サバンナ、それは弱肉強食の世界。
それは教室にもあり、一軍リア充とオタク集団は巨大二派閥でサバンナで言うところの動物の群れだ。
そんな彼らは早く来すぎた時、僕の仲間はまだかなとチラチラ教室を見る。
髪を掻き上げたり、携帯をイジったりしたフリして見るのだ。
自分の群れ以外とは話さず、単独行動はせず、排他的で差別的だ。
つまり、逆説的にボッチは博愛主義者。
一人で会話し、単独行動が出来、全てを受け入れ差別しない。
誰かを愛さないとは全てを愛しているに等しい、マザー比企谷と呼ばれるのも時間の問題だろ。
サバンナ的に言えば孤高の王、つまりはぐれライオンである。
ノマド的な存在、それがボッチだ。
ボッチは帝王、つまりキング・クリムゾンが使えるのだ。
そんなわけでいつの間にか授業が終わり、放課後だった。
俺はいつの間にか授業を終えていた、何を言ってるのか分からないと思う俺も分からない。
超スピードとか超能力とかじゃ、断じて無い。
最も恐ろしい物の片鱗を味わったぜ、ポルナレフ状態だわ。
奉仕部の部室に行くと、何やら由比ヶ浜が既にいた。
扉の前をいったりきたり、爪先立ちをしたかと思えば着地、また爪先立ち。
急にしゃがんだと思えば頭を抱えて唸る、そして立ち上がってウロウロ、ループって怖くね。
何だお前、ループの悪魔かよ!
「何してんだ?」
「うひゃあ!……あ、ヒ、ヒッキー!や、やーその、なに?空気が美味しいよね」
「はぁ?」
「…………」
「…………」
二人して沈黙。
視線が合うと由比ヶ浜が目を逸し、俺も気不味くて目を逸す。
おい、やめろよ、なんか恥ずかしいだろ。
教室に入るのに何を躊躇ってと思い至り、あっあれかと休日の事を思い出した。
いや、ちゃんと説明したよな。
「ほら、行くぞ」
「あっ……」
左手で教室のドアを開け、右手で引っ張って立ち往生している由比ヶ浜を無理矢理中に入れる。
全く、雪ノ下と関わるのが気不味かったと見える、そういうの分かるんだからな。
大きな音に反応して本を呼んでいた雪ノ下がパッと此方を見る。
「由比ヶ浜さん」
「や、やほー。ゆきのん……」
「もう、いつまでもそんなところにいないで入りなさい。部活、始まってるわ」
「あ、うん……ご、ごめん」
おい、その言い方だと家出した子供が帰ってきた時の母ちゃんじゃん。
由比ヶ浜は弱々しく手をひらひら振って、俺の方をチラチラ見てきた。
なんだ、お前もサバンナ動物よろしく群れからはぐれた草食動物か?
「ひ、ヒッキーあのね……」
「比企谷くん」
「なんだよ」
「うぅ……そろそろ、ねっ」
「なんだよ?」
「比企谷くん、いつまで彼女の腕に触ってるのかしら?犯罪よ」
雪ノ下の視線は俺の右手、つまりは由比ヶ浜の腕に注がれていた。
……スゥー、覚悟はできたか俺は出来てる。
「すんませんでした!」
「あっ、あっ、うん、大丈夫だよ。うん、気にしないで」
「比企谷くん……」
それ、すっごい気にするやつじゃーん。
その比企谷くんは何やってんだぁみたいなニュアンスを孕んでいた。
いつもなら携帯を弄っている由比ヶ浜は挙動不審だった。
椅子に浅く座ったかと思えば少し立ち上がって、また座ろうとして。
何だお前、大物歌手かよ、座る座る詐欺かよとか思ってしまう。
雪ノ下は意識ないと逆に意識しようとし、無意識を意識するという意識で無意識になろうと意識のゲシュタルト崩壊が起きてきた。
簡単に言うと領域展開してるとでも思えば良いんじゃないでしょうか、意識が無限になりすぎて静止してるんだわ、たぶん。
張り詰めた弓並みの緊張感のある沈黙があった。
カチカチと時計の秒針だけが耳に残る。
もう一時間はたっただろうか、そう思って時計を見ると3分しか経ってなかった。
どういうことだよ、この部室はいつから精神と時の部屋になったんだよ、こんなんじゃ無駄にマッチョになっちゃうよ。
スピードが足らないゴリゴリマッチョメンの八幡になっちゃうわ。
「由比ヶ浜さん」
バンと雪ノ下が本を閉じながら口火を切った。
対する由比ヶ浜は腰に手を置き、何やら身構える。
深く呼吸する雪ノ下に身体の向きはそのままに視線を周囲に動かしまくる由比ヶ浜。
なんだろ、ハンターハンターのヒソカ対クロロかな。
こういう感じの構図と緊張感、見たことあるわ。
「ゆ、ゆきのん。ヒッキーのことで話が、あるんだよね」
「ええ、私達のことについて」
雪ノ下が言い掛けた言葉をキャンセルするように食い気味に由比ヶ浜が割り込む。
まるで念能力の説明をすることで発動する念能力を阻止するかのムーブだ。
「や、やー、あたしのことなら全然気にしないでいいのに。や、そりゃ驚いたとかびっくりしたとかあるけどお祝いとか祝福とか」
「よくわかったわね。そのお祝いをきちんとしたかったの」
「……お、お祝い」
「なんでぇ!?」
由比ヶ浜はプルプルしながらポケットから財布を取り出し現金を握った。
おい、現金を出すのはやめろ。
「よ、よく分からないのだけど。私、由比ヶ浜さんには感謝しているのよ。だから、気持ちを形にしたくて」
「や、やだなー!ぎゃ、逆に私の方が……ご祝儀……」
「だから、リアルマネーを出すのはやめろぉ!?」
盛大に噛み合ってなかった。
お互いの空気を読み、読みすぎて意味不明な飛躍をしているレベルだ。
配管工がイヤッフゥゥゥゥと空を飛ぶレベル、なんで空を飛んでんだよ馬鹿野郎、髭剃るぞ。
「あの……ゆき」
「だから、ゆい」
「……どうぞ」
「いえ、そちらから」
「いやいや、ゆきのんから」
「結構よ、先に由比ヶ浜さんから」
俺やるよ、俺やるよ、みたいに譲りあいが始まっていた。
じゃあ俺がって言えば良いのか、どうぞどうぞされても話すこと無いけど。
そんな微妙な空気を壊すように、ダンダン!とノックが響く。
どういうことだ、観客が乱入したのか!たぶん、それは念能力で操られている。
まぁ、ここは野蛮人の聖地ではないので普通に来客だと思う。
ふしゅるるると荒い息遣い、開けたくないわー。
静かな部室に木霊する呼吸音、誰だよドアの前で全集中の呼吸してるの、霹靂一閃でもするのか?
教室のドアに手を掛けると、ぬっとドアが一人でに開け放たれた。
入ってくる太い手、俺は瞬時に護身術を習った前世の記憶が蘇る。
警察官に仕事の一環で受けた研修だ、テロ対策で習ったやつ。
腕を掴んで内側に捻り、ついでに体育の授業で習った足払いをしていた。
「ぬおぉぉぉぉ!?」
「その声は!?」
「フッ、強くなったな。それでいい、ジャック!ボスは二人もいらない」
「いや、誰だよ」
そこにいたのは床に転がる材木座だった。
あと、お前は誰目線で話しているんだ。
「ハチエモン、聞いてくれよ!あいつら酷いんだよ!」
「悪いな材木座、この部室は三人用なんだ。なっ、ジャイアン」
「どうして私を見るの?」
「聞いて欲しいなり、聞いて欲しいなり!」
「コロ助、お前コロ助じゃないか!?」
ごんぎつねを思い出した、どうしてゴンはすぐ死んでまうの。
いや、っていうか帰れよ。
「はぁ……本当に残念だが、おふざけは終わりなんだよ材木座。おふざけはここでお終いなんだ」
「ハハハ、何言ってるんだいハチエモン、そんなこと言って」
「早く言え!」
どうせまた厄介事なんだろと、着席を促す。
いそいそと移動して、テーブルを挟んで俺達奉仕部と材木座が対面した。
「どこから話そうか、そうあれは今から」
「そういうの良いから簡潔に言いなさい」
「デュフ、我がゲームシナリオライターに転向したことは知ってると思うんだが」
「知らんし!」
「ばふんばふん、まぁ人知れずという奴だ。で、そんな我は実は嫉妬されてネットで書き込みして煽ったら、どうも同じ学校らしくて、遊戯部と闇のデュエルをすることになった」
「人知れずってどういうこと?どうしてネットに自分の個人情報を乗せるの?闇のデュエルって何?」
怒涛の雪ノ下のツッコミに、ぬぬぬと言って材木座が黙る。
もうやめて、材木座のライフはもうゼロよ!
「つまり、ゲーム同好会ということか。げんしけんみたいなもんだろ」
「だいたいあってる」
「俺達に手伝えってことか?」
「いったいいつから勝負すると錯覚した?」
「なん……だと……」
「いい方法を思いついた、カードを海に捨てることだ!くらい勝負をなかったことにしてほしい。それか我が確実に勝てるように賭ケグルイかカイジばりのイカサマをして欲しい」
「たぶん、クズ選手権があったらお前がぶっちきりだとおもうよ。お前がナンバーワンだって言えるわ」
「褒めるなよ、ふふふ、まぁそれほどでもある」
てへへと笑う材木座を椅子で殴りたくなる衝動に目覚めそうになる。
殺意の波動に目覚めそう、何いってんだお前。
「話は聞かせてもらった」
「ということはハチエモン」
「だが断る!この比企谷八幡が最も好きなことは助けてほしいという材木座にNOと言ってやることだ」
「随分限定的だわ」
「むむむ、あれ?さっきの褒めてないよね?ねぇ?」
そこに気づくとは天才か、でも由比ヶ浜だけなんかラグがありますね。