中間試験が目前となっていた。
教師の話というのは黒板よりもテストに対するヒントが多く、俺なりにまとめたノートを見て復習するだけだ。
授業の準備で何度も見たような文章と忘れてしまった基礎からやらなきゃいけない教科の勉強時間は時間配分は違った。
一から数学って意外と難しい、定理とか覚えなきゃな。
なお、それでも勉強の仕方を分かっているから頭が若いのか意外と簡単に覚えられる。
電話した側から忘れて折返し掛けていた前世が懐かしい、懐かしいよな。
前世の俺は病院で寝ていて夢でも見ているのか、捻くれ教師は学生時代の夢でも見るかって一本小説を作れそうだな。
そういえば、十数年前のことだからか高校生活の記憶は何個か虫食い状態だった。
よく転生したら原作知識ノートとか作る奴らいるけど、この世界はラノベでも漫画でもないから原作とかなかった。
俺が主人公ならいいのに、いや、俺が主人公の小説って誰が読むんだよ捻くれた高校生が独身拗らせたまま死にそうじゃん。
「コーヒーでも飲むか」
MAXコーヒーを、特別な日以外は飲まないと決めてから俺の身体はマッチョになってきたと思う。
体育教師のプロテインとアミノ酸の話を聞いておいてよかった、ネットじゃ知ってるやつもいないし、ある意味で未来知識チートである。
買ってきている豆が入ってるガラス瓶から目分量で何個か取り出し、ミルを動かす。
豆が粉に挽き終わったところで専用の準備を黙々と済ませ、ティファールをセットした。
どうでもいいけど、MAXコーヒーのエロ同人だれか書いてくれないかな、擬人化したらそれはもうエロいだろうな。間違いなく巨乳だ。今夜は寝かせないぞとか言ってくれそう甘々だけどカフェイン決めてるから寝かせないのだ、ヤバい。
そんなどうでもいいことを考えていると、小町がソファでぐーすか寝ていた。
湯が湧くまで手持ち無沙汰なので、ダルダルに伸びた俺のTシャツを着ている小町を見て呆れる。
一応ブラはしてるのは覗き見えるからいいけど、下はパンツ一枚ってお兄ちゃんは羞恥心を持ってほしい。
お兄ちゃん、妹のパンツ見すぎくらいの羞恥心を持ってほしい、パジャマ履けよ。
仕方ないので肩と膝に腕を差し込んで、そのまま持ち上げた。
部屋まで運ぶか……意外と軽いけどちゃんと食べてるのか?
「うぇ!?」
「おぉ、起きたか」
「…………あぁ、夢か」
「二度寝するな妹よ、あとズボン履けよ」
部屋の前まで来て、ドアノブをゴソゴソと肘で開けようとしていたら小町が起きた。
キョトンとした顔が最高に可愛いが、これは兄貴の特権だな。
「今何時?」
「九時くらいだな」
「しまった一時間寝ようとして、五時間寝てた」
「寝過ぎだろう」
「そういうお兄ちゃんは、勉強しすぎ」
「試験勉強だよ。普段勉強してないから、最後の足掻きだよ」
「うへー、そう言って毎日部屋で教科書開いているのを小町は知っているのです。無理してない?」
「してねーよ、あっそれ小町的にポイント高い」
「うぅ、人に言われると恥ずかしいじゃんかー!あと、いつまでお姫様抱っこしてんだコラー!」
「暴れんな、暴れんなよ、危ないでしょーに」
「そう言ってびくともしない八幡であった」
この兄があっての妹か、小町は落ち着いた調子で廊下に降り立った。
いや、俺が降ろしただけだけどね。
俺がリビングに戻って、ミルで挽いた焙煎した豆の香りを楽しんでいるとズボンを履いた小町が入ってきた。
しかし、今回の比率は酸味が強すぎたか。次はもう少し調整してみよう。
「お兄ちゃん、コーヒーガチ勢になってたよね」
「小町も飲むか?」
「ミルクマシマシ、砂糖チョモランマ、シナモンスティック入りでね」
「もはやMAXコーヒーじゃん、いや作るけどさ」
小町専用に別で作ったコーヒー、通称小町スペシャルを作ってやる。
ラーメン屋の注文みたいだよな、とか思うけど言わない。
「お兄ちゃんさ、変わったよね」
「ハッ、俺はいつだってお前の味方だし、これから先もそれ以外の何物でもないが」
「いや、そういうことではない。うーん、目が死んでる」
「おい、それ変わってねぇぞ」
「綺麗に死んでる?」
「死んでんじゃん」
「生きて」
「いや、生きるよ。まだ殺さないでくれよ、生きてるから」
何が可笑しいのか、テーブルに肘ついて両手に頭を乗せて我が妹はあざといポーズでニコニコしていた。
ハッ、可愛いじゃねぇーか俺を殺す気だな。
「変わったと言えば、友達のおねーさんが不良化したんだって。夜とか帰ってこないらしい」
「そりゃあれだ、彼氏が出来たとかだ。大体の夜更しは異性関連、補導してたら分かんだね」
「される側じゃん」
「そうだったわ」
まぁ、年頃の女の子は難しいからな。
大学生とか人によっては出会い系で知り合った社会人とか、地元の不良とかね。
でも、真面目な子は元からそういうのと関わらないから、心配するほどでもないんだ。
真面目じゃない子はそれなりに付き合い方を分かってるし、心配するしか出来ないからね。
「お姉さん、総武高って超真面目さんだったのに何があったんだろうねー」
「学校が良くても不良はいるぞ。チャラ男の戸部とかホストみたいな葉山とか、挙動不審な材木座とか魔性の戸塚とか」
「お兄ちゃん、類は友を呼ぶって知ってる?」
「なら安心だ、全員友達じゃない」
材木座は腐れ縁みたいなものだし、戸塚は信仰の対象だから友達とか恐れ多い。
あれ、なんか聞いたことあるような話だな
「お家のことだから言えないけどさ、最近仲良くなって相談されてるんだよねー。あ、その子、川崎大志君って言ってね。塾で知り合ったんだ」
「あぁ、ソイツお前のこと好きだぞ。付き合う気がないなら、あまり優しくするな」
「やだな、そんな訳無いじゃん。すぐ、恋愛関係にすると恋愛脳って言われるんだよ」
「俺の後輩に恋愛脳のスイーツ染みた皮を被った諸葛孔明ばりに頭の回転がすごい奴がいるが、俺は恋愛脳ではない」
「ちょっと、何言ってるか分からないです」
「まぁ、何かあったら相談しろ。やれることはやってやるから」
「もう、お兄ちゃんってばほんと小町のこと好きすぎ」
当たり前じゃん、何言ってんの。
朝、いわゆる朝チュンであった。
時刻は8時、うん遅刻だね。
俺はシャワーを浴び、コーヒーを入れて妹が作った朝ごはんを食べる。
一限は国語の授業、だから別に問題はない。
成績には問題ないが、準備した教師に対して自責の念を禁じえない。
俺はスマホを片手に電話し、職員室の先生を経由して担任に変わってもらった。
「はい、平塚です」
「おはようございます平塚先生」
「どうした比企谷。何か、あったか?病気とか?」
「心配していただいてありがとうございます。その、言い辛いのですが諸事情で今から登校します」
「ほぉ、つまり寝坊か」
「まぁ、そういう言い方もありますよね」
「ハァ、自己管理も大事なことだぞ。小言は覚悟するように」
平塚先生に電話を終えた俺は戸締まりして家を出る。
まったくだ、家族の誰もが起こさなかったのは寝かしておこうという優しさだと思っておこう。
一人暮らし、長かったのに気が緩んでたかな。
授業が終わる五分前、ギリギリに調整して教室に向かう。
学生のときは死ぬか生きるかの必死さだったのに、どうして遅刻しても連絡すればいいやって擦れてしまったのか。
大人になったからかな、遅刻しすぎて落ち着くの癖になってんだよねみたいな感じだろうか、俺はどこのキルアだ。
教室に入って、授業が終わると同時に平塚先生のところに行く。
先生だって怒りたくて怒ってるのではなく、こういうことしたら怒られるよってポーズだろう。
いや、平塚先生の場合は真面目だからガチかもしれない、準備とかあるのに申し訳ない。
「さて、殴る前に一応理由を聞いてやろう」
「暴力は良くないです」
「残念だ、だが君の学生らしいところを知れてよかったよ」
「それ、これから死ぬやつに向かっていうやつじゃん。やめてよね、本気で殴ったら僕が敵うはずないだろ」
「そこは親父にも殴られたこと無いのにだろ、無断でストライクに乗りそうだな」
「シードを知ってるだと!?」
平塚先生の拳がコツンと頭殴った。
なんだろう、学生時代のガチパンチと違う優しい対応に、物足りなさを……物足りなさ、この俺がどうして、これで良いはずだろ、俺はドMじゃない!
「まったくこのクラスは問題児が多くて堪らんな……川崎沙希。君も遅刻かね」
「あっ」
「……おう」
「うん?なんだ、君等は知り合いか?」
知り合い、知り合いなんだろうか。
っていうか、遅刻ってまだバイト続けてるのかコイツ。
「おい、まさかラブコメ的なあれなのか。何処かでなんかフラグとか建ってるのか、ねぇどこで出会いって買えるの、ねぇ、比企谷……聞いてるでしょ?」
「怖い」
「……バッカじゃないの」
川崎はそう言って話しかけんなオーラを出して席に座った。
おーい、俺を見捨てるな。ちょ、離せ!授業始まっちゃうから!
「この件について少し話をしておこう。チッ、放課後に職員室に来たまえよ!理由は、あれだ遅刻だ!」
「絶対ウソだぞ、職権乱用はよくない」
「約束だからな!」
「」