八幡、捻くれたままNEWゲーム   作:nyasu

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玄人は悩まない、俺はブラックコーヒーを召喚するぜ。

サイゼに到着した俺達は、まずドリンクバーを頼んだ。

ドリンクバーだけで何時間いるつもりなのか、そう言えば大学生の頃は漫画喫茶で勉強してたっけ。

そう考えると漫画やネット、ゲームという誘惑がないファミレスは優秀かもしれない。

 

「やー、ドリンクバー良いよね。でも、採算って取れるのかなぁ?よし、元取るぞー」

「由比ヶ浜さん、本来の目的忘れてるわよ。貴方、何しに来たのかしら」

「いやー、つい、分かってるよ。よし、勉強するぞー!」

 

テーブルに座るや否やアホな事を抜かす由比ヶ浜が窘められていた。

コイツは知らないんだろうな、ドリンクバーって原価3円くらいだから、コーラで言ったら240円の場合80杯飲まないと元は取れないってことをな。

取り敢えず、コーヒーでも飲むかとドリンクバーまで移動する。

 

「…………」

 

何やらドリンクバーのサーバーを凝視する雪ノ下がいた。

あぁ、色々あると悩むよな。

玄人は悩まない、俺はブラックコーヒーを召喚するぜ。

内心で一人遊戯王ごっこをしていたら、クイクイと裾を引かれる。

誰だよ、まぁ一人しかいないけどさ。

 

「何?」

「あの、その……何処に小銭入れるのかしら?」

「ドリンクバーはボタンを押すだけで小銭は入れない。何飲みたい?」

「……アイスティー」

 

眼の前で実演するように、コップを取り出して氷を入れてボタンを押す。

その様子をジッと真剣な眼差しで見つめた後、なるほどと小声で漏らした。

 

「あっ」

「何してる、行くぞ」

「自分で持てるわ」

「そうか」

 

飲み物を渡して、そのまま二人で席に向かう。

由比ヶ浜は、何が楽しいのか身体を前後に揺らして待っていた。

何だお前、先に進めろよ。

 

「よし、やるよ」

 

由比ヶ浜の合図に雪ノ下がヘッドホンを取り出すと、すちゃっと装着する。

俺はそれを横目に見ながら、教科書を開いた。

本来ならイヤホンで雑音を遮断する所だが、すぐに分からないところを聞かれたときに対応する為には聞こえる状態にしていないといけないのでイヤホンは今回着けない。

 

「はぁ!?なんで、音楽聴くの!」

「何かおかしいかしら?」

「勉強会ってこうじゃないよ」

 

バンバンとテーブルを叩いて抗議する由比ヶ浜、絵文字で見たことあるわ。

その様子に、顎に手をやり考え込む雪ノ下、擬音にしたらほむぅって感じだろうか。

おい、なんだその助けを求める目は?

 

「どんなのが勉強会なのかしら」

「たぶん、喋りながらやろうとしてるんだと思うぞ」

「勉強って一人用に出来てるのだけど」

 

心底困ったという顔をする雪ノ下に、うぐっと何やら勝手にダメージを受ける由比ヶ浜。

成績の良い雪ノ下に反論が出来ないのだろう。

進研ゼミだっていつも一人でやってるだろ、つまりそういう事だ。

なお、アレは男女で漫画の内容が違うそうだ。

 

テスト範囲を見比べ、出題者として問題を作るならどこが重要か予想し、基礎的な問題をひたすらノートに書いていく。

公式、キーワード、単語の意味、若返って思うのは意外とすぐに覚えられるということだ。

やはり、若い身体は記憶力が良いらしい、こればかりは若返らないと実感が湧かないな。

 

「由比ヶ浜、急に手が止まったが何か分からない所があるのか?」

「えっ、あぁ、うん。ここの問題が……」

「古文は基本パターンを覚えれば読めるようになる。何処がわからないか、書き出して確認した方が良い」

 

由比ヶ浜の隣に移り、何処が分からないか聞きながら教科書に線を引いていく。

引き終わったら、ここはどういう意味なのか、ノートを交えながら説明してやった。

その様子に、ほえー、はえー、と聞いてるのか聞いてないのか分からん感嘆の声を上げながらも由比ヶ浜は頷いていた。

 

「お前地頭は良いんだから……何だよ」

「あっ、いやぁ……」

「おい、そう言いながら何で距離を取る」

「と、取ってないし!な、何言ってるのヒッキー意味わかんない!」

 

いや、移動したの見てたんですけど、言い訳不可避なんですけど。

これは触れないほうがいいのか、そっとしておいたほうが良いのか。

 

「な、何?」

「別に」

「じゃ、じゃあ見んなし!っていうか、顔近いから!セクハラだし!」

「セクハラ……嘘、だろ……」

「なんで思いの外ダメージ喰らってるの?」

 

セクハラには気を付けている事に一家言を持っている俺としては、その言葉は不覚だった。

馬鹿な、コンプライアンス意識がまだ甘かったというのか。

細心の注意でもって接していたのに、マジか。

 

 

「やぁ、なんか頭使いすぎて熱いっていうか喉乾いたなー、あっ」

「今度は何だよ」

 

由比ヶ浜の視線の先に何があるのかと、見てみれば美少女がいた。

野暮ったいセーラー服にめちゃくちゃ可愛い快活な笑顔、なんだ小町か。

小町が可愛いのは当たり前なので、美少女過ぎて声を上げてしまうのも無理はない。

しょうがないやつだな、由比ヶ浜。

 

「待って、その仕方ないなって顔は何?」

「由比ヶ浜、上ばかり見ていても虚しくなるだけだ」

「何の話!?唐突に何の話!」

「上とか下とか意識するなよ、お前はお前のままで良いんだ」

「だから、何の!何の話なの!小町ちゃんの話!?」

 

由比ヶ浜は混乱している。

ほっといて勉強するか。

どうせ、横にいた川崎大志を見てデートかなとか思ってるんだろう。

でも、八幡知ってるよ。告白して、フラれるのな。

そう言えばアイツの名前を覚えたのは彼氏と勘違いして問い質した時だったか。

あれ、何か忘れてる気がする。

 

「思い……出した!」

「ヘッドホン越しにも聞こえたけど、何を思い出したのかしら」

「悪い、用事を思い出しただけだ。夜からだから問題ない」

「あぁ、あるある。ドラマとか毎週何曜日か忘れちゃうよね~」

 

違うのだが、そういう事にしておこう。

しかし、俺も前世の事とは言え忘れていたとはな。

思わず、救世主みたいなことを言ってしまったぜ。

しかし、迷える羊ならぬ生徒を指導するのも教師の仕事だ。

あっ、指導ってワードなんかちょっとエロい。

 

テスト勉強が終わった後、なぜか持っていた平塚先生の連絡先にメールを入れる。

一瞬、業務関係の通知かと焦ったと言われたが何でだよ。

若い高校生とのメールだぞ、もっと喜べよ。

後日、俺は職員室で書類関係一式を貰っていた。

 

「驚いたな、比企谷でも積極的に行動って出来るんだな」

「新しい動物の生態を知ったみたいな対応やめてもらえますか、そういうとこですよ平塚先生」

「何が!?そういうとこって何!」

「それが分からないうちは……おっと、俺はこれで失礼」

「結婚か!婚期の事なのか!待て、まだ話はぁぁぁぁ!」

 

職員室で、婚期がどうのと叫んでいる、そういうとこです平塚先生。

黙ってれば普通に美人で可愛いのに、喋ると残念だもんな。

 

「取り敢えず、タバコやめましょうか」

「タバコと結婚は関係ないだろ!」

「タバコ吸わないほうがモテますよ」

 

平塚先生は俺の一言に固まって、そそくさとタバコの火を消してエチケット灰皿に収納した。

やめろ、そのこれでいいんでしょって顔、比企谷八幡はスルーして去るぜ。

 

「えっ、何もなし」

「お疲れ様でした、お先に失礼します」

「いや、そこは先生さようならだろ」

 

思わず癖で思ってもいないことを口走ってしまった。

まぁいい、目的のブツは手に入ったからな。

放課後になり、俺は駐輪場でMAXコーヒーを飲んでいた。

飲まないと決めていたが、一日くらい良いだろうと暇を持て余した俺は飲んだのだ。

しかし、やっぱり美味いなコレ。

 

「よぉ」

「……待ち伏せ?」

「開口一番にストーカー扱いはやめろ」

「だって、アンタに待つ人なんていないでしょ」

 

川崎の言葉のナイフが俺を斬り裂く。

何なの、コイツ俺のこと嫌いなの?

 

「お前、これからバイトだろ?バイト先には流石に行きたくないからな」

「アンタ、バイト先知ってるってやっぱりストーカー」

「そんだけ眠そうなら夜のバイトだってのは分かる、夜間勤務は単価が高いから漏れなく出費が嵩む。俺から言えるのはバレずにやれよって事だ」

「あっそ、お気遣いどーも」

 

俺が葉山ならスッ渡せるんだろうが、中々渡すタイミングってのは掴めない。

今か、今なのか、どうする俺、ライフカードくれ。

 

「それで、さっきから出したり引っ込めたり、その封筒は何?」

「お前に届ける為に持ってきた……あれだ、先生に頼まれたんだよ」

 

嘘は言ってない、平塚先生じゃなくて比企谷先生だけどな。

自分で言ってて、恥ずかしくなってきた。

川崎は胡乱げな目で俺を見た後、封筒を受け取った。

 

「スカラシップって言って、勉強できりゃ金を貰える制度だ。他にも奨学金とか、借金する形になるが前借り出来る物、分納とか延納っていう分割払いや支払い先延ばしが出来る大学一覧とか、入ってる」

「詳しいね、アンタ見たの?」

「見てねぇよ。でも、金が必要ならそういうのもあるってことだ。じゃあ俺は渡したからな、貰ってないとか言うなよ」

 

見るも何も学校で手に入る資料以外、俺が調べてエクセルで作ったんだから内容くらい把握してる。

これで問題は解決、大志は小町に話し掛ける機会を失う、ざまぁみろウチの可愛い妹を口説こうとするからだ。

 

「ねぇ、アンタ」

「な、なんだよ」

「あたしのこと好きなの?」

「フッ、すぐそうやって恋愛に絡めるなんて子供っぽい所があるんだな、俺達に接点とかないだろ」

「接点が無いのにこういう事するからだよ。この大学一覧とか紙質が学校のじゃないからアンタが作ったんでしょ」

「……ち、違げぇから!生徒が、あっいや、友達に上げるって言ったら貰ったとかそんなんだから」

 

もう帰る、このままだとボロが出かねないからな。

あぁもう、ラブコメみたいな事はやっぱり俺には似合わねぇんだよ。

 

「友人、ね。ねぇ、アンタ名前は?」

「俺の名前は比企谷だ、人の名前くらい覚えとけよ」

「悪かったよ。気を付けて帰んなよ……比企谷」

「お、おう。おつかれ、川崎」

 

 

 

 

 

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