八幡、捻くれたままNEWゲーム   作:nyasu

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大なり小なりがゆるされるのは、まんがタイムきららのキャラだけだから

この社会において、孤独な人間などいないという誰の言葉か。

人はそれぞれのグループを形成し、その中で身を寄せ合う事で心の安寧を得ている。

ならば、グループに属さず独立している存在は安寧な日々を得ていないということなのか。

否である、プロのぼっちは独立していながら心の安寧を得ているのだ。

つまり、グループを形成できなかったのではなくする必要がないのである。

別にもうコミュ障じゃないよ、仕事だと思えば話せるしな。

 

「おはよ」

「笑顔です、私とアイドルをやりませんか」

「えっ、えっと、ごめんね?」

「すまん、アニメと現実を混同していた」

 

それってヤバイんじゃと誰かの声が聞こえたが気のせいだ。

戸塚は将来芸能人、だったら別におかしくない、いいね。

 

「八幡は職場見学、もう決めた?」

「学校」

 

こてっ、と首を傾げる戸塚。

はぁ、戸塚わいい、尊い、素敵、抱かして!

 

「そうなんだ」

「そういう戸塚も決めてるんだろ」

「あれ、言ったっけ?」

「いや、何となく」

「何となくかー」

 

そこだけ二人の中で通じてる気がした。

おっと、もう休み時間が終わるだって、学校とか崩壊しないかな。

 

 

 

放課後、やはり学生というのは同じイベントを行うためか話題も似たり寄ったりになる。

 

「ねね、みんなはもう決めたの」

「ふむん、我は」

「あっ、中二には聞いてない」

「はうっ!」

 

由比ヶ浜の心ない一言が材木座を苦しめる。

大丈夫だ、本当に辛い時は声にもならないからな。

意外と喋る余裕があるじゃないかお前。

 

「ねぇ、ヒッキーは?」

「学校」

「うわ、省エネだね」

「そういうお前は?」

 

由比ヶ浜はむーんと唸り、少し考えてから言う。

 

「一番近いところかなぁ?」

「比企谷君レベルの発言ね」

「一緒にするな。俺は崇高な理念の元、教師志望として選んだ場所が近かっただけだ。お前は何だ、弁護士?検察?それとも刑事?」

「はずれ、貴方がどういう目で私を見てるか分かったわ。そんなドラマの主人公になりそうな職業には就きません」

 

知ってる、お前は確かゼネコン関係だ。

もう昔過ぎて大分忘れちゃったけどな。

 

「まぁ、由比ヶ浜は幼稚園の先生として、お前は本当に何するんだ」

「えっ、何でわかったの!?」

「私はシンクタンク関連かしらね」

「へぇ、キッチンとか受水槽って奴だよね!」

「シンクとタンク、あぁ、そう取っちゃったかー」

「違うの!?えぇ、ゆきのん~」

 

おい、なんだその><みたいな顔は絵文字で見るけどよ。

大なり小なりがゆるされるのは、まんがタイムきららのキャラだけだから。

 

「話変わるんだけどさ。私、見ちゃった」

 

唐突に由比ヶ浜が俺に向かって言った、第一声がそれだった。

何を、と怪訝そうな表情の雪ノ下にシリアス顔で由比ヶ浜が言った。

 

「ヒッキーが先生の車に乗ってお出かけしてたぁー!」

「あぁ、この間な。浅草にラーメン食べ行ったぞ」

「ラーメェェェェン、浅草ァ!ラーメンなんでェェェェ!」

「なんだその忍者見つけたみたいな反応は」

 

そう、アレは川崎の一件のせいか。

一度メールしてしまったら、なんか抵抗とかそういうのが無くなってしまった俺は欲望の赴くまま、学生の足では厳しいラーメン屋に足を運んだのだ。

そう、静ちゃんというタクシーを使ってな。

 

「中華そばが食べたかったんだよ。昔ながらの」

「デート、それ、絶対デートだよ!」

「フッ」

「鼻で笑われた!?」

 

所詮は恋愛事を絡めたくなるお年頃よ、俺達の間にあるのは友情だ。

 

「そんなに美味しいの?ヒッキーのオススメのらーめんって何?その、私も行ってみたいな……な、なんちゃって!いや、別にそういうのじゃないから!」

「おすすめのラーメン?そんな厄介な問いには答えたくないな。店のラーメンか、それとも市販?いつ、どこで、誰と、なにを目的に?俺はお前の味の好みすら知らん。出汁、タレ、香味油、具材などの、味の系統、味の濃さ。油の量。麺の形状、太さ、全体的な量。それに、独りで行くのか、複数で行くのか。地区や路線など、店の場所、店内の雰囲気、その他備考。好きな食材、嫌いな食材、サイドメニュー。つけ麺や油そば、ご当地食材の使用などなど。まだ、これでもほんの一部だが、最低限、これぐらいの情報開示がなければ、無責任に勧めるなんて出来ねぇ」

「……えぇ、怖っ」

 

いるんだよな、人の話しを聞いて影響受けるやつって。

ゆるキャンは良いぞと言ったら、キャンプしたがって、したらしたで虫がとか焚き火がと文句を言いやがる。

そうだよ、非常勤の女、お前の事だよ!

 

「急にどうしたの、なんで机叩いてるの」

「昔を思い出して、殺意が湧いた」

「殺意が湧く、過去の記憶って何!?」

 

ギャースカ騒いでいたら、ノックをする音が聞こえた。

誰だよ、これから忙しくなるってのにと忌々しく教室のドアを見る。

それは、俺の平成におけるラーメン革命つけ麺の歴史に匹敵するくらい重要な案件なんだろうな。

ソイツは、人というにはあまりにもイケていた。

高身長、爽やか、誰にでも優しい、そして顔が整い過ぎた。

それは正にイケメンだった。

 

「悪い、こんな時間に」

「悪いと思うなら、時間に配慮して帰れ。卒業生だか何だか知らないが深夜の学校に来る奴ら並に迷惑だ」

「うわ、すっごい、なんか具体的」

 

そのあと、警備の方とか来ちゃうんだからね。

説明で、先生寝不足になったりするんだからね。

警備会社の人も、気を付けてくださいよとか苦情言ってくるんだからな。

 

「ここ、いいかなぁ。いやー、なかなか部活抜け出せなくって、テスト期間中は休みになるじゃないか。今のうちにメニューをこなしておきたかったぽい、ごめんな」

「許可もなく座るな、それとお前の都合は聞いてないし、遅れてきた理由は自分の都合なので考慮されない」

「そうね、貴方が相手に配慮していない事実に変わりはないし、私達が貴方の都合を聞いて残ってあげる理由もないわ」

「や、やー!ほら、隼人くんは部長だし、仕方ないしね。ねっ、ねー!」

「「はぁ?」」

 

俺達の機嫌にフォローしようとした由比ヶ浜が後退る。

俺はな、社会に出た時に恥を掻かないように言ってあげてるんだ。

決して、イケメンだからとかが理由じゃない。

 

「材木座くんもごめんな」

「い、いや、わ、ぼ、僕帰りますしおすし」

「そっか。それとヒキタニ君もごめんな」

「俺の名前は比企谷だ。名前も間違えるとか、お前の事が嫌いだ」

「ご、ごめん」

 

何で、何で材木座を覚えていて俺を覚えてねぇんだよ。

 

「はぁ、能書きはいいわ。それで、用件は?」

「早くしろよ、ネットでゆるキャン見たいんだよ」

「それなんだけどさ」

 

俺の発言はスルーしてか、葉山はガラケーを取り出してポチポチし始めた。

フッ、スマホだぜ勝ったな。何をマウント取っているのか。

 

『戸部は稲毛のカラーギャングの仲間で西高狩りをしていた』

『大和は三股かけている最低のクズ野郎』

『大岡は相手を潰すためにラフプレーをしていた』

 

「なんだ、全部事実じゃんか」

「デマだよ!」

「池袋とかでやってたのかな、矢部くん」

「戸部だよ!やべぇ、とか言ってるけど戸部くんだよヒッキー!」

「三股かけてるのは嘘だな、モテるわけがない」

「あぁ、うん、確かに……いや、それはそれで酷いよ!」

「大岡って誰?スリザリンの選手か何か?」

「あっ、それは知ってる。って、そういうことじゃないよ!」

 

由比ヶ浜のツッコミが冴え渡る。

すげぇな、あと息切れしてるけど大丈夫か?

 

「これが出回ってからクラスの雰囲気が悪くてさ。あっ、犯人探しがしたいって訳じゃないんだ、丸く収める方法を知りたい、頼めるかな?」

 

 

 

 

 


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