八幡、捻くれたままNEWゲーム   作:nyasu

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就職は嘘と欺瞞に満ちている

就職とは嘘であり、悪である。

就職を成功せし者達は常に自己と周囲を欺く。

自らの過去を肯定的に捉え、致命的な失敗は学生時代のいい思い出として教訓とする。

バイトしすぎて単位がヤバかった奴は、少し早めに社会を経験しました何ぞ言う。

彼らは就職の二文字の前ならば、どんな行動も全て就職に役立つように脚色する。

そして彼らは就職を前にして、その妥協に特別性を見出す。

自分達はやりたい仕事だったから何社も受けなかったと言い、他者の就職に対してはやりたい仕事があるからって何社も受けるとか現実見ろと言う。

仮に就職する事が成功の証であるのなら、何社も受けても就職出来たなら妥協したとしても同じ結果として扱われなければ可笑しい。

しかし、彼らはそれを認めないだろう、全ては彼らのご都合主義でしかない。

ならそれは欺瞞だろう、糾弾されるべきものだ、つまり彼らは悪だ。

ということは、逆説的に就活で何社も受けて吟味の結果教師となった俺は正義である。

敢えて言おう、リア充爆発しろ!

 

「痛っ」

「何をしているか、この馬鹿が。生徒の手本になるような例題を書けと言って、どうして犯行声明を書き上げてるんだ。一周回って、懐かしさで涙が出てくるぞ」

「ハハッ、歳取ると涙腺が弱くなるって言いますもんね」

「あぁん?」

 

ピクピクと小じわが揺れながらドスの利いた声を平塚先生が上げた。

異様な眼力に、思わず圧倒されてしまう。つーか、マジで怖い。

 

「い、いやほら一般論といいますか、平塚先生に当てはまるかどうかは統計学的な見地から考えるとしたら一考の余地があるとかないとか、さぁ仕事しなきゃなぁ~」

「おい小僧、私に何か言うことがあるんじゃないか?」

「小僧って、いや確かに俺が高校生の時点で先生は結構な年齢で――」

 

腹部に強烈な衝撃が走り、俺は二の句を告げずにいた。

痛っ、えっ、何、今俺殴られたの?

 

「…………」

「えっ、いや、あの、無言で涙目は辞めて下さい死んでしまいます」

 

主に俺のメンタルがマッハでヤバイ。

昔は次は当てるぞとかそういう感じだったのに、遂にそんな余裕すらなくなってしまったか。

 

「そ、そう言えば比企谷。結婚とか、その彼女とかいないのか?」

「なんですか急に、母ちゃん?母ちゃん、なんですか?いや、今はいませんけど」

「今も、だろ?」

「ぐっ」

 

さっきの意趣返しか、俺の唯一の生命線を否定される。

いたことあるし、アレは彼氏役で実際に告ったらフラレるけど、フラレちゃうのかよ。

っていうか、なんで深夜の職員室で自分の恩師と恋バナしないといけないの?女子なの、修学旅行なの?

しねーよ、つうか出来ねぇよ。

 

「雪ノ下や由比ヶ浜とは、その連絡とか取ったりしてないのか?昔から、仲良かったろ」

「罵声を浴びせたり気持ち悪がられるのを仲がいいと言うのなら、この世のイジメはなくなるんじゃないでしょうか。いや、まぁ偶に飯とか行くぐらいには続いてますけど」

「そ、そうか。あれ、終わりか?」

「えっ、いや、まぁ……」

 

何を期待しているのか、この八幡自慢じゃないが浮いた話は一切ない。

妹に対する愛が重いから、他人との交流で浮いたりしないんだ。

上手いこと言おうとして失敗した感が半端ないな。

 

「いいか、今からでも遅くない。女は待ってるんだ、だから幸せにしてやれ」

「ちょ、急になんすか。痛い痛い、肩掴まな、意外と力強いなおい!」

 

ガシッと、両肩を捕まれ逃げ出すことが出来ない俺。

怖い怖い、あと怖い、目が血走ってるから!

 

「私はな、後悔してるわけじゃないんだ」

「あー出たよ、出たよこれ、絶対後悔してるアレだよ」

「おい、心の声がダダ漏れだぞ」

 

怒ってないよ、怒らないから言ってごらんと同じパターンですね分かります。

 

「就職すると大学時代の友達と疎遠になりやすくなる、時間が合わないのは色々な地方から来てる場合もあるから仕方ない。それに仕事を覚えるのに必死な時期だ、必然構ってられない。だが、そうすると気付けば自分の周りにしか出会いが無くなる、同じ職員室の中から見つけないと行けなくなり婚活を始めようにも何故か途中で追い出される始末。挙句、男がいても碌な事がないと悟り、いつしか自分と結婚してしまうのだ。そして、ふと偶に別の未来を想像して一人で涙する」

「重い重い、ヤケにリアル過ぎて引くんですけど。分かりました、頑張って結婚しますよ。つうか、誰か貰ってやれよ、俺が貰うぞ」

「マジで!?」

 

ガシッと掴まれていた肩に、再び力が込められる。

目の前には、キラキラした目をする平塚先生。

あの、その、すいません、今のは本心じゃないので、はい。

 

「おい、なんで目を逸らすんだ。もう一度言ってくれ」

「世の中には、言うと後悔するという場面が何度かあると思うんです」

「やめろ、やめろ!聞きたくない、聞きたくないぞ!」

「すいません、俺が今回は全面的に悪いです、なので肩が脱臼する前に離してもらえませんかね」

 

いつも感謝してるけど、それと結婚したいは違うんだよ。

いや、俺も結婚くらいしたいけど、学校辞めて専業主夫になりたいけど、一人暮らししてわかったけど専業主夫になるほどの経済力がある女と結婚できるスペックが俺にはなかった。

 

「もう、アラフォーなんだよ!そろそろ、独りぼっちは嫌なんだよ」

「一人は嫌だもんな……」

 

もはやキャラ崩壊が進んでしまっていた。

俺もアラサー、過去の先生と同じ年齢になっていた。

何だかんだ言いながら、俺も先生のような教師になってしまっていたのだ。

あの頃の俺は先生が結婚できない理由を察していたが、同じ感じを生徒に抱かれているんだろうか。

うわ、恥ずい。なに、女子高生に十年前に生まれて十年早く出会っていればなんて思われてるの、照れるわ。

いや、ねぇな。自分で言ってて無いと思ったわ。

 

「最近思うんだ、もっと早く行動していれば良かったのではないかと。婚活に勤しむ前に自分の周囲でいい男を探せば良かったんじゃないかと、高望みしすぎていたのかもしれないなと」

「あぁ、なるほど。まぁ、アラフォーで結婚なんて今時珍しくないですよ」

「おい、それに対して根拠はあるんだろうな、なぁ?」

「ひ、ひや、ま、まぁ、俺があと十年早く生まれていてもっと早く出会っていれば、多分先生に心底惚れていたなんて学生時代は思っていましたよ」

 

思わず平塚先生への恐怖にゲロってしまったが、明日から合わせる顔がない。

急に自分の髪を弄りだして、別に興味ねぇしみたいな思春期の男子的な行動で、照れてることバレバレなのがまた恥ずかしい。

くそぉ、こんな所にいられるかトイレ行こう。

 

まぁ、でも確かに俺も先生に及ばずながら過去に思いを馳せる事はある。

あの時、と後悔することは多く経験したからな。

もしも、なんて考えて色々と妄想するくらいはしたことあるさ。

今の関係を壊したくなくて、なぁなぁで、それの結果がベストでなくベターで、でも確かに悪くはないんだ。

良くもないけど、悪くもない、普通の結果だ。

ずっと友達でいる、そういう関係だ。

 

だが、もし俺が学生の時に一歩踏み出していたら、俺は本物を手に入れる事が出来たんだろうか。

建前や義理の関係じゃなくて、お互いが傷付かないように一定の距離感で踏み込まない関係じゃなくて、考えてもがき苦しみ、あがいて悩んで、踏み出したなら本物が手に入っていたんだろうか。

 

「あっ……」

 

一瞬の浮遊感、足を踏み外して初めて自分が廊下から階段に居たことを自覚する。

トイレと逆方向だし、俺ってばどうしてこんな所にいるのだろうか。

取り敢えず、公務員なのに残業させる学校から労災って降りるのかなと思いながら目をつぶり来るべき衝撃に備えるのだった。

 

……痛い。

 

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