか半蔵様…」――
「そろそろ最後になります」
「おいおい最後って言ってもこの方向にある建物はあれしか無いだろ…」
「長門!!弥彦!!小南!!待ってたけんね!!」
「やっぱり犀犬神社しか無いよな…」
「はい犀犬、お土産。結構おいしいお菓子だよ」
「何や、酒やないんか…」
「おい、俺の金だぞ…」
「堅いこと言うなや、おかげで良い気晴らしになったやろ?」
「!!お前の差し金だったのか」
「半蔵、お前が元気無いって言うて皆心配してたんやけん」
「…そうか、気を遣わせてしまったな…」
「ふふん、半蔵。感謝するけんね!!半蔵からもオレに何かくれてもええんやで?」
「なら今日買った物の中で一番高い物をやるよ…」
「おおっ!!期待大や!!」
「このあかはた テツオ語録をやるよ」
「多分一番のゴミやんけ!!」