ぐでーと由比ヶ浜が空いていた机に項垂れた。
すごい、何がすごいとは言わないが机の上に乗ると変形して色々すごい。
あっ、これは一部限定なので乗せても君のは、そもそも乗るの雪ノ下さん?
「貴方、見ているわね」
「見てねぇよ、なんなの悪のカリスマなの?」
「盗撮って犯罪なのよ、知ってたかしら」
「してねぇわ」
由比ヶ浜の恨めしそうな視線が雪ノ下に注がれる。
おいおい、そういうのやめとけって。
「何か言いたそうね由比ヶ浜さん」
「ゆきのんは頭が良いから良いよね、あたしは勉強できないけど」
「出来ないではなくしないだろ、したら成績上がるぞ。俺なんて国語なんか学年一位だぞ」
「え、ヒッキー頭良くない?」
「良くないわ。だって、四捨五入したら0点ですもの」
「ねぇ、それって十の位?百の位?」
「うーうー、アタシだけバカキャラだぁ」
うーうー言うのやめなさいって、でも勉強が全てじゃないのは一理ある。
学歴が良くても問題起こして、迷惑かける教育実習生とか本当ね。
むしろ頭がいいと、女っ気がなかったりエリート思考で頭おかしかったりするからね。
頭が良いやつは一周回って馬鹿な説、あると思います。
本当、何で俺のせいになんだよ。何でも言えと言ったが、虚言を言えとは言ってない。
「そんな事ないわ由比ヶ浜さん」
「ゆきのん……女子高生の姿した神……」
「貴方は真正のバカよ、キャラじゃないわ」
「神は死んだ!うわーん」
おう、よく難しい言葉知ってたな。
多分、元ネタとか知らないんだろうな。
「成績は良くても人の価値は測れないから馬鹿だと言ってるのよ。試験の成績が良くても人として著しく劣る人もいるわ」
「自虐ネタですか、反応に困るんだが」
「自覚がないって恐ろしいわね、否定はしないけど」
「否定しようよ!むぎゅー」
雪ノ下は平然としていたが、なんだったらブーメランって知ってるかと言わんばかりに自爆していた。
それに対して、由比ヶ浜は感情移入したのかガバっと偉い勢いで抱きついた。
ただね、その位置だと顔が胸で隠れて息が出来なさそう。
それはやめてあげなよ、精神的に追い打ちだよぉ。
「……柔らかい……苦しい……やわ……くる……」
「雪ノ下ぁぁぁ!しっかりしろ」
「やー、ゆきのん大丈夫!?なんで、なんかごめん!」
危うく窒息する所だった雪ノ下。俺は思った、胸って凶器だってな。
由比ヶ浜はぐったりした雪ノ下を慮ってか、絶対そんなことはなさそうだが後ろからハグした。
ちょうど、頭の上に胸を乗せるという羨ましい状態のハグだ。
なお、雪ノ下さんは頭上の感触に何とも言えない顔をしていた、憎悪は伝わった。
頭上でナデナデして満面の笑みの由比ヶ浜よ、その下には憎々しげに悔しそうな雪ノ下の顔があるぞ。
やめたげてよ、雪ノ下のライフはもうゼロだよぉ。
「でも、ヒッキーが勉強してるのは意外だったな。進路かぁ」
「なにかしら?」
「あ、ううん、何でもない。こともないかなぁ、二人共頭いいから卒業しても会わなさそうって」
「そうでもない。雪ノ下は金はあるが超忙しくて、部下を指導するたびに泣かせてしまうことを愚痴るために呼び出したり、保育士になった由比ヶ浜が出会いと金がないと愚痴るために呼び出したりする。因みに俺は、土日が部活で潰れて公務員って何だろうってお前らに愚痴ってる」
「やけに具体的でなんかやなんですけど」
「まるで見てきたかのように言うのね」
あぁ、うん、まぁね。
そう考えると、将来の俺達って今の平塚先生状態だな。
ちゃんと、結婚相手探さなきゃな。
まずは、彼女とか彼氏作らないとダメだけどさ。
「あっ、でも携帯あるしいつでも連絡できるね」
「だからといって、毎日はちょっと」
「ええっ!?や、やなの!」
「時々面倒くさいわ」
「ゆきのんの……馬鹿じゃないから、正直者!」
「仲いいな、お前らメールでやりとりすることあんのかよ」
まったく想像つかない。
いや、ベッドで返信待ちする由比ヶ浜と腕組みして悩む雪ノ下が見える。
あっ、わりとありそうだわ。
「今日は、シュークリーム食べたよ!とか」
「そう、とか」
「ゆきのん、シュークリーム作れる?今度他のお菓子も食べたい、とか」
「了解とか」
「ラインかよ、いやまだ無かったな」
携帯電話とかボッチを加速させるツールだわ。
既読スルーとか俺だけいない集合写真の乗ったインスタとか、なんだったら休んでるやつがTwitter更新してるし、本当バカしかいないのかと思うわ。
「不安定なコミュニケーション手段だよな携帯って」
「そうね、受け手側に一任されてるし嫌なメールは無視してしまうもの」
「んんっ?じゃあ、あたしのメールは嫌じゃないってこと」
「……面倒なだけで、嫌じゃないわ」
「くはぁ、尊い!尊いよゆきのん、えへへ」
そう言って抱きつく由比ヶ浜に、俺は百合の花を幻視した。
そうだな、尊いと俺も思うよ。
不機嫌そうに顔を背けてるが、顔が真っ赤なのは照れてる証拠だろ。
「よし、ちゃんと勉強しよう。そして、同じ学校に行くんだ」
「いや、お前短大入るから国公立ほど勉強しないぞ、多分」
「どうして、私が国公立を受けることを知ってるのかしら」
「進学校は大体そういう進路だろ、俺は違うけど」
「ふ、ふーん。参考に、聞いておこうかな?ヒ、ヒッキーは?」
「俺は私立文系で遊びまくりながら教員免許を取る」
「私立文系が遊びまくれる環境だと間違った情報を与えないでくれるかしら、由比ヶ浜さんが信じてしまうわ。彼女、単純だから」
「ほえ、違うの?でもいいよね女子大生、サークルとか合コンとか文化祭」
「すげぇや、学業にカスリもしねぇ」
「単位とか就職先とか他に考えることはないのかしら」
俺と雪ノ下が抱く将来の展望と、由比ヶ浜の描く展望は微妙に違っていた。
まぁ、そうだよな。学生ってこんな感じでふわふわしてるわな。
「というわけで、テスト一週間前って部活休止になるし午後は暇だよね。あっ、今週でも火曜日は市教研で部活ないからそこもいいかも」
「市教研……市の教育研究会……新しい課題……短縮授業のための準備……他校の教師……うっ、頭が」
「どうして苦しんでるのかしら、なんのトラウマが」
「よくわかんないけどヒッキードンマイだねー」
良くわからないなら語ってやろうか。
就職するまで分からない、インターンじゃ見れない教師の内側とかな。
まぁいいさ、俺には関係ないからな。
勉強は普段からしてるから、休日ぐらいはそこそこでいいだろう。
むしろ、部活がないだけゲームしたいくらいだぜ。
取り敢えず、レトロゲーRTAやるしかないな。
「じゃあ、サイゼでいい?」
「私は別に構わないけれど」
「みんなでお出かけって初めてだね!」
「そうかしら、そうね」
「うん、みんな?」
「ヒッキー、何か言った?」
可笑しい、俺ってば疲れてるのかもしれない。
「じゃあ、ちゃんと遅刻しないようにするんだよ」
「誰に言ってるのかしら、綿密な計画を練って事前に報告するわ」
「や、デートじゃないのにガチ過ぎだよ。校門前現着ね」
「げ、げん、何?どういう意味?」
困惑する雪ノ下を他所に俺は帰ろうとしている由比ヶ浜を呼び止めた。
問わねばなるまい、今みたいな状況で使うのが正しいと思う。
「そこに俺も行くのか」
「えっ、予定があるの!?嘘でしょ」
「いや、ねぇけど断定するなよ」
「だよねー、ヒッキー遊ぶ友達いないもんねー」
「おい、否定はしないがやめろ、悲しくなっちゃうでしょう」
どうやら、本当に俺も行くみたいだった。
おかしい、過去を思い返すと戸塚も誘ってサイゼにいたわ。
あれ、誘われた記憶が無いのにどうしてファミレスにいるんだ。
俺の記憶違いか、それともこれがバタフライエフェクトってやつなのか。
「女子と勉強できる感動に打ち震えてる所悪いけど下校時間よ」
「感動してねぇわ、待て鍵を閉めるな」
「ふふっ、四十秒で帰り支度しなさい」
「さてはお前、金曜ロードショー見ただろ」