山椒魚、右往左往の雨隠れ生存記   作:流浪 猿人

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 何とか少しずつ投稿。


大怪獣襲来!!

 

 ―視点 魚雨 半蔵―

 

 

 長く生きる事の何が良いかと聞かれると、技術の進歩を直接目にする事が出来るという事だろう。少なくとも俺はそう答える。

 

 そして現在、その技術の進歩の中心は間違い無くここ雨の国だろう。俺や商人達からの多額の研究への投資と匠の国の日々進化する技術力によって、雨の国ではラジオやカメラといった最先端の製品を生み出す事に成功した。

 

 今までの様に陸路で運ぶだけでは無く、南の港から世界中に向けてより効率的にこれらの製品を輸出している。その結果莫大な利益が生まれ、角都さんの機嫌も良くなって行く一方だ。

 

 

 

 ある日の午後、最近機嫌の良い角都さんから誘いを受けた。

 

 「半蔵、モミジ、研究所で面白い物が完成したらしい。仕事の休憩がてら見に行かないか?」

 「おお!!遂に頼んでおいた究極傀儡 頑○無が完成したと言うのか!!」

 「何やと~~!!」

 

 「頑○無は作らないし、作れないと言っただろうが…。お前の下らない夢に回す予算は無い」

 「ああついにはっきり言われてしまった…。そんな気持ちを一曲 夢破れて――」

 「歌わんでええから…。ほっといてさっさと行こ、角都さん」

 

 「シュコー I dreamed a dream シュコー in times a gone by~♪シュコー」

 「ガスマスクうるさっ!!」

 

 

 

 半蔵達が研究所に入ると、中にはカメラの化け物とでも呼ぶべき妙な形の巨大なカメラが、部屋の中心に鎮座していた。

 

 「ふおぉぉ~~!!ほぼ頑○無じゃ無いか!!」

 「いやいや大分ちゃうやろ…」

 

 「所長、こいつの説明を頼む」

 「お待ちしておりました角都様、半蔵様とモミジ様もご一緒の様で。これはビデオカメラと言って映像と呼ばれる動く写真を撮るカメラでございます」

 

 「映像?」

 

 「おや半蔵様、興味を持って頂けた様で何よりです。映像についてですが百聞は一見に如かず、と言う事で実際に見て頂いた方が早いかと」

 「勿体ぶらないで早く見せてくれよ」

 「はい、それでは前のスクリーンをご覧下さい」

 

 カメラとはまた別の機械が動き出し、光がスクリーンに投射される。

 

 「大通りの写真?むっ!!こ、これは…、動いてるだと!?」

 「これが映像です」

 「はえ~凄いもんやなあ」

 「これは金になりそうだな…」

 

 そこには雨の国で最も賑わう大通りの様子が、生き生きと映し出されていた。各々感心している様子だ。

 

 「このビデオカメラの素晴らしさが分かって頂けましたかな?」

 「でもお高いんでしょ?」

 「お高いですねえ…、一個人で買える物ではありません」

 「そこまで金を出しても今のところ大した使い道は無いしなあ…、売れねえかな…」

 

 半蔵が少し残念そうにしていると、所長が不意に口を開いた。

 

 「そこで提案があります」

 「?」

 

 

 

 

 「宣伝のために映画を撮ってみませんか?」

 

 聞き馴染みの無い単語が部屋に響いた。半蔵達は所長の話に耳を傾ける――

 

 

 

 

 ―脚本―

 

 

 「怪獣映画だ!!雨の国へ襲来した大怪獣!!それに立ち向かう主人公達を描いた超大作だ!!弥彦もそう思うだろ!?」

 「おお!!さすが半蔵様だ!!男の世界を分かってる!!」

 

 「そんなださいのより恋愛映画やろ!!女の思いに気付かない男!!すれ違う思い!!それでも最後には!!最後には…、小南もそう思うやろ!?」

 「は、はい!!半蔵様ごめんなさい」

 

 「当然サスペンスだ。雨の国で起きた猟奇事件、それを追う主人公、金とエロとグロを搦めて人の心を抉り出す。半蔵のバカ映画とは訳が違う。長門もそう思うだろ?」

 「良いですね。脚本次第で幾らでも面白くなるし、予算も抑えられそうです」

 

 「怪獣だ!!」

 「恋愛や!!」

 「サスペンスだ」

 

 

 

 

 「里長命令だ」

 

 「ひ、ひどい!!」

 「これが独裁者か…」

 

 

 ―配役―

 

 

 「やっぱり若い方が良いよな。弥彦、長門、小南頼んだぞ」

 「ええ!!」

 「ボク達で良いんですか!?」

 

 「この作品をより良い物にしたいんだよ…、それに色々な経験させてやるって約束してるだろ?」

 「半蔵サマ…、やっぱ何だかんだ言ってええ人やなあ…」

 

 

 

 

 「ちなみに俺はお前らに劇中でアドバイスを与える謎の科学者役だ」

 「重要な役貰う気満々やんけ!!」

 

 

 ―予算―

 

 

 「角都さん、単刀直入に言おう。幾ら出せる?」

 「…耳を貸せ」

 

 「……っ!!それ程の額を!!」

 「別に大した事じゃない」

 「嘘をつけ、興味無い感じでクールに装っておいて実は楽しみなんだろう」

 「違う」

 「またまた」 

 「……ふんっ!!」

 「うおっやめろ!!結構強めに殴るな!!照れんなよ!!」

 「ふんっ!!」

 「ちょっとホントに痛い!!やめて!!」

 

 

 ―最も重要な会議―

 

 

 「ふう、遂にこの時がやって来たか…」

 「来てもーたな…」

 「予算は全く関係無いがな…」

 

 「み、見ろよ半蔵様達凄え雰囲気だ…!!」

 「会談の時より凄い…!!」

 「これが独裁者…!!」

 

 

 

 

 「怪獣の名前を決めるぞ!!」

 

 半蔵が高らかに宣言する。これから壮絶な討論が始まる…!!誰もがそう思った所で角都が手を挙げた。

 

 「半蔵がいるのだからいくら話し合っても譲らないだろう。ここは大人になって子供達に任せないか?」

 「……しょうがないか…」

 「……そうやな。ウチらは大人になろか…」

 

 「もうめんどくさいのボク達に任せてるだけでしょ!!」

 

 

 

 「三人でじゃんけんして勝った奴が決めたら良いだろ」

 「私も弥彦のやり方で良いよ」

 「じゃあボクもそれで良いよ」

 

 「「「じゃーんけーんポン!!」」」

 

 「ぼ、ボクの勝ちか…」

 「早く決めろよ」

 「弥彦、あんまり急かさないの!!長門、ゆっくり決めて良いからね?」

 

 「う~ん」

 「長門」

 「半蔵様?」

 

 「俺はお前を信じている、お前の決めた名前なら何も文句は言わないから、自信を持て!!」

 「半蔵様…、分かりました……。怪獣の…名前は……!!」

 「行け…!!長門!!」

 

 

 

 

 「大怪獣ペインです!!」

 「長門…、お前……」

 

 中二病は誰の心にも存在する――

 

 

 

 

 

 ―遥か未来のとある一幕―

 

 

 「ボルト、映画館で面白そうな事やってるぜ。行ってみねーか?」

 「面白そうな事?何がだよ?シカダイ」

 

 「何でも昔の映画を再上映するらしい、更に再上映する映画はじいさんばあさんがやたら絶賛してる[大怪獣 ペイン]だぜ」

 「ああ!!聞いた事あるってばさ!!雨の国で撮られた世界最古の映画!!」

 「あの長門様も子供の時に出てるらしいぜ!!」

 「長門様の子供時代!?ますます気になるな!!」

 「行ってみようぜ!!」

 

 

 

 「おお!!ポスターも当時の奴を再現してあるのか!!」

 「何か思ったより気合入れてるみたいだな!!」

 

 「うわ!!もう始まる直前みたいだ!!すぐに行こうぜ!!」

 「おう!!」――

 

 

 

 「いや~すげえ迫力だったな」

 「怪獣のデザインがぶっ飛んでたな、尻尾が六本のナメクジって…」

 「本当に、あんな昔に作られた映画とは思えねえな」

 「特に怪獣が町を破壊するシーンは怪獣が本当にいる様にしか思えなかったな。あれどうやって撮ったんだろうな」

 「まさか本物の町を作る程予算があると思えねえしな…」

 

 「主人公の長門様達の演技も上手かったな」

 「でもただ一つだけ残念な所がなあ」

 「ああ、残念な所があるよな……」

 

 

 

 

 

 「「あの謎の科学者役演技下手過ぎだろ」」

 

 

 


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