彼女の付き添いです、みたいな感じで側にいると世の中というのはチョロいのか、店員達の警戒が解かれていた。
これ、多分雪ノ下から離れた瞬間から頭に!マークを付けた店員に警戒されるんだろうな。
レッドアラートになって仲間に呼ばれるんだわ、間違いない。
雪ノ下は店員が話しかけても結構ですと言いながら、縦に横にと入った服屋で引っ張っていた。
いやセンス!服ってデザインであって、耐久性で求めるものじゃないから!
「なぁ、頑丈さはいらないと思うぞ。アイツ、防御力とか求めてないからな。どうする、スポーツ用品店で丈夫そうなのでも買うか?」
「仕方ないじゃない、材質や縫製ぐらいしか判断出来ないのよ。私、由比ヶ浜さんの趣味とか知らなかったのね」
「アイツ、お菓子作りが趣味だから調理器具とか喜ぶぞ。あと抜け感とかフリルとかそういうのも好きだな」
「……えっ、なんでそんなに詳しいのかしら。あと、あれでお菓子作りが趣味なの?」
「あっ、あー……うん、まぁ、メシマズだったな。いや、いつかは上手くなるんだよ、あと知ってるのは前に本人から聞いたからだ」
そうだった、まだメシマズ属性だった。
あと本人に聞いたのは本当だ、未来の由比ヶ浜だけどな。
なんだろう、シュタゲかな?俺だけタイムリープしてね?
「じゃあ、料理グッズを見に行きます……見に行け?」
「なんで命令形になんだよ、お前の日本語可笑しいかよ」
「何故かこの状況に適切かなと、適切よね?」
「知らねぇよ、ほら行くぞ」
なんか似たような事をしたなとデジャブを感じながら、キッチン雑貨店にに入る。
ほぉ、フッ素加工のフライパンかとか、たこ焼きセット!すごい、とテンションを上げていると雪ノ下に呼ばれた。
「比企谷くん、こっち」
呼ばれて言ってみるとエプロン姿の雪ノ下がいた。
黒い生地に薄手のエプロン、胸元には猫の足跡があしらわれており、猫が好きなんだなと思う。
俺が来たのを確認すると、くるりと一回転する。
それから背中やらサイドやらを見せながら、どう?どう?と何度も確認してきた。
「どうかしら?」
「んんー、あー、似合ってるよ」
「……そう、でも聞きたいのは由比ヶ浜さんにってことなのだけれど」
「由比ヶ浜なら、ふわふわぽわぽわゆるゆるもぐもぐゆびゆびみたいなのが良いだろ」
「なんか後半おかしくないかしら?」
そう言ってエプロンを外しながら、どうしようかしらと呟く雪ノ下。
前屈みになっているからか、白い首とうなじが見えて、なんか八幡ドキドキする。
「この辺りかしら」
「あぁ、良いんじゃないか?」
「買ってくるわ」
そう言って、自分がさっきまで試着していたエプロンと一緒にレジに向かっていく雪ノ下。
ちゃっかり自分の買い物もしてるよな、あとやっぱ猫好きだな。
結構並んでいたのであっちにいると雪ノ下に伝えて暇潰しがてらゲームセンターに寄った。
うお、懐かしいとかこんな昔からあったのかとか感慨深いものがあった。
あっ、パンさんあるじゃん。
あのさぁ……ウチ、パンさんあるんだけどヤッてかない?と言わんばかりの挑戦的なクレーンゲームである。
試しに100円入れてみてアームの強さ、可動域、開き幅を確認する。
ふむなるほど、アームは結構不自由だし、確率機ではなさそうだ。
あれ、こんなに簡単そうだっけと言わんばかりにパンさんぬいぐるみには引っ掛けられる箇所があった。
うーん、過去だからもしかして対策されてないとかだろうか?
そう言えば昔は箱型とか上部のサイドに差し込んだりとか出来たっけ、今じゃテープで防がれてるけどな。
パンさんの重心は首がやや重い感じか、タグのところに差し込んでもいいが、少し遠い。
コレは五回か六回は必要だな。
一回お得な五百円で入れてやるか。
取り敢えず店員の位置を確認して、正面と真横から確認しておくか。
「うーん、何回やっても出来ないな」
「…………」
取り敢えず、一回目のチャレンジでまずはぬいぐるみを少し近付けた。
これは、結構アーム強めだ。店員のサポートはいらんかもしれん。
さぁ、五百円分入れようか。
「何してるの?」
「っと、雪ノ下か。脅かすんじゃねぇよ、クレーンゲームだ」
「くれーんげーむ?ふーん、そ、それっておもしろいのかしら?」
「やりたいのか?」
「結構よ、別にゲームがしたいわけじゃないの」
あっ、ぬいぐるみが欲しいということな。
副音声が聞こえるかのようだ。
「まぁ、やったところで取れないだろうけどな」
「はぁ?比企谷くん、聞き捨てならないわ。私を見くびっているのかしら」
「ライン超え、はえぇよ。なんなの、沸点低くない?」
「いい、出来るかどうかじゃないのやるのよ」
「沸点低いどころか熱々だよ、熱血じゃん」
「こういうゲームは取れるまで課金すればいいのよ」
「遂には大人の力を使い始めた。財力しか勝たん」
そして雪ノ下の挑戦が始まった。
あー、聞こえてくるはプロジェクトXの音楽が聞こえてくるわ。
「あっ」
「なっ、嘘」
「くっ、また」
「よし……あうっ」
「いけ……ないっ」
「おかしいわ、なんで外れるの、不正があるとしか」
齧りつくように雪ノ下がクレーンゲームをしていた。
コイツ、絶対ギャンブルとか向いてないよ。
ざわざわしながら後ろで店員さんと見ていて思った。
「下手くそだな」
「なっ、そこまで言うなら相当上手いんでしょうねぇ」
「うん、まぁ、上手いのかな?」
選手交代、俺はまず百円玉を十枚用意した。
行くぞ雪ノ下、百円玉の貯蔵は十分か!
「ちょっと位置調整しますねぇ」
「あっ、えっ」
「あぁ、ありがとうございます」
雪ノ下によって微妙に動いたパンさんは、店員のお姉さんによって出口ギリギリに寄せられた。
しかし、取りにくいように位置を変えるとはあの店員難易度を優しくするフリをして普通レベルに調整していた。
簡単から普通レベルへの移行、俺じゃなきゃ見逃しちゃうね。
まぁ、首の位置を押して調整して、あとは重心を意識したら。
「店員さん、それってズルじゃない」
「開いた時に押す方法なんてあるのね」
「あっ、落ち、落ち、落ちないのね」
「首?そんなところ、あっ……」
ボトッと落ちるパンさん、今流れ変わったな。
ユニコーン流れたわ、勝ったなガハハ。
「ほら」
「貴方が取ったのだから貴方の物じゃない」
「俺はゲームがしたかっただけで景品は正直いらない、それに総額だとお前の方が使ってるだろ。いらなきゃ、捨てるだけだ」
「ぬいぐるみを捨てるなら神社に持ってかないとダメなのよ、そこまで言うなら貰ってあげるわ」
仕方ねぇなぁ、みたいな感じの口調だったが雪ノ下は両手で抱きしめるようにギュッと持った。
腕を持ってちょこまかと動かしたり、顔をムニムニしたり、相当気に入ってる。
おいおい、口と行動が一致してないんだが身体は正直なようだな。
「まぁ、お前パンさん好きだもんな。パンさんグッズ集めてたし」
「何で知ってるのかしら。まぁ、気分が良いから気にしないわ。プライズ商品は自分で取るしかなくて困っていたのよ。ネットオークションも保存状態が気になって決心がつかなかったから、偶にはいい仕事をするわね。褒めてつかわすわ」
「お前何様だよ」
「部長様だけれども、貴方の上司よ」
これが上司に手柄を取られる社会の縮図か。
まぁ、喜んでもらえたなら買い物に付き合ってもらったお礼になるから良かったわ。
「パンダのパンさん、原題は『ハロー、Mr.パンダ』改題前のタイトルは――」
「うん」
「もともとはアメリカの生物学者だったランド・マッキントッシュが――」
「……うん」
「西洋と東洋の文化双方のメタファーを込めながらもきちんと一つの物語に落とし込んで――」
「…………うん」
「翻訳もなかなかの出来栄えだけれど、やっぱり原書で読むのお勧めね」
「………………うん」
いつ終わるんだろ、時とか飛ばせないかな。
なに、終わらないんだろうか。
終わらない終わり、つまりこれはレクイエムということ?
もしかして、スタンド攻撃受けてんの俺?
「ねぇ聞いてるの比企谷くん」
「あぁ、うん、愛着があるんだよな。知ってる知ってる」
「まぁ、だからその、えっと……」
雪ノ下は恥ずかしそうに、ぽふっとぬいぐるみに顔をうずめた。
ちょうど、俺の目の前にパンさんが掴まれた状態でいる。
そのパンさんの横からチラッと、赤くなった雪ノ下が隠れるようにして此方を見ていた。
「あのね……取って貰えて……その……」
「あれれ~おかしいな、どうしてこんなところで雪乃ちゃんに会うのかな?」
そんな雪ノ下との背後から、どこかで聞いたことのあるような声が聞こえた。