俺は久しぶりだが、戸塚は初めましてだった。
クラスでチラチラ話したそうに見てた俺は、まるでスライムのようだっただろう。
仲間になりたそうに見ている感じだ、共通点は殴ったら死ぬくらい弱いことか。
「そういえば比企谷くん、テニス上手いよね」
「まぁ、フォームが綺麗だってよく言われる」
「もしかして経験者?」
「いや、ゲームしかやったことない」
「あ、アレねみんなでやるやつ!」
「俺は独りでしかやったことないから、多分違うゲームだな」
ゲームキューブは独り用のゲームしか無いから、いいね。
任天堂はパーティーゲームなんて作ってないから、いいね。
昼休み終了のチャイムがなり、お互いに顔を見合わせて戻ろっかと言葉を交わした。
「うおぉぉぉぉ!波動球!」
「漫画の見すぎな、ほい」
「ま、曲がる魔球!?」
「ただのスライスな、ほい」
「唸れ、俺の右手!」
「テニスは走って追いつかないと返球出来ないぞ」
ルールを覚えているか、ちゃんとゲームとしてプレイ出来るか。
そういう知識と運動面の採点をするためにテストとして試合が組まれた。
試合なので、容赦なくやらせてもらう。
悪いな、これもテストなんだわ。
「わっ、やったー!すごいよ、比企谷くん!」
「あぁ、ありがとな。後、俺のことは八幡でいい」
「えっ……じゃ、じゃあ僕のことは彩加で、いいよ」
「待って、なんで最後に間をあけた。いいよだけ、躊躇いがちになんで言ったの」
「なんか、恥ずかしくて……えへへ」
いや、熱いわ。
もう、夏が到来してるかもしれなかった。
その後、授業の片付けを戸塚と行う。
俺くらいのレベルになると周囲に無視される能力を環境にまで適応できる。
ステージが違うんだよ能力のな。
この能力を使って、無視したいものは無視することで戸塚とふたりきりだと思い込める。
終わることが分かっているけど、俺もっとテニスしてたかったよ。
安西先生、テニスが……テニスがしたいです!えっ、私に言われても、って困んないでよ。
「ねぇねぇ、八幡」
「何だい戸塚、何か欲しいものでもあるのかい?」
「えっ、ないけど。あのさ、八幡さえ良ければテニス部に入ってくれない?」
「悪い、もう俺は部活入ってるんだわ。力が、欲しいんだろ」
「すごい!何で分かったの、少年マンガみたいなこと言ってるけど」
「強くなりたいもんだろ、男の子って奴はさ」
俺の発言に戸塚が大喜びしてた。
八幡知ってる、戸塚って男の子っぽいものが好きだよね。
そういう所が逆に女子っぽい気がするけど、性別の壁なんて些細なものだ。
性別すら戸塚は超越してるからな、もしやアルティミットシイング戸塚なのでは?
俺は、考えることをやめた。
放課後、俺は部活をしながらテニス部を見る。
今日は、戸塚が休みなのかいなかった。
はぁ、休みだろうか。
「ねぇ、窓の外を見ながら溜息なんて吐かないでくれる?煩わしいわ」
「その煩わしさ、恋煩いとかいうオチだったりする?」
「私は戦場ヶ原ひたぎではないのだけど、怖気が走るわ」
「なに、お前遂に読んだ感じ?」
「し、仕方ないから読んであげたわよ。えぇ、貴方の趣味に合わせてあげないと、友達のいない比企谷くんは話すことが無くて言葉に詰まってしまうものね。良かったわね、私が寛大な心で部員のケアをしてくれる人格者であって」
「そうだな、お前照れ隠しで長文言う癖は直した方がいいぞ。今時の安直なキャラ設定のヒロインみたいだから」
「なっ……!?」
固まる雪ノ下、昔も指摘した時に早く言ってよと怒ってたな。
あとその後、照れ隠しじゃないわって言うから、じゃあ何で怒ったんだって言って撃沈してたっけ。
墓穴を掘って撃沈した雪ノ下が懐かしい。
「べ、別に私は」
「ちょっと待ってろ」
俺は何か言う雪ノ下を放置して、部室のドアを開けた。
そして、廊下を覗き込むと後ろ向きで歩く由比ヶ浜と戸塚が案の定いた。
「でね、でね、あれどしたのさいちゃん?」
「あっ、八幡」
「えっ?わっ」
ボフッと、俺にぶつかってくる由比ヶ浜。
おいおい、後ろ向きで歩くと俺にぶつかって危ないでしょ。
「うぇ!?ヒッキー、ヒッキーなんで!?」
「悪かったよ、ぶつかりたくないくらい気持ち悪くてな」
「やや、違くて!別に触れるのが嫌って、違うよ!触りたいって意味でもないからね!」
あたふたする由比ヶ浜。年頃だもんな。
異性と手と手が触れてあたふたする年頃だもんな。
俺なんか平塚先生が勿体ねぇとか言ってよこした飲みかけの酒とか普通に飲んでたわ。
間接キスに恥じらいを感じてた純粋な八幡は死んだのかもな。
「どうしたんだ」
「今日は依頼人を連れてきたんだよ、ふっふーん!」
「お前には聞いてない」
「塩対応!?」
戸塚の口から俺は聞きたかったんだよ。
まぁ、いいから教室に入れて由比ヶ浜の頭を軽く叩きながら言う。
あっ、どした?
「何してるんだ、早く入れよ」
「う、うん……そだね、うん」
「あっ、お前入部届書いとけよ、じゃないと雪ノ下は部員と認めないぞ」
「えっ、無駄にルールに厳しくない!ゆきのん!」
「無駄じゃないわ、ルールは守るべきですもの」
「書くよ!超書くよー!仲間にいれてよっ!」
慌てて入部届を書く由比ヶ浜、俺はそれを横目に紅茶を入れる。
雪ノ下が、ガタっと中腰になって私の仕事とか言ってるけど、声が小さすぎて囁くようで怖かった。
「それで依頼内容はテニス部を強くしてくれってことだろ、いいぜ引き受けよう。それしか選択肢はないからな」
「奉仕部は便利屋ではないわ、あと部長は私よ」
「そうだな、自信がないなら雪ノ下は見てるだけでいいぞ」
「大きく出たわね比企谷くん」
あー、変なスイッチ入っちゃったよ。
何だお前、頭来て令呪使っちゃうくらい負けず嫌いなの。
知ってた、お前みたいなのチョロインって言うの知ってた。
「良いでしょう、戸塚くん。貴方の依頼を受けるわ!テニスの技術を向上させればいいのよね?」
「は、はい、そうです!ぼ、僕がうまくなれば……みんな一緒に頑張ってくれると、思う」
戸塚が俺の後ろでプルプルしながら応えた。
そうだよな、氷の女王みたいなやつがそんなこと言ったら怖いよな。
強くする代わりに命を貰おうとか言いそうだよな、魔女かよ。
あっ、いい香り。得も言われぬような女子高生の香り、シャンプー何使ってんの可愛いは作れる的なの?
「ちなみに具体案は」
「死ぬまで走らせてから死ぬまで素振り、死ぬまで練習、かな」
ふふ、っとちょっと微笑み混じりの雪ノ下。
いや微笑ましさとかより恐ろしさが際立つからな。
「ぼく、死んじゃうのかな……」
「お前は死なない、だって俺が守るもの」
戸塚ぁぁぁ!とか言いながら走り出しそうである。
あっ、待ってやっぱ無理そう。
クソ、奴のATフィールドには勝てなさそう。
ちなみにATはオートマではなく、貴方戦う気なのかしらという言葉の略だ。
「放課後は練習があるのよね、昼休みに特訓しましょう」
「りょーかい!」
最後は入部届を書いた由比ヶ浜の元気な返事で締めくくった。
昼休み、地獄の特訓が今始まる。
やたら目立つ淡いブルーのジャージに着替えてコートに向かう。
制服の中、ジャージ姿は目立った。
「ハーハッハッ八幡」
「忙しいから、またな」
面倒くさい相手にそのせいで絡まれる事もあったが、比企谷八幡はクールに去るぜ。
しかし、回り込まれてしまった。
「こんな所であうとは奇遇だな」
「待ち伏せしていてよく言う、お前の腹は隠しきれてないぞ。あと忙しいんで」
「……悲しい嘘をつくな、お前に予定などある訳がないだろ」
「失礼な、俺はこれから信仰を試される所なんだ」
ほんと、マジどいて。
体積大きすぎ、邪魔だから。
具体的に言うと、入り口にジャストフィットするのやめて。
「八幡っ!一緒に行こ」
「は、八幡……その御仁は……嘘だろ、嘘だと言ってよハーチィー!」
「戸塚は可愛いだろ、だが男だ!」
「こんな可愛い子が男の子なはずがない!」
「我が信仰を愚弄するか、この匹夫めが!こんな可愛い子が女の子なはずがないだろ!」
それ言ったら戦争だぞ!お前と道を違える事になろうとは、全然寂しくないわ。
「えっと、八幡の友達?僕、戸塚彩加です。男子の友達あんまり多くないから、よかったら仲良くしてね」
「……おい、八幡。ひょっとして、これ我のこと好きなんじゃないか?モテ期?モテ期というやつか?」
「痩せたら来るぞ、多分。だから、今は勘違いだ。勘違いすんな、いやマジで」
「マジでか!よっしゃぁ、運動するわ!」
すごい、コイツ自分の聞きたいことしか聞いてない。
「雪ノ下キレるから、じゃあな」
「あの御仁……ほんと怖いからなぁ」
俺達は恐怖の前に心一つになった気がした。
失いかけた友情が治った気がした。
「と、戸塚殿ぉぉぉ!友達になってやらんでも、いやむしろ恋人になっても良いですぞ」
「えっと、それは無理。友達ってことで」
「戸塚殿が微笑んでる、これが現実だと……八幡ドヤァ!ドヤァ!」
やっぱ、コイツ殺したほうが良い気がした。