試験期間の全日程を終了して、仕事してる気分で自己採点した。
自分の問題用紙は持ち帰れるので答えを書き写していたのだ。
うん、まぁ、高得点じゃないですかね。
さて職場見学である。
希望を出したのは学校だったが、何故か平塚先生の手伝いになった。
教師の仕事を体験しようということらしいのだが、先生がサボりたいだけだと思う。
そして来た場所は、葉山が選んだ電気機器メーカー、近隣に開放されたミュージアムがあり、スクリーンシアターや展示物があって子供が好きそうな場所だ。
別のグループのはずなのに、クラスの大半が葉山の周りにいるので、もはや遠足である。
先生と一緒にウオンウオン言う、機械を見る。
「日本の技術力はすごいなぁ……私が生きている間にガンダムは作られるのかなぁ」
「お台場とかで見れますけど、本物はどうですかねぇ」
「あぁ、そうだ比企谷。例の勝負の話なんだが」
「勝負とかしてましたっけ。不戦敗で良いですよ、別に」
「張り合いがないな」
「いや、先生がGMなんで全部任せますよ。それより学年末は書類が溜まりますけど処理できてますか?進捗状況はどうなってます?テストの採点とか」
「なんで君は内情に詳しいんだよ。インターンでもそこまでは知らないよ、教えてないからね!やめろ、私はメカメカロードで現実逃避するんだぁ!」
メカメカロードってなんだよ。
見覚えのある団子頭が縁石に座って携帯を弄っていた。
由比ヶ浜だ。
「お前、何してんの」
「あっ、ヒッキー!先生も!何でいんの」
「こら、居るんですかだろ」
「うぅ、やぁ、違くて、今のはヒッキーに言ったんだし」
「俺は今職場体験も兼ねていて、先生役である。つまり、今は先生みたいなもんだからお前は不服だろうと従わなければいけないんだ」
「酷い!社会の闇を感じる!」
そう言えば、この場所で俺は由比ヶ浜と気不味くなった。
どこまでも優しい由比ヶ浜に、俺は期待して、期待することの虚しさに、距離を見誤った。
俺に優しい人間は他の人にも優しくて、そのことをついつい忘れてしまいそうになる。
そうして、特別だと思って、それが勘違いなんだと自分を戒めて、敏感に過敏に反応していた。
アレルギー反応だ、ぼっちが偽のラブレターや罰ゲーム告白に警戒するようなもんだ。
あの頃の俺は、面倒くさくて仕方ない。
そこがいいとか小町は言うけど、いや小町が言うなら良いことなんだろう、そう考えておこう。
優しい女の子は嫌いだ、そう思っていた頃が俺にもあったが、俺は俺に優しい女の子が好きだ。
「ヒッキーもサイゼ行こうよ」
「いや、俺はいいよ。人混みって嫌いだし、また今度な」
「えぇー、じゃあ、うん。また後で?後でね!」
「おう、気をつけろよ。歩きスマホは危険だぞ、ガラケーだけど」
狙ってんのかと思うような、口を膨らませる子供みたいな仕草をした由比ヶ浜が残念そうに立ち上がる。
いやなんだよ、入り口開けた時の誰が呼んだのみたいな空気、気まずいからな。
由比ヶ浜は俺と別れてしばらく進んでから、振り向いて大きく手を降った。
アイツ、と呆れながらも小さく手を振り返す。
それに気づいて笑みを浮かべて走り去ってく姿を見て、今の関係は仲違いもしてない良好な関係だなと思う。
「おっ、なんだ青春かー!やるなー」
「先生、あんまり茶化さないで下さいよ。それより行きますよ」
「えっ?」
「当然、お昼はラーメンですよね。せっかくなんだし、どこか探しましょうよ」
「お、おう。よし、ラーメンデータベースで良さげなの探すか」
二人で昼食にご当地ラーメンを見つけて入った。
麺とスープは抜群にうまい、よく見つけたな。
「どうだ、美味いだろう」
「よく見つけましたね。美味いです」
「餃子食べてると、ビールが飲みたくなるな」
「ダメですよ」
「帰りは電車か……」
「……ダメですよ?」
「冗談だ」
そう言って先生は壁に貼られてるメニューの生ビールという場所を見つめていた。
冗談が、冗談に聞こえない!
学校に帰ってからは、先生が授業をする流れを説明してくれた。
終わった時のレポートを作る上で、先生の口頭による説明は助かる。
まぁ、内容は知ってるんだがな。
それから、個人情報など俺が関わると不味いこと以外の雑用をやらされた。
ちょっと、仕事ため過ぎじゃないですかね。
早めにやれるというのが分かるだけに、あっこの人夏休みの宿題を最後にやるタイプだと思った。
一週間のうち、最強の曜日である土曜日。
休みなのに、次の日も休みという最強の曜日である。
日曜?てめぇはダメだ、明日仕事って憂鬱になるからな。
「お兄ちゃん、学校楽しい?」
「あん?急になんだよ……ハッ!た、楽しいぞ!全然、虐められてなんか無いぞ」
「あー……うん、お母さんが言う学校楽しいとは違う意味だから安心していいよ。部活とか楽しい?」
「おう、楽しいぞ。雪ノ下も由比ヶ浜も、キャラがラノベのヒロイン並に際立ってるから退屈はしない」
「うーん、女の子?えっ、お兄ちゃんが女の子と喋ってるの……」
「おい、その反応はなんだ。待て、お前会ったことなかったけ?由比ヶ浜は知ってるだろ、犬助けた」
「あぁ、クッキーの人!」
「ハムの人みたいな覚え方してんじゃねぇよ。あってるけど、それだとお歳暮にクッキー送ってきそうじゃん」
ちなみにアイツのクッキーは、食えたものじゃない。
いや、きっと練習して美味しく作れるようになってくれることだろう。
だが、今は時期じゃないそういうことだ。
「ららいおーん、ららいーん、おっ、東京わんにゃんショーか」
「うっそー!やったぁー!お兄ちゃん、よくぞ見つけ出した!」
「フハハハ、もっと褒め称えろ!」
「きゃー、素敵ー!お兄ちゃん、素敵ー!」
「……うるさい、バカ兄妹。くたばれ」
寝室から這い出るように、世間に呪いをぶちまけるような母親が現れた。
ボサボサの髪で、ズリ落ちたメガネ、その下には隈がある。
うぅ、とか、あぁ、とか陽の光を嫌がりながら出てくる姿は泥人形テイストだ。
人体錬成に失敗した母親みたいな姿のキャリアウーマンだ、お疲れさまです。
「アンタ達、出かけるなら車に気をつけなよ」
「分かってるよ、小町を危ない目に遭わせないよ」
「じゃなくてアンタの心配してんの」
「………………あー、小町に怪我させたら親父がうるさいからか」
一瞬、俺の心配をしてるのかと思ったが、途中で気づいた。
ちなみに親父は惰眠を貪り夢の世界にいる、ドリームランドかな。
溺愛するあまり敵視する姿は分からなくもない。
ただ、美人局に気をつけろとか、逆ナンされたら絵を買わされるとか先物取引は詐欺だとか働いたら負けとか言ってくる、ソースは親父というパターンでだ。
「お昼とバス代くれ」
「アンタの分、いるの?」
「お母さん、お昼とバス代ちょうだい!」
「しょうがないな」
おい……おい、対応違くない。
いや、もう高校生だからバイトしろよとかそういう判断なのかもだけど、働いたら負けだからバイトしたくないんだよ。
大人になったら働かなきゃいけないんだから、学生くらい働きたくないじゃないか。
まぁいいや、俺もいつもの昼代五百円で飯食うから。
あれ、小町が頼むと二千円、俺の分も込みだと千円。
あれ、小町が申請すると倍になってない、お母さん。
「ありがとー、んじゃ行こ。お兄ちゃん」
「……スゥー、そうだな」
「どしたのお兄ちゃん」
「世の中の妹が優遇される風潮に無情さを感じていたところだ」
「まぁ、小町が可愛いのは今に始まった話じゃないんだよなー」
「小町ちゃん小町ちゃん、ナルシストな発言は外では控えなよ」
「大丈夫大丈夫!客観的に見た意見だし、いわゆる第三者委員会?」
「誰だよ、第三者。ほら行くぞ」
家から東京わんにゃんショーのある、幕張メッセに向かった。