ちょっとストーリー作りの練習がてら書いた話ですので、あまり面白くは無いかもしれませんがご容赦下さい。
書き溜めていた訳では無く、ただ単にモチベが上がらなかっただけなので、続き物にも関わらずこの一話しかまだ書けていません…。出来るだけ次の後編も早くうpしたいです。
それは静かな夜だった。ちらほらとした雲に覆われた空、その隙間から一つ、二つと星が顔を覗かせる。生憎とその夜は新月、月明かりは全くと言っていい程無かったが、大通りには数ヶ月前から世界に先駆けて電灯が設置され、路地裏にも微かに光を差し込ませている。
路地裏に足音が響き渡る。
「くそっ、まだ追いかけてきやがる!!」
男は必死に逃げ続けていた。地元の勝手知ったる薄汚れた路地を駆け抜けてゆく。忍には及ばずともかなりの速度で走っているが、それでも[追っ手]との距離は段々と縮まってしまっている。
「はあっはあっ、すまねえオジギ、オレはもうここまでかも知れねえ…」
男が体力の限界と共に動きが鈍る。その時、男の背後からクナイが飛来し、足に深々と突き刺さった。男は勢い良く転倒し地面に仰向けになる。
倒れた男の傍に追っ手が歩み寄る。
「はあっはあっ、クナイとは…。やっぱりカタギじゃ無かったか…」
息を切らせながら男は追っ手を睨み付けるがその表情は伺えない。追っ手は背負った刀を抜き倒れた男に向けて――
―視点 弥彦―
「どうしたんですか半蔵様?こんな朝から」
「弥彦、ちょっと付いてこい。良い勉強になるぞ」
ある朝、半蔵様から突然そう言って誘われた。勉強か…、あんま好きじゃねえけど半蔵様がわざわざ誘ってくれたんだ。行くっきゃないよな。
半蔵様と共に里をしばらく歩く。通りは準備で忙しそうにする様々な店の人々で朝から既に賑わっていた。最近知った事だが、みやげ物屋の表に飾られた五十分の一サイズの犀犬ぬいぐるみは何と売り物らしい。でか過ぎるだろ…あんな物誰が買うんだ?(ただし半蔵様が欲しがって里長室の天井を高くしようとして角都様に殴られた事は既に里中の周知の事実である)
巨大ぬいぐるみに熱い視線を向ける半蔵様を見ると、本当に変わった人だと改めて感じる。しかしそんな所も含めて半蔵様の魅力だ。オレが忍になろうとした理由も半蔵様の様になりたかったからだ。
幼い頃に見た夢、忍として半蔵様の跡を継ぐ…、継ぎたかったんだけどな……。
半蔵様の跡を継ぐのはきっとオレじゃなくて長門だろう……。
長門は天才だ、いつも一緒にいるからこそより確かにそうだと感じる。アカデミーの頃からその忍としての才能を否応無く見せ付けられた。その上戦争でオレを助けてくれた時に見せたあの目…、角都様によると輪廻眼と呼ばれる伝説の目だという。
正直言って悔しい…。しかし長門が嫌いな訳では決して無い。誰よりも出来るのに、誰よりも優しい奴だ。半蔵様の後継者としてあいつ以上にふさわしい奴はいないだろう。
でもなあ…、オレも男だ……。なかなか割り切れるもんじゃねえよなあ……。
どうしてオレじゃないんだろう…?誰よりも半蔵様に憧れ、誰よりも努力して来たのに……、オレじゃ半蔵様みたいに完璧な忍になれないのだろうか?長門だったらなれるのにオレじゃなれないのだろうか……。
そんな風に考えている内に半蔵様が立ち止まる。目的地に着いた様だ。ここは確か…賭博場だったか…?こんな所に半蔵様が用事?
中に入ると明らかにカタギじゃ無い空気を持つ人間に奥へ案内された。勿論半蔵達と一緒なら何も問題は起こらないだろうが…。
「おう半蔵、待ってたぜ」
中では顔に無数の傷痕をつけた老人が座って待っていた。
「一応、様を付けろよ…。久しぶりだな組長、話があるって聞いたが?」
「まあ落ち着けや、そっちの子は?」
「こいつは弥彦って言うんだ、ちょっと色々な場を経験させてやりたくてな。ほら弥彦、挨拶しとけ」
急に話を振られて焦ったが急いで挨拶する。
「あっ、初めまして弥彦って言います。半蔵様にはいつもお世話になってます。半蔵様、この人は?」
「雨の国の侠客を取り仕切ってる鬼瓦さんだ。まあ組長って呼んどけば良い」
「よろしくな、ボウズ」
侠客?良いイメージは無いが、半蔵様はそんな人達とも繋がりがあるのか。
「それで話ってのは何だ?」
「ああ、それについてだがな――」
―視点 角都―
「角都様、半蔵様と弥彦は?朝どこかへ出掛けて行ったみたいだけど…」
「さあな」
先程までしていた仕事が一段落したオレは長門を連れて近くの茶屋で休憩していた。甘い物は嫌いでは無い、最近気付いた事だがな。
「角都様、この前教わった経済論についてもう一度詳しく教えて頂きたいのですが…」
「ああ、それならな」
静かに時間が過ぎて行く。平和など柄じゃないと思っていたのだがな…。半蔵とも長い付き合いだ。思った以上に感化されてしまっているのかもな、
平和な時間も嫌いでは無い。
「うわあああぁぁぁぁぁ!!!!」
静寂が突然破られた。何事かと叫び声のした方向に目を向けると、向かいの店で血だらけになって倒れる男と、その傍に佇む刃物を持った男が目に入った。
「角都様!!」
「分かっている…!!」
長門が叫ぶと同時に体は向かいの店へ向かっていた。血の付いた刃物を持った男の前に立つ。
「何をしている…!!」
少しの怒りを込めた声で問いかける。しかしよく見ると男の目は虚ろで焦点も定まっておらず、足取りもおぼつかない様だ。
「ボ、ボクはオ、オレは殺さなくちゃならない!!そいつがへそから蛇にそっくりの薔薇をオレに向けて伸ばし来てっ!!それで神様が葉っぱの日記を食べようとしないから、心臓は砂漠達の悲しみの代弁者のふりをしているふりをしたアヒルが素敵な奴隷制を定めるのに反対していて!!」
明らかに正気では無い。男は震えながらオレに斬りかかって来る、すかさず刃物を持つ手を取り地面に叩きつけ、背中から解留愚々の触手を出し拘束した。
しばらく拘束していると男は気を失い、そのままやって来た警務部隊に連行されていった。
「刺された男の方は何とか助かりそうです。角都様は大丈夫でしたか?」
「長門、オレが素人に遅れをとる訳無いだろう…」
「それもそうですね…、愚問でした。…角都様、それは?」
「さっきの奴の懐から取り出した…。粉…だな。というよりさっきの奴の状態から察するに…麻薬…だろうな」
「!?」
こういうのは、最悪に嫌いだ。
―半蔵様side―
「最近、かなり強力なヤクが出回ってる。あそこまでやばいのは既存のどのヤクの症状にも無い」
「…出所は?」
「問題はそこだ」
「?」
「調査に行かせた組の者が全員帰って来ていない…、ウチの人間はヤワな鍛え方はしてねえ、それこそ忍にしか負けねえくらいにな……」
「流通に忍が関わってるって事か…確かに俺らの管轄だな」
「何か分かっている事は無いんですか?」
「ふふふ、ボウズ。オレ達も馬鹿じゃねえ、売人が現れるポイントをいくつか抑えてある」
「そこで俺達の出番という訳だな」
「そういうこった」
組長はそう言うと部屋の隅に待機していた若者に合図を出す。若者はそそくさと部屋を出て行ったかと思えば、すぐに戻って来た。その手には地図が握られている。地図を広げ組長は指でいくつかの場所を指し示す。
「明日だ、この場所に明日売人が現れる。一晩に複数の場所で行う場合がある事からヤクの流通は組織的なものだろう」
「組織…、こっちも人数を出さなくてはな…」
半蔵様は少しの間地図を眺めた後、素早く立ち上がり出口へ歩き出した。
「じゃあな、組長。後は俺に任せておけ。弥彦もさっさと帰るぞ、時間が惜しい」
「ああっ、ちょっと待ってくれよ半蔵様!!」
歩き出した半蔵様を追い掛ける。その時、後ろから声がした。
「オレは侠客なんてやってる身だが、ヤクだけは許せねえ。やり方はどうあれあくまでもオレ達は社会を裏から支えなくちゃならねえんだ…。本当はオレ達だけで解決してやりたかったが…、半蔵様……頼みます……!!」
半蔵様が顔だけ振り返る。
「何だ、ちゃんと様付けで呼べるんじゃねえか……」
勝負は明日の夜――
―角都side―
「吐いたか?」
「ええ、拷問するまでも無くしらふに戻ったら全部話してくれたそうです。麻薬の売り場はあの人が知っているだけでも複数あるみたいです」
「とりあえずそこを狙うか…、数人捕まえたら芋づる式に残りの手掛かりも得られるだろう」
「しかし妙な点が…」
「?」
「麻薬はどうやって国内に運び込まれたのでしょう?雨の国では南の港は勿論、陸路でも厳重に荷物を調べられます…」
「……確かに不自然だがそれも売人達に聞くことで分かって来るだろう」
確かに雨の国には幻覚などの諸症状を引き起こす様な植物やキノコは無い…。国外から持ち込まれた物の筈だが……。
「ただいま~、角都さ~ん。里長室の天井は高くしてくれたか~?」
聞き馴染みのある声が建物に響き渡る。あの馬鹿は…、麻薬の事なんざ何も知らないのだろうな……。オレと長門は帰って来た里長に事の次第を伝える為に玄関に向かった。