ほのぼのパート
視点 ――秋風 モミジ――
半蔵から暇を貰ったモミジは、木の葉滞在の最後の一日を満喫していた。
「おばちゃん!!そこの饅頭一つ!!」
「まいど!!」
「おおっ、このお茶うまいなぁ!!」
「はっはっは!!そうだろう!!雨の国から取り寄せたんだ」
「ええっ!?じゃあいつも飲んでるやつやん、驚いて損した!!」
「あれが火影サマの顔岩かあ、ウチの里でも同じ物を…。ぶはっ!!半蔵サマの顔岩とか考え
ただけでも笑てまうわ!!」
モミジは一人でも十分楽しんでいたが、何か更に面白い事が起こらないかとも、内心期待していた。その時、大通りの真ん中で口喧嘩をしている同い年くらいの二人の少年を見つける。
「だから猿飛一族の方が上に決まってんだろ!!」
「馬鹿な事を言うな!!志村一族が猿共に負けるか!!」
「何だと~!!」
志村一族の少年、ダンゾウと、言い争う猿飛一族の少年、ヒルゼンであった。
一族の誇りが掛かった言い争いは、互いに一歩も譲らず睨み合う。しかし、そこでヒルゼンが急に驚いた様な顔をした。
「ああ?どうしたヒルゼン」
「いや、志村後ろ」
ダンゾウが振り向くと、そこには満面の笑みを浮かべる女がどアップでこちらを見ていた。
無論、モミジである。
「何や面白そうな事やっとるやないか。どうしたん?」
「うおっ、何だあんた」
モミジは胸を張って答える。
「あんたとは何や!!ウチは雨隠れ一の美人忍者、モミジちゃんやで!!それでどうしたん?お姉さんに相談してみ?」
「お姉さんつったって大して歳、変わんねえだろ。まあいいが聞いてくれよ。このサルが自分の一族の方が俺の一族より上だって言ってんだぜ?」
「はあ~、一族馬鹿にすんのはあかんわ、まあどっかの毒マスクみたいな例外もいるけど」
するとヒルゼンが言い返す。
「一族を馬鹿にしたのはそっちも同じだ!!いつも猿呼ばわりしやがって!!」
「猿呼ばわりはあかんやろ~、どことなく似てるけど」
「「あんたどっちの味方なんだ!!」」
まさに喧嘩する程、仲が良いといった二人の様子にほっこりしていると。忍の集団がこちらに向かって来るのが見えた。男達は三人の前で立ち止まる。
「ヒルゼン!!そろそろ一族の集会の時間だぞ!!こんな所で何を油を売っている!!」
「げっ、親父!!」
丁度その時、新たな忍の集団が三人の前に現れる。
「ダンゾウ!!猿飛一族なぞのガキとまたつるんでいたのか!!」
「お、親父。これには訳があってだな」
「訳だと、何があったんだ?」
経過を見ていたモミジは猛烈な悪戯心に襲われ、つい口走ってしまった。
「そこのダンゾウ君とヒルゼン君が自分の一族の方が上やって譲らんのや~」
場の空気が凍りつく、ヒルゼンとダンゾウは口をあんぐりと開けてモミジの方を見つめている。
「ばっ、馬鹿!!親父達にそんな事言ったら!!」
「お、親父。嘘だからな?」
二人が必死に弁解するも時既に遅し。双方の忍達は拳を強く握りしめ、プルプルと震えている。
「志村ぁ、貴様らまだそんな世迷い言を…!!」
「貴様らこそついにボケたか?猿飛ぃ。猿飛が志村より上などありえん!!」
「ごめん……、まずいことしてもーた?」
事態が今一理解出来ていないモミジに二人が詰め寄る。
「まずい何てもんじゃねーよ!!あの人らはつい数年前まで殺し合ってたんだぞ!?」
「仲の悪さなんて俺らの比じゃねーよ!!ちょっとでも刺激したらすぐに戦いが―」
三人が騒いでいると、先頭の男二人が素速く印を結ぶ。
「火遁 猿火吹雪!!」
「風遁 真空連波!!」
「戦いが…、始まっちまうだろうが…」
当主同士の術のぶつけ合いと同時に、あちこちで戦いが始まった。
「やはり火遁と風遁では相性が悪いか!!」
「関係無いわ!!火遁をぶつけ合ってもワシが勝つ!!」
術をぶつけ合った猿飛一族と志村一族の当主二人は、三年ぶり六回目の斬り合いを開始した。
「腕が落ちたのでは無いか?」
「抜かせ!!」
当主だけで無く、他の者達の争いもやはり拮抗している。木の葉隠れにはまだ戦乱の気分が抜け切っていない荒くれ者も多く、里の中心で起きた戦いを喜んで見ている者も少なく無い。かく言うモミジも、興味深く見守っていた。
「かっ~、えらい事になってもたなあ~」
「「お前のせいだよ!!」」
「あんたらは仲ええんやな」
「「良くねぇよ!!何でこんな奴と!!」」
余計に怒りそうな気がするのでやっぱ仲ええやん。とは言わなかった。
「おっ。でもそろそろ終わりそうやで」
「何で分かんだよ?」
「東の方から半端無いチャクラ持った人、近づいて来てるもん。多分止めに来た偉いさんやろ」
「お前、感知タイプだったのかよ。半端無いチャクラって事はあの人かあの人だな」
ヒルゼンとダンゾウがモミジの意外な特技に驚いていると、次の瞬間戦っていた両者の動きが止まった。
「これは幻術…!!という事はあの人か!!」
「ああ」
「「マダラ様が来たんだ!!」」
幻術で動きを縛られた忍達はやって来たその忍に恐れを抱く。
「マダラ様!!何故止めたのですか!?」
「そうです!!今日こそ木の葉に不要なこいつらを!!」
「木の葉に不要…か。何故それをお前らが決める?それを決めるのは柱間だ、思い上がるな…!!」
やって来た木の葉の立役者の一人であり、圧倒的実力者であるうちは マダラに凄まれ猿飛一族と志村一族は双方、何も言えなかった。
「本来、里の中央で諍いを起こすなど許せる物では無いが、一度目だ。今日の所は許して置いてやろう。だが二度目は無い…!!」
幻術から解放された忍達は、すごすごと帰っていった。モミジら三人はこれにて一件落着、と思っていると、何とマダラがこちらに近づいて来たでは無いか。モミジが逃げようとするとヒルゼンとダンゾウに襟首を掴まれる。死ぬ時は道連れとでも言うつもりかこいつら。
「先程、幻術の中で話を聞いた。どうやらお前らが原因の様だな」
「ごめんなさい…」
「ごめんなさい…」
「お腹減ってきたから、ラーメンでも食べに行かへん?」
「「ちょっとは反省しろ!!」」
「…いや、構わん、行こうか」
「「マダラ様!?」」
うちは マダラ、死んだ弟と同年代の子供には強く当たれないという弱点もあったのだった。