何でこいつはピンポイントで人の心を抉ってくるのか、ビューティーホーとかいうレベルのスナイプ技術だわ。
しかも、何故か俺が怒られるという、人に知られて無くてすいませんね。
由比ヶ浜はその豊満な胸を寄せては離し寄せては離し、俺の視線は寄せられては離れられなかった。
抗えない、スタンド攻撃かもしれない。
「け、携帯教えて?ほ、ほら!探すたびに、どんな関係とか聞かれるの恥ずかしいし」
「思春期かよ……思春期だったな」
俺はスマホを投げ渡す。
俺のスマホにはアマゾンと妹とマックしか登録されてないからな。
もっとも、メールした女子は妹だ。
中学生の事は、思い出したくもないね。
今よりもうろ覚えだけど、メールした女子に晒されて死にたくなったことだけは覚えている。
人間は危機回避の為に嫌なことを覚えていると言うが、忘れたい過去だわ。
「ヒッキー、遠い顔してる。キモい」
「お前、さらっと酷いこと言ってる自覚ないよな。気づいて、ねぇ気づいて、気づけ」
「いや、なんか、あー、うん……」
「待って、いつもと違う!俺の携帯見てから態度変えるのやめろや、いや女子とメアド交換とか嬉しいけどさ!」
「比企谷……じゃあ、私ともアドレス交換するか?私はちゃんとメール返すぞ」
「あっ、そういうのいいんで」
平塚先生がさっと出した携帯を仕舞おうか仕舞わないか、手を彷徨わせていた。
断られると思ってなかったのか、どうしようって顔していた。
「いや、でも」
「間に合ってます」
「ぎょ、業務連絡とかほら、あるだろ何か」
「そもそも、学生と教師がメアド交換というのは風紀を気にする立場として如何なものかと思うんですが」
「君はどの立場で喋ってるんだ、まるで教頭だぞ意味が分からんぞ」
「先生、送っといたよ!」
「そ、そうか!間接的になら、生徒のメアドを手に入れても……天才か、由比ヶ浜!」
「いや、アウトだよ。立場逆に考えてみろ、凄まじいアウトだよ」
男性教諭が男子生徒経由で女子生徒のメアドを交換する。
字面の時点で事案だった。
「えっ、なにこの出会い系の迷惑メールみたいな☆★ゆい★☆ってやつなんて読むの?」
「えー、なんで可愛いじゃん。あー、ガハマさんって何!なんで登録変えるの」
「ガハマさん、なんだかしっくりくる響きだわ。比企谷君ったら、もしかして内心でそう呼んでるの」
「ちょ、ちょー!あ、あだ名とか、かかか彼女じゃ、やぁ、てか、付き合う前に、えぇ!?」
「何こいつ、なんでバグってんの?お前の友達だろ、早くなんとかしろよ」
「知らなかったの比企谷君、これは彼女の仕様よ」
「生まれたときからバグ仕様じゃないよ!もーもー、二人ともひどーい!」
和気藹々としている空間が出来上がっていた。
惜しいのは、それを人を殺せそうな目で見てくる先生の存在か。
怖い、貞子がテレビから出ないでじっと見てる感じだわ。
来るなら来いよ、じゃないと無言の視線は怖いから。
「比企谷君、伝え忘れてましたが今度の職場見学は三人一組です。好きな人と組んでください、もっとも君にその心配はいらないでしょうけどね。ふふ」
「えっ、先生なんか調子悪くない?」
「あぁ、俺のこと君付けだ。死ぬほど疲れてるんだ、そっとしといてやれ」
「私生活で、なにか嫌なことがあったのかしら」
うん、まぁ、そのへんはね。
君達も独身期間が長くなると分かるよ。
彼女彼氏がいるのが当たり前の世代の独身と、学生の時の独身はレベルが違うからね。
悟りを開かないと心が死ぬレベルだからね、誰かもらってやれよ俺が貰うぞ。
特別棟の四階、東側。
各部活動の活動音を聞きながら、この我らが奉仕部は活動してなかった。
部室から奏でられる音を上げるとするなら、雪ノ下の小説をめくる音か、俺が筆記する際に出てくる音か、由比ヶ浜の携帯の音だけだ。
「私、すごいこと気付いたんだよね」
「すごーい、君は何でも知ってるフレンズなんだね。どの方程式を使えば良いんだこれ」
「そこは複素平面上のある領域において正則な関数の複素積分についての定理を使うのよ」
「ねっ、聞いてる?聞いてないよね、あとゆきのん日本語でおーけーだよ」
「コーシーの定理か?これだから自称進学校はいらんレベル求めすぎ、で由比ヶ浜はなんだっけ?」
「私の言葉は日本語だと思うのだけれど、それで由比ヶ浜さんは何に気付いたの?」
俺と雪ノ下の視線が由比ヶ浜に注がれる。
由比ヶ浜はその豊満な胸を張り、むふーと自慢げにしていた。
なお、雪ノ下が胸を押さえてくっと自信なさげにしていた。
これが格差社会か、がんばれ雪ノ下。
「何?」
「別に」
「今、何を思ったか言いなさい。言わなくても言っても殺すわ」
「俺、死ぬのか……」
俺が後退り、雪ノ下が距離を詰める。
恐ろしい光景を打破するかのように、由比ヶ浜がパンパンと手を叩いた。
「良いですか。由比ヶ浜、雪ノ下、戸塚、三浦、平塚、海老名、全部地名であるんだよ。すごない?」
「そうか、苗字って地名由来って知ってか?」
「むしろ知り合いの名前が地名って今更気付いたのと言いたいのだけど、いえ私が悪かったから泣きそうにならないで」
「今のは雪ノ下が悪いだろう、だから俺は悪くねぇ!悪くねぇけど、由比ヶ浜ごめんな!」
そうやって、全力で保身に走る。
そんな雑談をして、それぞれの作業に戻ると由比ヶ浜が小さくため息を吐いた。
もうしょうがないな、生徒の悩みを聞き逃がせない俺が聞いてやろうじゃないか。
「どうかしたの?」
「あ、うん……何でもない。ちょっと、変なメールが」
「おい雪ノ下、どうして俺を見た!言え!」
「やだ、怖い。もしかして、なにか心当たりがあるんですか?」
「心当たりは……」
あれ、そう言えばと過去を思い出す。
戸部と葉山の取り巻きの、やべぇ戸部しか思い出せねぇ。
取り敢えず、葉山の取り巻きでチェーンメールあった気がする。
「やっぱり、いつかはやると思ってたわ。卑猥なメールを送るのは今後やめなさい」
「異議あり!検事側の主張は不当に被疑者を貶しめています」
「やっ、ヒッキーは関係ないよ。内容がウチのクラスだから無関係っていうか」
「異議あり!!俺も同じクラスなんですけど」
「異議を却下します。おめでとう、貴方の無罪は実証されたわ」
「えぇ、証拠能力認められちゃったよ。これが試合に勝って、勝負に負けるという気持ちか」
由比ヶ浜は時々あるから気にするなよ、とそんな感じの事を言った。
俺と雪ノ下はお互いの顔を見合わせ、えっマジでと首を傾げる。
問題です、俺と雪ノ下に無くて由比ヶ浜にあるのは何でしょうか。
答えは胸か友達である、たぶん胸は関係ないな。
「携帯触らなくなったら暇になったー」
「そうか、じゃあ黙ってろ」
「ひどーい、もっとゆきのんもヒッキーも構って、勉強なんてしてないでさ」
「由比ヶ浜さん、貴方も勉強したら?中間試験まで時間はないわよ」
「やー、勉強とか意味なくない?社会出たら使わないし」
「あー、確かに物理学とか数学とかいらないだろ、微分積分使わねぇよ」
「だよね。ほらヒッキーは味方だよ、勉強以外に時間掛けなきゃ人生一度きりだし」
「だから失敗できないんだけどな。リスクヘッジは大事だろ」
「超マイナス思考、どっちの味方だし!」
「高校生活失敗してる人は言うことが違うわね」
「最終的に勝てば良かろうなのだという言葉を知らんのか?」
「それは最終的に考えることをやめるのだから、ただの思考放棄よ」
コ、コイツ……一体、どこでジョジョネタを仕入れたんだ。
コイツには俺の知識についてこれるスゴみがあるぜ。
あっ、よく考えたらこないだジョジョ貸したわ。