ハムスター相手にはしゃぐ妹の姿を見せて、ようやく納得させられた俺は備え付けの椅子に座って休んでいた。
女子は女子で話があるらしく、何やら立ち話に興じている。
時折、此方を見ながら会話するのは心臓に悪いので辞めてほしいんですが、悪口じゃないよね?
そう言えば、と思って携帯を確認する。
未来じゃ使わなくなったが、メルアドを見るためだ。
あー、やっぱりそろそろだったか。
俺が携帯でポチポチ操作していると、スマホの画面に黒い影が差し込む。
顔を見上げれば不思議そうに見下ろす雪ノ下の顔があった。
「なんだよ」
「話が終わったら何かしていたようだから」
「スマホの画面とか見ようとするなよ、プライバシーの侵害だろ」
「ガラケーじゃないからどんなものか気になったのよ。でも、誤解させてしまったことは謝るわ。大丈夫、貴方のことなんか毛ほども興味はないから」
「やめろよ、まるで俺が自意識過剰みたいになるでしょ」
「違うの?」
「違うわ」
お前は何を言ってるんだという視線が俺に向けられていた。
べ、別にエッチなサイトとか見てた訳じゃないけど、人に見られてるかなと思ったら焦るでしょうが!
とはいえ、気不味さを払拭するべく別の話題を振られば。
「雪ノ下」
「何かしら」
「そ、その……つ、付き合ってくれないか?」
「……は?」
ふ、振り方間違えたー!
日曜日、鬱陶しいくらい晴天だった。
今日は雪ノ下と出かけることになっていた。
時刻は10時、待ち合わせ場所で書籍化するであろうネット小説を読む。
書籍化されたら無料で見れなくなるから今のうちにPDF保存しとこ、まぁ買うんですけどね。
書籍化すると加筆修正されて面白くなったりするから、でもアニメはダメな場合もあるので注意が必要だ。
「お待たせ」
涼やかな風を引き連れて、雪ノ下が歩いてくる。
リボンの付いた麦わら帽子、ノースリーブの白いワンピース、そして何故か猫のトートバッグ。
うん、トートバッグの癖が強いんじゃぁ。
あと、言ったら怒られそうだけどエロゲヒロインみたいなファッションしてんなぁ。
「今来たところだ」
「そう、10分も待ってたのにそういう事を言うのね」
「お前、どこかで見てたのかよ。まぁ、常套句って奴だ。ほら」
「何かしら、切符?」
「まぁ、付き合わせるんだし電車代くらい出すさ」
「そういうの困るわ……これを弱みに何かしてきそうじゃない」
「しねぇーよ!」
コイツはもう、たまに人が優しくすると捻くれた対応しやがって。
もう知らねとばかりに改札口へと向かう。
雪ノ下も慌てた様子で追いかけてきた。
今日の目的地は高校生がデートスポットとして使うみんな大好き東京BAYららぽーとである。
船橋の近くだし千葉じゃ、とか言ってはいけない。
勘のいいガキは嫌いだよ、東京ディズニーリゾートだって千葉だろう、つまりそういうことだ。
そう、今日は俺と雪ノ下が付き合って最初のデート……ではなく、買い物に付き合ってほしいというお願いの下、普通に由比ヶ浜の誕生日プレゼントを買いに来たのだ。
毎年買ってたから、誕生日覚えていたのだ。
アイツ、誕生日忘れると機嫌が悪くなるからな。
癖になってんだ、誕生日プレゼント渡すの……とまぁ、そういう訳だ。
圧縮言語過ぎて、雪ノ下に怪訝そうな顔をされたが俺は嫌われていない。
ショッピングモールまで来て、案内板を見ながら雪ノ下と何を買うか考える。
「驚いたわ……かなり広いのね」
「効率重視で回るべきだな、俺はこっちを回るから」
「えぇ、では私は反対側を受け持つわ」
そう言えば、前回は小町もいたっけと思い出す。
まぁ、小町がいなければ俺達の性格上こうなるよなと二手に分かれる。
確か此処らへんにと思い出しながら店を探すが、時間軸が違うからか店の種類が違った。
なので順繰りに回って由比ヶ浜の趣味に合う物を探すことにした。
じっと商品を見つめていると、店員さんが寄ってくる。
だが、熟練のボッチである俺は気配察知A+なので、商品を置いてすっと離脱する。
八幡はクールに去るぜ、別に砂漠で油田を探したりはしない。
これは戦略的な撤退である、逃げるんだよぉ~!
「チッ、これだから店員は……ボッチの話し掛けんなオーラを感じ取れよ」
奴らは生まれながらの陽キャであるので、人の気持が分からないのである。
陽キャは陰キャの気持ちが分からないのだ。
何店舗か回って幾つか小物を買った。
こういうのは質より量だ、細々とした安い物を何点かあげれば取り敢えずヒットする。
由比ヶ浜の趣味は把握してるから、期待値は高いはずだ。
ぐるりと回っていると、いつの間にか俺は入り口に向かっていた。
おっと、どうやら折返してしまったようだ、このまま進むとどこかで雪ノ下と合流かもしれないな。
そう思って見渡すと、いた。
真剣な目でぬいぐるみをぐにぐにしている姿が見える。
縫い目や目元、爪先などを凝視して、まるでなんでも鑑定団のようだ。
いい仕事してますねー、みたいな感じ。
俺が真後ろにいるのに、全く気づいていない。
おいおい、どんだけ真剣なんだよ。
「雪ノ下」
「……スゥー、何?」
「買い物は終わったか?俺は終わったが、それ買うの?」
「……まだよ」
「まぁ、これだけあると目移りするからな、それで買うの?」
「何なのかしら、この分かってると言いたげなこの男に対する感情は、買わないわよ」
「羞恥心では?あと、本当にいいのか、待っててやるぞ」
「いいえ、これは殺意だわ……すぐ戻るわ」
殺意の波動に目覚めんで下さい。
まぁ、ニヤニヤしたのは確かなので煽りはしないですけどね。
雪ノ下に付き添う形で買い物を継続することとなった。
「参考までに聞きたいのだけど、どういった物を買ったの?」
「まぁ、小物を数点だな」
「この男、数打てば当たるで質より量を取ったようね。いいわ、私は量より質にするから」
「よくお見通しで。じゃあ俺は不審がられるから、あそこで座ってるわ」
「待ちなさい、私のセンスに任せるつもり?自慢じゃないけど、私は一般の女子高生とは異なる価値基準を持ってるのよ」
「何だお前、免罪体質か何かなの?確かに孤独な人間かもしれないけどこの社会に孤独じゃない人間はいないからって、それ言われてるから」
「貴方は何を言ってるの?」
つまり、俺は向いてない。
人には向き不向きがあるので、付き添う形で買い物をするつもりだったが女子とカップルしかいない店に関しては休ませて貰う。
そういう事を言ってるんだぞ。
「あっ、ちょっと」
そう思って踵を返したら、不意につんのめった。
雪ノ下が、シャツの裾を掴んでいたからだ。
振り向けば、サッと裾から手を離して視線を反らす。
いや、バレてるからねお前。
「その……より良い物を選ぶためには異なる視点から評価するべきだと思うの」
「ふむ、一理ある」
「あと……そう、相手に対して適さない物を渡した場合の責任を分散することでリスクヘッジを取ったほうがいいわ。うん、比企谷くんのプレゼントが全滅するかもだし」
「ふむ、それで」
「だから……一緒、あっいや、手伝っ……じゃなくて、助言というか……えっと、どうしよう?」
「聞いちゃったよこの人、一緒に見れば良いんだろ。ほら、行くぞ」
流石に察しの悪い奴でも何が言いたいか気付けるような態度だった。
スカートの裾を握りしめてチラチラ見ながら聞いてくるのはズルいと思うの。
俺の心情は何してんのだけど、周りからの視線は何でわかんないんだよ、鈍感系主人公かよみたいな圧があるからね。
これ、わざとやってるなら悪女だよ、逃げ場なくしてくるんだもん。
こういうの分かっててやるのが陽乃さんなんだが、コイツは素でやってんだろうなぁ……。
「そ、そう……」
「お前、俺と一緒で嫌じゃないのかよ?」
「別に構わないわ、勘違いされても困らないもの」
「そうだな、周りに知り合いいないしな」