山椒魚、右往左往の雨隠れ生存記   作:流浪 猿人

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 大変お待たせしました。最近忙しいしモチベも上がらないしでこんなに遅れちゃいました。

 どうか許して……。


本日は晴れときどき苦悩と刃物

 

 

 ―作戦会議―

 

 「決行は明日の夜だ」

 

 進行役の角都がそう告げる。

 

 半蔵達と角都達が情報を得たその日の夜、里長室で作戦会議が行われていた。メンバーは半蔵、弥彦、角都、長門の情報を持って来た四人に雨隠れの中でも選りすぐりの忍を加えた少数精鋭である。

 

 角都は言葉を続ける。

 

 「情報を集めたところ新種の麻薬は週末の夜、要するに明日の夜に流通する。いくつかのポイントに売人が現れるらしい、相手は他里の者かフリーかは知らんがどうやら忍の様だ。あまり大々的に動いては勘付かれる可能性があるのでこの場にいる少数精鋭だけで作戦を行う」

 「角都さん」

 「どうした?半蔵」

 

 

 

 「売人の生死は…?」

 

 ジャラリ、と懐に忍ばせた鎖鎌を鳴らしながら半蔵がそう聞いた。

 

 最近では聞くことの無かった里長の冷たい声色に角都以外のメンバーが気圧される。半蔵は己の国に麻薬をバラ撒かれている事に少なからず怒りを感じていた。

 

 「……出来れば生かして捕らえてもらいたいが、まあ最悪どちらでも構わん」

 

 角都は半蔵のそんな様子を見て絶対に捕らえて来い、とは言えなかった――

 

 

 

 ―視点 弥彦―

 

  

 どうしてだ…?

 

 きっかけは先程の会議で告げられた売人の現れるポイントへの配置。編成はスリーマンセルでそれぞれの地点の隊長が任命されて行く。(ちなみに半蔵は周りを巻き込む可能性があるため一人である)

 

 「魚雨 林蔵はA地点」

 「御意!!」

 「さみだれ カゲロウはDを頼む」

 「はっ!!」

 

 半蔵様の分家のベテランや新進気鋭の若手などがそれぞれ角都様から配置を言い渡される。オレと長門は流石にまだまだ隊長は任されないだろう、そう思っていたその時。

 

 

 

 「長門はBだ」

 「はいっ!!」

 

 ……長門は隊長?幼い頃からの親友がどこか遠くへ行ってしまう様な感覚がした。

 

 「角都様…、オレは……?」

 「弥彦はオレの班だ」

 「……」

 「不服か…?」

 

「……いいえ、…何でも…無いです……」

「そうか…半蔵、最後に一言頼む」

 

 

「ええ~本日は晴天なり~」

「…雨降ってるだろうが……もういい、解散だ」

 

 

 ……どうしてだ?どうして認めてくれないんだ…!?オレだって強くなってるのに…!!半蔵様みたいに、角都様みたいになりたくて努力して来たのに……!!

 

くそっ!!オレだって!!

 

 

「……」

「どうした?半蔵」

「…いや、何でも無い」

 

足早に部屋を後にする弥彦の背中を、半蔵だけが見つめていた。

 

 

 

 ―半蔵達の作戦決行当日 視点 ?―

 

 

 人間は一度楽を知ってしまうともう以前には戻れないという。しかしそれはそこまで悪い事だろうか?

 

 回って来るのは危険な任務ばかり…、まともな任務は名門の一族が完全に囲っちまってる。命懸けで任務をこなしても里の上層部にピンハネされその労力には到底見合わない額を受け取る…、それにも関わらず次の仕事を回してもらう為、頭を下げ感謝の言葉を繰り返す…。

 

 反吐が出る……!!

 

 オレこと葉桜 コウジが木の葉隠れを抜け、ヤクの売人なんてやっているのは楽がしたかっただけだと蔑むことが誰に出来る?

 

 ヤクを売り捌く自分が間違ってないとは言わない、ただ、それでも…

 

 

 

 「オレはあいつらよりはまともな人間だ…」

 

 自分に言い訳をする様に、薄暗い倉庫の中でオレは[商品]を整理していた―

 

 

 

 数刻ほど経っただろうか?今日は客の入りが少ない、場所が悪いか…、他の売人連中の方に客が流れちまってる様だ…。

 

 売人は全員何らかの理由で里を抜けて来た抜け忍だ。捕まる様なヘマはしない。

 

 

 

 「オレだってそんなヘマはしねえよ……気付いてるぜ?」

 「!?」

 

 男が背後から素早く飛んできた火遁を軽々と躱す。

 

 「何の用だ?ボクちゃん」――

 

 

 

 ―視点 魚雨 半蔵―

 

 

 「ヤクの売人皆殺し日和だな」

 「口だけでも捕まえるって言うつもりは無いか…?」

 

 

 作戦決行間近、いつも通り俺は角都さんと軽口を叩き合いながら皆が集まるのを待っていた。

 

 「眠いし腰痛いし最悪の気分だ…」

 「里長室で待ってても良かったのに、お前が自分も行くと言ったんだからな…」

 「分かってるよ…。そうだ、話は変わるんだがな、角都さん」

 「どうした?」

 

 「弥彦は大丈夫なのか?大分悩んでいるみたいだが…、心配だ…。」

 「…そうか?何も問題無い様に見えたが…」

 「やっぱりひじきに人の心は理解出来ないのか…、悲しきモンスターよ…」

 「モンスター…、どの口が言う…」

 

 

 

 角都さんと話をしている間に少しづつメンバーが集合していく。早めに来たメンバーと作戦を再確認していたその時だった。

 「皆さん!!大変です!!」

 

 長門が珍しく大声を出して部屋に飛び込んで来た。

 

 「どうした?長門」

 

 

 

 「弥彦を部屋まで迎えに行ったら書き置きが!!一人で先に行ってしまったみたいです!!」

 

 「!?何だと!?」

 「なぜだ!?」

 

 皆が矢継ぎ早に驚きの声を上げる中、長門は言葉を続けた。

 

 

 

 「書き置きには…、長門みたいに皆に…半蔵様に認めてもらいたいと…!!」―

 

 

 

 ―弥彦side―

 

 

 奇襲は失敗したか…!!

 

 相手と一旦距離を取る、半蔵様の武器でもある鎖鎌は間合いが何より重要だ。

 

 十分に距離をとり攻撃を加えていく。

 

 「死雨のジジイの猿真似か?こんなモン当たるかよ!!」

 

 男は鎖鎌の軌道を見切りまたもや攻撃を躱す。しかし躱す事は出来ても接近する事は用意では無い。

 

 (接近するチャンスはある!!あのガキが次に術を放って来た時、そこが勝負だ!!)

 

 リーチの差を生かして弥彦は攻撃を続ける。それを男は時に躱し、時に手に持ったクナイで弾きながら機会を待つ。

 

 (なかなか来ねえな…、ならこっちから誘ってやるか…!!)

 

 一際速く放たれた一撃を男はギリギリで躱す、無理な体勢で躱したため男に大きな隙が出来た。

 

 否、出来たふりをした!!

 

 すかさず弥彦は印を結ぶ。

 

 「火遁 串火!!」

 

 相対する男に奇襲の時に使った烏の形をした炎では無く、狙い撃つ様な一直線の炎が襲いかかる。

 

 「掛かったな!!」

 

 その瞬間、男は瞬時に体勢を立て直し放たれた術をかいくぐりながら、弥彦の懐に潜り込んだ。

 

 「貰った!!」

 

 男がクナイを突き立てようとした刹那、男の耳に声が届いた。

 

 

 

 「悪いな、本命はこっちだ」

 

 弥彦の懐から傀儡の腕が飛び出した。その腕に仕込まれた刃物が男を斬り付ける。

 

 「なん…だと…」

 

 傷は浅かった、しかし刃物に塗られた強力な神経毒によって男は地面に倒れ伏した。

 

 

 

 


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