俺がコートに立つ、さながら大英雄に挑む守護者ムーブ。
今の俺、最高にカッコイイわ。
「あー、もうやる!」
「由比ヶ浜、落ち着けよ。お前のグループ、ガン見してんから」
「えっ、うそマジ?」
ギギギとでも聞こえそうな程ゆっくりと由比ヶ浜は三浦を見た。
見た、聞いた、ならば後は恐怖するのみ。
そこには笑顔の三浦がいた。
「ユイー、あんたさぁ、そっち側につくってことはあーしらとやるってことなんだけど」
「なぁなぁ八幡、アイツ第四位とかじゃないよなビーム撃たないよな」
「お前、現実と妄想を一緒にするな」
笑顔が怖いってすげーよな、才能だわ。
ギャラリーも流石にビビったのか、ざわつく。
ざわざわ……なんかみんな鼻の形とか角ばって見えてきた。
気のせいですか、そうですか。
「でも、あたし、部活も大事だからやるよ!」
「着替え、女テニの借りるからアンタもくれば?」
ちょヤバイんじゃないの、可哀想。
そんな声が聞こえてきそうな感じだった。
絶対、腹パンでしょ部室の裏でさ。
まぁ、そんなことはないだろうがご愁傷様。
「あのさーヒキタ……比企谷くん」
「おい……おい」
「ごめん、あとテニスのルール良くわかんないし適当でも良いかな」
「なんで把握してないんだよ。それであんなこと言うとか、戸塚の練習に付き合う気マジでないだろ」
「悪かったて、でもあの場を乗り切るのはアレしかなかったからさ」
「はぁ、単純に打ち合って点を取りあうでいいだろ」
そうこうしてるうちに、由比ヶ浜が一生懸命裾を引っ張りながら歩いてくる。
まぁ、動きやすさ重視で見せパンとかズボンのタイプもあるしな。
なおウチのタイプは見せパン、でもってあのパンツは見せないパンツ。
つまり、見られて恥ずかしいパンツだ。
むしろ、堂々としすぎだろ三浦。
「なんか恥ずっ……短すぎない?」
「お前、普段からそんくらいだろ」
「なにそれ!いつも見てるってこと、キモい!マジでキモイ!」
「……ハッ」
小娘が、色気づきやがって何言ってやがる。
そんな物生活指導で見飽きたわ。
「鼻で笑われるだと……なんかムカつくー!」
「それで八幡どうする、女子の方を狙うか?」
「中二知らないの、優美子県選抜選ばれてるかんねー」
「ふっ、縦ロールは伊達ではないか……マジで大丈夫なのか、八幡!」
「材木座、あれはゆるふわウェーブだ」
「聞いてないわ!」
えー、だって小町の読んでた雑誌に書いてあったし。
まぁ、県選抜ってのは骨が折れそうだ。
ギャラリーはそれはもう偉く盛り上がっていた。
そりゃ、葉山と三浦のペアは強そうだもんな。
こっちは、俺とかダメそうだし由比ヶ浜も元気だけで上手そうではない。
何名か、男子の声援が違う意味で盛り上がってるが下心があるとモテないぞお前ら。
「葉山、先に言っておく」
「何かな、比企谷くん」
「本気で来い、そうすればあるいは届くかもしれないぞ」
「何を言って……ッ!?」
俺は高く放り投げた球を、本気でブチ抜いた。
球は高い打点から一直線にコートのエリア真ん中に落ち、勢い良く後方へ跳ねる。
俺と会話していたせいで態勢の整ってない葉山の横をすり抜け後ろのフェンスにぶつかって地面へと転がった。
「悪い、最近練習して昔の勘が戻ってるんだわ」
「ハハハ、マジか」
マジだよ葉山、お前の相手している俺は身体は高校生でも中身は十年以上の経験者だよ。
「フォォォォ、八幡すごーいぞー!」
部活の顧問をする時、俺は最初に戸塚のような奴らを強くしたいと思った。
初めから感謝をして欲しかったわけじゃない、顧問などと持て囃される気もない。
ただ、誰もが強くなるという結果だけが欲しかった。
しかし昼休みや放課後に付き合って、残業して仕事して、休日も学校で練習に付き合って、次いでに残業。
休日手当も出るが微々たるもの、もはやボランティア、それでもテニスは楽しかった。
だが面倒を見ていた生徒に熱すぎると言われ、先生はずっとやってるんだから上手いよと言われ、数え切れないほど練習を続けた末に、俺の最初の決意も遂に磨耗した。
一番堪えたのは、厳しすぎるとやめた生徒達のせいで人数不足から本気で頑張ってた奴らが団体試合に出れなかったことだ。
そういう年が何度かあった。
そこからは惰性で顧問を続けたっけな。
「皮肉なもんだ、あんなに適当にやろうと思ってたのに、しっかり身体は覚えてるんだからな」
県選抜、そうかお前は短期間で人の数倍努力したんだろうな。
だがな、俺はその倍の時間を普通の努力で過ごしていた。
ズルいだろうな、そうだろう。
だが、これで実力は同じだ。
「わわっ!ボールが縦ロール!」
「しまった、由比ヶ浜は普通の実力だった」
最初のサーブ、それは適当なルールだとしても受ける人間は決まっている。
俺なら返せる球も、由比ヶ浜は返せない。
必然、二回やるので二回ともサービスエースだ。
俺が常にサービスエースを取り、三浦がサービスエースを取る。
試合運びは、お互いに同じくらい。
実力は拮抗、だが女子と男子の差が出る。
由比ヶ浜の体力の低下が目立ち、下手にボールに触ろうとして自滅することが多くなってきた。
形成は逆転、不利気味だ。
「ごめん、ヒッキー。私のせいで、負けそうに」
「気にすんな。やったことないのに、前に出て努力するお前を馬鹿になんかしたりしない。それに、アイツらお前ばっか狙ってるからな」
俺が意外とやるからか、集中狙い。
ドッジボールでもよく見る光景だ。
弱い者イジメと変わんないだろ、それ。
由比ヶ浜がコートの真ん中でウロウロする。
球に手を出そうとして、躊躇してるのだ。
俺は左右に揺さぶられるようにコートを行ったり来たりしながら打ち返す。
偶に球を打つ、なんてしょうもないダジャレが浮かんだり正月の特番でテニスとかあるなと変な事を考えながらやる。
俺の球は全部葉山狙いだ。
ルールは無視して、ただ葉山に当てようとしている。
だが、奴も持ち前の反射神経で避けながらボレーばかりしてきやがる。
浅い球をチャンスだと必死に由比ヶ浜が取るが、ボフッと浮いた球は三浦によってスマッシュされた。
そして、頬を掠めて通りすぎる球。
由比ヶ浜がぺたりと座り込んだ。
「大丈夫か?アイツ、性格悪いな」
「超怖かった、いったぁっ……」
俺は知っていた。
だが、それと同じことは起きないだろうと思った。
前回より、負担は少ないはずだったが由比ヶ浜は足を痛めてしまった。
「ごめん、あーやばいなー、さいちゃん困るよね、やだな……勝ちたいよ」
由比ヶ浜が悔しそうに唇を噛んでいた。
やめろよ、そういうの弱いんだから。
「由比ヶ浜、お前コートから出ろ」
「えっ、なんでダメだよ」
「テニスも大事だが、怪我が悪化したら不味いだろ。俺は平気だ、一人は慣れてる」
それに、雪ノ下が来ることも俺は知ってる。
「だから、平気だ由比ヶ浜」
「……やー、ほんとヒッキー諦め悪すぎ、あんときも馬鹿みたいに全力出してキモイくらい必死でさ……私、覚えてるよ……ごめん、私じゃ付き合いきれないかな」
そう言って立ち去る由比ヶ浜、まわりから喧嘩とか呟きが聞こえる。
喧嘩するほど仲がいいと言うだろ、つまり仲良く無いと喧嘩は起きない。
なら、仲のいい友達など今はいない俺が喧嘩するわけがない。
「この馬鹿騒ぎは何?」
白熱した戦いを黙らせるように熱狂が冷めた。
その一言を発したのは修学旅行で見回りをしている先生、ではなく部長の雪ノ下だ。
不機嫌そうにしただけで黙らせられるってすげーな。
お前の周りだけモーセが海を割ったみたいに人が避けてるじゃん。
「お前、テニスすんの?」
「由比ヶ浜さんが来てくれって、なんで私がと思うけど」
「だってこのまま負けんのやだし、頼めるのは友達のゆきのんだけだもん」
「とも……だち……」
何その反応、知らない単語を聞いたロボットみたいだな。
「都合の良いときだけ利用してない」
「大事なことは友達じゃないと頼めないでしょ」
「比企谷くん、分かってないわね。私に優しくする時点で利用するような悪い人じゃないわ」
「あぁ、そうだな。理由が悲しい」
その後、小さい声で友達と呼ばれるのもかまわないわとか言う雪ノ下に由比ヶ浜が抱きついたりする一悶着があったが俺は思ったことはただ一つ。
ラブコメの神様って馬鹿なの、女の子同士のラブコメやるなら俺と戸塚のラブコメください、オナシャス!